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同じ髪の青年

ファイが目を覚ますと、そこはいつもの宿屋だった。

身体を動かそうとしたが上手くいかない。

どうやら根こそぎ魔力をシャイアに奪われたようだ。


「・・・・すげぇ怒ってたな」


予想はしていたが、やはりキツイ。

ただ嫌われていないと分かっただけでも救いだとファイは思う。シャイアは結局ファイを諦めなかった。


ファイは自分の腕にあるブレスレットに目をやった。

それはファイの両親がファイに与えた物であり。ファイの出生が知れる唯一のものだ。そして、これは元々ベルグレド・・・・前世の妹の持ち物である。


(巡り巡って私の元に来るなんてな)


前世の二人は結局使命を果たし、別の人物がガルドエルムの王になった。きっと二人はファイズ家の先祖なのだ。

ファイは現世のベルグレドを思い浮かべる。


(アイツに会ったら、これを渡そう)


ファイは着々と準備を始めていた。

いつもの様に、自分の役割をこなし終わりを迎える準備を。

そんな事をぼんやり考えていると部屋のドアがノックされた。身体が動かないので目だけ動かすとサナが入って来る。


「大丈夫か?」


「大丈夫に見えるか?」


サナはベッドの脇に水差しを置きファイの身体を起こしてやる。そしてその手に飲み物を持たせた。


「飲めるか?水分を補給しろ」


「・・・・動かねぇよ。ほっとけ」


動かす気もないファイにサナは渋い顔をしてカップを口元に持っていってやる。ファイはしぶしぶそれを口にした。


「シャイアと喧嘩したのか?」


サナがそんな事を聞いてきたのでファイは吹き出した。そして思わず笑ってしまう。


「いや?ほら、シャイアに愛されちゃってるからな?怒られたんだよ。喧嘩じゃない」


戯けるファイにサナはうんざりした顔をしている。

どうやら倒れているファイを見つけ運んだのはサナだった様だ。


「サナ。ありがとな」


お礼を言うファイにサナは本気で驚いた。

彼女が素直に人に感謝するなど気持ちが悪い。


「何だお前。とうとう頭がおかしくなったのか?」


サナに真面目な顔で問われファイはニヤリと笑った。


「私の頭はとっくに壊れてんだよ。だから心配すんな」


意味不明な説明をされ、サナは理解するのを諦めた。

腰をあげるとファイの身体を再び寝かせる。ファイは不満気にサナを見上げた。


「もう、今日はそのまま休め。明日になれば動ける様になるだろうからな。シャイアの所為なんだろ。それは」


ファイが動かなくなる程の魔力を奪って行ったのだ。

サナは知らないがファイを足止めして時間を稼ぐつもりらしい。


「明日起きたら肉を食わせてやる。だから大人しく今日は寝ろ」


サナは無意識にファイの頭をぐしゃりと撫でた。

ファイはその仕草に眼を見開いた。


「おやすみ。ファイ」


そのまま出て行くサナをファイは何も言わずに見送った。

そして自分が今まで考え違いをしていた事に気がついた。


(そういう事かよ)


そして深く深呼吸した。

ファイは嘘がつけないタチだ。

だから今までロゼを避け続けた。

側にいたら話してしまうだろうから。

ファイは毎回前世の記憶を残したまま産まれるが、だからといって前世と人格が同じかといえばそうではない。現世で生まれた身体には、ちゃんと個性がある。だから、例え駄目だと思っていても、もう一人の人格の自分が、今の自分を抑えられないという事が起こる。

それは意外と不便なのだ。

だがファイは今回はどうしても抑えようと決心した。

そうしなければきっとファイの思い通りに事は進まないだろうと思ったからだ。ファイは動かない身体を無理矢理横にすると初めてシャイアに腹を立てた。


「シャイアの阿保」


そしてそのまま無理矢理目を閉じた。




****




数日後。

サナはすっかり元どおりのファイに気持ち悪さを感じていた。そしてあの日からファイはシャイアの事を口にしなくなったのが気になっていた。


(気持ち悪い。なんなんだこの、スッキリしないものは)


