プロローグ1:洛北の星落ち、銀の刃
『平安オーバーライド ~未来兵装《蒼龍》降臨録~』を読んでいただきありがとうございます。
西暦2168年。人類は異星生命体との戦争の果てに滅亡寸前まで追い詰められていました。
そして西暦2186年――。
地球を救ったはずの最後の戦いで、一人の青年・東雲蒼は未来兵装《蒼龍》を纏ったまま、千年以上の時を越えて平安時代へ飛ばされます。
しかし、頼みのパワードスーツには致命的な制約がありました。
稼働時間は、たった8時間。
補給も整備もない時代で、未来兵器はいつまで動くのか。
邪悪な陰陽師、玉藻の前、八咫烏、酒呑童子――史実と伝承が入り混じる平安の妖怪たちを相手に、生き残ることはできるのか。
本作は、
* 近未来SF
* 平安時代ファンタジー
* 妖怪バトル
* 仲間との共闘
を軸に描く、和風SFアクションです。
毎話「続きが気になる」を目指して更新していきます。
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それでは――。
未来の竜が、平安の世に降り立つ物語をお楽しみください。
深夜の平安京郊外、洛北の深い山中。
藤原の姫・葵の警護していた青年武士、源野景行は、突如として夜空を切り裂いた異変に息を呑んだ。
大地を揺るがす轟音と凄まじい雷鳴。
漆黒の空をまっすぐに切り裂いて落ちてきたのは、巨大な**「蒼い流星」**だった。
星は斜面の杉の巨木を次々と薙ぎ倒し、山肌に大きなすり鉢状の穴を穿ちながら墜落する。
土煙が舞い上がる中、景行の鋭い目が捉えたのは、墜落の瞬間にふわりと広がった、命の温もりすら感じさせる翡翠色の不思議な光だった。
だが、その光は瞬く間に散華し、後には不気味な静寂だけが残された。
「……なんだ、今の光は」
景行が柄に手をかけ、警戒の視線を送る先。静まり返ったクレーターの底に、土に埋もれるようにして**「何か」**が倒れ伏していた。
それは、見たこともない異質な青い鉄に覆われた、人の形をした何かだった。
ひび割れた装甲の隙間からは、青い火花がパチパチと漏れ出ており、奇妙な熱が周囲の空気を歪ませていた。
そして、その異様な熱気は、平安の闇に潜む異形のものたちを呼び覚ました。
「……ギギ……」
「……グルルル……ッ……」
木々の梢から、湿った落ち葉の影から、不気味な息遣いが滲み出す。赤や黄色の濁った眼光がいくつもともり、異様な瘴気をまとう低級妖怪や餓鬼どもが、極上の餌につられた獣のようにゾロゾロとクレーターの底へと這い寄っていく。
大柄な鬼が黄色い牙をむき出しにし、動かない蒼い鉄の首元へと汚い爪を振り上げた――その時だった。
――キィンッ!!
澄み切った鋼の風鳴りが、湿った夜気をまっすぐに両断した。
「――汚らわしい物怪共。そこを下りよ」
声よりも速い銀の一閃。鋭い踏み込みと共にクレーターの縁から跳躍した景行の太刀筋が、飛びかかろうとした鬼の首を斜めに切り飛ばす。
続けて群がる二匹、三匹の躯を、花束でも散らすように鮮やかに一斬りした。
夜露を弾きながら刃を正眼に構えた景行の手にあるのは、怪異を討ち祓うために打ち鍛えられた家宝の大太刀**『薄緑・影打』**である。
「グルッ、ガアアアッ!!」
仲間を斬られた妖怪どもが怒り狂って殺到するが、景行の剣気は微塵も揺らがない。
「はあッ!!」
裂帛の気合いと共に放たれた無駄のない三連撃。刃が月光を浴びて青白く発光したかと思うと、迫り来る群れは断末魔の叫びすらあげる間もなく両断され、黒い血霧となって夜闇へと消し飛んだ。
「――景行! 無事ですか!」
「っ……! 葵様!?」
振り返った景行は、思わず声を荒げた。
息を弾ませ、市女笠もかぶらぬまま衣の裾を掴んで山道を駆け下りてきたのは、彼が離れ邸に置いてきたはずの主――藤原の姫葵だった。
「なぜここへいらしたのです! 危険すぎます、今すぐ屋敷にお戻りください!」
景行が焦りを含んで前に立ちふさがる。
