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抵抗する者達

実を言うとシャイアは少し怒っていた。

ファイが動いたせいでシャイアの計画は大幅に狂った。

だから再会したら文句の1つでも言ってやろうと思っていたのだ。


「シャイア」


だがファイの顔を見た瞬間、そんな気持ちは何処かへ行ってしまった。ファイが余りにも、嬉しそうにシャイアを呼んだから。


「シャイア。怒ってる?」


上目遣いに見つめられシャイアは些か狼狽えた。何だこいつ、可愛すぎる。


「怒ってない。俺に会いたかったんだろ?」


挑発的に聞いてみると、これにも驚くほど素直に頷きシャイアの服をぎゅっと握る。顔を上げたファイの表情を見た時、シャイアの今までのファイに対する怒りは全て吹き飛んでしまった。


「全然会えなかったから。嫌われてるかと思った」


「・・・・・ファイ」


シャイアは思わずファイを抱きしめた。ファイもシャイアに手を回してくる。

6年。6年もの間ファイはシャイアを待ち続けた。

何故自分はファイの行動に腹など立てたのか。


シャイアは考えが足らなかった自分自身にあきれた。


「会わない間に随分と可愛くなったな」


シャイアが素直に口に出すとファイは顔を赤くして中身は変わってないとか何とかもごもご言っている。シャイアが笑みを浮かべると彼女は少しバツが悪そうな顔で謝ってきた。


「シャイア、会いたかった。心臓のことも聞いた。ごめんな」


「俺が決めてやった事だ。謝らなくていい」


きっと彼女は何かをしていないと不安でしょうがなかったのだ。本気でシャイアを見つけ出そうとまでは思ってなかったのかも知れない。彼女の美しい髪を優しく撫でるとファイが困った様な顔をしている。こんなファイをシャイアも初めてみた。彼女は女性として扱われる事に慣れていない。


ファイにシャイアが好きかと尋ねると、ファイはとても驚いた顔でシャイアを見た。

あの状況で無理矢理約束していたのもあり、それをシャイアが尋ねるのは不思議では無かったはずなのだが、ファイには不思議でしょうがなかったらしい。

そんな彼女にキスをして気持ちを伝えるとファイは困った顔でそれでも嬉しそうに微笑んだ。


シャイアは内心舌打ちした。


もし、シャイアがずっと彼女の側に居れたなら、ファイにこんな寂しい思いをさせずに済んだはずだ。

それなのに現実は彼女の側に居られない。

シャイアは彼女を自分の膝に乗せ抱きしめながら彼女の話を聞いた。


「最近。前世の夢をよく見るんだ」


「昔のお前の記憶か?」


「ああ。それで気付いた事があって。記憶は確かに残ってるんだが、それが日々過ごす内に欠落してきているんだ」


普通に考えてそれは当たり前である。人は皆、古い記憶を新しい記憶に塗り替えて生きて行く。そうしなければ脳の情報の処理が追いつかないからだ。


「それでも必要な事だけはちゃんと残る様になっている。私達の使命な事だ。だけど今回その記憶も曖昧になり始めている」


「それは、どういう事だ?」


「ファレンの場所が思い出せないんだ」


ファイの言葉にシャイアは驚いた。それは一番重要な事では無いのか。


「ファレンの下に行くには全知の門を開き5つの扉をぬけないとないといけない。その場所へ私は聖なる鍵。仲間を連れて行かないといけないんだ。でもその場所の行方が分からない。この世に生まれた時、確かにその記憶があったはずなんだ」


