最終話 天国の淵から
「セイラン様!麗しいです‼」
「本っ当に綺麗‼‼」
わたくしは侍女のハンナと、新しく侍女となったリリアンと共に王妃宮に居た。
魔物の魔法陣を壊した後、カイゼル達グラス王国組が陛下の執務室に到着した際、陛下は全く抵抗せずに粛々と全てに従ったらしい。
ただ一つ、恨み言を残して。
『魔物は世界の脅威ではあるが、グラス王国を世界一にする手立て。貴様はそれを葬ると言うのか』
と、言っていたらしい。
でもカイゼルの考えでは、富も栄誉も平和も、自国だけではいつか限界が来る。
そうならない様に、他と対立も上下関係も無い、完全に対等な関係を築くのだと言っていた。
「完全に対等な関係…………」
対等とは、侮られることでも敬われることでもない。
そこには一定の力が必要となる。
期せずして、わたくしが始めた剣闘場は平和な世の中で力を見せつける良い機会となっていた。
騎士団もゴロツキも分け隔てなく戦うことで、その力を他国に見せつけ、魔物の真相が明かされた世界においてもすぐにグラス王国を傷つけようという国は出てこなかった。
結局のところ、カイゼルが即位し、前国王陛下は退任と投獄。
ウィリアム殿下は魔物のことは知らなかったことが発覚し、王位継承権を自分から放棄し、剣一本を持って田舎で名を変えて静かに農民として暮らしている。
そして今日、わたくし達は結婚する。
学園を卒業していない身で少々早いが、カイゼルの即位と共に縁談が方々から来たらしく、一刻も早く結婚したいとカイゼルからの頼みで今日に至った。
「流石に緊張するわね」
「大丈夫ですよ!完璧に綺麗です‼」
「そうですよ!セイラン様なら大丈夫です‼」
リリアンとハンナに勇気をもらい、わたくしは控室からの長い廊下を歩き、大聖堂へと向かった。
今日のわたくしは純白のドレス。
わたくしは、髪も肌も服も白い純白の悪女。
傲慢でかっこよくて強くて気高い最高の悪女。
大丈夫、大丈夫、何も怖いものは無いわ。
本当は緊張とは別の恐怖が胸の奥底で燻っていることを理解していた。
カイゼルは今や誰からも愛される国王となった。
下級貴族の男爵家であるミック・ヒンクリーを宰相補佐に置いたことでも更に人気は高まり、誰に対しても平等で優しい王様の地位を確立しつつある。
それに比べてわたくしの噂は……。
また良くない風に伝わっているのではないかと怖くて聞けていなかった。
今度はカイゼルを誘惑した悪女とでもなっているのかしら。
恐怖と高揚感が入り混じる中、大聖堂の扉が開いた。
一瞬、時が止まったかの様に場内の人間が全員固まった。
完全な静寂、しかし次の瞬間……。
「悪女様だ……」
「なんて綺麗なんだろう」
「英雄、セイラン様だわ‼」
「あぁ、セイラン様‼」
「純白の悪女様‼‼おめでとうございます!」
「おめでとうございます‼」
ポツポツと我に返った出席者達が拍手と共にわたくしとカイゼルの結婚を祝福してくれた。
思わず泣きそうになり、化粧が崩れるため我慢したが、それでもどうしようもない程の笑顔は隠しきれそうになかった。
1年前、わたくしは誰からも蔑まれ、男好きの烙印を押され、みじめに婚約破棄をされた。
でも今は、こんなにも祝福してくれている人が居る。
なんて幸せなんだろう。
この中には、貴族の体面として周りの者と合わせている者もいる。
それでもこの状況がたまらなく嬉しかった。
そして、歩いて行くとカイゼルが手を差し伸ばしてくれた。
「すごく……言葉に出来ない程綺麗だよ、俺の毒花」
「フフフ!でしょう?こんな美女と結婚できるカイゼルは幸せね?」
傲慢な言葉にカイゼルは目を細めてわたくしを見ながら引き寄せてきた。
「うん、すごく幸せだ」
その表情が、その瞳が、口にした言葉が本心であることを告げている。
やっぱりわたくし、カイゼルのことが好きだわ。
照れ隠しに傲慢なことを言っても、令嬢らしからぬ行動をしても、異常に強くても、何をしても受け入れ、わたくしを良い方向へ導いてくれる〝最高の男〟
「カイゼル・ハイドラント陛下。セイラン・マルティネスを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、慈しみ、敬い、死が二人を分かつまで愛することを誓いますか?」
大神官が厳かに言うと、カイゼルはわたくしの手を取り、眼を閉じてゆっくりと首を振った。
「いいえ」
???
