8、脅迫されました。
「若様、お嬢様をお連れいたしました」
強制連行のような心持ちで連れていかれた先で、難しい顔したおにーさんに睨まれましたです。
なんでしょうか、その珍獣でも見るかのような視線は。
身長も胸もちんちくりんかも知れないですが、アタシは立派なレディなのですよ!
珍獣ではないのです!
格好は珍獣一歩手前だと自覚しておりますですが!
「わたしの手持ちだけでコーディネートしたので、お嬢様には不似合いかも知れませんが。
いかがでしょうか、若様」
一触即発的に思わず睨みあってしまったアタシとおにーさんを無視して、ハム子さんは続けます。
小柄だっていうのに、胆は座ってるのですね。ハム子さんは。
これはアタシも見習わなくては。
「うん、制服姿よりは似合ってるね。あれは馬子にも衣装だったし。
これでサイズは把握できたと思うから、一揃い揃えておいてくれないか。説明した通りだから、部屋から持ち出した私物を使うにも抵抗があるだろうしね」
「腕がなりますわ。
きっと若様の満足のいく出来になりますよ、お嬢様はとても愛らしいかたですから」
ハム子さんとその人は意味深に笑いあったかと思うと、アタシの洋服の手配と夕飯の仕度があると、ハム子さんは退出してしまったのです。
残されたのは、不協和音を奏でる三人なのです。
おっそろしいですよ。
「乾、それじゃあさっき話した通りに頼むね。
現場には一度くらいはいく必要があるだろうけど、それ以外はお前と鷺沼に任せる。彼女とはレオを通じて許可を得てある」
「かしこまりました」
それをわかっているのかいないのか。
にっこり笑顔でおにーさんに退室を促すと、おにーさんは不機嫌そうな顔をのままに頭をさげた。
んで、顔をあげくるりと踵を返す際に……アタシ睨まれましたですよ!
魂消るかと思ったですよ!
思わず後退ってしまったですよ!
「みー、こっちにおいで」
キィ、ばたん。と、大きな扉には不釣合いな軽い音を立て扉が閉まったかと思うと、その声はアタシにかかりましたです。
ゆっくり恐る恐る振り返ると、そこには笑みを携えたその人が。
……目が、笑ってないですよ? 見事な笑顔なのに?
だ、誰か、助けてくださいです。
いたいけな少女を苛めようとする悪い大人がいるですよ!
「いいかな、みー。
ここにいる間は俺の言葉は絶対、俺の言葉に逆らうことは許されないんだよ」
なかなか動こうとしないアタシに痺れを切らしたのか、おもむろに立ち上がるとアタシとの距離を詰めたです。
その無駄に長い脚で数歩。たったそれだけでアタシを見下ろす位置に来ると、むんずとアタシの腰に手を回して引き寄せてくれやがりましたです。
「良い猫でいるって約束できるなら、火事の件とか、君の叔母さんに黙っててあげる。
だけどそれを守れないなら、保護者に言わなきゃならないね」
「お、脅す気」
「真っ当な取り引きのつもりなんだけどな。
みーは住む家を無くして困ってる。そんなみーを泊めてあげる。ギブアンドテイクだよね?」
んんっ?
アタシにした不埒な事に対する謝罪はドコにいきやがりました?
というか、どの辺がギブアンドテイクなのか理解出来ないのですが。
「だからここにいる間の決まりごと。ここにいる間は俺のいうことを聞く。
ね、簡単だろ?」
確かに簡単かも知れないですが、腑に落ちないことだらけですっ!
「それから俺のことは、ご主人様。OK?」
どこもかしこもOKな訳、あるわけないじゃないですか!
だけど伯母さんに言うぞと脅されてはアタシには逆らうことも出来ず。
渋々と頷くしか出来なかったのです。
「いいこだ、みー。
だけどさっき俺の言うことを素直にきかなかった分のお仕置きをしなきゃだね」
…………。
はぅ。頭の中が真っ白になってたですよ。
お仕置きって!
冗談じゃないですよ。
そもそも何様ですか!
…………ご主人様でしたですね。はい。