その言葉にシャイアは嫌な予感がした。


「シャイア。お前に心臓を返したい」


ファイにそうはっきり言われ、シャイアは凍りついた。

恐らく、ファイが死にそうになりシャイアがファイを助けた時。ファイの身体はやはり変化した。そして彼女の本来あるべき記憶もそのせいで霞んでしまったのだ。


「シャイア。もし、それで私の本体の心臓が止まったら。私の記憶を皆んなに伝えてくれないか?」


ファイの瞳がじっとシャイアを見つめている。

美しくて残酷な彼の愛しい女が。


「・・・そんなにまでして、この世界を、救いたいか?」


シャイアは幼い頃、あんなにもファイと居たのに、実は何も彼女を理解していなかった事に今気付いた。

ファイは生きたいのだと思っていた。

愛するものとずっと。だが、彼女が必死に生きようとしていたのは・・・・。


「いや。正直この世界なんて本当はどうでもいいのかもな。でも、シャイア」


ファイはシャイアの両頬を優しく両手で包み込んだ。


「お前の生きる世界を守れるなら悪い気はしない。私はいつも最後まで皆んなを見送ってきた。たまには先に逝っても許されるかと思ってる」


信じられない。彼女は自分を好きだと言った口で自分を置いて先に死ぬと告白したのだ。シャイアは怒りで目の前が真っ赤になった。


「ふざけるな。俺が、何の為に・・・・」


「うん」


ファイはシャイアの気持ちがよく分かる。


「だから、早く会いたかった。下手すると話も出来ず別れる事になると思ったから」


残される者の気持ちは痛いほどわかる。シャイアが怒っているのも理解出来る。


「お前は私の長い人生の中で初めて私を愛してくれた。私は誰かと両想いになった事が一度もねぇから、お前に嘘はつきたくねぇし、本当は置いていきたくない」


シャイアは初めてファイの前でその表情をぐしゃりと崩した。そして痛いほどファイを抱きしめた。


「なら、他の方法を考えればいい。その場所がわかりさえすればいいんだろう?俺が探し出す」


(シャイア・・・・)


ファイは抱きしめられながら彼に出会ったのが何故今世だったんだろうと思っていた。叶うならもっと前に出会いたかった。


「うん。でも、多分無理だ。だからその時のために心臓を返す方法を教えて欲しい」


「俺は、そんな事絶対に教えない。お前の望みでもそれだけは叶えられない」


「・・・・・そっか」


ファイはシャイアから聞き出すのを諦め、目を閉じた。

シャイアはそんなファイの顎を持ち上げ怒りを隠さないままキスをした。強引に入れられた舌から大量に魔力を奪われていく。

サナの時とは比べものにならない。ファイは力を奪われながらも嬉しくて涙が溢れてきた。


「お前が考えを変えないなら、俺はいつまでもお前から逃げ続ける。そして、お前を生かす手段を必ず見つける」


「・・・・・シャイア」


ファイはシャイアに手を伸ばした。シャイアはその手を握るとあの時の様にその手の甲にキスをした。


「ごめんな、シャイア」


ファイの意識はそこで途切れた。







「・・・リィ。・・・エリィ!」


「・・・・うるせぇなぁ?あと、その愛称で呼ぶな気持ち悪りぃ」


()()重い瞼を擦りながらそれでも身体を起こした。目の前にはブロンドの髪を後ろで三つ編みにした美しい自分の双子の妹が立っている。


「いいじゃないか。二人の時ぐらい。私は親父の言う事など聞く気はない」


「・・・・ベル。もう、いい加減諦めろ。俺だって今更元に戻せと言われても無理だぞ」


エリィと呼ばれた金髪の人物は鬱陶しそうに手を振った。

それにベルと呼ばれた女性は可笑しそうに笑みを見せる。


「別にエリィにそんな物、期待していない。エリィはそのままで充分魅力的だ」


率直にそんな事を言ってくる自分の妹にエリィは苦笑いした。


「どいつもこいつも見る目が無さすぎる。よく見ればわかるものを。お前も、仲間にぐらい打ち明けたらいいのに」


ベルは不満そうにエリィを睨んだ。エリィはそれには笑ってプリィティシアを見た。彼女も可笑しそうに笑っている。


「おーい!ベル!エル!いるかぁー!」


窓の外から元気のいい声がかけられた。エリィはパッと飛び起きると窓に駆け寄って外に向かって手を振った。


「うっせえ!たまには普通に入り口から訪ねて来やがれ!」


「おう!エルグレド!!今日も元気だなぁ?今から抜けて来いよ!野郎だけで遊び行こうぜ!」


そこには人の良さそうな赤い髪の青年が立っている。エリィは満面の笑みで窓から飛び降りた。


「遅くなるなよ!親父がまた騒ぐ」


「ヤバかったら誤魔化しといてくれ!」


エリィはそう言うと赤髪の青年と走って行ってしまう。

その姿を見送りながらベルと呼ばれた女性は心配そうな顔で側にいるオルファウスの頭を撫でた。


「本当に・・・・・困った奴等だな・・・」


主人の哀しげな表情にオルファウスは心配そうにすり寄った。


「エリィ。彼は駄目だよ。彼はお前に気付かない」


それは、彼等がまだ現実に存在した頃。

長い年月をかけ童話になる前の彼等の本当の物語である。


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