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第五話 無事届けました

 途中から自分で何書いているかわからなくなった。 

 出雲大社を出た鹿威達は、七日かけて目的地に行った。

 本来ならば彼らにとっては出雲から一瞬に着くはずの江戸だが、春菊がいるのでそうは行かなかった。


 春菊は、一様ある神様の生まれ代わりだが、まだ力が目覚めていない春菊にとって神様だけの通り道はきついのだ。そのため鹿威達は時間をかけてゆっくりと目的地に行った。


 しかし、目的地についてある問題が起きた。それは、春菊を預ける家が江戸の何処にあるのか天照大神から聞きそびれたのを鹿威が思い出したからであった。


「たくっ、本当にお前はつくづく使えない奴だよ。今頃そんな重大な事を忘れているなんて。全く持って阿呆な奴だ」

「はいはい」

「はいはいってお前……ちょっとの手がかりぐらい思い出せないのかよ」

 呆れ顔で霪馬が言った。

「うーん、今のところな」

「よし。今からでも高天原に行って天照大神さんからきいてこい。即きいてこい」

「いや、面倒だから今一生懸命思い出してんだぜ」

「なら、あと数分で思い出せ」

「お前、本当に五月蝿いから少しは黙っててくれないか?」

 霪馬は何も言わなかったが、次は彼の眼差しが痛かった。随分と時間が経過した時、鹿威が思い出したっと言った。


「わかったぞ!やっと思い出した!」

「うん。それで、一体どんな情報を思い出したんだ?」

「えーと、夫妻の苗字かな?」 

「お、お前。苗字だけじゃ分かんないだうが!一体この江戸に同名が何百人いると思っている!」

「さあ……まてよ。もう一つ思い出しぜ。確かそいつら薬を扱っている仕事をしているぜ。多分」

「多分かよ。もっと自信がある情報は思い出せないのか?」

「駄目だ。オレの“頭の良さ”ではこれくらいしか思い出せなかった」

 鹿威が頭を抱えた。

「お前の“頭の悪さ”がな。あと、もっと記憶力上げろ」


「仕方ない。薬と苗字を手がかりに、人に聞くしかないな」

 鹿威がのん気なことを言った時、霪馬が叫んだ。

「面倒だ!」

「はあ?」

「別にそんなことしなくても薬を扱っているところは大体、薬屋か医者しかいないだろ。そこを絞って行けば、いち早く辿り着けるはずだ。お前はそんなことも気づかなかったのか?」

「べ、べつにー気づいていたしーあえて気を使って言わなかっただけだしー」

 目をそらして鹿威は口笛を吹いた。


「言い訳に聞こえるのは俺だけだろうか?」

「ち、ちげーし。別に言い訳とじゃないぜ」  

 鹿威の相手をするのに面倒になった霪馬は、一生懸命言い訳をする鹿威をほったらかして近くに在った団子屋に立ち寄り、そこでひとまず休憩をした。

 そこに白髪混じりの女性が来た。


「すみません。えーと、お茶だけを二つ下さい」

「はいよ」

 先程の女性はお茶を入れにまた、店の中に入っていった。

「鹿威、ひとまずここで休憩しないか?」

「なっ、何!お前いつの間にそこにいったんだ?」

 鹿威はそう言いながら霪馬の横に座った。

「お前が壊れた時にこっちに来た」

「壊れたとは失礼な物の言い様だ」

「当たっているだろう」

 

