(番外編)エリナの『しゅうしゅうかんさつにっき』
わたしの先生は、ちょっと変わってる。
ひょろっとしてて、たぶん力はそんなにない。
無精ひげはいつも整ってないし、服装も同じようなのをローテーションしてる。
ごはん、たまに食べるの忘れるし、お風呂も「まあ、明日でいいか」とか言い出す(ちゃんと叱った)
でも、すごいんだ。
古い魔道具を一目で見抜くし、壊れたものから“物語”を見つけ出す。
それに、なんていうか……。
「何かを大事にするってことを、知ってる人」
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わたしは、『しゅうしゅうかんさつにっき』をつけている。
つまり、先生をこっそり観察して、ノートに書いてる。
――先生、今日も書庫で資料の山に埋もれてた。
――お昼ご飯、ハーブパンだけだったので、村のチーズをこっそり差し入れた(ばれてた)
……とか。
ちなみに今日の観察テーマは『ライル先生と精霊フィーリの関係』
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「ライルぅ~、眠い……肩貸してぇ……」
「そもそも君はずっと寝ているじゃないか」
ふわふわ浮いてる精霊さん。風の精霊、フィーリちゃん。
先生の肩の上でよく寝るし、時々わたしの頭にも乗ってくる。
「先生、ずるいです。わたしの肩にも乗ってください!」
「いや、それは物理的に不可能だろう……」
「……不公平です」
ぶすぅ。
……って顔をしたら、先生が、ちょっと笑った。
「……わかった、じゃあ、次は知識の重みでも教えようか」
「肩が抜けそうになりそうなやつはノーです!」
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そういう他愛ないやり取りが、楽しい。
先生は、ときどきすごく遠くを見る。
多分、誰かを思い出してる。旅の途中で出会った人とか、大事な人とか。
だからこそ、思うのだ。
わたしも――
「先生の今に、ちゃんといたいなぁって」
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観察記録、続き。
――先生、今日も棚の道具を磨いていた。
――あの壊れたランタン、ちょっと動いたかもって言ってた。たぶん、何かに反応した。
……実は、わたしが夜中にこっそり魔力を流してみた。
先生の大事なものに、少しでも近づきたくて。
ばかだな、って思うかもしれないけど――
でも、わたしは本気で収集家になりたいの。
道具の力じゃなくて、想いを見つけられる人に。
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観察日記、最後のページ。
――先生にほめられた。「いい感性を持っている」って。
――わたし、泣きそうになった。ううん、ちょっと泣いた。
先生に近づくには、きっと時間がかかる。
でも、わたしはあきらめない。
だって、知ってるから。
先生が拾ったものを、大事に、ぜったい捨てない人だって。
だから、わたしも――
拾ってもらったままで、ちゃんと、ここにい続ける。
それが、わたしの収集だから。




