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第四話 部屋一つ借りるのにも大変

誤字脱字ありかも


ちょっと下品なネタが一部あります

 陰獣の巣を出た鹿威達は、夜を明かす場所へと行った。

 一時歩いたほど、その場所についた。その場所とは、出雲大社である。ついさっき神譲りがあったところだ。

 神譲りは三日前にあった。神譲りがつい最近、終わったように思えてしまう。そのせいか、出雲大社がとても静かに見えていた。

 もちろん、ここの神主さんやら巫女さんぐらいならいる。あと、ここの主神、大国主神さんならいるだろう。しかし、今は夜なので参拝者はいなかった。


(夜ってんのは本当に静かだ……)

 鹿威は、この静かな出雲大社を見てふとっ思ってしまった。

「おい、何もたもたしてんだよ!お前コイツ背負ってないくせに遅いな!」

 霪馬の背中でスゥースゥ寝ている春菊に『コイツ』っと指をさしながら鹿威を睨んでいた。

「あー何かここ静かだなって思ってしまって……つい」

「あーあー、そうかそうか。そんな下らないことはいいから早くこっち来なさーい!」

 もう、言い訳を聞くのにも面倒くさくなった霪馬は適当に鹿威を扱った。


「ところで霪馬。ここの主神、大国主神は一体どこに居るんだ?」

「寝たよ」

 鹿威の顔色が変わった。

「うん?霪馬、もう一度言ってくれないか。さっき寝たっと聞こえてしまったんだか……オレの聞き間違いだよな?」

「聞き間違いじゃねーよ」

「いやいや、ご冗談を……ハッハハハ」

「ご冗談でも何でもねーよ。“寝た”これが真実だ」

「……お、おいおい、じゃあオレ達は一体どこで夜を過ごせばいいんだよ!勝手に屋敷の中入ったら怒られるぜ?」


 人間に家があるように神様にも家があるのだった。その家とは、自分が祀われている神社である。もちろん、人の所有地には勝手に入ってはいけない。人間の家にもあるように神様の家も一緒なのだ。


「うん、大丈夫。ちゃんと許可とか取ってあるから」

「え、いつの間に……」

「お前が行方不明になった時だ。そん時は、大国主神おきていたんだ。ほら、許可書」

 許可書をピラピラと振りながら霪馬が言った。その許可書には『一部屋借りま~す』と下手くその文字で書いてあり、その文字の下には大国主神の許可が『宜しい。貸してしんぜよう』と書いてあり、その上から“大”と言う印鑑がドンと押されていた。


「随分と……上の文字が下手くそだな」

「悪かったね、下手くそで」

(つか、これ下手くそ以前の問題じゃねーよ!何この単純な許可書。こんなもん今まで見たことねーよ!大国主神もよくこんな許可書で許可したよな! )

 っと鹿威は、言いたいことを我慢して心の中で突っ込みを入れていた。 


「さぁーてと、部屋に行きますかいな」

「そういえばガキはどうすんの?コイツ一様女の子だせ。一緒の部屋でいいのか?」

「お前……俺がガキんちょに興味あるってんのか?」

「いや、そうとは言ってな」

「まっさかあ~俺はガキんちょ何か興味あるかよ。むしろムチムチの姉ちゃんだったら話は別だが」

 まるで自慢話のように語る霪馬だった。

(そこ自慢するところなの?)


「ところで鹿威はどうなんだ?ガキに興味があるのか?」

 突然話しをふってきた霪馬に鹿威は、慌てた。

「いや、オレもガキに興味はないぜ」

「だよな!これでもし興味があるって言ったら少々頭が危ないよな!」

 

ギャハハハ


 霪馬の気味が悪い笑い方にちょっと引き気味になりつつある鹿威だった。 


「なあ、霪馬。お前のその気味が悪い笑い方は、そこまでにしておいて、大国主神が許可した部屋に早く案内してくれないか?」

「ああ、そうだった。そうだった。俺としたことが真面目な話しからちょっと横にズレてしまった。済まない済まない……プッププ」

 さっきから何が可笑しいのか?霪馬は腹を抱えながら微妙に笑っていた。いや、笑いを我慢していた。

(コイツ絶対頭の中変だろう)



    *  *  *  *



「さぁ、ここが大国主神から借りた部屋だ!」

 霪馬によって紹介された部屋は、ただの小屋だった。あちこちに小さな雑草が穿いていてカビ臭い臭いが漂ってネズミが出そうなほど薄暗かった。本社と程遠かった。

(ここ、ただの汚い小屋ー!)