 先ほどの白髪混じりの女性店員がお茶を運んで来た。

「どうぞごゆっくり」

「あ、あとお婆さん。すみませんがお茶をも う一つとだんごを……」

「お前、団子食べられたのか?」

 鹿威が驚いたとばかりに、目を見開いた。

「いや、春菊にあげるんだよ」

「へぇー、優しいな」

「俺は元から優しいから」

「でも、オレに対しては優しくないよな?」

「どうだったかな。っということでお婆さん、団子とコイツにお茶一つを追加でよろしくお願いします」

「はいはい。ちょっと待って下さいね」

 優しい笑顔を浮かべながら店の中に入っていった。


「ところで鹿威。やはり情報収集というのはこういう色んな人間が集まる団子屋とか茶屋ではじめた方が宜しいかと思うんだが……お前はどう思う?」

「確かにそうだな。お前があの婆に聞けよ」

「婆ってお前……せめてお婆ちゃんっていいなさい」

 そこに団子と茶を持ってさっきのお婆さんが来た。

「はい、どうぞ」

「ありがとう御座います」

「いえいえ、ところであなた達見かけない顔ね?旅人かしら?」

「いえ、近いですけど違います」

「あら、そうかい。で、そちらの娘さんは可愛いね~目を隠しているけどどうしてかね?」

「ちょっと、目の病をかかえているんです」

 100%嘘のこと言っている霪馬だった。


「可哀想に……それにしても、あなた達若い夫婦だね?」

 この夫婦という言葉を聞いた時、飲んでいたお茶を一緒に吹き出した霪馬達だった。

「ち、違います!夫婦じゃありませんから!俺達男同士です」

「そう云った趣味はありませんぜ」

 鹿威が霪馬の後に言葉を継ぎ足した。


「あら!ごめんなさいねぇ。アナタが綺麗な顔立ちだったものだからつい。申し訳御座いません」

「いえ、いいんです。よくあることなので」

 横で鹿威が軽く笑った。

「プッ、女顔だって自覚しろ」

「聞こえているぞ。目つきの悪い鹿」

 鹿威と睨み合っていたせいでお婆さんが立ち去ろうとした。慌てて止める霪馬。

「あの!まってください」

「はい、何かまだご注文でも?」

「いえ、ちょっと聞きたい事がありまして」

「おや、聞きたい事ってなにかね?」

 お婆さんは首を傾げた。


「その、ここに田沼っという苗字で薬を扱っている人って知っていますか?」

「なんだい。人探しかい?」

「そうなりますね」

「そうかい、それは大変だね。で田沼て苗字で薬を扱っている人だろ?」

「はい」

 霪馬は真剣に頷いた。

「うーん、田沼ていう人は知らないね。あ、でも薬を扱っているなら医者か薬屋じゃないかしら?あたしに、この前になぁ、可愛い孫が生まれましてなー。その時の医者でもいいかね?」

