魔女の末裔
魔女の末裔と呼ばれる一族が出来たのは、此処何百年の間である。彼等はイントレンスから出てこの世界を混乱に落とす魔人を止める為生まれたと言われているが、実はそうではない。
彼等はイントレンスに入れず他の地に置き去りにされた魔人達である。
置き去りにされたのには理由がある。
彼等は魔人であるのに黒魔術が使えなかったのだ。
何故彼等がそれを持って生まれなかったのか。
当時彼等の予知を持ってしても解明されなかった。その為彼等はイントレンスに入る事を許されず、ひっそりと人間に紛れて生きてきたのだ。
しかし、数百年前それが何故なのか、やっと解明された。
ファレンガイヤの終焉が訪れる1つの予兆に、必ず魔人の暴走が起きていたのだ。
そしてそれが分かった頃。自分達が置き去りにしてきた魔人がそれを止める為。突然変異として生まれていた事を知ったのである。
イントレンスの巫女は急ぎそれを彼等に伝えた。
しかし、当然であるが彼等はそれに応えなかった。
彼等は魔人に捨てられた者達である。彼等を助ける義理など彼等には無い。だが彼等は結果的に魔人を助ける存在になってしまう。
「旦那様はまたお仕事でご不在ですか?」
「ええ。いつもすれ違いですみません。あの人も会いたがっていたんですが」
シャイアは自分の育ての親であるレオンに連れられ、やって来た辛気臭い村の雰囲気に辟易しながらも部屋の隅で大人しく待っていた。
「いえいえ。貴方が創り出す物はとても質が良くて助かっております。今回もいくつか譲って頂けますか?」
「どうぞ、必要な物がありましたらお持ちください」
その家の女性は穏やかな赤髪が印象的な人物だった。レオンが、どういう経緯でこの人間の女と知り合いになったのかもシャイアは知らなかった。
その時、外から誰かが帰ってきた気配がした。
いつまでたっても入って来ないのでレオンがドアを開けると、そこには小さな女の子供が二人立っていた。
一人は多分この家の女の子供だろう。
もう一人は分からなかった。
レオンは赤い髪の女の子を自分達の下へ招くともう一人の子供の相手をシャイアに押し付けた。
シャイアは渋々その子供の相手をする事にした。
改めてその子供に目をやると、その美しさに目を奪われた。
平民とは思えないブロンドの髪に長い睫毛。肌は少し日に焼けているのに艶やかで、エメラルドグリーンの瞳はとても深い色だった。その気の強そうな目で見つめられシャイアは動けなくなった。
しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのはその少女だった。
「・・・・・私はファイ」
「シャイアだ」
またその場に沈黙が落ちた。シャイアはどうしたらいいのか分からなくてとりあえず自分も顔を見せようとフードを取った。その途端ファイの顔が見る見る変化した。
それはまるで、とても面白い物を見つけた時にみせるもの
だった。
「黒髪が珍しいか?」
「うん。初めて見た」
彼女の笑った顔を見てシャイアは何故かそわそわした。
ふと、彼女の手が目に入りシャイアは足下にある木の棒を2つ拾うと1つをファイに渡した。
「話より。身体を動かす方が好きか?」
シャイアの言葉に更にファイの顔が嬉しそうに笑顔になった。シャイアは益々ファイに興味が湧いた。
彼女の打ち込みを受けながらシャイアは楽しくてしょうがなくなった。
彼には今まで友人と呼べるものすら居なかったのだ。
その日から彼はファイに夢中になった。
「いい顔をするようになったね。シャイア」
何度かファイの村に通う様になり、レオンはすぐにシャイアの変化に気が付いた。明らかにあの村に行く事を楽しみにしているシャイアにレオンは微笑んだ。
「そうか?そんな事ないと思うが」
「私にも少ないが大事な友人がいる。そういう存在は必要だ」
レオンの言葉にシャイアは疑問が湧き上がる。
自分はファイと友人になりたいのだろうか?
確かに彼女は男勝りで口調も男の様だがシャイアはファイを可愛いと思っている。許されるのなら抱きしめて可愛がりたい。そんな事友人相手に思うだろうか?
「後数年で私の役目をお前に引き継がなければならない。お前の側に居てくれる者を見つけなさい」
そう言われシャイアは憂鬱になった。恐らくだが、今回暴走した魔人を止めなければならなくなるのはシャイアだろう。警戒していた魔人の女性はやはり闇に堕ちた。
そしていまだ暴走を続けている。
「同族殺しは気が進まないか?」
「同族ではない。彼等は俺達を仲間だとは認めていない」
シャイアは外の魔人族から生まれた。その中でもかなり魔人の血を強く引きその力も強いが、やはり黒魔術は使えない。だが一度その力を奪い使用すれば、とんでもない力を発揮できる。
「だが、それでも彼等の血を引くことは事実。そしてこの地の平穏を望むのもな」
そう。彼等は自分達の判断で魔人を刈っている。
自分では止める事が出来ない哀れな魔人とこの世界を保つ為に。
「魔人はファレン神が初めてこの地に誕生させた人類だと言われている。それ故に一番神に近い存在でもある。私達の能力はとても危険だ。他の種族には止められないだろう。それが叶うとするならば同じ魔人か、もしくは世界を救う神の御子しかいない」
神の御子。この世界を救うと云われる、女神が持ち込んだとされる5つの宝玉。伝説の救世主である。
「そんな者、本当にいるのか?」
レオンはそれには微笑んだだけだった。
誰が思うであろう。世界を救う使命を背負った人物が自分のよく知る少女であるなど。
それを知った時のシャイアの衝撃は大きかった。
確かにファイやロゼに違和感はあった。
しかもファイはダービィディラルで近くに精霊まで付いていた。そして6歳にしては彼女はあまりに大人びていた。
彼女が神の御子であり、前世の記憶を持ったまま転生してきた事。そしてそれを皆に伝える為に、この運命を繰り返さなければならない事。
そのファイの重責にシャイアは胸が痛くなった。
何故ファイなのだろう。
「・・・・シャイア」
変わり果てた姿で涙を流しながら、助けに来たシャイアに手を伸ばした彼女はとても痛ましく、それでもシャイアは自分がファイに求められたのだと思うと嬉しかった。
誰にも手を差し伸べられない彼女の唯一の者にシャイアはなった。
だから、彼女が助かるのであればシャイアは何でもよかった。
たとえ自分が裏切り者だと罵られようと。
「私が与えた心臓は定着するのに時間を要する。決してそれまで誰にも渡してはいけないよ?それはお前の心臓でも同じだ。それをすればお前の身体は変化してその姿を保てなくなる。長くは保たないぞ」
レオンの忠告は意味を成さなかった。
シャイアは結局、レオンから心臓を受け取った直後に自分の心臓をファイに与えた。
そして彼は徐々に弱っていった。
外側からは分からなかったが内側からじわじわと。
引き継がれた心臓はもう随分と長い間酷使され身体を動かす役割をこなせる力は残っていなかった。
ただ、その心臓は彼の本来の寿命を延ばす役割を果たすものだった。
もう、今ではその心臓に魔力を補充しなければ動く事すら難しい。
あの日。
シャイアに心臓を返したいとファイは言った。
魔人ではないファイに魔人の心臓を与えて6年。
やっとここまで辿り着いた。
あと少しで彼女の心配をしなくてもよくなる。
「・・・ファイ。生きろ」
彼は知らなかった。
彼女が毎回迎える運命を。
それがどれだけ残酷な事かも。
しかし知ったところできっと彼は同じ事をした筈だ。
「そして今度こそ、運命を変えろ」
彼は闇の中で目を閉じた。