「見ろ!有り難く食べ物まで置いてくれているぞ!」

 その食べ物とはよく家畜が食べるような枯れ草だった。

(それ、ただの藁!)


「しかし、ここ以外と薄暗いな~、なんか蝋燭とか無いのかな?」

 ゴソゴソとそこら辺を漁りながら霪馬は呟いた。

(こんな湿気った所に一体誰が蝋燭何か置くんだよ!つか、こんな薄汚ねー廃棄小屋に必要ねーだろ)

「あ!あったー!」

(あるんかいー!)

 さっきから心の中で鹿威はツッコミ満載だった。

 しかし、口に出して突っ込みを言わないのは、一様大国主神から借りた部屋(薄汚なく今にも壊れそうな小屋)であるからだ。

 余りにもツッコミ(文句)を言っていたら大国主神が機嫌を損ねてしまい寝る所もおろか夜を明かす所さえも失ってしまうからだった。


(名の知れた神様なのに……な)

 いろいろと大国主神について思っていた鹿威に霪馬が蝋燭を持ちながら寄ってきた。そして───

「なあなあ、鹿威。お前火とか使えないの?」

「そんなもんオレが使える訳ねぇだろうがァ」

 霪馬の阿呆さにブチ切れ寸前だった鹿威であった。いや、既に一部切れていた。

「デスよね」

「最初からわかってて今の言っただろ?絶対そうだろ?」

「そうだな……オイ、鹿威少し黙れ」

 さっきのボケた顔とは全く違う真剣な顔立ちになった霪馬が言った。

「ん?どおし…ングググ」

 霪馬によって口を閉じられた鹿威だった。そして、霪馬は鹿威の耳に顔を近づけるとコソコソと言った。


「この小屋の戸に誰かいるぞ」

「な、何だと!」

(てか、今コイツ部屋じゃなく小屋って言ったよね?)

 鹿威は心の中で思いながらも視線を小屋の戸へと向けた。何もいないように見えるが微かに殺気を感じられた。

「おい、そこに居るのは分かってんだ!出て来い」

「……」

「ご返答無しってか」

「ふん、じゃあこっちから行くまでだぜ!」

「ぅおい!後先考えろよ霪馬って……待てよ!」


 バキッ


 霪馬によって戸が蹴り壊された。

「あぁー!どうしてくれる、霪馬。戸が壊れちまったじゃないか。これで一体どこで夜を明かせば良いんだよ!肌寒くては寝れないじゃねぇか」

「はいはい~」

「お前、絶対反省する気無いだろうッ」

「さて、そこの木陰に隠れている奴出て来い」

「オレの問いには無視ってかぁ!」 

 鹿威が横でギャアギャア騒いでいるが霪馬は無視していた。

「おい、いい加減出でこ──?」

 木陰から出て来たのは髪を後ろで束ね巫女服を着た綺麗な女性だった。

「脅かしてしまい申し訳ございません。わたくし、大国主神様の神使、茅と申します」

 低調に頭を下げながら挨拶されたのでちょっと驚いた鹿威達だった。


 実は言うと彼らは、今まであった神様の神使に頭を下げながら挨拶をされたことがほとんど無かったのだ。

「お、おう。ところで茅と申すもの、ここへ一体何の用に来た?」

 ちょっと戸惑いながら霪馬が茅に言った。

「はい、わたくしは大国主神様からあなた方の部屋を案内するよう言われました」

「ん?と言うことはこの廃棄小屋は違うのか?」

(コイツ、ついに廃棄小屋って言ったよ)

 鹿威は心の中で思ってしまった。

「はい、ここはただの廃棄小屋ですので、わたくしがご案内いたします」

「あ、うんわかった」

 茅が本社の方へ歩き出した。そして、鹿威達はその後に付いて行った。


「良かったじゃないか鹿威。お前本当はあそこが嫌だったんだろ?」

「まあね……てか、お前はあっちのボロ小屋がよかったんじゃないのか?」

「い、いやいや、俺あんなボロ小屋に泊まりたくねーし」

(じゃあ、今までのボケはわざとやったのか?)

