第四話 小雪、依頼をする
小春は夢の中にいた。いや、夢ではない。カルが創った空間。夢想空に居た。
仰向けで目を瞑っていた小春は鼻がムズムズして目を覚ました。
「あっ」
鼻がムズムズしたのは彼女の鼻にテントウムシが居たからだ。
テントウムシは羽を広げるとどこかへ飛んで行った。小春はそのテントウムシを目で追いかけて体を起こした。
「こんにちは、小春ちゃん。良く眠れたかい?」
彼女の右隣に爽やかな笑顔を浮かべたカルがいた。
「はい………わたし、確か肩を獅子に咬まれた気が───」
小春は自分の肩を触った。痛みも傷もなかった。
「あれ?」
「肉体は傷付いても、魂(意識)には傷は付かないよ」
「そうなんですか」
「今日はまた温和しいね。どうしたの?」
「いえ……何か疲れたなーと思いまして」
「ふーん。あまり疲れを溜めると過労で倒れるよ」
「いえ。過労までは流石に……」
「何か悩み事があるなら何時でも私が聞くからね?小春」
「はい。ありがとうございます。……あの、その、悩み事ではないんですが聞きたいことがありまして」
「どんなこと?」
顔を俯いている小春の顔をカルは覗き込んだ。
「とある巫女の話何ですが、空間を開ける巫女って今までにいますか?」
小春は目をカルと合わせ、彼に真剣に聞いた。カルは一度、考える風に眉をひそめた。
「ふーん。空間を無理やり開ける巫女ね………巫女ではないけど、異空間を開ける者はいたかな」
「それは一体何者──────」
小春の言葉を遮ってカルは云った。
「跏琉嘛だよカルマ。彼はその力で高天原に沢山の陰獣を侵入させたんだよ」
この出来事を鹿威や霪馬から詳しく聞いていた小春は、一瞬、嫌な想像をしてしまった。
「そうですか………わたし、そのカルマと巫女はどこかで繋がりがあるのではないかと思っています。そのカルマの力を一部借りているとかですね」
小春の考えにカルは頷いて同意した。
「確かに………そうでないと、普通の人間は使うことが出来ないね。恐らく、カルマ一派の者がその巫女を利用しているか、あるいはその巫女がカルマ一派か……だね」
「わたしは巫女を利用していると思います。今までの彼らの行いを見れば、そうとしか思いません」
「そうだね」
小春とカルの間に沈黙がおりた。
「わたし……そろそろ帰ります」
小春は立ち上がった。
「あれ?何で?早いな~」
「わたし、鹿威さんが心配で……」
「そうだね。仲間は大切だからね。じゃあね、小春。また来てね」
「はい」
カルは手を振った。小春は軽くお辞儀をして消えた。小春が消えた場所をずっと見ていたカルは小さくボソッと呟いた。
「アイツなら大丈夫だよ、小春」
目を覚ました小春は、自分が布団の上に寝かされていることに気が付いた。
「小春さん。目を覚ましました?」
そう言って小春の顔を覗き込んだのは匠次郎だった。
「あれ?匠次郎さん?何で……ここに?帰ったんじゃ」
小春は体を起こし、障子の隙間から見える外を見た。夕方だった。
「貴方が心配でここに居るのです」
「わたし?わたしは大丈夫です」
小春は何でそんなことを聞くのかと不思議に思いながら首を傾げて目をぱちくりとした。
「大丈夫?あんなに傷が深く、血が沢山出ていたのにですか?」
「前の怪我より軽い方ですから。多分、明日には治っていると思いますよ?」
「そんな問題じゃ───」
「それにわたしはこんな傷ぐらいで死にはしません。だから大丈夫です」
「そんな問題じゃない!」
急に声を荒げた彼に小春は体をビクッとさせて驚いた。彼は顔を上げて小春を見た。その目には哀しみが宿っていた。
「そんな、死なないとか傷が早く治るから大丈夫とかそんな問題じゃないんです。小春さん、貴方は女性です。傷痕が残ったらどうするんです?嫁の貰い手が居なくなったら……」
