第3話 交通安全を護らねば!前編(リン視点)
「スピード違反で逮捕します!」
「はいこちら"スピード違反で逮捕します"ですよ~」
冬限定メニューの"スピード違反で逮捕します"はチョコを贅沢に溶かしアイスクリームを乗せた身体温まる甘いコーヒーよ。
チョコとアイスの関係上冷める前提で暑いコーヒーを提供、いきなり口にするとやけどする危険性からこのネーミングにしたわ。
アイスに刺さったアメリカのストップ標識に似せた板チョコはランちゃんの力作よ。
「へへッマフラー暖かいなの、リンも掛けるなのー」
ランちゃんが背伸びして私の首にかけようとするも届かない。
何をしても動作が可愛いランちゃんに、私は腰を低くして背を合わせた。
「ありがとランちゃん、一緒にマフラーすると幸せを分ち合ってる感じで良いわね~」
計画通りね。
(サンタさんからの)クリスマスプレゼントを長いマフラーにすることで、ランちゃんと一緒に暖まるもふもふ作戦よ!
ランちゃんも作りすぎた標識チョコをボリボリ食べながら満足そうにもふもふしているわ。
そんな私達に向かう一人の少女。
「ん、なんか子供が走ってくるなの」
「本当だわ、お嬢ちゃん走ったら危ないわよ~」
と言ってるそばでお嬢ちゃんは足を挫いておでこを強打しちゃったわ!
二人であわあわしてたらお嬢ちゃんは泣きもせずに再び走ってくる。
とても強い子ね。
赤くなったおでこを向けながら必死に私達に告げる。
「お姉さん助けてください、私のお財布が盗まれちゃったんです! ポーチに入ってたのを窃盗犯さんが奪って車で逃走したんです!」
「な、なんだって~なの!」
ここは少し小さめの公園。
私達は許可を得て駐車して営業してるけど、見慣れない車も公園に止まっていたから気にしていたの。
ナンバープレートまでは覚えていないけど車の判別は出来るわ。
「お嬢ちゃん、後は私達に任せてね」
「ありがとうですお姉さん!」
横にいるランちゃんが目をぱちくりして言う。
「え? 任せてねって追いかけるなの?」
「もちろんよ! さあランちゃん、カーチェイスの始まりよ!」
「競走しちゃダメなの! 交通安全を護らねばならないなのー!」
営業看板やらなんやらを全てキッチンカーに詰め込み、後は車を追いかけるのみよ!
「ねえリン、そういえば警察に──」
「さあ出発ー!!!」
「うるさいなの」
手を振るお嬢ちゃんにウインクとグットポーズを決めながら、ハンドルを握りしめ公園を後にするわ。
確かこっちの道に行ったのよね。
時間はそこまで経っていないし、赤信号に引っ掛からずに行けば追いつくはずよ!
「あ、赤信号なの」
「……これくらい及第点よ」
「あ、また赤信号なの」
「……泥棒ちゃんも同じ様に赤信号のはずよ」
「あ、カモが子供を連れて横断してるなの」
「並んでる子供カモちゃんが全員ランちゃんに見えて来たわ」
「気をしっかり持つなの!」
大丈夫、赤信号に連続で引っかかっても追いつく可能性は十分あるはずよ。
はあ、カモちゃん可愛いなあ。なでなでしたいなあ。
「……とりあえずカモちゃんは警察に連絡しないと」
「警察に連絡なのー……あ警察なの! 泥棒も警察に通報なのー!」
いけない、カーチェイス魂ですっかり忘れていたわ。
あのお嬢ちゃんも警察にまだ通報していないはずよ。
私はランちゃんにスマホをポイッと渡す。
「ええ!? 私が電話するなの?」
「運転中は電話出来ないでしょ? お願いランちゃん」
ウインクする私に、ランちゃんは困った表情を見せながら、
「……警察と電話は初めてだから頑張るなの」
あら、カモちゃんが行ってからスイスイ進むわね。
工事中で封鎖されてる道路が多くてくねくね曲がっちゃったけど、泥棒ちゃんも同じようにくねってるはずよ。
「はい、はいなの、リンリン、泥棒の犯行現場の公園ってなんの名前なの?」
「公園の名前? 市民公園よ」
「そうじゃなくてなんとか公園って書いてたはずなの」
「……あれって市民公園って名前の公園じゃなかったのね」
「こんなところで天然おバカさんを発動させるなの! じゃあ今追いかけてるこの場所はどこなの?」
「ランちゃん緊急事態よ、私知らない道をくねくねして迷っちゃったわ!」
「な、なんだって~なの!」
謝りながら電話を切るランちゃん。
ここが何処だか分からなくなっちゃったし、とりあえず来た道を戻りましょうか。
……って、ん?
