33話 打算的な友人
「ハハハ!人だかりが出来ているから何かと思えば、面白いことをしているじゃないか」
ケビン皇太子がゆっくりと歩いて来た。
「おはようございます。ケビン皇太子、今日からよろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
やっぱりケビン皇太子は特別だな。
声、仕草、口調、全てで人々の意識をもぎ取っていく。
彼の全てが己は王者だと周囲を圧倒させる存在感。
「ほら時間だ、ウィリアムも行くぞ」
軽い動きで兄上を誘導して校舎の中に入っていく。兄上の隣が何か寂しいと思えば、聖女だけまだ取り残されて俺をじっと見ている。
「聖女様、兄上は行ってしまいましたよ?」
「あの……日本って聞いたことありますか??」
かなり空気を読めない印象だった聖女が珍しく真剣な顔をしている。
いや、俺の質問に答えていない時点で空気が読めていないとも言えるが。
「ニホン??えっと……不勉強で申し訳ない、それは何でしょうか?」
「いえ、知らないんだったらいいんです…………あの、さっきはごめんなさい」
「え?はい」
聖女はポツリとギリギリ聞こえる程度の声で謝ると、逃げるように兄上の元に行き、その腕に縋りついた。
心なしか兄上をはさんで意識してケビン皇太子から距離を空けている様に見える。
夜会では確か、ケビン皇太子を名指しで呼ぶほどのお気に入りだったのに何があったんだ??
ここでずっと居ても仕方がないので俺も校舎に入り、職員にあいさつをしてクラスを聞いて中に入った。
クラスは成績順でAクラスがケビン皇太子、兄上、聖女、そして俺ととても豪勢な人がそろっている。その後にB、Cと続く。
聖女が頭が良いのは意外だな。
ちなみに成績順はケビン皇太子、兄上、聖女となる。
セイランは一歳年下のため、クラスも違えば順位に絡んでくることも無いが実は結構座学の成績は良かったりする。
お父上のアーヴィン公爵から、Aクラスから下に落ちたら剣の稽古を辞めさせると脅されていたため必死で勉強していたらしい。
そして現在、俺は初めての皆での授業を受けながら困惑していた。
そっと隣に居る、明るい茶髪にオレンジ色の瞳の男子生徒に話しかけた。
「あの、今日は普通の授業ではないのか??」
「え?これが普通っすけど??何か変ですかね?」
「いやいいんだ。ありがとう」
普通、そうか、これが最高学年でやる普通か……。
俺が困惑している理由、それは今ここで新しく習っていること全て公爵家の家庭教師に教えてもらった内容だからだった。
『殿下!私、セイラン様には個人的に御恩があります‼ですのでお引き受けすることはやぶさかではございませんが、セイラン様の婚約者を指導するというのであれば徹底的にさせていただきます‼‼』
セイランが用意してくれた家庭教師は大半が〝セイランの婚約者〟として、とてもやる気を出して指導してくれた。
学園に慣れるまで授業がうわの空でも大丈夫なようにと多めの範囲を教えてもらっていたが……。
教科書をパラパラめくり、最後までいきついても知らない事は何一つ無い。
家庭教師陣すごいな‼‼
順位が貼りだされる期末テストが一ヶ月後、その次の月には件の魔法大会が控えている。
この過密スケジュールの中で座学は復習だけすれば良いのは大変ありがたい。
そうこうしていると、授業が終わった。
「次は魔法の授業か……」
ここまで順調にきているが、魔法だけはポンコツ時から何一つ成長出来ていない。
これだけはどうしていいか本当に分からないんだよなぁ。
いや待て、まず講堂に移動するはずだったが講堂はどこだったか。
人の流れについて行けばいいか。
兄上に気を使ってか、聖女とのやりとりが原因か、我ながら朝の出来事は結構上手くやったと思っていたのになぜだかクラスメイトには避けられている。
声をかけようとした瞬間にそれとなく逃げられてしまう始末だ。
「カイゼル殿下、私はヒンクリー男爵家の長男ミック・ヒンクリーと申します。ご一緒してもいいですか??」
人懐っこい笑顔でさっきの隣の生徒が話しかけてくれた。
