31 毒殺未遂
ウィリアム目線
今日も、俺たちはママの所に来ている。
俺は早めに来て、ママの血を飲ませて貰った。
猫の姿で飲む方が美味しく感じるのは不思議だ。
穏やかないい天気だ。最近、公の場では三人で王太子ごっこをしている。
親しい間柄の兄弟。異母兄弟か?本当は兄弟だけどな……
それがきちんと臣下の礼を尽くす。
だからこそ、効果は大きい。
銀灰宮のリビング。日差しが明るく、空気は穏やかだった。
アレクとマイクと俺。
三人で茶を囲む。
銀灰妃は穏やかに微笑んでいる。ママの笑顔は素敵だ。
毒は、もう手元にある。
サイモンの時に回収したあの毒だ。
急性の痙攣と呼吸困難。死なない量。
今日は見世物の日だ。
侍女が茶を運んで来る。綺麗な女だ。
アレクを意識している。
ネルソンの配下だが、女の目的は王子だ。
毒は、彼女の部屋にもう隠してある。
アレクがカップを取る。
「今日の香りは軽いな」とアレクが言う。
「春の茶葉でしょう」とマイクが続ける。
「頂き物なの。香りがよくてね。飲んで貰いたいと思ったのよ」
ママが一口飲んだ。
俺も飲んだ。カップのふちに塗った毒も一緒に。
喉が熱を持って来たが、それ以上は進まない。
[これ結構すごいね]
[喉が痛い]
アレクが喉を押さえながら、立ち上がる。
「母上、飲んではいけません」
視界が揺れる。頭が白くなる。脳貧血だ。こらえろ。
マイクが倒れた。ママが駆け寄る。
アレクも駆け寄ろうとして倒れた。
気が付いたら、ベッドに寝かされていた。
あれ?隣にマイクが寝ている。
その隣はアレクだ。
[起きてるだろ?]
「とっくに]
「とっくに起きてる。ウィリアム。お前が最後だ]
ぱっと目を開くと
「お母様」
ママはすぐに気が付いて、俺の頬を触りながら
「よかったぁ」と言った。
続いてアレクとマイクも目を覚まして
「母上ご心配かけました」
「母上、もう大丈夫です。処理はどうなりましたか?」
「医者を呼んで治療させて、口止めして帰したわ。それ以外誰もここを出てないわ。使用人はすべて一室に。誰も自分の部屋に入らせてないわ」
「さすが、母上」
「三人で捜査します。騎士団から三人ほど呼んで下さい。口実は盗難でいいでしょう」
とアレクが言った。
「それから母上は、疲れと心労で部屋から出られない言ってお部屋へ」
それから俺たち三人と騎士団六人で各部屋を捜索した。
「三組で回ると早いのでは?」
とマイクが提案したが、却下。
難癖のつけようがないように、全員で回った。
ただし、女性の部屋の引き出しを開けるのには抵抗があったので、侍女を一人適当に選んで連れて来た。
まぁ、怪しからん物も見つかったが、不問。
あの女の部屋で毒と手紙が見つかった。そのまま騎士団に丸投げした。
大事なのは王子たちを毒殺しようとした者がいるということだ。
王子を全員殺そうとする者は誰か?
浮かび上がる名。ネルソン。
次期国王がアレクに決まった時、あからさまに不満を見せた男。
その名が、静かに広がる。
俺は寝台で目を閉じている。
兄上が低く言う。
「釣るまでもなかったな」
マイクが笑う。
「簡単だな」
俺はゆっくりと起き上がる。
「兄上、騒ぎは大きくしすぎないでください」
「なぜだ?」
「まだ、泳がせます」
ネルソンは賢い。疑いの段階では動かない。
だが関与が疑われているとなれば、焦る。
侍女を切るか。あの侍女に覚悟などない。なにもやってないしね。
面倒だから、消されるだろう。なんなら俺が消してやってもいい。
それってありかな? ガルシアも混乱するだろうし……
放蕩者の大叔父。
あの男は、もう一度餌になる。
兄上が俺を見る。
「体はどうだ」
「平気です」
本当はまだ舌が重い。だが問題ない。
今日の目的は達成した。
毒は本物。
証拠は偽物。
侍女は無実。
だから、ネルソンは否定できる。否定するだろう。
だが疑いは消えない。王族毒殺未遂。
俺は窓の外を見る。
王城の灯り。静かな夜。
ネルソンはまだ知らない。
疑いが、彼の喉をゆっくり締め上げていることを。
そしてガルシアは、また生き残る。
次に震えるのは誰だ。
俺は静かに息を吐いた。
網は、もう閉じ始めている。
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