「わたしはどこにも嫁ぎません。もし、この戦いに生き残ったとしてもわたしは普通の人に戻れない。そして生き残る可能性も極めて低い。今のわたしは神擬としての使命(定め)をまっとうするのみです」
「それでもお体を大切にして下さい。カルマを倒す前に先ずは自分を大切にし、健康であることです」
「何時から匠次郎さんはお母さんになったんですか?」
「………私は一人の人間として、仲間として貴方を心配しているだけです」
彼は脇に置いておいた飲み物を小春の前に差し出した。小春はそれを受け取った。
「そうだ。鹿威さんは帰って来ましたか?」
「鹿威さんですか?」
彼は顔を傾げた。
「彼はまだ帰ってきていませんよ?」
「それだったら探さないと」
小春は立ち上がろうとした。しかし、それを匠次郎が止める。
「駄目ですよ、小春さん。まだ傷がいえていません」
「それでも鹿威さんを────」
「う゛ぁー!!寒いっ」
っと叫びながら障子をバンっと開けて入って来たのは鹿威だった。
「あれ?お前ら何、絡みあっていんの?」
小春は立ち上がろうとして横にいる邪魔な匠次郎をどかそうとする格好で、匠次郎はその小春を止める為、とにかくお布団に寝かせようとさせる格好であった。
彼らは素早くお互いの体を引き剥がした。
「え、ええ。絡みあってはいません」
照れていたのは匠次郎だけで、小春は真顔であった。
「鹿威さんっ、無事だったんですね?心配しましたよ。一体どこにとばされたんですか?」
鹿威は真っ青な顔で鼻水を垂らし、全身震えながら応えた。
「ちょ、ちょっと………ズー。北の蝦夷まで……」
「ええっ!?」
「ガチでさみーよ!凍えるっ!寒い!つか、北、すんごい雪降ってた!吹雪!すんごい雪積もってた!埋もれる!」
すでに会話として成り立っていないのだが、小春は自分の布団を指差した。
「だったらわたしと一緒にこの布団に入って暖をとりましょう!二人の体温なら直ぐに暖まる可能性大ですっ」
小春のこの提案に真っ先に反応し、驚いたのは匠次郎だった。
「えぇっ!?小春さん、それはちょっと……いけないんじゃ。っというか自分的に許すことの出来ない提案です。止めて下さい」
最初は小春が何を言ったのか理解出来なかった鹿威は匠次郎の慌てようを見てニヤリと不適な笑いをした。
(なるほど……そういやぁコイツ、小春のことが好きだったな。おもしろい。いじくってやらぁ)
「じゃあ、遠慮なく小春と一緒にお布団の中に入っちまうか」
っと障子を閉めて、トコトコと小春の前に来る鹿威に匠次郎が慌てて止めに来るときだった。
ドカドカと縁側を走る音がし、鹿威が閉めた障子をバンッと開けて入って来た人物がいた。
その人物は真っ直ぐ、鹿威の後ろを跳び蹴りした。
「っどわぁっ!」
鹿威はその勢いで前に飛、小春を通り過ぎて襖共々一緒に倒れた。
「いってぇなっ!何しやがんだよ!霪馬ッ」
鹿威は頭をさすりながら後ろを振り向いた。霪馬は両手を叩きながらフンっと鹿威を上から目線で睨み付けた。
「何って……ただ、今からドスケベなことを考えて小春の布団に侵入しようとしているクソ野郎の頭を蹴っただけだが?」
「だけって、普通の人間だったら死んでたよ!?頭蹴ったって普通の人間は既にノックダウンだからね!それに、侵入じゃなくて小春からの許可が下りてるわい!」
「あー、ウルサい。会議帰りで疲れているのに大きな声出すな」
「会議?霪馬さんは一体何の会議に行っていたんですか?」
ここで小春が頭を傾げながら口を挟んだ。
「もう直ぐ年末年始だろ?その来年の干支と今年の全体の反省会と今年の干支年だったヤツの評価と反省。また年神に挨拶しに行ったり、色々と準備があるもんなんだよ。暇神の鹿威と違ってね」
「ひ、暇神なんかじゃねーし」
鹿威は口を尖らせた。
「へぇー、まだ霜月下旬なのに忙しいんですね?」
「それはまた興味深い話ですね」
「でも、まあ……あれだな」
「「あれ?」」
小春と匠次郎が揃って首を傾げた。
