シストからのお返し
シストは、しがみついてきたミーナの背中を逆の腕でしっかりと支え、ゆっくりと顔を近付けてきた。
すでに近い距離にいた二人。
シストの接近によって、二人の間はゼロ距離となった。それでも彼が止まる気配はなく、ミーナの眼前にシストの顔が迫る。
ななななななななななななななっ!!!!
さすがに、近すぎますわ!それはダメです、だ、だって、このままいったら、その、、くちが、、唇が近づいて、き、き、、き、キスとか、、いや、それはダメだわ!いくらなんでも、ファンサにキスはやり過ぎですってーーー!!!!
ちょっ、ちょっと待ってーー!!お願いだから、一回止まってっ!!!!
身体を引き離そうにも、ガッツリと背中を抑えられているため、一歩も動くことができない。
面食いのミーナには最高の展開であったが、実際に体験するのはわけが違う。
男女の関係にはまるで免疫のない彼女は、イケメンを愛でることは大好きであっても、こういった男女の触れ合いには全くもって慣れていない。嬉しくないわけではないが、どうしていいか分からなくなる。
その結果、ミーナの心は限界に達した。
唇が触れると思った瞬間、自己防衛意識が働き、可能な限り横を向いて顔を背けた。
このままだと頬に触れる…!!
そう確信した時、シストの唇は彼女の頬を通り過ぎ、耳を掠めた。
「次は場所を変えよう。これ以上、君の可愛いその顔を晒すわけにはいかない。」
シストは、ワザと甘ったるい声で囁いた。
キスをしかけたことに加え、耳に残るシストの言葉と声と吐息と熱。
それは、ミーナの経験値では捌ききれないほどの情報量であった。
感情が沸騰して、思考も動きも表情も、ミーナの全てが停止してしまった。
「まったく、やりすぎよ…」
独り言を呟くと、フランカはミーナとシストの間に割って入り、彼女を救出した。
シストはもう少し追い込みたかったが、フランカが軽く睨んできたため、苦笑してミーナのことを解放したのだった。
そんな中、固まったままフランカに連行されていくミーナのことを、憎悪の籠った目で睨み付けている者がいた。
放課後、いつものように学園内にある専用の会議室に来ていたシストは、澱みなく、リズミカルに手元の書類を捌いていた。
ミーナがいない時は相変わらずの無表情であったが、その小気味良いテンポから、彼の機嫌の良さが伺える。
そんな彼を、いつものように遊びに来ていたシモーネが嫌そうな顔で見ていた。
彼は、休み時間のあの出来事を見ていなかったため、今のこの状況が不思議で仕方ないようだ。
「…何だ?」
視線を送るだけで話しかけてこないシモーネに、痺れを切らせたシストの方から話しかけた。
「お前、どっかの家でも潰したのか?」
「…僕のことを何だと思っている。」
「お前の機嫌がいいと怖いんだよ。禄でもないことをしてそうで。」
「相変わらず、失礼なやつだな。」
怒り口調ではあったが、シストが殺気を飛ばしてくることはなかった。
それにより、彼の機嫌の良さが本物であることを悟った。
きっと、ミーナ嬢のおかげに違いない。
シモーネは、自分の中でそう結論付けた。




