城塞都市ドレスタンへの入城
ゆっくりと城門が開く。ハルトウィンの馬を先頭に、物々しいゼーバルト家の軍隊が城塞都市ドレスタンに入城する。城塞都市などと大層な名前はついているが、実際にはほとんど砦のようなものだった。商家や住民の家は少なく、住民もほとんどは兵士たちであった。
ハルトウィンの横にくっつくように馬を並べるのは、ラディム=フォン=クリューガー公太子の姿である。
「公太子殿下のお帰りである。われはゼーバルト辺境伯ハルトウィン。ゆえあって、公太子殿下をお守りさせていただいているものである。道を開けよ!」
ハルトウィンの一声に道行く兵士たちは、恐れ多くひかえる。何しろ公太子の存在がある。決して捕虜に取られた、という風でもない。無抵抗のまま、一行は城の入口近くまで馬を進めた。
「公太子殿下!」
ラディムを呼ぶ大きな声。見ると小柄な官服を来た中年男性がそこに立っていた。
「エーゴンか。色々仔細があってな。こちらのゼーバルト辺境伯殿にお世話になった。お礼がしたい。入場させよ」
さすがは公太子だけあり、少年とはいえ言うことにそつがない。
「......では、下馬を。騎士身分以外の方はこちらでお待ち下さい」
じろりとエーゴンはハルトウィンの部隊を舐め回すように見て、そう告げる。
無言でうなづくハルトウィン。それはまあ、当然のお願いであることは確かだった。得体のしれない兵を城に入れる道理はない。
馬を降りて、カレルだけを伴い公太子とともに場内に入ろうとする。
そのとき、イェルドがそっとハルトウィンの側に近づく。後ろ手にハルトウィンはイェルドにあるものを渡す――ゼーバルト家の印章。これを持つもののみが、軍事の大権、指揮権を振るうことのできる印である。
うん、とイェルドはうなずく。
ハルトウィンは覚悟を決めていた。この祖国の英雄ヴィンフリート=モルゲンシュテルンの転生者、イェルド=ルーマンにこれからの状況を委ねることを。
こつこつと、エーゴンを先頭に廊下を歩いていく一行。
何故か自分の城だと言うのに、ラディムの様子がおかしい。無理もない。自分の部下に殺されかけたのだ。同様の命令を受けている連中がどのくらいいるのか――ハルトウィンはため息をつく。
そっと、手を差し出すハルトウィン。ラディムはそっとそれに自分の手を重ねる。
震えている手。
どうやらここは伏魔殿らしい。はやくことを、済ませなければ――とハルトウィンは足をすすめる。
大広間。それに似合った大きな扉が開門される。
ずらりと並ぶ兵士たち。
その奥にひときわ立派な格好の貴族が立っていた。
「これは、公太子殿下。お姿が見えないので心配しておりました。どうぞこちらに」
中背の鎧をまとった貴族。そのあつらえから、どうやら公太子につぐ立場のものらしい。
ラディムはすっと、ハルトウィンの影に隠れて出てこない。
「ゼーバルト辺境伯ですな。お初にお目にかかる。当城の城代をつとめておる、ヨーナス=フンメル準男爵と申す。公太子殿下をこちらに」
じっと、フンメル準男爵を見つめるハルトウィン。
いよいよ、決断の時が近づいていた――