あそこに見える公園は……
「ランちゃん公園に着いたわ! くねくねしてたら一周して戻って来たんだわ!」
「あ、あのパトカー! 泥棒がお縄にかかってるなの、警察が公園に来てたなの!」
これでひとまず安心ね。
あとはカモちゃんを報告するだけよ!
定位置にキッチンカーを駐車した後、適当に詰め込んでいた諸々を投げるようにして設置。
最後に看板だけやたら滅多に綺麗に置けば完成よ。
「うぐーリン待つなの、マフラーが絡まってるなの」
「そういえばずっと巻きっぱなしだったわね……よし、これでまた巻き直せばリンランマフラーの完成ね」
マフラーを私に装着している時、一人警察官が歩いて来た。
「あなた達が小学生の子が言っていた料理のお姉さん方ですね、ご協力ありがとうございました! 別件で調査していたところに偶然通りかかって……」
スレンダーでキッパリとした女性警察官。
でも、公園に着いた時に見えた、小学生ちゃんとお菓子を食べながら雑談していた姿にはなんだかほっこりしちゃたな。
「お姉さんポリスは何食ってたなの?」
ランちゃんはお菓子に興味津々みたいね。
「ああ、あなたもカルパス食べます? わたしの好物なんですよ」
「ありがとなの、あ! 私も美味しいチョコあげるなの!」
ランちゃんがはしゃいでキッチンカーに消えていったわ。
カモが道路を歩いていたことを伝えると、ほんの御礼ですけど……と言いながらポリスちゃんからカルパスを二本貰ったわ。
マフラーもおやつも皆で分け合ってハッピーね!
……あ、ランちゃんが走っていった時マフラーはもう解けちゃってるか。
「……娘さん可愛いですね」
「娘じゃないわ、私の親友の高校生ランちゃんよ」
「ええ!? ここッ高校生!? え、あなたも高校生……!?」
私がコクコクと頷くと、ポリスちゃんは落ち込みながら自分の胸をスリスリし始めたわ。
カルパスの食べ過ぎで胸焼けでもしたのかしら。
まあ高校生と言っても中退して仕事もしてるピチピチ十七歳だから、大人ですと誇って言っても良かったかな~。
戻って来たランちゃんが、抱えた缶ケースの蓋を開ける。
「見て見てポリス、標識チョコなの」
「へ~あなた達が作ったんですか? ……凄い完成度……トラフィックサインチョコシリーズで販売しても面白そうじゃないですか?」
「な、トラ……さんなの? ……あ、向こうからポーチの女の子が走ってくるわ!」
そんな私達はチョコとカルパスをポリポリしながらお喋り中。
「お姉さーん、お礼を受け取ってくださーい!」
公園の先の歩道を走るお嬢ちゃん、笑顔で何か箱を運んでいるわ。
「お嬢ちゃん~! 走っちゃ……」
真っ直ぐな目で私達を見つめて走るお嬢ちゃん。
お嬢ちゃんの視界を遮るブロック塀の先に、道路の工事を終えた標識車が規則を超えたスピードで迫っている。
居眠り運転!
───私は気づいた時には走っていた。
叫び声に反応したお嬢ちゃんは走る速度を緩めるも、足を挫いて本日二度目のおでこクラッシャーを決める。
それも運悪く転んだその場所は標識車が通る進路。
それと同時、走るリンを追うランの瞳になびく赤いマフラーが映る。
───走って行かないでなの
───赤いマフラーをもう一度二人で巻こうなの
───護る、リンを絶対護るって誓ったなの!
「止まるなのおおお!!!」
私はお嬢ちゃんを歩道側に飛ばす。
ポリスちゃんのホイッスルの音、何かの金属音、そしてブレーキが鳴り響く。
ごめんねランちゃん、けど私、お嬢ちゃんを護れたから許してくれるよね───