「ほとんどがねどんちゃん宴会騒ぎだから会議どころじゃないし、結構マジで疲れる」
「大変ですね」
「……それより、貴方方は神擬の補佐なんですよね?」
匠次郎はフッと思いついたように、こう切り出した。
「霪馬はとにかく、鹿威は神擬の小春さんの近くにいながら、何故小春さんは傷付き、鹿威は無傷なのでしょうかね?その訳を説明してくれませんかね?」
無表情で鹿威の前に立ちはだかったいる匠次郎に鹿威は冷や汗をかいた。
「いや、オレ、別に小春の傍を離れていたんじゃないよ!?ただ、オレ達を襲って来たのが人間の女だったから、つい油断しただけなんだぜ!」
「油断?どうせヤらしい事でも考えていたんでしょ。貴方のことだ。絶対に女の胸やら尻に視線が行っていたんじゃないですか?このすっとこどっこい!」
匠次郎は鹿威の額を力強くビンタをした。その衝動で鹿威は後ろにひっくり返った。
「イッタァ!何すんだよ!オレ一様神何だからな!普通、神様のオレに暴力するかよ!?」
鹿威は涙目になりながら額をさすった。
「許す。鹿威への暴力はこの俺が許可しよう」
「えぇ!何で!?」
「っとまあ、何かおもしろそうだからな。俺も混じろう」
霪馬は立ち上がり、鹿威を蹴った。
「えぇ!ちょっ、まっ」
匠次郎も霪馬を見習い、遠慮ながらに蹴った。その光景は昔話の浦島太郎に出てくる亀の初登場の場合だった。いわゆる子供が亀を虐めている場面だ。
そんな場合には浦島太郎のように必ず救世主が現れる。この場合、救世主は小春だった。
「まあまあ、皆さん。許してあげましょうよ?鹿威さんだって失敗ぐらいするんですよ?」
小春は困った表情をしていた。
「さっ、さっすが~小春。わかっているね~」
「小春さん……貴方は優しいすぎる」
困った表情で首を振る匠次郎。霪馬はゲンナリした顔で小春を見た。
「小春。駄目だな。こんなヤツは甘やかしちゃいかんぞ?コイツの場合は“ムチと鞭”で良いんだよ」
「はぁ、ムチと鞭ですか?」
「えぇ!ちょっ、何それ?ムチと鞭って結局暴力になってんじゃねーかよ!普通はアメと鞭だろーがァァ」
「それより霪馬さん」
小春は鹿威を無視して霪馬に顔を
向けた。
「ん?何だ?」
「霪馬さんは何故、鹿威さんが変なことをするとわかったのですか?」
「ああ、さっき俺がタイミング良く登場したことか?」
「はい」
「あれは小雪さんが教えてくれたんだよ」
霪馬は横の襖を見た。
「なっ?小雪さん、そこで隠れて見てないでいい加減出てきなよ」
皆は一斉に霪馬が向いている方を見た。するとその襖から小雪が涙目で顔を俯き、恐る恐る襖を開けた。
彼女は小春と目をあわせると、両手を畳に置き、額を畳にこすりつけるように謝った。
「申し訳ございません!私のせいで……私のせいで小春さんが怪我をなさるなんて……私は────」
小雪の言葉を遮るように小春が慌てた様子で言った。
「小雪さん、武士の娘がそう簡単に町民に頭をさげてはいけませんよ?それに、わたしが怪我をしたのは小雪さんのせいではありません!そう……」
ヘラヘラ笑っていた顔が急に真顔になった。
「そう、全ては鹿威さんのせいなのです」
「結局お前もオレのせいにしてんじゃねーかよォ!」
「冗談ですよ」
「で、小春は誰にやられたんだ?」
霪馬は腕を組んで小春に聞いた。小春は記憶をたどるように首を傾げた。そして、小春が応える前に鹿威が言った。
「巫女だ」
「巫女?お前は神に仕える巫女に遅れをとったのか?鹿威。ダッセェなお前は」
「うるせぇ。その巫女に無理やり空間を開かされて、遠くの北国まで飛ばされたんだよ」
「ほう。無理やり空間を開いたのか?その巫女、かなりやるな」
「でも、まあ……オレがその巫女のことを語るのはそこまでだぜ」
鹿威が溜め息をついた。それにならって霪馬も深い溜め息をついた。
「それで小春はどうなんだ?」