「……ええ、勿論です。ありがとう御座います。ところでその医者の名前は?」

新井十畝(あらいじっぽ)という町医者だよ。まあ、ここいらでは名の知れた医者だけどね意外と安くで診てくれるからね」

「へぇー、そうなんですか」

「ところで、あんたらはその田沼ていう人を探しているけど何か用事があるのかい」

 不思議そうにお婆さんが首を傾げた。霪馬達は手が汗ばんだ。

 何故なら、その田沼ていう人のところに子供を預けに行くなんて言えないからだ。


「ええ、まあ、そんな感じですかね」

「そうなのかい、でなんで──」

 店の中からお婆さんを呼ぶ声が聞こえてきた。

「あら、私としたことがまだ仕事中なのにお客さんと長い話してをしてしまったわね。すみませんね」

「いえ」

「はーい、今から行きますから!」

 お婆さんは慌てて袖から紙らしきものを出し言った。

「ここに行けば新井十畝さんがいるから。人探し頑張っての」

 そう言いながら慌てて店の中に入っていった。


「あのお婆さん。意外と親切だな」

「そうか?オレにはどの人間も同じに見えるんだが」

「まあ、とにかくこの新井十畝っという人のところに行かないとな」

 ゴソゴソと袖から金貨一枚を取り出し、近くにいた店員に渡した。だが店員は困った顔をした。

「お客さん困ります。ちゃんとした額で払って下さらないと。こんな大金を出されても……」

 押し返そうとする店員の手を霪馬も手で押し入った。


「いや、俺これしか持ってないからさ……むしろ、食い逃げよりましだよね?」

「食い逃げとこれは別ですから。ちゃんとした額で払って下さい」

「いや、だからさっき言ったじゃないか。俺これしか持っていないって」

 店員と霪馬で金貨を押したり押されたりしているとき、横からスウッと銅貨5枚が出された。店員は、金貨を霪馬に押し返し銅貨を受け取った。

「ありがとう御座います」

 店員はそれから他の客の注文を聞きに行った。


「驚いた。まさかお前がここにいるなんて」

 霪馬と鹿威がビックリとした表情でさっき銅貨を出した人を見ていた。

「たくっ、ちゃんとしなさいよね!あんたら仮にも神なんだからさ。人間界に来るときはしっかり人間のこと調べないとさっきみたいな変な恥?をかかさられるわよ」

「えらく人間みたいになっているじゃないか?流石は化け狸」

「バッカじゃないの?私はしっかり勉強してここにいるんだからね。あと、あたしのことは化け狸じゃなくて狸嶺(りね)と呼んでくれる?一様あんたらと一緒で神なんだから」


 ここで鹿威がワザとボケをしてみた。

「なんの神だっけ?」

「はぁ?あんた知らないの?あたしは狸の神様だよ。よく覚えておけ馬鹿達」

「あれ?さっき禁句が聞こえたような」

「ぜんぜん誰も言っていないわよ。面倒くさいねあんたら」

「いや、絶対言ったてぇ!」

「そんな事よりあんたら何でここにいるの?鹿威なんか人間が余り好きじゃいくせにどうして?」

「ああ、オレ達は天照大神さんからコイツをある人達に預けて欲しいと頼まれてだな」

 狸嶺(りね)が納得した表情で幼子、春菊見た。


「へぇー、あんたらこんな面倒な事、天照大神様から頼まれたんだ。ドンマイとしか言いようがないね」

 すかさず霪馬が拒否した。

「勘違いすんなよ!俺は勝手にコイツについて行っているだけだからな」

「あんたも物好きよね……で、御代ノ一族の生き残りってまさかコイツ?」

 指を春菊に指しながら狸嶺が言った。

「そうだが」

「へぇー、以外と不細工だね~あたし、御代ノ一族の最後の生き残りだから結構可愛いのかっと思ったけどこれじゃ期待はずれだわ」

「不細工とか酷いこと言うんだなお前」

「それに、期待はずれとかお前…」

 彼らはあきれ気味だった。サラリと酷いこと言いながら狸嶺は春菊をいじくっていたからだ。しかも、面白がりながら。しかし、とうの春菊は嫌がっていた。


「で、あんた達。今からどこに行くの?」

「えーと、いまから新井十畝っという人に会いに行ってそれからその人に聞き取り調査をして───」

「あーあ、わかったわかった。つまりこの子を預ける場所を忘れて今から色んな人に聞いて場所を割り出すつもりでしょ?」

 霪馬が不機嫌な顔で、

「当たり」

「そんな、面倒くさいことしてどうするの?」

 物凄く不機嫌な顔立ちになってきた霪馬だった。

「いや、これしか方法思いつかなくて」

「全く、これだからバ…アホなあんたらには付き合っていられないわ」

「だったらとっとと俺達の前から消えてくれ」

「アナタ、どうしてさっきから不機嫌なの?」



   *  *  *  *  *



「全くお前たちは、口喧嘩するぐらいなら他でやって欲しかったよ」

 町の通りを歩きながら鹿威が不機嫌な言葉を言いながら霪馬を睨んでいた。

「仕方がなっかったんだよ」

「はぁ?お前達のせいでオレが反対に店の人に怒られたんだからな。全く迷惑なことだぜ」

 実は言うとさっき霪馬と狸嶺は口喧嘩ぽい喧嘩をしたのだ。喧嘩の原因は不明。騒ぎを起こしたご本人達もわからないっと言っていたのだった。


「ところで、今どこに向かってんだ?」

「お前、狸嶺から話し聞いていなかったのか?」

「話し?」

「ほら別れ際に狸嶺が言ったんだよ」



『実はあたし、新井十畝さんのところで働いているんだ。で、十畝さんは毎日早乙女さんが営んでいる薬屋で薬を買っているんだよ。あたし、一回だけ十畝さんに薬を買ってこいって言われてその薬屋さんのとこに買いに行ったことがあるんだ。そこであんたらが探している人か分からないけど、田沼っていう人の苗字を聴いたことがあるよ』


