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究極少女とその未来 ~ロリとメイドと三枚目~  作者: 七歌
●1st day『Nの未来へ/神の名前はA』
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●1st day『Nの未来へ/神の名前はA』 その8

   ×××


「このあたりなら大丈夫でしょう」


 家から少し離れたところで、エヌは足を止めた。それにならって、銀磁たちも足をとめる。

 ついでにアニマをその場に下ろそうとしたが――


「あ、しまった。靴がないな」


 靴がないことに気付いて、銀磁は下ろしかけたのを止めた。流石に素足でコンクリートや、

整備が行き届いていないむき出しの地面を歩かせるわけにはいかない。


「アニムス、靴ないか?」


「んー……少し待つでありますです……検索中、検索中……」


 アニムスは目を閉じると、こめかみを押さえながら数秒停止する。

 それからゆっくりと目を開くと、何もない目前の空間に手を伸ばした。そして。


「【開錠】」


 空中に伸ばした手が、突如現れた空間のゆがみの中に消えた。数秒アニムスは空間のゆがみの中を漁ったかと思うと、中から子供用の靴を何足か取り出した。


「サイズはこの辺りでありますですね」


 アニムスの持つ機能――【開錠】。

 異空間の収納スペースに物体を入れたりしまったり出来る能力を見て、銀磁は感心してため息をもらした。

 ただし機能自体ではなく、仕舞ってある物品についてだが。


「相変わらずなんでも入ってんなぁ」


「備えあれば憂いなし、でありますです。

……ふーむ、銀髪と合わせるならば落ち着いた色が良いかもしれないでありますですな……」


 言いながら、アニムスはアニマの髪色に靴を合わせていく。それから、一番落ち着いた色の靴を履かせ、残った靴は再び開いた空間のゆがみの中へ放り込んだ。

 それを確認してから、銀磁はアニマを地面に立たせる。ゆっくりと、支えながら。


「立てるか、アニマ」


「たつ……たつ。アニマ、立つ」


「お、よしよし。偉いぞ」


 若干よろつきながらも一人で立つアニマ。銀磁が頭を撫でると、こころなしかその表情が嬉しそうなものに変わった気がした。

 ……気のせいかもしれないが。


「とにもかくにも脱出完了だが――それで? エヌ、さっきの振動の原因はなんなんだ?」


 銀磁は概ね予想は付いていたものの、一応エヌに尋ねた。

 佐志博士の態度や、エヌの姉妹たちの行動、そして『棺桶』という言葉。

 それらから考えれば、予想をつけない方が難しいくらいだったが……それでも、エヌにちゃんと説明してほしいと思って、声をかけた。

 対するエヌは。


「……はい」


 少し間を開けて頷くと、未だに振動で揺れている家を見ながら、ゆっくりと話しだした。


「元々、佐志博士の寿命は限界でした。人ならざるものとなれば、寿命の限界を超えることも可能だったのでしょうが……博士はそれを望みませんでしたから」


「確かに、限界だったのは見ての通りって感じだったからな……」


 銀磁は佐志博士の姿を思い出して呟く。カプセルの中の博士は、やせ細って今にも事切れてしまいそうだった。生きているのが不思議なくらいの光景だったと、思いだしても思う。


「所長さんとの約束を終え、博士はゆっくりと死ぬことを選びました。エヌの姉妹たちとともに、施設を地中深くへと落として」


「振動は地下施設が家から分離し、さらに地下へと潜っていく時のものでありますですね?」


「そのとおりです。博士はそこで、姉妹たちと意識を繋ぎ、脳がその機能を停止するまで最後の時間を楽しみます。そして博士の死後、潜った施設はさらに下降し、マグマまで到達する予定です。万が一にも噴出など起こらないよう、丁寧に、時間をかけて」


 エヌが話をしている間に、いつの間にか揺れは収まっていた。

 家は無事なようだった。しかし、地中にあった施設が潜って行ったとなれば、地盤に影響もあるだろうし、住むには少々危ないだろう。

 そんな家を、エヌは、名残惜しそうに見つめる。

 悲しそうに、見つめる。


「なぜ……なぜ、自分だけが残されたのでしょうか。博士は生きてほしいと言いました。孫の分身の最後の一人である自分には、ただ人のように生きて欲しいと。しかし……エヌは……」


「博士と一緒に死にたかった……か?」


 銀磁はエヌの隣に並ぶと、その肩に優しく手を置いた。びくりと、エヌの体が震える。

 その震えを手のひらに感じながらも、銀磁は肩に手を置いたまま、家の方に視線を向けた。

 もう、誰も住んでいない家を。誰も住むことの無い家を。


「エヌ、あんたにとって、博士はおそらく自分の人生の全てだったんだろう。だから、博士が死ぬなら自分も死んでしまいたいと思ったんだろう。……けどな」


 銀磁はエヌの肩から手を離した。そして、帽子を目深にかぶりなおしながら、エヌの横を通り過ぎ、ゆっくりと家へと近づいていく。


「博士は言っていただろ? 所長に恩を返せたかどうか聞いてくれ、話はいつかエヌから聞くから……ってな」


「死後の世界が、あるとでも?」


「さぁ? オレには分からないさ、そんなこと。

けど、博士はあると思ってたんだろう。そして、いつかエヌが自分の所に来てくれて、楽しい話を聞かせてくれると思ってるんだろう。きっと、な」


 だから、と。

 家の目の前まで近づいた銀磁は、振り返る。

 唇を引き結び、泣きそうな顔をしている、エヌの方を振り返って、言う。


「親が土産話を楽しみに待っているっていうのなら、少しくらい長生きして、土産話を作ってから死ぬのが子供の勤めじゃないか? 博士が全てだったっていうのなら――信じてみろよ、博士が望んでいた、死後の語らいってやつをさ」


 銀磁の言葉に、エヌは顔を歪めた。苦しそうに、顔を歪めて、呟いた。


「そんなの……つらいです」


「人生なんてそんなもんさ。辛くない人生なんてない。オレだって辛い。最近だと具体的には上司が詐欺師の女を摘発してくれて辛い」


「それは自分のうっかりでありますです」


 呆れ気味の半眼を向けてくるアニムスのツッコミに、銀磁は肩をすくめて見せる。

 それから、家のドアに手をかけた。鍵は開かないから、エヌを誘う様に、手招きする。


「辛い時は、昔を思いだせばいい。思いだすには、縁の品があるといいかもな。

……なぁ、エヌ。お前はさっき持ち出すものはないって言ってたが、本当か? なにか、思い出があるようなものとか――ないのか?」


「おも……いで」


 ハッとした様子で、目を見開くエヌ。

 ポケットから鍵を取り出すと、焦った様子で扉に近づき、鍵穴に鍵を差し込んだ。


「ある……っ! エヌは……エヌと、博士の……『おじいちゃん』との思い出が、ここには、たくさん! もって……もっていかないと!」


 かちん、と軽い音を立てて鍵が開く。その音に、銀磁は帽子のつばを押し上げてにやりと笑った。


「ああ。もてるだけ持って行こうぜ。なぁに、安心しろよ、こちとら取り立て屋さ。大事なものを運び出すのには、慣れているってものだぜ?」


 勢いよく扉が開かれ、エヌが中に入っていく。

 宝物を求めて、エヌは家中を走り回り始めた。

 一つの見逃しも無いように、目を凝らしながら。


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