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太陽と蝸牛

 蝸牛かたつむりは空を見上げる。

 あの暗い重い雲の上には、太陽が微笑んでいるのだろうか。

 遠い空の遠い記憶。

 トタトタトタ。音がする。

 雨に叩かれる紫陽花あじさいの葉の上で、目だけを伸ばしておずおずと空を伺う。

 緑の葉に、赤や白、青や紫の花。
 跳ねる水玉が光を散らす。

 色とりどりの大地に比べ真っ暗な灰色の空。
 垂れ込める梅雨の雲から無数に降りてくる細かな粒。

 ああ、太陽が泣いている。

 蝸牛のちっぽけな体にも空の涙が当たっては散っていく。
 その度に、蝸牛は殻へと閉じこもる。
 目だけを出して外を覗き見る。
 そしてまた閉じこもる。

 殻の中は安全で平和。

 濡れるのは嫌いじゃないけど、外は敵が多すぎる。
 カラスがついばみ、ネコが引っかく。
 ネズミだってかじってくる。

 殻にくるまれてのんびりゆっくり過ごしたい。

 太陽が笑顔を見せたのはいつだったろう。
 蝸牛の考えが、ぐるぐる、ぐるぐる、渦を巻く。

 殻の外に出たのはいつだろう。
 蝸牛の歩みが、のそのそ、のそのそ、葉の上を這う。

 歩いたのはどれくらい前だろう。
 そう、蝸牛は速くない。
 べたべたして、ぶにぶにして、ぬるぬるする。

 雨の季節にお似合いなじめじめしているやつ。
 紫陽花のはなやかさとは正反対な暗いやつ。

 だから紫陽花がうらやましい。
 だから太陽に憧れる。
 だから蝸牛は自分の殻に閉じこもる。

 殻の中は安全で平和。

 誰も蝸牛を怒ったり叩いたりしない。
 怖い思いをしなくていい。

 安全で平和で。
 ツマラナイ世界。


 トタトタトタ。音がする。

 外の世界を覗き見る。
 目だけを伸ばして覗き見る。

 空の涙が蝸牛に当たって、雫になって落ちていく。

 その涙は、空のものか蝸牛のものか。
 まざってとけて、わからなくなった。

 空は泣いた。
 蝸牛も泣いた。

 いつから蝸牛は独りになった。
 みずから遠ざけて独りになった。
 独りに慣れて独りになった。


 太陽はまだ顔を出さない。
 蝸牛が外の世界を怖がっているから。
 寂しさよりも、怖さが強いから。

 最後に見た太陽はあまりに熱く、その熱は蝸牛を広く広く焼き焦がした。

 蝸牛は自分の殻に閉じこもる。
 恐る恐る目だけを伸ばして。


 トタトタトタ。音がする。

 屋根から垂れた雫が、うつ伏せになったバケツの背中を叩く。

 何度叩かれてもバケツは身じろぎもしない。
 ただただ叩かれるに任せて、そのメロディを軽快なテンポに乗せる。


 バケツは涙を流さない。
 流れた雫が泣いた跡に見えるだけ。

 蝸牛は紫陽花の葉の上からバケツを眺める。

 泥が跳ねて、雫に打たれて、それでもそこにいる。
 うつ伏せのバケツには、溜まる水も無いというのに。

 ただただそこにいる。
 バケツは涙を流さない。
 ただただ叩かれるに任せて、軽快なメロディを奏でる。


 赤い紫陽花が揺れ、青い紫陽花がうなずく。
 紫陽花の葉が踊り、その汗でバケツがもっと賑やかになる。


 最後に見た太陽はあまりにまぶしく、その光は蝸牛を深く深く突き刺した。

 蝸牛はそれでも太陽を見たいと願う。
 殻から這い出したいと思う時もある。


 殻の外は危険で怖い。

 危険で怖くて。
 オモシロイ?


 空が明るくなり、雲の切れ間から光が射す。


 トタトタトタ。音がする。

 扉をノックする音。

 ゆっくりのっそり殻から出た。

「僕にもできるかな」
「大丈夫だよ、行こう」

 ああ、太陽が笑っている。
文学とは何でしょうか。
私なりの今の精一杯ですが、この作品から感じていただけるものがありましたら嬉しいです。

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