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オストリーバ興亡史~ある転生辺境伯の生涯  作者: 八島唯
クリューガー公国との戦い
19/50

城塞都市ドレスタンへの入城

 ゆっくりと城門が開く。ハルトウィンの馬を先頭に、物々しいゼーバルト家の軍隊が城塞都市ドレスタンに入城する。城塞都市などと大層な名前はついているが、実際にはほとんど砦のようなものだった。商家や住民の家は少なく、住民もほとんどは兵士たちであった。

 ハルトウィンの横にくっつくように馬を並べるのは、ラディム=フォン=クリューガー公太子の姿である。

「公太子殿下のお帰りである。われはゼーバルト辺境伯ハルトウィン。ゆえあって、公太子殿下をお守りさせていただいているものである。道を開けよ!」

 ハルトウィンの一声に道行く兵士たちは、恐れ多くひかえる。何しろ公太子の存在がある。決して捕虜に取られた、という風でもない。無抵抗のまま、一行は城の入口近くまで馬を進めた。

「公太子殿下!」

 ラディムを呼ぶ大きな声。見ると小柄な官服を来た中年男性がそこに立っていた。

「エーゴンか。色々仔細があってな。こちらのゼーバルト辺境伯殿にお世話になった。お礼がしたい。入場させよ」

 さすがは公太子だけあり、少年とはいえ言うことにそつがない。

「......では、下馬を。騎士身分以外の方はこちらでお待ち下さい」

 じろりとエーゴンはハルトウィンの部隊を舐め回すように見て、そう告げる。

 無言でうなづくハルトウィン。それはまあ、当然のお願いであることは確かだった。得体のしれない兵を城に入れる道理はない。

 馬を降りて、カレルだけを伴い公太子とともに場内に入ろうとする。

 そのとき、イェルドがそっとハルトウィンの側に近づく。後ろ手にハルトウィンはイェルドにあるものを渡す――ゼーバルト家の印章。これを持つもののみが、軍事の大権、指揮権を振るうことのできる印である。

 うん、とイェルドはうなずく。

 ハルトウィンは覚悟を決めていた。この祖国の英雄ヴィンフリート=モルゲンシュテルンの転生者、イェルド=ルーマンにこれからの状況を委ねることを。

 こつこつと、エーゴンを先頭に廊下を歩いていく一行。

 何故か自分の城だと言うのに、ラディムの様子がおかしい。無理もない。自分の部下に殺されかけたのだ。同様の命令を受けている連中がどのくらいいるのか――ハルトウィンはため息をつく。

 そっと、手を差し出すハルトウィン。ラディムはそっとそれに自分の手を重ねる。

 震えている手。

 どうやらここは伏魔殿らしい。はやくことを、済ませなければ――とハルトウィンは足をすすめる。

 大広間。それに似合った大きな扉が開門される。

 ずらりと並ぶ兵士たち。

 その奥にひときわ立派な格好の貴族が立っていた。

「これは、公太子殿下。お姿が見えないので心配しておりました。どうぞこちらに」

 中背の鎧をまとった貴族。そのあつらえから、どうやら公太子につぐ立場のものらしい。

 ラディムはすっと、ハルトウィンの影に隠れて出てこない。

「ゼーバルト辺境伯ですな。お初にお目にかかる。当城の城代をつとめておる、ヨーナス=フンメル準男爵と申す。公太子殿下をこちらに」

 じっと、フンメル準男爵を見つめるハルトウィン。

 いよいよ、決断の時が近づいていた――

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