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04 タケダ

「先生バイバイ!」

 

 リブの事務所から遠く離れた、空の島三号のD区画と言われる場所にある私立高校。偏差値も特に高いわけでも低いわけでもない平凡な高校。窓から差し込む琥珀色の光が今日の終わりを告げているどこか物哀しい廊下ですれ違った女子生徒がとある教師に笑顔で声をかけた。


「あ、うん、気をつけて帰ってね」


 笑顔で教師が女子生徒に応える。

 何処かオドオドとして頼りなさそうな教師。小奇麗な紺のスーツに整髪料で整った黒く清潔感のある頭髪、まだ二十代後半といったところだろうか、眼鏡をかけ、笑うと目が線のように細くなる愛嬌があるいかにも「新人教師」という雰囲気の教師だ。


「あはは、タケダ先生の方が気をつけたほうがいいんじゃない?」

「そ、そうかもね」


 そう言ってくるりと踵を返し、走り去る女子生徒の後ろ姿を見て、気まずそうにタケダはポリポリと顔を掻いた。

 この頼りなさそうな教師タケダは、その愛嬌のある姿から女子生徒の中でちょっとした人気になっているらしい。小動物のようで可愛いと、女子生徒から何かといじられていた。

 

「……タケダ先生」

「ひっ!」

 

 突如背後からかけられた声に、何故か悲鳴を漏らしながらビクリとタケダが身を震わせた。彼の背後に居たのは、どこか影のある物静かな男子生徒。タケダのクラスの生徒だ。


「イ、イトウ君、どうしたの?」


 身を震わせた時にずれてしまった眼鏡を上げながらタケダがイトウに駆け寄る。


「……」


 イトウは目を伏せたまま、何も話さない。

 その姿にさすがに異変を感じたのか、タケダはイトウの肩に優しく手を置き、続ける。



「……ひょっとして何か悩み事でもあるのか?」

「ええっと……」


 イトウの言葉をすくい上げるように優しく相槌を打つタケダだったが、どうにも言い出しにくいのか、イトウはチラリとタケダの顔を見た後また顔を伏せてしまう。

 

「分かったイトウ君。周りに人が居ない場所だったら話せるか?」

「えっ?」

「この後職員室でイトウ君の悩み、聞きくよ?」


 優しい笑顔で提案するタケダに、イトウは満面の笑みを浮かべた。きっと親にも相談できない悩みに違いない。ひょっとするとイジメられているのだろうか、とタケダは思った。


「ありがとう、先生!」

「良し、じゃあ行こう」 

 

 違う相談ならいいけれど、もしイトウ君がイジメにあっていたとしたら相手にしっかりと「指導」をしてあげないといけないな。弱い者を虐げるなど、人間のやることじゃない。暗い表情のイトウの表情を見てタケダはそう思った。

 と、タケダのポケットの携帯が鳴った。短い着信音から、メールだろうか。

 ゆっくりと取り出した携帯に書かれているメールをタケダはその優しい目で追っていく。

 ーーだが、そこに書かれていたのは、その優しい教師の姿からは想像もできない内容のメール。


『ハイソサエティのサーバをハッキングし情報を盗んだハッカーへ懸賞金を懸けた。捕らえたものに1億ドル』


 そのメールと添付の写真を見てタケダは一瞬、細い目の奥に狂気を篭もらせ、注がれる琥珀色の光に一瞬ギラリとその目を光らせた。


「……タケダ先生が担任で良かった」


 イトウがぽつりと呟いた。

 彼を見ながら、変わらない優しい表情に戻ったタケダは携帯を元のポケットに戻す。

 

「イトウ君こそ、先生を頼ってくれてありがとう」


 タケダがもう一度優しくイトウに微笑んだ。その顔に微塵も「闇」は見えない。そこにあるのは生徒に慕われる教師の顔。 


 だが、狂気を潜ませた教師はほくそ笑んだ。メールで送られてきた次の獲物、「栗色の天使」の姿を思い起こしながら。

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