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(番外編)エリナの『しゅうしゅうかんさつにっき』

 わたしの先生は、ちょっと変わってる。


 ひょろっとしてて、たぶん力はそんなにない。

 無精ひげはいつも整ってないし、服装も同じようなのをローテーションしてる。

 ごはん、たまに食べるの忘れるし、お風呂も「まあ、明日でいいか」とか言い出す(ちゃんと叱った)


 でも、すごいんだ。


 古い魔道具を一目で見抜くし、壊れたものから“物語”を見つけ出す。

 それに、なんていうか……。


「何かを大事にするってことを、知ってる人」


====


 わたしは、『しゅうしゅうかんさつにっき』をつけている。

 つまり、先生をこっそり観察して、ノートに書いてる。


 ――先生、今日も書庫で資料の山に埋もれてた。

 ――お昼ご飯、ハーブパンだけだったので、村のチーズをこっそり差し入れた(ばれてた)


 ……とか。


 ちなみに今日の観察テーマは『ライル先生と精霊フィーリの関係』


====


「ライルぅ~、眠い……肩貸してぇ……」


「そもそも君はずっと寝ているじゃないか」


 ふわふわ浮いてる精霊さん。風の精霊、フィーリちゃん。

 先生の肩の上でよく寝るし、時々わたしの頭にも乗ってくる。


「先生、ずるいです。わたしの肩にも乗ってください!」


「いや、それは物理的に不可能だろう……」


「……不公平です」


 ぶすぅ。


 ……って顔をしたら、先生が、ちょっと笑った。


「……わかった、じゃあ、次は知識の重みでも教えようか」


「肩が抜けそうになりそうなやつはノーです!」


====


 そういう他愛ないやり取りが、楽しい。

 先生は、ときどきすごく遠くを見る。

 多分、誰かを思い出してる。旅の途中で出会った人とか、大事な人とか。


 だからこそ、思うのだ。

 わたしも――


「先生の今に、ちゃんといたいなぁって」


====


 観察記録、続き。


 ――先生、今日も棚の道具を磨いていた。

 ――あの壊れたランタン、ちょっと動いたかもって言ってた。たぶん、何かに反応した。


 ……実は、わたしが夜中にこっそり魔力を流してみた。


 先生の大事なものに、少しでも近づきたくて。


 ばかだな、って思うかもしれないけど――

 でも、わたしは本気で収集家になりたいの。

 道具の力じゃなくて、想いを見つけられる人に。


====


 観察日記、最後のページ。


 ――先生にほめられた。「いい感性を持っている」って。

 ――わたし、泣きそうになった。ううん、ちょっと泣いた。


 先生に近づくには、きっと時間がかかる。

 でも、わたしはあきらめない。


 だって、知ってるから。


 先生が拾ったものを、大事に、ぜったい捨てない人だって。


 だから、わたしも――

 拾ってもらったままで、ちゃんと、ここにい続ける。


 それが、わたしの収集だから。


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