ハレンスブルクへの行進
街道をゆく、部隊。先頭はクリューガー公太子の重歩兵部隊。高々と掲げれられるのは『クリューガーの薔薇と槍』の軍旗。
当初は、公太子の旗印を使おうと思っていたハルトウィンだったが、イェルドがそれを否定する。
『あくまでも、我々の行軍は正統な『クリューガー』家の当主がラディム様であるということを誇示することが重要です』
行軍の中央を行くのは、公太子ラディム=フォン=クリューガーの親衛部隊。城にあったありったけの豪華な鎧や、雄々しい馬を中心に百騎程度の部隊が行く。ラディムも葦毛の体格のいい馬にまたがって。
『民衆が同情するのは、領民に重税を課しころころ奥方を変える脂ぎった領主よりも、悲劇の王子様と相場が決まっています。ラディム公太子殿のカリスマが不明な以上、なるべく劇場的に民衆には印象付けた方がよいと思います』
これも、イェルドの進言に従い、公太子を前面に押し出す作戦。レムケ卿が軍列の指揮を行い、そうそうたる行軍である。
しかし、当のラディムはなぜかあたりをきょろきょろと見まわす。
『ハルトウィン様は申し訳ありませんが、しんがりをつとめていただきたい。この状況において、ゼ―バルト辺境伯の軍が目立つのは、まったくもってマイナスです』
一番後方を行く、ハルトウィンの辺境伯軍。騎兵と銃歩兵の一団である。当初、ラディムがハルトウィンと一緒の行進を望んだのだが、それはかなわずこのような陣容となった。そのせいか、ハルトウィンのそばに控えるカレルの機嫌が、すこぶる良い。
クリューガー公太子軍がおおよそ五百、それに百のゼ―バルト軍あわせて千もいかない部隊である。城塞都市ドレスタンの総兵力を動員すれば二千以上の兵を集めることは可能であった。しかし、これもイェルドの策である。
『兵は拙速をたっとびます。今のところ、公太子のクーデタは公爵の耳には入っていないようです。フンメル準男爵をはじめとした、公爵派のものは地下牢に閉じ込めたままですし。さしあたり、即応できる部隊を動かすことが肝要かと。目標は当然――商業都市ハレンスブルク!』
ハレンスブルクに駐在している軍の数はさして多くない。五百の公太子軍のみで攻略は十分であるだろう。最もその瞬間に、公太子が公爵に反旗を翻したことが明らかになるのだが。
『しかし、一つ尋ねたい』
『どうぞ』
行軍前のハルトウィンとイェルドの二人だけの会話。ハルトウィンはかねがね抱いていた疑問をイェルド、いや転生した『ヴィンフリート=モルゲンシュテルン』にぶつける。
『なぜあなたは、私にそこまで肩入れしてくださるのですか。いやモルゲンシュテルン総参謀長の転生者に助力いただけるのは何より心強いことですが......転生前にもそんなに知己があったわけではないのに。そのあたりをお教え願いたい』
ふうん、を息をもらすイェルド。
『ハルトウィン様は、正直であられる』
イェルドはそう言ってから、逆に質問する。
『ハルトウィン様が、戦争の世からこの中世の世に転生してなぜそれほどまで領主としての勤めに励まれるのか。単に功名心や単なる物欲というわけではあるまい』
声こそ少女のものであるが、口調は明らかに初老の男子のものであった。
『そうですね......自分でもそれははっきりしていませんが、政治の実権を持つ者の義務感でしょうか。私は転生前は自分のつとめを果たすことができなった。結果、革命が起き帝国は滅んでしまった。それ以上に、敗戦の憂き目にいや、戦争の惨禍に国民を放り込んでしまった。せめてこの世では、自分の支配権下においては民に平穏な生活を保障してあげたい......といったところです』
少しの間の後、イェルドはうんとうなずく。
『それが答えだ。私が、貴殿に仕える理由も』
行軍はすでにハレンスブルクの街道入り口に近づいていた。
それはmハルトウィンにとって本格的な戦闘の初めての経験となるものだった――




