攻城戦の駆け引き
目の前に広がる城壁。これほどのものを、ハルトウィンは今まで見たことがない。転生前にはすでにこのような垂直にそびえる、ほかを圧倒するような城壁は戦術的に無効となっていた時代である。強力な火力の登場が、城壁を無用の長物と化した。
しかし、この中世の時代は異なる。
ようやく火薬の銃が登場し始めた時代。まだ、大砲などというもの自体が存在しない。
(帰ったら、アルセーニエフ先生に研究してもらうのも手かもしれないな)
荘園に残してきた錬金術師のことを思い出すハルトウィン。そしてすぐ彼女は首を振る。
大事なことは、今どのようにしてこの都市を攻略するかである。
クリューガー公爵領最大の商業都市『ハレンスブルク』。四方を強固な城壁に囲まれ、そのそれぞれに鉄の門扉が重々しく備えられている。
「最新の情報かは定かではありませんが、ドレスタンにあった資料では守備兵が2百人ほど常駐しているようです。守備隊長はマインラート=ヒューブナー少佐――」
カレルがそうハルトウィンに報告する。そして視線をかたわらのレムケ卿におくる。それを察したレムケ卿が、口を開き説明を始める。
「ヒューブナー少佐は――有能、そうとてもまじめな軍人です。何度かあったことがありますが、決して命令に背くお方ではありません」
「それはそれで面倒だな」
ハルトウィンがつぶやく。いっそ、計算高い人物であれば篭絡する方法はいくらでもあるのだろうが。
「守備部隊の大半は歩兵で専門の弓兵もあまりいないはずです。この都市は何といっても、その先を城塞都市ドレスタンに守られていたので、戦うということにはあまり慣れていません。また、その時でもクリューガー公領首都ミュットフルトから援軍が到達するまで耐えればいいということで......この城壁がその作戦構想のたまものです」
レムケ卿の的確な説明。特に才走ったところのない中年男ではあるが、ハルトウィンは彼を高く評価していた。常より、首都からドレスタンに発せられる、一貫性のない命令に辟易していたらしい。さらには公太子の扱いのひどさ――『公太子殿下に不利になるようなことは一切しない』。そのハルトウィンの真摯な言葉を信じてくれた人でもある。この戦いが終わったら、厚遇せねばなるまいな、とハルトウィンは心に決めていた。
「いろいろな方法があるでしょうな」
後ろから、馬に乗ってイェルドがやってくる。
「もちろん、労少なくして功多い策を推しますが」
「ご教授いただけるであろうか、参謀殿」
参謀、という役職は先日ハルトウィンが設けたものである。彼女にこそふさわしい役職だとハルトウィンは確信していた。何といってもあの『総参謀長ヴィンフリート=モルゲンシュテルン』の転生後である。見た目は商人姿の少女であるが、その中身は権謀術数あまたの作戦案が渦巻いているに違いない。
イェルドはその策を説明し始める。この強固な城壁都市を敵味方双方無傷で手に入れる算段を――




