33 襲撃の計画 サンダース侯爵目線
サンダース侯爵目線
王妃殿下の宮であの言葉を口にした日から、わたしは待っていた。
「マイク殿下はあなた様のお子。銀灰宮に置いておく理由はございません」
あの時、王妃の瞳は揺れた。嫉妬は、火種になる。
ほんとにこの女は馬鹿だ。我が娘ながら情けない。役立たずだ。せっかく国王との子を為したのに。ウィリアムを優先するとは。
そしてネルソン。あの男は焦っている。
王太子であるアレク。ほぼ国王になるだろうから。
焦っている。だから判断を間違える。
夜の書斎。灯りは絞ってある。ネルソンが向かいに座る。
「侯爵、父が近々、陛下を訪ねる」
わたしはゆっくりと杯を置いた。
「ほう。ガルシーナ公爵自ら?」
「名目は政務報告だ。まぁ王宮でいろいろあるから、心配なんだろう。叔父としては」
その目は笑っていない。
「決まり上、護衛を連れて行く」
わたしはうなずく。
「名目は?」
ネルソンが低く言う。
「襲撃だ」
わたしは眉を上げた。
「大胆だ」
「大胆だからこそ疑われない。父の謀反だ」
「そして?」
「王太子アレクが駆けつける。父を助けようとしてな」
ああ、そこだ。
わたしは微笑む。
「清いと足元をすくわれる」
ネルソンが口角を上げる。
「正義感の強い王子だ。父が危ないと聞けば飛び出す」
「三人まとめて?」
「いいやぁ、アレクだけだ。残りの二人はねじ伏せる」
わたしは笑顔で指で机を叩く。
「王妃殿下はどうなる?」
「なにもしない」
「なぜだ?」
ネルソンがじっとわたしを見る。
「侯爵、マイクを殺していいのか?」
わたしは笑った。
「よくおわかりで、その時は娘の所へ行っておきましょう。情報を遮断してウィリアムを足止めします」
「よくおわかりで、わたしはガルシアと一緒に銀灰妃の所へ行きましょう。マイクを足止めします」
とネルソンが笑う。
「お互いに守りたい者を相手の手元に置くってことだ」
確認をしておく。
「襲撃者は?」
「金で雇う。異国の傭兵。死んでも困らぬ者たち」
「捕らえられたら?」
「生き残らせぬ」
完璧だ。だが念の為に確認する。
「ネルソン殿」
「なんだ」
「どうやってアレクに知らせる?」
「任せて貰おう」
とネルソンは自信たっぷりに答えた。
わたしは続ける。
「情報を漏らす役は慎重に選ばねばなりません」
「すでに決めている」
「裏切らせる?」
「違う。盗み聞きさせる」
なるほど。
偽の密談を聞かせるのか。
「公爵が襲われる、と?」
「違う。陛下が襲われる」
ネルソンは立ち上がる。
「アレクは父を守るために走る。弟に知らせる時間はない……気の毒にな」
「王の私室で時間が起こる」
「混乱の中、誰が誰を斬ったかわからぬ」
わたしはゆっくりと息を吐く。
「陛下が襲撃されて、王太子が死亡すれば、わたしが最有力だ。息子を守れなかった父親。王太子を守れなかった公爵。さぞ気落ちするだろう。そこでわたしの登場だ。そちらはマイクを押すかな。だが、イサドラ殿の事があるからな」
わたしは低く言う。
「それを言われるとなにも言えない」
戸口に向かっていたネルソンが、振り返る。
「自覚がおありですね」
その言葉は軽く、発せられた。
だが今はそれでいい。
計画は数日で固まった。公爵の訪問日が決まる。
城の警備の配置が変更された。
最後にわたしは確認した。
「漏らすのは前夜でよろしいか」
「そこは任せて欲しい」
ネルソンは自信に満ちている。
わたしは心の奥で考える。
この男は勝つか、破滅するか。中間はない。
去り際、ネルソンが言う。
「侯爵、もし成功したら」
「もし?」
「王妃も黙るだろう」
わたしは笑う。
「王妃は黙らせる」
扉が閉まる。
わたしは独り呟く。
「王妃はウィリアムがいればそれでいい。二人の世界が欲しいだけだ……」
「まずアレク。次はネルソンだ」
杯を手に取り、わたしは低く言う。
「賭けだな、ネルソン」
王城は静かだ。
だが水面下では刃が交差している。
この襲撃が成功すれば、王家は変わる。
失敗しても、消えるのは、ネルソンだ。
わたしは残る。
立ち上がると、外に目をやった。
最近、猫をよく見かける。