そして相変わらずサナとは距離を置いている。避けられてはないが用事でもない限り接触して来ないのだ。

もし、ここでの目的が果たせないのならばそろそろ移動を考えねばならない。


サナはスッキリしない気持ちのままファイの下へ向かっていた。


「お前。その魔人を助けるつもりだったのか?」


サナが隠れ家のドアを開くとルシフェルの声が飛び込んできた。どうやら何かあったらしい。


「うるせぇなぁ。違うって言ってんだろ?私はパメラを殺すんだよ。助けるんじゃねぇ」


「お前、それを屁理屈って言うんだぞ?」


「どうした?何かあったのか?」


サナが声をかけるとファイが明らかに嫌そうな顔をした。サナは少しムッとした。


「いや、こいつ。ベルグレド達にいきなり襲いかかったみたいなんだ。まぁ本気ではなかったが・・・」


どうやらやっとベルグレドに会ったらしい。

サナが視線を投げるとファイは手に持っていた羽根をサナに見せた。サナには、それがパメラの破壊された魂の一部だとわかった。


「よくもまぁ、そんな物親切に残してくれたな?」


「神の仕業じゃねぇーな。恐らくエレナとか言う姫さんが残していったんじゃないかと思う。これ。戻せるか?」


パメラの身体はもう無い。その魂は人間の子供の器に入っている。


「まぁ、戻すだけなら。そもそも同じ魂だからな。強く引かれ合う。だが、それを戻して何になる?」


バルドの魂はイントレンスに戻らないだろう。

サナはそう考えている。闇に堕ちた魔人の魂は今まで一度も魂の帰還を果たしていない。それはイントレンスの巫女もハッキリと断言している。


「いや、よく考えたら二人の魂をイントレンスに戻さなくたっていいだろ?どうせ戻れないんならそのまま生まれ変わればいいと思うんだよな」


最もなファイの意見にサナもルシフェルも口を開けた。

確かに。ただ生まれる人種と場所が変わるだけだ。


「魂の形さえ整っていれば、また人に生まれ変われる可能性がある。まぁ人でなくても良いかもな?いっそ二人で鳥にでもなればいい」


ファイはダルそうに窓から空を見上げた。

その顔は何だか穏やかだ。

サナは向かい側に腰掛けた。


「どんな奴だった?ベルグレドは」


「・・・驚くほど。弱かった」


ファイはそのまま項垂れた。結構ショックだったらしい。まぁ彼の生い立ちからすればそんなに強くないのも仕方がないのだが、ファイは納得出来なかった。


「あれでよく生き残れたと思うぜ?エレナとか言う女がよっぽど強かったんだろうよ。全く」


「そんなに気になるならお前が鍛えてやったらどうだ?」


サナの言葉にファイはうんざりとした顔で手を振った。


「冗談じゃねぇよ。人に物を教えるなんて私には向いてねぇ。ロゼの方が数倍マシだぜ」


ファイは心底嫌そうにしている。ルシフェルはそれには呆れた顔をした。


「お前。絶対面倒くさいだけだろ?」


そう言われてファイはニヤリと笑った。図星らしい。

サナはそんな二人のやり取りを見ながら自分は考え過ぎていたのかと思った。意識を失い倒れていたファイを見てサナは正直彼女がまた不安定になるかも知れないと心配していたのだ。しかし今のところ、そんな様子は見られない。

サナは黙って二人が言い合うのを眺めていた。


次の日サナはそろそろ目的を済ましてここを離れようとファイに告げるため再び隠れ家に来ていた。

ファイは眠そうに外に出るとサナを見つけて手を上げた。


「おう!はぇーな?」


「お前が遅いんだ。話がある」


サナが口を開こうとした時。ファイは此方へ向かって来た人物に向かって声をかけた。


「何だお前。暇なのか?」


そこにはファイと同じ金の髪を持つ青年が立っていた。

彼は不服そうに何かをファイに差し出した。


「親の形見なんだろ。受け取れない」


そこにはサナも見覚えのあるファイの金のブレスレットが握られていた。彼女が肌身離さず身につけていたものだ。


「持ってろよ。邪魔なんだよそれ。荷物になるしな」


サナは胸が騒ついた。ファイは自らあのブレスレットを彼に渡したのだ。その、彼女の行動がサナを不安にさせた。


「お前と寄り添っていた妖精はどうした?昔からずっと一緒に居たんじゃないのか?」


ベルグレドのその言葉にサナは思わず彼を黙らそうと威嚇した。そんなサナに気付きファイが顔を顰める。


「サナ、ちょっと向こう行ってろよ。コイツと大事な話がある」


「逃げ出す算段じゃ無いだろうな?」


大事な話だと言われてサナは余計な事を口にしてしまった。しかしファイはいつもの様にダルそうに手を振った。


「阿保か。逃げ出そうと思えばとっくに逃げたんだよ。サッサと行けよ!」


サナはそんなファイに何も言わずその場を離れた。


ファイはその日ずっと避けていた旧友であるオルファウスと再会できた。オルファウスは全てを分かっていた。そしてきっと、その事をベルグレドが彼に直接聞くまで黙っていてくれる筈だ。オルファウスは昔から余計な事を口にしない。


(ありがとう。オルファウス)


ファイはオルファウスを抱きしめながら彼にお礼を言った。彼はそれが理解出来たのかそんなファイに目を細めた。

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