「はい?わたしですか?」
小春は自分を指差した。
「お前以外に誰がいるんだよ。で、例の巫女にその傷を負わされたんだろ?」
「んー、正確には獣ですけど」
「「獣!?」」
皆が一斉に言って小春の顔をまじまじと見た。小春は気まずいながらも頷いた。
「その巫女ですね、自分の血で獣を呼び出したんです。口寄せ───とか何とか言っていました。わたしはその獣に咬まれたんですが」
「口寄せ……か」
匠次郎が考えるように顎をさすった。何か思い当たるふしがあるのか、一人言を言い始めた。
「でも何でその獣に咬まれたんだ?マヌケな鹿威じゃあるまいし。最近お前は素早い陰獣ですら倒せるようになったのにさ」
「悪かったな、マヌケなオレで」
鹿威が霪馬を横目でじろりと睨んだ。霪馬はそんな彼を無視した。
「ああ、それは……あの妖刀に陰獣の穢れた血が塗ってあったそうです。本人がそう言いました。その妖刀で掠り、わたしは少しずつ体が痺れて動きが鈍くなり、そこを獣に襲われたのです」
「インチキだな。その巫女」
鹿威が顔をしかめた。彼はその巫女に一歩遅れをとった為、不機嫌なのだ。
「あっ!」
一同が静まり返った時、大きな声が聞こえた。声を出したのは小春の脇に座っている匠次郎だった。
彼は何か思い出したかのように手を叩いた。
「その巫女、知っているかもしれません」
「えっ?知っているって……口寄せやら何やら使った巫女さんのことですか?」
「はい」
「ほほう。で、その巫女さんは何者なんだ?オレを遠くへ飛ばした巫女さんは?」
鹿威は顎をさすりながら、目を細めて匠次郎を見た。
「彼女の名は清水清で神社の宮司の娘です。本人からの話しでは、四年前にその神社は陰獣の襲撃によって潰れたそうです。その時に彼女は父と四つ違いの弟を亡くしておられます」
「……」
匠次郎の詳しい話しに皆は黙った。何故そこまで知っているという言葉が皆の頭に浮かんだ。これを代表して言ったのは鹿威だった。
「お、お前……何でそんなにあの女のことに詳しいんだ?」
この問いに匠次郎は人差し指を立てて笑顔で答えた。
「それはですね、年に一度あるぐらいの退治屋の集まり会みたいなものがありましてですね、そこで私達は自分が得た情報を共有するのです」
「ほおー」
「ちょうど三十日前にその集まりがあり、見慣れない人が居たもんですから話しかけたら、自分の過去を少し話してくれました」
彼はそこで一つ息をつき、口を開いた。
「そこで私は、『自分は過去の出来事のせいで、人ならぬモノを極度に怨み、嫌うようになった』と聴きました」
「なるほど。父と弟を殺されたなら、それは仕方ないな」
「ですね。しかし、いや~まさか、その巫女が小春さんを傷付けるとは思いもしませんでしたよ。これは、武力で解決───」
「しようか」
鹿威がその言葉のあとを言ったが、匠次郎は困った表情で頭を左右に振った。
「武力よりも話し合いで解決いたしましょう」
鹿威と霪馬だけ解せないと、言いたげに口を開きかけた。しかし、小春がその提案に直ぐに賛成した。
「そうですね。巫女さんは別に悪くないですからね。悪いのは昼間っから他人の家に勝手に入ったわたし達です」
「そ、そんな簡単に許して良いのか?お前、殺されそうになったんだぜ?」
鹿威が慌てて小春に言った。
「あの時より怪我は軽いですから。それに、あの眼鏡をかけた奴とキセル野郎より、行っている行為は遥かに善人」
「いや……確かにあのナルシストとキセル野郎よりはマシだけども、そんなに簡単に……」
「良いんじゃねか?鹿威。小春が許すと言っているんだ。その巫女に天罰を与える必要はないと思うぞ。その巫女は随分前に辛い思いしてんだかさ」
「えー、お前もかよ」
鹿威が顔をしかめた。霪馬は肩をすくませて言った。
「確かに、神に仕える人が神を殺そうとしたのはいけないがな。まあ、それを決めるのも小春しだいってことさ」
