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ファイとカスタモニカ

「初めまして。私はリュカです」


「おう。私はファイだ。悪いな無理言って」


ファイは今ラーズレイにある装飾店カスタモニカに来ている。ロゼに話を聞き紹介してもらったのだ。


「それで。どんな物をご所望ですか?」


ここは完全予約制店主が決めた者にしか商品を提供しない店である。

リュカはロゼの紹介でファイに会ったがファイにあまり良い印象を受け無かった。


「武器に装飾して欲しい。恐らく、もう少ししたらロゼが新しい仲間を連れて来る。そいつらの武器だ」


思いもよらない要求にリュカは驚いた。当然ファイに何かを作ると思っていたのだ。


「出来れば私から受注したと言わないで欲しい。可能であれば」


「何故そんな回りくどい事を?」


「ロゼが拗ねる。あと、色々勘繰られて面倒になる」


嘘偽りなく答えるファイにリュカは彼女の第一印象を改めた。


「私は、聞いてもいいのですか?」


「いいぜ?客の情報を漏らしたりはしないだろ?」


笑うファイにリュカは面白そうに微笑んだ。


「それで、具体的にどんな装飾に?」


「一人は聖魔法。もう一人は土魔法を扱う。ロゼに匹敵する魔力量を持ってっから壊れない様、強化して欲しい。後これをその2つに装飾出来るか?」


ファイが差し出した宝石にリュカは息を飲んだ。


「これは・・・・一体どこで」


「私しか知らない場所だよ。今のところ誰にも見つかっていない」


そこには幻と言われている魔石が2つも置かれている。しかも状態も良く傷1つない。


「本当はロゼに渡したかったんだがしょうがない。あいつは今忙しいからな。作れそうか?」


リュカに断る理由はない。

幻の魔石を装飾出来る又とないチャンスである。


「ロゼの力のこと聞いているか?」


ファイの質問にリュカは曖昧に笑った。本人から具体的に聞いたことはない。


「この世界は滅びに向かってる」


ロゼの話からいきなり世界の危機の話になりリュカは微妙な顔をした。


「私達は5つの宝玉。神の御子と呼ばれる世界を救う使命を背負わされた人間だ」


「冗談、ではなさそうですね」


リュカは困ったような顔をした。ファイもそれに笑って応える。


「今、ロゼはその内の一人を見つけ導いている。もう一人もすぐ見つかるだろう。私達は本来引かれ合う様に出来ている。仲間は全部で5人。そいつらに戦う準備をさせなきゃならない」