 ちょっと考えた鹿威だった。

「てか、お前あんまり大声出して話すなよ。春菊が起きちまうだろが。あとオレの鼓膜も破れる」

「大丈夫!コイツ、俺の背中で爆睡しちゃってるから」

 その時鹿威は、密かに思った。

(コイツ絶対、コソコソ話が出来ない奴だな)

 しかし、コソコソ話が下手なのは、霪馬だけではない。実のところ鹿威も苦手なのだった。だか、自分が苦手とわかるのはまだ後のことだった。


「そちらのバ……お方、着きました」

(今、一瞬だけど馬鹿って言おうとしたよね?)

 そして、茅によって案内された部屋は────

「さっきと同じじゃねぇか!」

 まずの第一声が鹿威のツッコミだった。

 鹿威達が案内された部屋とは、さっきと全く変わっていない小屋だった。あちこちにカビが生えてあり、小屋全体に蔦が絡まっていた先ほどの廃棄小屋よりも酷い状態だった。


「なにを仰るのです?この部屋はさっきとは全体違いますよ。ほらこの戸の部分が……鉄で出来ていますよ多分」

 そう茅に言われて訝しげに戸を触ってみた鹿威だが────

「うん、本当だ。見た目は鉄に見えるけど触ってみたらザラザラしていてよく見るとこれ土だね。つか、ただ固めた土に墨を塗っただけだよね!」

「何を仰るのですか。土を固めた戸だって風除けになりますよ。雨が降っても屁じゃありませんから」

「いやいや、雨に当たったら土崩れるよ!」

「大丈夫です。壁が守ってくれます」

 ビシッと手を自然化に成りつつある廃棄小屋に向けた。

 壁っと言っても左右の壁には、あちこちに大きな穴が空いてあり、上も大きな穴や小さな穴が沢山空いてあった。


「えっ?壁ってどこ?オレの目から見たら左右穴だらけで、雨をしのぐはずの天井までも穴だらけに見るんだけどぉ!」

「いえ、あなた方のしぶとさだと多分、大丈夫だと思います」

「オレ達のこと何だと思ってんの!」

「馬鹿です」

「コイツついに言いやがったよ!さっきうっすら聞こえていたけど、ついにハッキリと言いやがったよ!おい、霪馬も何とか言ってくれ!ここはイヤだってぇ!」

 霪馬の方を見た鹿威はびっくりした。なぜなら、霪馬は目を見開き硬直していた。


「え、えーと、霪馬大丈夫か?」

 彼はまるで絡繰り人形のように動き── ───

「あ……うん、良いんじゃないかなぁ~、 ハッハハハ」

 力が無い言いようにだった。

「おい、霪馬大丈夫か?なんかお前フラフラしているぞ?」

 霪馬の足取りが悪いことに気づいた鹿威が心配そうに言った。

「え~?何言ってるのかうぃ~俺はフラフラなんてしてないよぉ~アハハハ」

 木に向かって話している霪馬は、よもや正常とは言い難い状態だった。


 彼は木をバシバシと叩いては小さな声で呟いていた。霪馬にとっては、鹿威の肩を叩いているつもりだが、端から見たら確実に変人(頭がいかれた人)に見えるだろう。


「ちょっとォー!オレこっちだよ。そっちは木だから。本当に大丈夫なのか?ついに頭がいかれちまったのか?」

「アハハハ~いかれる?俺の頭が?そんなまさかぁ~ってなんでやねん」

「何で今そこでツッコミしたの?意味わかんねぇーよ!こっちがなんでやねんだよ!」

「あの、すみませーん。私の存在を忘れないで下さいますか?」 

 さっきまで黙ってい茅が鹿威に話しかけた。実のところ茅は、ちょっぴり寂しん坊さんなのだ。そして、今まで茅のことを忘れていた鹿威は慌て、とっさに嘘を言ってしまった。


「うん、大丈夫。忘れていないから」

「いえ、さっきは完全に私の存在忘れていましたよね?」

「いやいや、本当忘れていないから……」

(しつこいな)

「私に嘘はつけませんよッ」

「本当、忘れていないから」

(何なんだこの神使。やけにしつこすぎるぞ)