『もしかしたら、行ってみる価値があるかも知れないね。まあ、この情報はあの場を収めてくれたお礼として受け取ってね』


「っと言っていたんだ」

「それはまた、有り難い情報だな」

「だろ。その後地図を渡された」

 ホラっと言いながら地図を霪馬に見せた。その地図は、単純に書かれているが目印となるポイントはしっかりと書かれていて、とても分かりやすい地図だった。


「あいつ、かなり分かりやすい地図書くんだな」

「お前よりな」

「それは一体どういう意味なんだ?」

 霪馬の問いを無視して鹿威が指をさしながら言った。

「ほら、着いたぞ」

 そこは大きな大店だった。沢山の人が行ったり来たりしていた。

「随分と大きな店だな」

「だな……さてと、手っ取り早く人に聞いてみるか」

 適当な暇人の店の人を探したが流石は大店、皆忙しそうに働いていた。そのせいか?挙げ句の果てには他の客から『そこ、ぼーと突っ立ていないでどいて』っといわれた。


「少し、店が落ち着いてから行くか?」

 霪馬の言葉に鹿威が賛成した。

「そうするか」

 二人が合点したあと鹿威が『人が沢山いるところはヤダと言ったので』店の裏で人が少なくなることを待った。


 しかし、一時したとき裏口の勝手口の戸が開いた。驚いてそこを見ていた鹿威だったが次第になんだみたいな顔になった。

 その戸から出てきた人は、今時珍しい短髪の少年だった。彼は、後ろに小さな男の子をおぶさっていた。

 少年は鹿威達と目があうと軽くお辞儀をしたあと、そこを行ったり来たりしていた。不思議に思った霪馬が少年に話しかけた。


「おい、そこの少年何しているんだ?」

 まさか話し掛けられるとは思っていなかったのか少年はビックリとした表情で言った。

「え、えと、弟をあやしているんです」

 弟といわれた男の子は、コックリコックリと眠たそうにしていた。


「へぇー、弟ね」

「あなた方はここで何をしているんですか?」

「俺達か?俺達はこの店にちと用があるんだが今は人が沢山でね人が少なくなるまでここで待っているんだ」

「そうなんですか」

「お前、ここの大店の息子だろう?」

 少年はまた、驚いた表情をした。

「なぜそれを」

「いや、ただ何となく言ってみただけ。まさか当たってるとは思わなかったよ」

 この霪馬の言葉は嘘だった。さっきから家の家鳴りが少年の情報を彼らにふざけて暴露しているなんて口が裂けても言えないからだ。


「あの、アナタが背負っている少女はもしかして迷子ですか?」

「いや、オレ達の異母兄弟だ」

 今度は鹿威がとっさに嘘をついた。

「そうなんですか。じゃあ、皆さんは皆母親似なんですね。全然似てませんから」

「ああ、そうだ」

「あの……失礼ですが名を教えてくれませんか?先程からあなた方とかアナタとか一体どっちに向かって言ったのか、私も頭が滅茶苦茶(めちゃくちゃ)になりますから」

「……」

「ちなみに私の名は早乙女屋の純一郎です。あなた方の名前は?」


 彼らは迷った。本名を言っていいのか否か。

「え、あ、俺は鞍馬(くらま)

