対決
「パトローニ嬢が貴族のルールを分かっていないようでしたから、わたくしはそれを教えて差し上げていただけですわ。」
アイーダは、フランカの突然の乱入に一瞬顔を顰めたものの、さすがは侯爵令嬢、すぐに表情をとり繕い、これは自分の親切だと声高に主張してきた。
「貴族のルール…?それは、例えばですが、高貴な身分のシスト様は同じような身分の方と結婚すべきだとか、そういうお話かしら?」
「ええその通りよ。シスト様の隣には、私が相応しいのよ。」
自分を肯定するフランカの答えに、貴女分かってるじゃないと言いたげに、アイーダは満足げに微笑んだ。
「ふふ、でも面白いですわね。」
フランカは、口元を押さえて、小さく笑い声を漏らした。目は笑っていない。完全に小馬鹿にしている笑いであった。
「何がですの?」
いきなりのフランカの嘲笑に、アイーダの眉間に皺が寄った。棘のある声だった。
「だって、それが決まり事なら、どうしてミーナがシスト様に選ばれたのかしら?どうしてブレッサン侯爵令嬢にはお相手がいないのかしら?ふふ、おかしいですわね。身分があるにも関わらず選ばれないお方って…一体どんなワケがあるのかしら…」
不思議そうに小首を傾げると、フランカはふふふっとまた小馬鹿にした笑いを漏らした。
口元では笑いながらも、アイーダには冷え切った目を向けている。
「なっ…だ、誰に向かってそんな口の聞き方を!たかが田舎貴族のくせに、この私に楯突くような真似をして、タダで済むとお思い?男爵家なんてすぐに捻り潰せるわ!」
アイーダの語気は強まり、もう取り繕ってなどいられなかった。
怒りに顔は赤く染まり、ものすごい顔でフランカのことを睨み付けてきた。美人の睨みは迫力が凄まじかったが、フランカはそれすら面白がって眺め、微笑を浮かべている。
「まぁ、必死ですこと。そちらこそ、モンタルド公爵家の大切な婚約者にこのような仕打ちをして、タダで済むとお思いかしら?ねぇ、シスト様?」
「許されるわけがないだろう。」
「えっ…」
フランカの呼びかけで、シストが教室の中に入ってきた。
いきなりのシストの登場に、アイーダは口を開けたまま固まった。一気に血の気が引いた顔は真っ青だった。赤く引いた口紅だけがやけに目立っている。
「話は全部聞いた。自主退学か追放か、今すぐ選べ。」
『選ばせる』と口では言いながらも、どちらも退学することを意味していた。
シストの有無を言わせぬ冷徹な圧力に、彼の本気が伝わる。
アイーダは、シストが発した言葉の意味を理解出来なかった。
ずっと想ってきた大切な相手を、いきなり現れた格下の相手が掠め取って行った。
こっちの気持ちなんて一切気にせず、シスト様との仲をわざわざ見せ付けてきた。
本当なら、あの方の隣にいるのは自分のはずのに、こんなの間違っている、絶対に正しくない。彼は優しいから振り払えないだけ。だから私が、私が、彼のためにちゃんと正してあげないと、、、
それだけだったのに。
なんで私だけこんな、悪者みたいな目で見られて、大切な人にもこんな目を向けられて、、
どうして、どうして誰も分かってくれないの?
私はただ…
アイーダは、泣きたい気持ちを必死に堪えて、両手を強く握りしめた。すでにこんな惨めな姿を晒しているのに、これ以上弱みを見せるわけにはいかなかった。
「シスト様のこと、心から愛していらっしゃっるのですわね。」
「え…?」
俯いて歯を食いしばっていたアイーダは、頭の上から降ってきた予想外の言葉に、驚いて顔を上げた。
彼女は目の前の光景が信じられなかった。
なぜなら、目の前にいるミーナが、悲しそうな顔で一筋の涙を流していたからだ。
自分の心を労るかのような、優しい声に、優しい涙に、アイーダの堪えていた涙が溢れ出した。