 茅が何かを言おうとしたとき、現在変人の霪馬が急に鹿威の前に立って意味不明なことを言った。

「糞!」

 この下品な言葉に唖然とした鹿威だった。

「は?」

 そして、茅は、顔を真っ赤にして……

「なっ、なんて下品な!糞だなんて。せめて便と言いなさい!」

「怒るとこそこぉ!つか、今お前も糞って言ったよね?!」

「キャー鹿威さんまで下品なこと言わないで下さいますか!」

 シッシッと鹿威と霪馬を手で払った。


「何が『キャー』だよ!お前わざとやってんか?」

 そしてまた霪馬が鹿威に対して言った。

「糞、糞転がし。鹿威は、糞色」 

「お前、オレのどこがウンチ色だってんだよ!」

「髪」

「これ、オレが鹿だからだよ!普通の鹿って茶色ろ?普通のに合わせてんだよ。オレの本当の色は白だから。聖なる白い鹿だから。神様の乗り物の一つだから」

「「マジで!」」

 二人揃って驚いた様子だった。


「マジでって霪馬の場合はオレのこと知り尽くしているだろうがァ!」

 今度は、霪馬一人だけで、

「マジで!」

「うわぁーお前の顔クソイラつく」

「頭が幼稚な人ってどおして便じゃなく下品な糞なんて言うのかしら?」 

 茅が不思議そうに言った。

「糞は、もういいだろ。あと、糞も便も一緒だろうが」

「だよな」


「もういいだろ?お前ら一体どれだけウンチネタを引っ張っていたんだよ。てか茅さんは、さっきまで下品って言っていたのに何同感しちゃってんの?」

「だって不思議だから」

「その不思議は、何も考えなくていいから。何も気にしなくていいから 」

「でも、どうしてアレは場合によっては形が違うの?」

 またもや、茅が糞ネタを引っ張り出した。

「もういいつってんだろぉ!」

「でも、やっぱりソレは気になる」 

「もう良いだろ。つか、問題は糞じゃないだろ。今の問題はこの廃棄小屋に泊まるのかどうかの話しだろうが!」


 この言葉を聞いた茅がちょっとビックリした表情を見せた。そして───

「え?本当にこの汚い臭い今からでも崩れそうな廃棄小屋に泊まるんですか?バカじゃないですか?」

「お前、サラリと今酷いこと言ったね」

(あと、なんか腹が立つ!)  

「ちょっと待った!」

 急に大声をあげたのが今まで頭が壊れていた霪馬だった。しかし、さっきの彼とは違っていて、変な場所に行っていた目の焦点が今はしっかりとしていた。

 目を鹿威に向けた。


「俺はヤダね。こんな臭い汚い自然化になっている小屋よりさっきの小屋の方が良いね。まあ、戸は……誰かさんが壊したおかけで無いけど。さて、誰だったかな?」

 これに対して鹿威が即答した。

「お前だろ」

 二人のやり取りを聞いていた茅が言った。

「ああ、でも霪馬さんに鹿威さん。あそこはもう無いですよ」

「はい?」

 二人は、この茅の言葉が理解出来なかった。

「だって、先ほど私が火を付けましたから」

 爽やかな笑顔で衝撃的な言葉を言った茅だった。鹿威の横でニコニコ顔の霪馬が、固まっていた。


「お前は一体どれだけオレ達をここに泊まらしたいんだ?」

「これが私の仕事ですから」

「お前の仕事は、神様の使役または、保護だろうが」

「知ってます」

(この神使、以外に腹黒いな……)

 ふと、鹿威はちょっと疑問が頭の中に浮かんだ。

「ところで、茅さん。あの小屋に一体どうやって火を付けたんだ?お前は確かオレ達と一緒に来たはずだろ?それにここに来た時もオレ達とずっと居たしな」

「ああ、あなた達が戸を蹴破る前に点けていたんですよ。小屋の裏側に……ほら、ここから煙が見えますよ」

 茅が指差す方を見た。

「た、確かに煙りが立ち上っているね」

  