 まずは霪馬が嘘の名前を名乗った。

「オレは鹿六(かむい)でこの少女は春菊」

 春菊だけ思わず本名を言ってしまった。あとでしまった!と顔に出ていた鹿威だった。


「すごく……良い名前ですね」

 苦笑いをしながら純一郎という少年が言った。

「霪馬、あれは絶対オレ達が言ったほとんどが嘘だってわかっているぜ。そんな顔しているぜ」

「仕方ない。このまま嘘を通そう。案外嘘ばっかりしておけば信じてもらえるかもよ」

「なるほどね」  

 早乙女少年が鹿威たちに言った。

「あの、良かったらあなた方の用事を聞きましょうか?ここは、閉店になるまで人集りが止まないので」

「え、そうなの?!」

「はい」


 鹿威たちは、少し考えた。このまま待っても人集りが消えないとなると、何時店の人に聞けばよいのか。

 店が閉まってしまったら明日すればよいのだが明日も今日と同じだろうと考えた鹿威達は思った。

「なあ、お前。田沼っていう人知っているか?」

 早乙女少年が不審そうな顔をした。


「田沼ですか?なぜまた……もしかして人探しですか?」

「ああ、田沼っという薬を扱っている人を探しているんだ。お前知らないか?」

「あなた方が探している田沼さんかわかりませんが父が時々、薬の元を買いに田沼っという人の店に行っています。私もここの跡取り息子なので最近父と一緒に行っていますが──そういえば、あなた方は一体どの様な用事で田沼っという人に会いたいんですか?」

「へ?」


 彼らは言葉に詰まった。まさか約十二歳ぐらいの少年にそんな事を追求されるとは思ってもいなかったからだ。そして、霪馬はある疑問がわいてきた。


「なあ、鹿威。あの早乙女純一郎っていう少年やけに質問詰めっていうか慎重に話しているっていうか何か……賢くないか?」

「確かに、年頃の少年。いや、見た目だけどあの年頃の少年は普通は悪ガキだからな。そこら辺のガキより大人びているな」


「早乙女純一郎という少年。実は俺達の正体が見えているんじゃないか?」

 鹿威が霪馬をバカにしたような目を向けた。

「ふっ、アホな。そんな事出来る奴何て限られてんだろうが。まさか、あんなガキにオレ達の正体がばれるようなか事があるか」

「知ってる。ただあいつは、そこら辺のガキとは何かひと味違う気がするんだ。それにあ の目。こちらを探っているようにしか俺には見えて仕方ないんだが」

「単なる目つき悪いだけじゃないか?」

 呆れたように話す鹿威に霪馬はしつこく自分が言いたい事を伝えた。


「要するにお前はあの早乙女純一郎という奴はただ者じゃないと感じるんだな?あと名前も偽りだとか……アホくさ」

「なっ!お前には、何も感じないのか。」

「感じるもどうも、オレはそもそも人間のガキに興味無いしな」

「お前っという奴は……少しは人間を観察しろよ」

「人間に興味が無いし嫌いだし仕方がないのだ」

「まあ、つべこべ言わず見てみろよ!」

 鹿威の体をグイと少年の方へ向けた。しかし、一秒も絶たない内に鹿威は霪馬の方に向いた。

 