わたくしも会場に居る全ての人間も大神官も目を丸くしてカイゼルを凝視した。
そしてゆっくりと目を開けてわたくしに優しく微笑んだ。
「国王になり、私には多くの責任が増えました。けれど、今もこれからも私が愛するのはセイランただ一人です。だから!例え、死が二人を分かとうとしても天国の淵まで追いかけて連れ戻すことを誓います‼」
「プ!フフッ!わたくし、カイゼルよりも早く死ぬことは出来ないわね!」
何せ聖女の治癒の力を持っているのだ。
カイゼルなら本当に天国の淵から連れ戻すことが可能なのは明白だった。
「当たり前だ!セイランが死ぬのを見るのはもうこりごりだ!」
わたくしとカイゼルが笑い合い、大神官は苦笑した。
「では、セイラン・マルティネス。貴方はカイゼル・ハイドラント陛下をいついかなる時も愛することを誓いますか?」
大神官の言葉にわたくしは一拍置いてツンと顎をそらして答えた。
「いついかなる時もわたくし一人を愛してくれて、一緒に歩んでくれる。
こんな最高の男、他に居ないわ‼
どんな苦境に立たされようとも、誰もが怖気づこうとも、その身を奮い立たせ、共に戦い、生き抜くこと、そして一生をかけてこの最高の男を愛することを誓います‼」
「では今ここに、二人を夫婦と認めます」
大神官の言葉が轟いた瞬間、歓声が沸き上がった。
そしてその歓声の最中、カイゼルはわたくしに伺うように顔を近づけてくる。
「フフフ!情けないわね!キスしたいならそう言いなさいな!」
わたくしはカイゼルの胸倉を掴み、引き寄せ、キスをした。
「うぉぉぉぉおおおお⁉悪女からいったぁぁぁぁあ‼‼」
誰かが叫び、既にあった歓声が更に強まった。
同時に出席していたケビンお兄様が腕を振り上げると白と金色の光り輝く花が室内に舞った。
パチン!と指を鳴らす音が聞こえれば室内なのに薄い霧が出てステンドグラスから漏れ出る光を利用して、わたくしとカイゼルの周りに虹が出来る。
足元を見れば三人の水で作られた小人が踊りを披露してわたくし達を引き立たせる。
ベルトルドは覚えたての魔法陣を敷いて、炎の蝶を場内に舞わせた。
王宮の外でも平民が、貴族が、元貧民街の住人が、思い思いの魔法でわたくし達を祝福してくれる。
「フフフ!カイゼル、全てを与えてくれてありがとう」
わたくしが腕を引きながら笑いかけると、カイゼルも笑顔を向ける。
「もらったのは俺の方だよ」
一年前まで、望んだもの全てが叶わないと嘆いていた。
愛されることも、一番になることも、騎士になることも。
でも今は。
カイゼルに愛され、王妃としてこの国の女性で一番になり、同時にグラス王国初の女騎士となった。
かつてのポンコツ王子は傲慢悪女を愛し、最高の男となって彼女の全てを満たし、幸福へ導いたのだった。
長い話にもかかわらずお付き合いありがとうございました‼
特に後半微妙だったのに見放さず、読み続けてくださった方々、ありがとうございます!
全てにいいねをつけてくれている方もありがとうございます‼
次回はもっと、日々の楽しみに添えられる様な最後まで楽しい作品になるように致します。
本当にありがとうございました‼
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