その笑顔にライナスを思い出した。彼も俺が困っているとこうして自分を下げてさりげなく助けてくれるところがある。
「あぁありがとう、丁度場所が分からずに困っていたんだ」
俺の返答にミックはその大きな瞳をパチクリさせて驚いた。
「??何か変なことを言ったかな?」
「いえ……殿下素直ですね、何かこうスゲー王様デス‼って感じだったんで礼とかするとは思わなかったです。特に女性の好み的にも……」
好み?セイランは美人だし、夜会では皆羨ましそうに見ていた。
特段好みが悪いとは思わないが……。
「礼くらい誰でも言うだろう、でもそうかなるほど、私は近寄りがたいんだな??」
ミックが歩く様に促してくれて俺はそれについていく。
「そうですね、何つーか……」
「ハッキリ言ってくれてかまわない。俺は今自分を矯正中なんだ」
「俺??」
「あっ‼‼」
しまった。
社交時は基本的に私と言うように変えていたが、どうにもこのライナスに似た雰囲気に流されてしまった。
ケビン皇太子の様な尊大な感じも薄れてきている。
ミックは同い年の男としてはだいぶ可愛い顔立ちをしており、その大きなオレンジ色の瞳で俺を探る様にじっと見つめて話し始めた。
「では申し上げます。今までポンコツと馬鹿にしてきたポンコツ王子が実際見てみたら案外まともで仲良くした方が良いとは思うが好みも何も分からない。
本当にやり手なら今までの悪口も耳に入っているかもしれない。
しかも愛した女はあの有名な悪女セイラン・アーヴィン‼
似た者同士が惹かれ合うということもあるし、悪女の様に性格に難があるんじゃないか??
しかもウィリアム殿下と対立するなら断然、ウィリアム殿下の方が優勢なんだからカイゼル殿下に加担していると思われるのは良くない!
っと言うことで近寄りがたいっつーか様子見って感じっすね」
「ふうん、そんな中でヒンクリー君は何で俺に話しかけてくれたんだ??」
歩きながら普通に返すとミックの瞳はだんだんと輝きを増してくる。
「ミックでいいっす。恩返し3割、興味1割、野心6割ってとこっすね!俺、宰相になりたいんすけど男爵家なんで普通にウィリアム殿下にすり寄っても無意味っつーか本音言うとあんま好きじゃないっつーか」
なるほど、だから誰も手を出したがらない俺にすり寄ってくれば、俺が王位に就いた時に宰相にしてくれるかもしれないということか。
「恩返しというのは??」
「あーそれ、大きい声では言えないんすけど、親父はセイラン様に助けられた、と俺達親子は見ています」
話しを詳しく聞くと、夜会の時ヒンクリー男爵は見えない何か太くて長い触手の様な物に捕まったらしい。
そこで絞殺されるのを覚悟した時、セイランが現れて見えない何かに剣を突き立てた瞬間に触手がうねり、逃げることが出来たのだとか。
「あの時、セイラン様が正しいことを言っても誰も信じなかったんで、俺的には人命を優先するならあの判断が正解だとは思います。ぜってー俺はしねぇけど」
つまり、彼はセイランがわざと悪女を演じて人々を助けたことを分かっているということだ。
学園でセイランを肯定する言葉を聞けるとは思えなかったのでとても嬉しくなってくる。
「ありがとう、俺もミックの言うことは真実だと思っている。俺のことはカイゼルと呼んでくれ、良ければ初めての友人になってくれないかな?」
「なったら宰相にしくれますか?」
俺が握手のために差し出した手を見つめて茶目っ気たっぷりに返してくる。
その明け透けな物言いに思わず笑ってしまう。
「確約は出来ない。国にとってミックを宰相にするのが最善だと判断したらそうするし、他の者の方が良いと判断したら他の者を宰相にする」
「へへ!いいっすね実力主義‼ぐうの音も出ないほどに結果出すんで期待してください‼」
バシッと音が鳴るほどにミックは俺の手を掴んだ。
まだミックの人となりも分からないが、彼が野心家なことは分かった。
いつか、彼を親友と呼べるような時がきて欲しいと密かに期待してしまう。
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