第40話 ワラビ、ミミックに食べられる!?
ミミックはボクたちを脅かすだけで、また定位置に戻っていった。
「くっそ。見えている地雷なのに、飛び込んじまった」
レアアイテムのある宝箱を、無警戒で開け続けた結果、バイアスがかかってしまったのだろう。
慎重なはずのセンディさんが、ミミックに食べられそうに。
「仕方ないわよ。カギが見当たらないんですもの」
ボクらはあちこちを探し回っているが、どこにもお目当てのカギが見つからないのだ。
とにかく、開けられる宝箱は、ほぼすべて開けた。
ミミックだろうと、全部総当りするしかない。
幸い、ミミックは攻撃だけしてくるが、倒す必要はないみたいである。
「ないわね」
メイヴィス姫も、少々うんざり気味だ。
「ピオンも、なにひとつ反応しないんですよね」
ステータスを幸運にほぼ全振りしているピオンでさえ、カギを発見できていない。
これは、妙すぎる。
あ、でも、ちょっと待って。
「えっと、考えたんですが。ピー子はさっき、『カギを手に入れればいい』って、言っていましたよね?」
「ああ。そうだよ。それがどうしたんだ?」
「よく思い出してみてください。『宝箱に入っている』なんて、ひとことも言っていませんよね」
ボクが発言すると、センディさんが舌打ちをする。
「ナイスだ、ツヨシ! あのヤロウ、オレたちをハメやがったのか!」
拳を手のひらにぶつけて、センディさんは悔しがった。
「作戦変更。壁や床、怪しそうな場所は全部探すぞ」
「わかったわ」
コルタナさんが、床や天井を杖で突く。
ヒヨリさんも、コルタナさんに付き添って同じように行動する。
ワラビは、壁や天井を伝い、怪しい場所がないかを探し回った。
センディさんも、自分からトラップに飛び込んで、仕掛けにカギが付属していないかを確かめる。ミミックの動きも、完全に読んでいた。噛まれる瞬間に口を鞘で塞ぐ。
「ねえな」
口の中を覗き込んで、またセンディさんはミミックの口を閉じる。
「くそ。どこにもねえぞ」
ミミックの唾液だらけになった身体を、センディさんはワラビにきれいにしてもらう。
「あの、カギなら見つかりました」
「なんだと!? どこに!?」
ヒヨリさんに、センディさんが迫る。
「外です。人魚さんの首にかかっていました」
なんでも、ピオンが退屈そうにしていたので、外に出したのだという。
跳ねるピオンを面白がって、人魚が近づいてきたらしい。
「そのウチの一人が、あそこに」
岩で休んでいる人魚の首には、たしかにカギの付いたネックレスが。
「しかし、あんなところにあったんじゃ、取れないわよ」
「いえ。なにか、方法があるはずです」
ワラビが、確信めいた言葉を告げる。
「マスターツヨシ、一度、わたしとミミックの元へ行ってくれませんか?」
「わかった」
ボクは、ミミック宝箱の前へ迫った。センディさんがやられそうになった、最初のミミックである。
「近づいてください」
「いいの?」
「はい。来ます!」
ワラビが、ボクをすっぽりと飲み込んだ。
同時に、ミミックがワラビを食べてしまう。
「ワラビ!?」
「ワラビちゃん!?」
センディさんとメイヴィス姫が、ミミックを攻撃した。
しかし、ミミックには傷ひとつつかない。
ボクはミミックに、飲み込まれてしまった。
「うわっぷ!」
続いて、ボクは城の外に放り出される。
「ここは?」
「水路に出てきました」
どうやらミミックは、水路の排水口に繋がっていたようだ。それで、食べられても平気だったのか。
ワラビがボクを取り込んだまま、人魚が休んでいる岩場まで泳ぐ。
「ありがとう、ワラビ」
岩場に到達し、ボクはワラビから抜け出した。
人魚が、にこやかに手を叩く。首に下げているカギを外した。
「絶海の孤島に宝があると思わせて、別の場所に隠す。ミステリの常套手段です」
「ワラビ、キミは探偵になったほうがいいかもね」
ボクは、人魚からカギを譲ってもらう。
「おい、無事かツヨシ、ワラビ!」
「無事です。どこも問題ありません」
ボクとワラビが大丈夫だとわかると、メイヴィス姫やヒヨリさんが抱き合って腰を抜かした。
「もう、心配したんですから!」
「あのまま食べられちゃったら、どうしようかと!」
ふたりとも、ボクらの安否を気にしてくれていたみたい。
結界が消えて、岸に上がれるようになった。
ワラビがイカダ代わりになってくれて、ボクは岸に到達する。
「よく、この難問を解いたわね! 見事よ!」
どこからボクたちを見ていたのか、ピー子が姿を表した。
「いよいよ、あたしたち三人の魔族との決着をつける時が来たわ」
「あなたたちを裏で操っているのは、【ルクシオ・ソール】とかいう魔王なんですか?」
ボクは、ピー子に問いかける。
「あたしたちに勝ったら、教えてあげるわ!」
ピー子が消え去ると、城ごと消えてなくなった。
「消えた?」
「形が元に戻ったのよ」
後には、ハリボテのお城があるだけ。
「帰るぞツヨシ。仕切り直しだ。装備の準備もある」
ギルドに報告を終えて、貴重品を預ける。
帰宅すると、一気に無事に帰れたんだと実感できた。
だが、その気分はメイヴィス姫のひとことでかき消させる。
「ツヨシ、大変よ。あなたの端末に、メッセが入っているわ!」
なんとボクの動画に、魔王ルクシオ・ソールからの書き込みがあったらしい。