「でっ、どうするんですか?ここに泊まるんですか?それとも野宿ですか?」

 何故か目を輝かせながら鹿威に向かって言った。

「えーーと、オッホン!少々相談してくる」

 彼はちょっと困りながらまだ表情が固まっている霪馬の元へ行った。


「さてさて、どうする霪馬……オレ達はここに泊まるしかないのか」

 相談しているつもりが最後は、嘆きの声へと変わっていた。

「か……」

 霪馬が何かを言おうとしたその時、三人以外の気配がいつの間にか増えていた。

 不信に思った霪馬は辺りを見渡した。そして、いつの間にか一人増えているような気がした霪馬だった。


「な、なあ鹿威。俺達以外に何か増えていないか?」

「『増えていないか?』だって?何を阿呆なこと言っているんだ。ここにはオレ達以外いるわけないじゃないか」

「え?でも、元々三人だっただろ?そして今数えたら四人だったぞ。やっぱり誰か増えていないか?」

「だから何を阿呆なこと言っているんだ。お前、ついに頭がイカレたのか?いや元々イカレていたか」

「何勝手に納得しているの?俺の頭はイカレてないね。てか、名前を呼ばないか?そしたら誰か増えたかわかるだろ?」

「ああ、成る程ね!お前頭良いなぁ~」

「さっきイカレた頭って人を阿呆にしていたよね?」

「さあ、さっそく名前を呼んでみよう」

 霪馬のことは無視して、一人一人名前を呼んだが人数が人数なので直ぐに終わった。


「うん、終わった……ところで、君は一体誰?」

 一人違う人が混じっていることに気がついた鹿威だった。

 そして、茅はというと顔を青くし───

「椿様……どうしてこちらに」

 茅の失礼のない態度や言葉遣いに鹿威達は驚いた。そこには礼儀正しく背筋を伸ばし、綺麗な顔立ちをした椿という人が良く 通る声で言った。

「茅、何うえ他の神様に失礼な態度をとっておる?」

 っと目を細めながら言った。


「そっ、それは」

 その声と顔が怖いのか、茅はおどおどしていた。先ほどの鹿威達の態度とは一変した茅に彼らは心底驚いていた。そこに、また良く通った声で椿が言った。

「お前は、大国主神様の顔をつぶす気かいえ?」

「ちっ、違います!ただ……」

「ただ?何だ言ってみろ」

「ただ……」

 それ以外茅は、俯いて黙ってしまった。

「まあ良い。お前は新入りだからな。新入りにこのような重大な仕事を任せた私にも責任がある」

 椿が話し終えた時には、居心地が悪い雰囲気になっていた。


「馬神様に鹿神様。先ほどは、新入りの茅が大変失礼なことをしてしまい申し訳ごさいませんでした」

 丁重な言葉遣いで謝られた彼らは戸惑った。そして霪馬が口を開いた。

「いえ、あの……私共はあまりそういうのに気にしないので別に構いませんよ」

(むしろ、今の方が気まずいし)

「おお、なんと心の広い馬神様。ありがとう御座います」

 再び丁重な頭を下げた椿に次は鹿威が言った。

「いや、もういいんで。取り合えずまともな部屋に案内してくれませんか?」

「ああ、私としたことが!今直ぐに案内します」

 っと椿が言い鹿威達に向かってこちらですよと歩き始めた。椿の後に霪馬に鹿威、最後尾に茅がいた。鹿威は後ろを向いて茅に囁いた。


「お前大丈夫か?なんか顔が暗くなっているぞ」

「大丈夫です」

「そうか?まあ、さっき叱られたばかりだから仕方ないか」 

 っと余計なことを言いながら前に向き直った。そして、やっと本社の所についた。あまり時間がかからなかったが鹿威達にとっては長く感じられた。

「やっと……まともな所で泊まれる」

 霪馬が呟いた。それに対して鹿威が

「ああ、長い旅だったぜ」

 っと意味のわからないことを呟きながら本社に入った。しかし、ここまで案内した椿は大国主神に頼まれた大事な用事を思い出した、とか言い出して途中から(つぐ)というふっくらとした顔立ちの娘に案内された。勿論、茅も一緒に。


