7、グルーミングされました。
思い出したら泣けてきたですよ。
半日足らずの間でしかないはずなのですが、不幸を幕の内弁当にしたかのような豪華さですよ。
「ああ、やっぱりサイズが合わないわ」
更に追加するなら、道中あの不埒な不届き者に〝ご主人様〟と呼ぶように強要されたですよ。
というか、名前を尋ねたら教えてくれなかったのです。
だから何と呼べばいいかという質問に「ご主人様?」と半疑問系で返ってきたに過ぎないのですが。
「でもこの手のデザインはだぼっとしてても可愛いから、見苦しいってことはないわ」
そう言ってアタシの服を直してくれたのは、いま着ている淡いピンク色した裾に小花を散らしたデザインのワンピースの持ち主であるヒト。
丸顔で、たれ目。でもって小柄で少しぽっちゃり体系でと、とっとこ走る愛玩ネズミに雰囲気がそっくりなお方なのです。
驚くことに愛称はハム子さんだそうです。
「娘でもいればサイズのあう物があったかも知れないけど、うちは息子ばっかりだったから」
「いえ、服を貸していただけただけで十分です」
にへらと笑って御礼を言うと、がばりと、感極まった様子で抱きつかれましたです。
どうやら、ハム子さんの中でアタシは見事薄幸少女として認識されたようです。
玄関で出会ったおにーさんに説明したのと違い、ハム子さんにはきちんと説明されたのですよ。あの俺様ご主人様。
アタシのアパートが火事にあい追い出されたこととか。
実質的な一人暮らしで、夏休みを過ごすことになってた叔母さんに急な仕事が入ったこととか。
そのための認識なのです。
一応は否定しようと思ったのですが……否定できる要素が見つからなかったのですよ。
だって更に、俺様でサドに違いないヒトに捕獲されてしまったのですし。
「やっぱり女の子はいいわぁ。
若様から好きなように注文していいって言われてるの。腕がなるわ」
…………ハム子さんの言葉は、聞こえないですよ聞こえないですよー。
ここはアタシの立ち位置を再認識して、心を平常に保つです。
おおぅ、アタシの不幸を振り返ってたら鬼ババへの怒りも再燃してきたですよ。
許すまじ、なのです。
「フリルとかレースとか、物心ついた頃には拒否してくれちゃったから。
アリスのエプロンドレスとか手作りしたかったのに、酷いわよねぇ」
ねー、と同意を求められても非常に困るのですが。
どちらかといえば、アタシはフリフリひらひらといったのは苦手なのですよ。
身長と童顔とで、ただでさえ酷い時には小学生に間違えられるのです。つるべたなお子様体系のせいじゃないと、アタシは主張いたしますですよ。ええ!
「だからとっても嬉しいの」
ハム子さんはそううふふと笑うと、どこからともなく危険なブツを取り出しました。
逃げたくなったのは、否定しません。
というか、どうしてそんなものを持っておられるのですか!
「こんな時のために用意しておいてよかったわぁ」
こんな時って、どんな時なのですか!
ハム子さんの手には、パステルピンクのふわふわしたブツが握られてます。
それ以外にも、ふわふわしてたりひらひらしてたりするブツが……。
めまいがしましたですよ。
倒れたら目が覚めた時の惨状が思い浮かぶので、頑張るですが。
「ワンピースたけじゃ寂しいものねー」
いいえっ、むしろシンプルなワンピースが素敵だと思うですよ!
思わず後退りましたが、その間はあっという間に詰められました。
で、ブツがアタシの頭にあてられましたですよ!
「うーん、淡い色よりもしっかりした色のほうが似合うみたい」
そんな呟きと共に、別のブツがあてられた気配がしましたです。
視界の端っこでビビットなピンクが揺れてるので間違いないはずです。
それからハム子さんが満足いくまで……恐ろしく長い体感時間を過ごしましたです。
とりあえず満足したらしいハム子さんに見せてもらった鏡の中にいたアタシは、あのシンプルなワンピースはドコ行ったっ!?と言いたくなる出来でだったのです。
頭のてっぺんから、足の先まで。ピンクとレースのオンパレード。
悪夢ですよ、叔母さん。