「何にも感じられ無いじゃないか」

「じっくり観察してねーだろうが」

 再び顔を少年の方に向けられた。

「おい、霪馬。一体どこを観察すればいい?全く持って見るところがないのだか……おっと、あいつよくよく見るとなかなか良い顔してるじゃないか~」

「どこ見てんだよ!」

「どこってお前……顔に決まってんだろ」

「顔じゃなくもっと別のところを見ろ」

「別ってもね、男には、顔以外のほかに下しかないんだが。オレにそこをガン見しろと?」

「お前は何故そっち系に行く。てか、ガン見じゃなく気配を感じろっと俺は言ったんだ」

「ああ、気配ね。最初から言えばいいのに」

 呆れた霪馬だった。一々細かいことを言わないとコイツは理解出来ないのかとさえ思っていた。


「どうだ、感じるか?」

「うーん、確かに……殺気と言うより警戒感が感じられるような?」

「感じられるようなじゃなく感じるんだ。しかも、あの少年かなり慎重に俺達を探っているぞ」

「何故?」

「うーん」


 今まで黙っていた早乙女少年が話しかけてきた。

「すみません。あの、あなた方の正体は一体何なんですか?」

 やはりこの質問が来たと霪馬は思った。

「今まで見たことのある妖怪の中では違った気配がするんですが」

「見た?お前そいつらが見えるのか?」

「それは──言えません」

「見えるんだな。なら、今お前はコイツらが見えるか」

 端から見れば何も無い場所を指差した。しかし、そこには家鳴りやら小さな妖怪が沢山いた。


「それは言えませんが、あなた方が他とはまた各段と違った力が感じられます。あなた方は一体何者ですか?それを言って下さらないと田沼さんの居所は言えません。あの人達はこちらの大切な取引先(買い取り先)なので」

「何故俺達の正体を知りたい?」

 霪馬が質問してみた。

「興味です」

「興味ねぇ…」

 しかし、彼らにはそうには見えなかった。

少年の目つきは興味より程遠い殺気が感じられていたからだ。


「嫌だな。オレ達のことは教えられないし別にお前から田沼っという人の場所を教えてもらえなくてもいいし…」

 鹿威は少し強めに言ってんのに見た。しかし、最後の方は嘘だ。教えてもらえないと困る。

「……どうしても言えないのらばこちらが当てます」

「え、当てる?」

 二人(柱)は驚いた。

「さっきの二人の名は偽名。そうでしょう?」

 名前が偽名とバレてしまった鹿威達だが一様冷静にした。別に本名さえバレなければよいのだから。

「だから何だ??」

 鹿威は言った。

「あと、あなた方は他とは違った力なのでかなり霊力の強い妖か、あるいわ神かのどちらか」

 そう言って少年は、鹿威達の表情を伺った。しかし、正体がバレそうな危うい時、

少年の後ろの子がクシャミをした。


「すまない、匠。少し長く話しすぎたね。お前がまた体調を崩したら大変だ」

 後ろの子に向かって心配そうに話している少年の姿はまさに弟を心配している兄の姿だった。

(なるほど、あの少年が背負っている小童は匠ていう名前なんだ。へー、匠ちゃんね……変な名。もしかしてで愛称かな?)

 二人同時に思った彼らだった。


 少年がこっちを振り向いた。がその時、彼の家から少年達を呼ぶ声がした。

「坊ちゃーん。そろそろ夕餉なのでお上がり下さいな」

(夕餉?もうそんな時間帯なのか?)

 不思議に思った鹿威は辺りを見渡した。確かにいつの間にか太陽がサイナラーしそうだった。

「はい、今から入ります」

 弟に向けた心配そうな声と違ってこっちはしっかりした声だった。

 あの、声はどうやら乳母の声らしい。親しそうにしているがどこか言葉遣いが違うからだ。キッと少年が振り向いた。

「明日では無理ですか?」

「無理。今日中に済ませたいから」

「そうですか──では、教えます。しかし、ただではありません。あなた方二人の本当の名前を教えて下さい」

「知ってどうする?」

「どうもしませんよ」

 ニッコリと微笑んでいるが目が笑っていなかった。


「いいが、もし俺達に何かしよう──」

「何もしませんよ」

「そうか?」

「はい、その様な心配いりません。私は約束を守る方なので」

 霪馬は少し考えた。別に自分はいいが人間嫌いの鹿威はどうかと。

「別にいいんじゃね?人間いや人間の子供ごときでオレ達がやられるかよ」

 鹿威はアッサリと承知した。

「意外にアッサリしているな」

「さっき言っただろ?オレは人間に興味無いし」

「っと言うわけで少年。俺の名は霪馬。こっちのアホ毛は────」

「鹿威だ」

 仏頂面で鹿威が言った。


「名を教えて頂きありがとうございます」

 彼らは感心した。何故ならすごく礼儀正しくお礼を人間の子供からいわれるなんて思ってもいなかったからだ。

 ただ名を教えただけなのに少年は嬉しそうな表情になった。

(本当に興味だったんだ……?)

