繰り返される死
「魔人の女を助けたぁ?」
エリィはある日、自分の仲間であるゼスティと言う赤髪の青年に悩みを打ち明けられた。
「人間に捕らえられて、そこから逃げ出して来たみたいなんだけど。怯えてて困ってるんだ。ベルなら同じ女性だし、安心させてあげれるかと思ってさ」
エリィは呆れた顔でゼスティを見た。ゼスティは戯けた顔で舌を出した。
「すまん。そんな事をしている場合じゃないことは分かってるんだ。でもほっとけなくて」
「・・・・ベルに聞いてみる。その女ここにいんのか?」
今、二人が居るのは仲間の隠れ家である。
ゼスティが頷くと傍に置いてあった食事を持ち上げる。
「エルグレド?」
「どうせお前その調子で近寄って怖がらせたんだろ?俺が様子を見てくる。お前はここで待ってろよ」
そんなエリィにゼスティは何か言いたげだったがそれ以上何も言わなかった。エリィは一度言い出したら人の話を聞かないと分かっているからだ。
エリィは地下の階段を降りて行くと部屋の扉をノックした後部屋の中に入った。
その部屋にはベッドの角でシーツに包まり固まっている女性がいた。
「成る程。こりゃ確かにゼスティには荷が重そうだな」
エリィは苦笑いすると怯える女性に構わず近付いて行き、ベッドの近くのテーブルに食事を置いて、何も言わずに部屋を出ようとした。すると背後からか細い声がかけられた。
「私を殺さないの?」
振り向くと女性はびくりと身体を後ろへ引いた。
「殺さないし、別にどうもしない。出て行きたければ止める気もない」
エリィは軽い調子で彼女に説明した。
その様子に女性は少し力を抜いた。
「あんたを助けた俺の仲間があんたを心配してる。あまりにもあんたが怯えるから。まぁあのガタイで詰め寄られたら怯えるわな」
エリィはその場面を想像して吹き出した。彼女はそんなエリィを見て首を傾げる。
「もしかして。本当に助けてくれただけなの?」
「ああ。アイツは信用出来るぜ?お人好しだしな。あんた運がいいぜ?ただで助けてくれるっつーんだから助けてもらえよ。故郷はあるんだろ?」
エリィの問いに女性は暗い顔をした。エリィはその反応に眉を顰めた。
「まさか。住処を襲われたのか?」
女性がコクリと頷くとエリィは難しい顔をして考え込む。
「仲間は?皆んな攫われたのか?」
「わからないの。私はすぐ捕らえられて連れて来られた。隙を見て逃げたけど・・・何がなんだか・・」
彼女は両手で顔を覆い震えている。エリィは彼女の近くまで行くとしゃがんで彼女を覗き込んだ。彼女は美しい黒髪に赤い瞳だった。
「とにかく、しっかり食事をとって体力をつけろ。俺も調べてみてやる。俺には双子の妹がいるから、俺やゼスティが怖いなら、そいつに来させる。お前を故郷に帰すにも状況が分からないとまた同じ事の繰り返しになるからな」
エリィの言葉に女性は不思議そうな顔でエリィを見た。
「貴方は・・・女性、よね?」
「まぁな。でも男なんだ。そういう事になってる」
エリィの言葉の意味がよく分からなかったのかまだ首を傾げる女性にエリィは微笑んだ。
「俺はエルグレド。エルグレド・アグレイナお前は?」
「・・・・・ファイラス」
女性の名前にしては男らしい名前にエリィは親近感を覚えた。
「じゃあファイだな!俺の事はエルって呼べ。ゼスティはゼスって呼んでる。暑苦しいかもしれねぇけどゼスは良い奴だから心配する事はねぇ。乗りかかった舟だからお前を助けてやるよ」
エリィがそう言って笑うと彼女はやっと少し微笑んだ。そしてお腹が空いたのか食事の器に手をかけた。