「わたしは特に何もしません。しかし、もしまた、あの巫女さんに出会ったならば、話しをしてみたいと思っています」
小春の言葉を聞いた鹿威は耳をほじり、口を開いた。
「んなこと言って、どうせまた巫女に殺られそうになるだけだよ。大体さぁ、あの女、無理やり空間を開いたんだぜ。今のお前じゃぁ、無理無理。世の中がひっくり返るぐらい無理」
小春は頬を膨らませた。
「そんなに無理無理言わないでください。もしかしたら、わたしの話しを聞いてくれるかもしれませんよ」
「話し合いの前に、お前は既にデッドになってんよ」
「えぇ、流石にそこまでは……」
「ご安心を。闘いになったら私が援助します」
匠次郎が自分の胸を叩いた。小春は苦笑いをしただけで、了解はしなかった。
鹿威の隣にいた霪馬が何か思い出したように顔を匠次郎に向けた。
「匠さん。空間を無理やり開いた巫女の実力はどの位なのか、知っているか?」
「実力ですか……そうですね……」
匠次郎は顎に手を当て、考えた。
「ここ、霜月に入ってから、彼女の実力が凄いと退治屋の中では噂がなっていますね。何でも、口寄せの力があるどころか、空間を開く力まであるとか………先ほど小春さんから聴いた話しと同じですが」
「それで?」
「空間を開く力は、普通の人間では成し得ないことなのですが、彼女は平気でやっていますから、それなりの力はあると思います。私の兄より遥かに上だと」
「お前ぇの兄貴の実力なんかわかんねぇよ」
鹿威が文句を言った。匠次郎は解りやすいように説明した。
「つまり、兄の方は七頭の陰獣に囲まれても難なく倒せていたので、その巫女は倍近い陰獣に囲まれても難なく倒せることです」
「へぇー。小春は何頭倒せる?」
「えっと、今のところ十頭でやっとですけど、鹿威さんは?」
「オレ、一々数えていねーから、わかんねぇや」
「俺も数えてないな」
「霪馬さんと鹿威さんのは参考にもなりませんね。匠次郎さんはどうなのですか?」
小春が匠次郎に顔を向けた。匠次郎は苦笑いをした。
「私は五頭の陰獣を相手にするのがやっとです」
「では、この中で巫女さんに適う相手は霪馬さんと鹿威さんだけと言うことですね。うーん、わたしも頑張ればいけると思うな」
「まあ、鹿威はその巫女に一歩遅れをとったけどな」
「うるせぇ」
鹿威が霪馬を睨んだ。霪馬は目を逸らして口笛を吹いた。
「ああ、あとですね、一つ言い忘れていましたが、彼女は人ならぬモノには容赦が無いですよ。問題事を素早く解決し、必ず依頼者の願い事を叶えるそうです。それが、依頼者の間で評判になったというか」
「なんか……わたし達みたいですね」
「もしや父上と母上が私を捜す為にその巫女を雇ったのでしょうか?」
今まで黙って彼らの話しを聞いていた小雪は俯き加減で声を震わせながら呟いた。霪馬はそれに静かに同意した。
「そうかもな」
「私、帰った方が宜しいのでしょうか?」
「何故?小雪さんは一度旅に出るのが夢何だろ?何故帰らなければならない?」
霪馬が理解出来ないと言う顔で小春の顔を覗き込んだ。
「元々、叶うわけが無い夢なのです。私は武士の娘。家の式たりに従うのが道理」
「あんたの家の式たり何か知らねーが、そう簡単に諦めて良いのか?」
鹿威が口をはさんだ。彼は顎をしゃくって上から目線で小雪を見下ろした。
「お前、一度でも良いから旅に出たいっつたよな?」
「はい」
「だったらあんたの願い、このオレ達が叶えてやる。元々それが厠の神から頼まれたオレ達の依頼だからな」
小雪が顔を上げ、大きく目を見開いた。
「本当で御座いますか?」
「ああ、そうだぜ」
「ありがとうございます。神鹿様」
小雪が鹿威に向かって礼をした。
「でもまあ、その依頼を引き受けるかどうかは小春しだいだがな」
皆の視線が小春に注がれる。小春は頷き、小雪の目を見据えた。
「そなたの願い、聴き届けた」