 鉗という神使に案内された場所は鹿威達が目を疑うような場所だった。そこは────

「ここ、神主の部屋じゃねえか!」

 鹿威が叫んだ。そう、鉗が案内した場所は神主が寝泊まりする部屋だった。部屋の真ん中には、神主が静かに寝ていた。 


「え?神主さん邪魔ですか」

 先ほどまで顔が暗かった茅は、イキイキとした表情に戻った。

「そんなんじゃねーよ!神主さんの部屋以外にももっと別の部屋があるだろ」

 鹿威のツッコミを聞いていないのか、鉗と茅はいそいそと神主を外に放り投げようとしていた。


「おい、待て。神主をどこにやろうとしてんだ?神主さん起きるぜ」

「大丈夫です。先程気絶させましたので」

 これに対してツッコミを入れたのが霪馬だった。

「何でぇ!つか、神主を気絶させちまって良いのか。それって大国主神様が怒るのではないか?」

「大丈夫です。大国主神様から命じられましたので。椿様だって何も言えませんよ」

「いや、そういう問題じゃないと思うぞ」

 っと霪馬がツッコんだ。そして鹿威は、今から外に放り投げられかけた神主さんに疑問をかけていた。


「神主さん何したのかね?一体何を仕出かしたら大国主神からこういう命令が下されんだ?」

「それはですね……実は言うと大国主神様の心の癒やしとなる物が神主によって捨てられたからだそうです」

「うわ、確かにそれは怒るな。で、何が捨てられたの?」

「春画です」

 茅の真面目な顔に彼らは一瞬、何を言ったのか、理解出来なかった。

「はい?」

「はぁ?」


 春画とは、昔のエロ雑誌のことである。

「大国主神様が部屋で寛いで、春画を楽しんでいらっしゃる時に突然、神主が部屋に入った来たそうです」

「神様は人に見つかってはいけないため、 大国主神様は慌ててお隠れになりましたが、余りにも突然だったために春画を隠すことを忘れていたそうです」

「そして、その春画は神主さんに見つかり───」


『何だ?この如何わしい絵は。おや?これは、あの汚れわしい春画じゃないか。全く一体誰じゃ?神の言付けを預かる身でありながら汚わらしい絵みるとはのう。全くこれは拭処分じゃな』


「っと言いながらその春画は、その日の内に神主さんの手によって灰にされたそうです」

 長ったらしい茅と鉗の話が終わると即鹿威がツッコんだ。

「いや、それそんな所で春画を見ていた大国主神が悪いよな?神主は普通に正しいことをしたまでだぜ。つか、大国主神の心の癒やしって春画だのかよ」

「はい、どうやらそのようです」

「いや、そこは一様否定しようぜ」

「っと言うことでこの神主さんは今ここで捨てます」

 鉗が神主を外に捨てようとする。


「だから、何でそうなるの!」

 霪馬が必死に茅と鉗を止めていた。

 そこに大きな足音が近づいてきた。その足音は何故か怒りが感じられた。

   

「お、おい。この足音ってまさか───」

 鹿威が言い終わる前にスパンッっと襖が開かれた。

 開かれた襖の前にいるのは眉間に皺をよせ、まるで鬼の様な顔立ちになっていた椿だった。

 そして、そこに雷が落ちたような怒鳴り声が聞こえた。

「鉗に茅!あなた達は、一体何をやっているの!ここは、神主さんの部屋ではないか? 何時まで馬神様と鹿神様にご迷惑をかけていらっしゃるの?そして神主さんに何ってことしているの!」

 一気にここまで言うと、スウーと深呼吸をしてまた口を開いた。余りの声の大きさに鹿威達は耳をふさいだ。


「大国主神様から事情を伺いました。大体の事はわかっています」

 この言葉に一体何の希望を見つけたのか茅が目を輝かせながら言った。

「だったら───」

「お黙り!」

「は、はいぃ~」

「良いですか?あなた達は本来、この方達を部屋に案内をするべきなのです。なのにあなた達といったら何ここで油を売っているの」

「えーと、大国主神様から頼まれました」

「知っています。先程、大国主神様(うっかり椿に話した)から話しをききました。なのでお説教をいたしました」

「へ?」

 茅は驚いた表情をした。


「しかし!いくら大国主神様の命令だからといてこの様なことは、絶対ダメです!わかりましたか?」

 椿のお説教は、ここまでは足らず、ネチネチと夜が明けるまで聞かされたのであった。


 その巻き添えを食らった霪馬や鹿威までもがそのお説教を聞くはめとなった。全然全くもって疲れがとれなかった鹿威達は、逆に疲れが増えた思いがした。


「なあ、霪馬……この世にオレ達の疲れを癒やしてくれる場所は……ないのかな?」

「ああ、同感だ」

 朝日に照らされていた二人は、力尽きたように真っ白になっていたのであった。霪馬の横では春菊が気持ち良さそうに寝ていた。


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