エリィはそれを確認すると頷いてその部屋を出て行く。
二階に上がるとゼスティが心配そうにこちらを見た。
「とりあえず食事は食べてくれそうだ。なるべく早くベルを連れて来る」
ゼスティはその言葉に笑顔になってエリィに抱きついてきたので思いっきり顔を掴んで押し返した。
「流石エル!!頼りになるぜ相棒!!」
「うぜぇ!引っ付くんじゃねぇ!!暑苦しい!」
いつもの二人のやり取りである。
こんな関係がいつまでも続くと思っていた。それで満足だったのに。
「エルグレド・・・・俺、馬鹿だなぁ」
彼は後悔していた。そんなのゼスティらしくない。
「彼女が俺を選ばないって分かってたのになぁ」
地面は見る見るうちに彼の血が広がっていく。エリィはそんな彼を抱き起こしながら微笑んだ。
「そうだな。でも、カッコよかったぜ。お前が、最高の男だって俺は知ってる」
「・・・・っは!そうか・・・まぁ、お前に認められるなら悪い気はしない」
彼は笑った。そして霞むその瞳にエリィを映した。
「・・・エルって、ほんと、綺麗、だよな」
目の前のエリィは笑っているのに。その瞳から涙を流している。ゼスティは無意識にエリィの涙を拭っていた。
「ゼス。最期に頼みがあるんだけど?」
「・・・なんだ?今叶えられる事なら叶えてやる」
絶対に言わないと決めていた。だけどこのままゼスティを死なせるのは嫌だった。
「すげえ気持ち悪いと思うけど言っていいか?」
「・・・・いいぜ。お前、には随分、借りがある」
エリィは精一杯微笑んでゼスティの頬を撫でた。
「お前を愛してる。最期にキスさせてくれ」
その言葉にゼスティは目を見開きエリィを凝視した。
そして、泣きそうな顔をした。
「・・・駄目だ、俺、最低じゃん」
「お前の気持ちなんてどうでもいいよ。俺がそうしたいんだ。いいよな?」
ゆっくりとエリィの唇がゼスティに重なった。
そして唇を離すとエリィは微笑んだままゼスティの髪を撫でた。
「後は俺に任せろ。安心して眠っていい」
「・・・エ・ル・・・。次、生まれ変わったら・・」
「次生まれ変わったら。お前は今度こそ彼女と結ばれる。俺はまたお前の最高の相棒になってやるよ」
エリィは力がなくなっていくゼスティを抱きしめた。
「ほんと・・・俺・・・見る目、ねぇ・・・」
ゼスティの頬に一筋涙が流れ落ちた。
ゼスティの目の前には確かに美しい女性がいた。
彼はエリィが女性だとこの時まで気が付かなかった。
いや、見ないようにしていたのかもしれない。
居心地が良い場所を失いたくなかった。
どんな時でも側にいて自分を支えてくれた大切な存在。
「次は、必ず・・・」
ー俺がお前を守るからー
しかし、そのゼスティの想いは叶えられる事はなかった。
その次生まれ変わったゼスティはやはり彼女を残しその生を終えた。そしてその次も。
神の御子の四人は知らなかった。
現世で生まれ変わったファイは今まで一番最後まで皆の死を見届けた。どんな時でも皆を導きそして結局四人の死を見届けた。だから誰も彼女がどんな最期を迎えるか知らなかった。
「また皆んなで会おうぜ!プリィティシア、オルファウス
!!またな!」
それはその二人の精霊と妖精達しか知らない彼女の秘密。
彼女はその大剣で深く自分の心臓を突き刺さすと、そのまま、その身を燃え盛る火山の中へ投げ出した。
そう。彼女の死。それはドワーフ国の火山へ身を投げ、その地を何千年と安定させる力となったのだ。
プリィティシアは何度も願った。
[誰かアイツを愛してくれ]
彼女が簡単に死ねないように。
彼女がこの運命に抗えるように。