「何故貴方が?」


リュカは心底不思議そうに尋ねた。それは当然だろう。ロゼを知っている者ならその役目はロゼの方が適任だと判断する。


「お前はロゼの事を全く理解していないんだな」


リュカはその言葉に大きく目を見開いた。彼の中でロゼはとても優秀な頭脳を持つベテランの冒険者でありリュカの命の恩人である。


「アイツは脆い。愛する者を失った時、崩れ落ちてしまうだろう。いつもそうだったから。だからアイツにはまだ知らせない。私はアイツらを今回こそ幸せにしてやりたい」


そのファイの言い回しにもリュカは引っかかった。

そんなリュカにファイは笑って事実を告げた。


「知ってるか?この世界は何度も終わりの危機を迎えている。それを毎回救ってきたのが5つの宝玉だ。そして私はその記憶を持ったまま何度も生まれ変わってる」


ファイのとんでもない言葉にリュカは絶句した。

俄かに信じられない。


「皆、魂は同じだけど前世の記憶があるのは私だけだ。しかも私達の使命を覚えてるのも私だけだ」


ここでリュカはやっと何故ファイがこんな事をしているのかを理解した。


「それで代金の話なんだけどよ?」


ファイはにっこりと笑って天井を指差した。そこにはいつの間にか大量の妖精が群がっている。

リュカは驚いてファイを見た。


「コイツら貸してやるからまけてくんねぇ?」


悪気なく言い放ったファイにリュカは思わず吹き出してしまった。



ファイはカスタモニカを出る時ここの従業員であるゼイルとすれ違い彼を手招きした。ゼイルはニコニコしながらファイの側までやって来た。


「お話はもう終わったのですか?ファイ様」


そんなゼイルにファイは面白そうに耳打ちした。


「話聞いてたんだろ?あんたもロゼとは仲良くしてると聞いてる。後は頼んだぞ」


ゼイルは笑みを引っ込めファイを見た。ファイは笑ったままである。


「アーシェ・・・・・エルグレドの事も。アイツら危なっかしいからな。助けてやってくれ」


「君は何をするつもりなんだ?」


ゼイルはこのままファイを行かせてはいけない気がして思わず壁に手をついた。ファイは表情を変えず淡々と答えた。


「もう。私が最後までアイツらを導かなくても大丈夫だ。ロゼには沢山の仲間と彼女を助ける者がいる。私はそれがとても嬉しい。頼んだぞ?」


それはまるで別れの挨拶のようだった。


「おい。何してる?」


すぐ近くで遅いファイを迎えに来たのかサナが立っていた。ゼイルは壁から手を離すと微笑んだ。


「すみません。フラついてしまって。昨日酒を飲み過ぎたかな?」


「おいおい。だらしねぇーなぁ?そんなんじゃ私と酒なんて飲めないぜ?」


ファイは軽い調子でゼイルに合わせた。サナは二人を睨みながらも、何も言わずファイと並んで歩き出した。


「なんだあの軟派男は」


「あの店の従業員。私の受注は受けないらしいぜ?」


ファイの物は頼んでいないので、そういう事にしておく。

彼女は自分の大剣を抜くとしばし考えた。


「少し、直すかな」


実はこの間エルディに指摘されそろそろ剣の修理に行かねばと思っていた。ファイは決めた。


「ドワーフ国にいく」


「ロゼに動くなと言われてなかったか?」


「しょうがねぇだろ?コイツあそこでしか修理できねぇんだよ」


ファイの大剣はドワーフ国で作られた魔剣である。

複雑な作りらしくあそこの職人にしか直せない。


「伝言を残しとけばいいだろ?用事が済んだらすぐ戻ってくればいいさ」


二人はそのままカスタモニカを後にした。その姿を店からリュカが見下ろしている。


「結局仕事を受けたんですか?」


ゼイルが問いかけるとリュカは困った顔をした。


「・・・実は、その二人に心当たりがあるのです」


「え?どういう・・・・・」


リュカは1つの封筒を取り出した。


「私の予想が当たっていれば、ロゼ達が探しているのは私の知り合いのレイヴァン・スタシャーナの養い子達。ここに来るから、この手紙を渡してくれと頼まれているんですよ」


二人はしばし考え込んだ。ファイはもしかしてそれさえも分かっていたのだろうか。しかしそれは何故なのか。

その時、目の前を通り過ぎた妖精が目に入りリュカはハッとして彼女に聞いた。


「まさか、貴方達何か彼女に教えました?」


リュカが尋ねると妖精は首を傾げた。もっと具体的に聞かなければ駄目そうだ。


「彼女は何故ここに来たのです?貴方達が教えたのですか?」


それにも妖精は首を傾げたのでリュカは引き出しから魔石を出して差し出した。


「もしかして、スタシャーナ家の話が出て、ここの事を話しませんでしたか?」


[ああ!話したよ?スタシャーナの人間がここに来てたって。話したのは私じゃないけど]


成る程。やはりファイは薄々感づいていたのだ。リュカが神の御子と接触する機会があると。もし違ったとしても頼んでおけばロゼがそれを渡してくれる。


「困りましたねぇ。ロゼに話す訳にもいかないでしょうし」


リュカは目の前に置かれた2つの魔石に目を落とした。

こんな貴重な物をあっさり差し出してしまえる欲のないファイにリュカは苦笑いを浮かべる。彼はファイのような人物に出会った事がない。


「ロゼが夢中になるのも、わかりますね」


リュカはこの先起こるだろう事態を予想して気が重くなった。

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