 っと鹿威はしみじみと思ってしまった。

「えと、田沼さんの宅はここからかなり遠いですがよろしいですか?」

 それに対して霪馬が返事した。

「別に構わんよ」

「そうですか。なら、この紙に描いてある地図にそって行くと田沼さんの家につきます」

 っと親切に袖から出した紙で、何故持っているのか知らないが墨で描いた地図を彼らに渡した。

「ありがとう」

「いえ、例え人間じゃなくても一様ここに来たお客さんですから」

 爽やかな笑顔を浮かべながら言った。鹿威は思った。

(さっきと全然違う態度だな。まさか、最初から本名言っとけばこんなに時間を使わずにすんだんじゃ)

 

「あっ、後、そちらの少女にこれを」

 また袖からゴソゴソと出してきたのは、小さな飴だった。

「本当は弟にやるモノなのですが…家にはまだ同じ物が沢山あるので、遠慮せずどうか受け取って下さい」

「うーん、それはコイツが直接受け取りたいと」

 霪馬の背で少年を伺っていた春菊が喜び早く下ろせと背でジタバタと暴れていた。

「イタ、イタタタタッ、分かったから下ろすからそんなに暴れるな!」

 ゆっくりと春菊を下ろした。

「たく、とんだ食いじの張った野郎だせ」

 肩をトントンと叩きながら霪馬は呟いた。少年は苦笑していたが春菊の目を見ると驚いた表情を浮かばした。


 彼らしまったと思った。まさか目隠しが取れているとは思っていなかったのとこの青い瞳を見て不審がる(怖がる)と思ったからだ。

「あの、目が青いのですが………」

 何故?みたいな顔を霪馬達の方に向けた。

慌てて鹿威が嘘を言った。

「そ、それはだな生まれつきの目の病気なんだ」

「そうですか。それは大変ですね」

 ん?っと彼らは思った。

(あまり深入りしない何故だ?バレると思ったのに)

 少年はニコニコしながらギッシリ飴の入った袋を幼子に渡した。

「はいどうぞ」

「えっと…ありぃがとぉう………ござぁいます」

 あまり呂律はよろしくないが、しっかりお礼を言った。しかし、春菊はお礼を言った後、素早く彼らの後ろの影に隠れた。


「ははは、もしかして人見知りなのかな?」

 爽やか笑顔を浮かべながら少年は軽く笑っていた。鹿威が春菊に向かって言った。

「人見知りとか……お前在ったのか?」

「妾だっぁてあるぅもぉん」

 頬を膨らませ、鹿威の言葉に反発したあと、飴をほおばった。

「あ、私そろそろ戻ります。この頃、肌寒いのでこのまま外にいると弟が風邪引きますので」

「そうか、それは長らく話しをして悪かった。あと、道を教えてくれてありがとう」

 霪馬が言った後、彼らは少年に対して一礼した。

 少年は微笑みながら一つ礼をした後、家に入って行った。

(そう言えばあの少年、ずっと弟を背負っていたな。肩が凝っただろうに)

 っと鹿威は思った。


「よし、鹿威。そろそろ行くぞ」

 春菊を背負いながら霪馬が言った。

「ああ、行こう。俺達が探している田沼か知らないが行って確かめる価値はあるだろう」

 そう言った後、彼らは風のごとく瞬時に消えた。ではなく早く走った。


 太陽が沈み、月が上がって来た時、彼らはようやく田沼宅についた。本来ならあまり時間がかからないはずだったのだか途中途中休憩をしたせいで田沼宅についた時は辺りが薄暗くなっていた。