「あの異常な地響きと閃光……ただの落雷ではございません。この通り、得体の知れぬ気に惹かれた物怪の群れまで徘徊しております。今すぐ俺が背負ってでもお送り――」
「お黙りなさい、景行」
葵は小さく息を整えながらも、一歩も退かずに景行を真っ直ぐ見上げた。
「これほど大きな落星の音を聞き、裏山で人が傷ついているかもしれないのに、邸の奥で耳を塞ぐことなど私にはできません。あなたを一人で危険な地にやることも、私にはできないのです」
「しかし、葵様にもしものことがあれば、俺はどの顔をして……!」
「いいえ、行きます。私は絶対に引き返しません」
一度そうと決めたら絶対に曲げない、姫の芯の強さ。景行が深く嘆息し、ついに根負けしたように道を譲ると、葵は小走りに倒れ伏すモノの元へと近づいた。
だが、近づいた景行は再び血相を変え、大太刀を構え直して葵の前を遮った。
「葵様、お下がりを!!」
景行と葵の目の前で、重厚な鉄の塊だったはずの蒼い鎧が、突如として輪郭を失い始めたのだ。 シュゥゥ……という微かな音と共に、装甲の表面から青白い光の粒子が立ち上る。それはまるで、朝日に溶ける氷のように、あるいは形を失う幻影のように、次々と空中に舞い上がり、夜闇の中へと溶けて消えていく。
「な、なんだこれは……鉄が、光になって……?」
景行が大太刀を握る手に力が入る。葵もまた、その美しくも異常な光景に息を飲んだ。
やがて、最後の光の粒子が夜風に攫われた後。 そこに残されていたのは、おぞましい妖術師でも、血に飢えた刺客でもなかった。
「……人間……?」
景行が思わず呟いた。 クレーターの底に横たわっていたのは、異国の奇妙な衣を身にまとい、気を失って倒れ伏す一人の青年だった。 傷だらけの顔、荒い息遣い。どこからどう見ても、生身の人間である。しかし、その左腕にだけは、先程の鎧の残骸のような、不思議な意匠の腕輪が鈍い光を放っていた。
景行の刃が、傷ついた青年へと向けられる。
「待ちなさい、景行。大太刀を納めなさい」
「葵様!先程の異様な閃光……そして、このような得体の知れぬ鉄の装束。……物怪どもの放った妖術師か、貴方様を狙う刺客に相違ありません!」
葵は落ち着いた、しかし揺るぎない気品を帯びた声で景行を強く一喝した。
衣の擦れる音と共に進み出た葵の凛とした一言が、暗い山中に響き渡る。
「あ、葵様! これほど怪しき者を!」
「正体も分からぬ、ましてや意識すらない者の命を問答無用で奪うことが、あなたの信ずる誠の武士のやることですか?」
葵は静かに進み出ると、ためらうことなく青年のそばに跪き、その胸元にそっと手をかざした。
「……見てごらんなさい、景行。この方からは何の瘴気も感じられません。ただ……誰かを守るために深く傷つき、血を流している……私達と同じ『人』です」
星と共に落ちてきた、蒼き鉄の鎧。それが消え去った後に現れた、傷ついた青年。
景行は奥歯を噛み締めながら大太刀を納めた。警戒を完全に解くことはできない。
だが、主である葵の命と、目の前の青年から発せられるひどくか細い命の鼓動を前に、彼を見捨てることは武士の誇りが許さなかった。
「……仕方ありません。屋敷へ運びましょう」
景行は嘆息と共に、得体の知れない異邦の青年を背負い上げた。 千年という途方もない刻を越え、洛北の地に「未知なる厄災」がもたらされた夜。
彼らの運命を大きく変えることになる物語は、こうして静かに幕を開けたのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
プロローグでは、未来から落ちてきた主人公と、平安の武士・景行、そして姫・葵の出会いを描きました。
ここから物語は、未来兵器の誕生。そして主人公、蒼がなぜ1000年の時を超えてきたのかが徐々に明らかになってきます。
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それでは、第2話でお会いしましょう。