「ああ、やっと着いた」

 溜め息を一つ吐きながら霪馬が言った。

「しかし、随分遠かったな?山一つこえたぞ。アイツらはわざわざこんな所まで来て薬の元を買いに来たのか……ご苦労なこった」

 鹿威が辺りを見渡しながら言った。それに対して霪馬も言った。

「確かに……ここは山に囲まれているから、薬草が沢山採れるんだろう」

「なるほどね」

「さあ、とっとと春菊と手紙を置いて帰ろう」

「え?ここであっているのか」

 霪馬がビックリした表情で言った。

「ああ、天照大神から聞いた話しを今思い出してだなここと判明したんだ」

「へぇー、良かったじゃないか。一発で見つけられて……あと、今更思い出すお前の記憶力をどうにかして欲しいもんだ」

「最後の言葉は余計だと思うんだが」

 霪馬の背中で寝ている春菊をゆっくりと田沼宅の玄関に下ろして、その上から布をかけた。


 肌寒いからただの布だけだと風邪を引くかもしれない為、布は高天原から持って来た上等な物だ。だから一枚でも充分暖かいし肌触りが良いのでグッスリ眠られる。

 その時、家から人の声がした。

「誰かいるのか?」

 彼らは『おっと、やべ!隠れなきゃ』と言いながらちょうどそこにあった木の影に隠れた。


 家から出て来た人はちょっと若い人だった。男の後ろに女がいた。この人たちがどうやら田沼夫妻らしい。

 夫が玄関で寝ている春菊を見つけ妻も慌てて春菊に寄って来た。

「おい、大丈夫か?」

 夫が春菊を揺さぶった。その時、落ちた手紙に気付いた妻が手紙を夫に渡した。夫が手紙を読み終わって妻に何かを話した。

 その時の春菊は熟睡していた。


(一体、天照大神は何を書いたんだ?)

 鹿威がそう思っているうちに田沼の夫は春菊を背負い家に入って行った。

「一件落着じゃないか鹿威」

 ニコニコ顔の霪馬が鹿威に向かって言った。

「ああ」

「どうした?」

「いや、さっきの人達えらくすんなりと春菊を受け入れたな?天照大神が何書いたか知らないが春菊の瞳をみたらあの人達どうするのかと思って」

「大丈夫だろう。その為に天照大神が手紙を書いたんじゃないのか?」

「まあね…そうだけど」

「何だ?今頃寂しいのか?」

「違うね」

「そうか、ならとっとと帰るぞ」

「はいはい」



   *  *  *  *  *  



 あれから一週間後────

 ここは早乙女が営んでいる薬屋。

「義総──義総はいるか?」

 トコトコと廊下を歩いていたのはここ薬屋を営んでいる早乙女八右衛門(はちえもん)だ。

「はい?」

 そこに12歳ぐらいの少年が襖を開けて顔を覗かせた。彼はここの長男、義総(あきふさ)だ。

「おお、義総ここにいたのか?」

「はい」

「匠次郎の調子はどうだ?」

 っと部屋の真ん中で寝込んでいる小柄な少年を覗き込んだ。

「まだ……良くないな。可哀想に匠次郎。9歳のはずのお前がまだこんなに小さいとは」

 彼は厳つい顔立ちだが子供好きで親バカな早乙女屋の旦那なのだった。

 匠次郎と呼ばれた少年は、義総の弟で2歳年が離れているが、体は小さくまだ4歳児に見える程だった。

「ところで、義総。ついに田沼さんが養子をとったそうだ」

「え?」

 義総が驚いた顔をした。

「まあ、驚くな。あそこは前々から子供が出来なかったからな……一週間程前、出会った4歳児の孤児を養子にしたそうだぞ」

「孤児──」 

「その孤児、えらく田沼のお春さんに似ているから迷わず養子にしたらしいぞ」

「そうですか…どうしてその話しを私に?」

「え?う、うーんとまあ、その孤児は女の子なんだが。ちょうど良い年の差だしお前が大きくなったら」 

「父さん、それよりまずは仕事に専念しましょう。今は忙しい時間帯なのだから」

 彼はサッと話をズラした。

「え、あ、うん。そうだな」

 えへへと笑顔を浮かべながら仕事場に戻って行った。

 義総は父のちょっとだらしないところを呆れながら弟の顔の汗を手拭いでそっと拭いたのであった。

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