首席入学生
【作中の表記につきまして】
物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。
・距離や長さの表現はメートル法
・重量はキログラム(メートル)法
また、時間の長さも現実世界のものとしております。
・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日
但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。
・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年
・4年に1回、閏年として12月31日を導入
作中世界で出回っている貨幣は三種類で
・主要通貨は銀貨
・補助貨幣として金貨と銅貨が存在
・銅貨1000枚=銀貨10枚=金貨1枚
平均的な物価の指標としては
・一般的な労働者階級の日収が銀貨2枚程度。年収換算で金貨60枚前後。
・平均的な外食での一人前の価格が銅貨20枚。屋台の売り物が銅貨10枚前後。
以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくお願いします。
新学期二日目に初登校した、ある意味で一回生の最重要人物である首席入学生が……その「象徴」とも言える「首席徽章」を、まるで鼻クソでも弾くように背後のゴミ箱へ放り込んだ衝撃を受けたまま一年一組の生徒は「初授業」となる数学の授業を受ける破目になった。
号令が終わって着席をした直後に「カーン、カーン」と二点鐘が聞こえて来た。近所の救世主教大聖堂の大鐘楼に据えられている「大聖鐘」と呼ばれる高さ4メートル、直径2.5メートルの巨大な鐘が文字通り「打ち鳴らされた」音だ。
救世主教の鐘の鳴らし方は鐘の中に吊るされた「舌」と呼ばれる分銅や金片を揺すったり、鐘そのものを動かして鳴らすのではなく、「聖句」が書かれた大きな撞槌を使って外側から「叩いて鳴らす」方式が採用されている。
これは叩いて鐘の音を鳴らす行為が、彼らの崇体である「救世主様に時を知らせる」事になるそうで、これは言い換えると救世主教が時の鐘を鳴らす行為は、その聞かせる対象が地上の人間では無く、「この物質世界のどこかにおわす救世主様」だと言う事になる。
どうやら救世主教は「親切で」地上の人間達に時を知らせているのでは無いようだ。
二点鐘が鳴ったという事は9時、つまり一限目の授業が始まるという合図でもある。
号令後の着席で二点鐘を聞かせた数学を担当する眼鏡を掛けた「やや神経質そうな」女性教官は
「シリル・テイラーです。数学を担当します。どうか宜しく」
と短い自己紹介を終えて
「一年一組というのは入学試験において総合的に最も成績が優秀なクラスです。今年度の最初の授業でこのようなクラスの授業を担当出来る事を光栄に思います」
と付け加えた。
「それでは皆さんに配布されている教科書の最初のページを開いて下さい」
と……一旦自分も教卓の上に広げられた教科書に目を落とし、再び視線を上げた次の瞬間に眼鏡を掛けた彼女……どうやら担任のヨーグ教官よりも二、三年程年上と思われる……の視線と、その教壇上の彼女を凝視する金髪でこちらも眼鏡を掛けた美貌の男子生徒の視線がぶつかった。
テイラー教官はその瞬間、その相手から受ける視線の力に圧倒されてしまい数秒間絶句した後、慌てて再度教卓に視線を落として教科書の下に重ねられた各種資料の中から黒板の隅に掲示されている「席順表」と同じ内容の紙面を探し出して、その内容に視線を走らせた。
どうやら……たった今自分を視線で射抜いたのが「噂の首席入学生」で、昨日の入学式を「すっぽかす」という前代未聞の真似をやってのけた人物だと言う事を瞬時に確認した。
テイラー教官は再度顔を上げて
「えっと……それでは最初のページ……今日はまずここから3ページを使って、簡単な『おさらい』をします。皆さんも恐らくこれまでの学校で習い覚えたものばかりだと思います。宜しいですか?」
と辛うじてその目から感情を消して言葉を捻り出した。あの首席入学生はまだこちらを凝視している。
どうも教科書を見ていないように見受けられたのと、彼女自身これ以上彼の凝視に耐えられないと言った心持ちとなり
「えー……ヘンリッシュ君……でいいのですよね……?私は今教科書の最初のページを開けて下さいと言ったつもりでしたが?」
と教師としての威厳……のようなものを全力で被せて相手に言葉をぶつけた。
「はい。開いております」
「今日は3ページまで書いてある事をやるのですよ?」
「はい。たった今そのように伺いました」
「では何故教科書を見ないのです?」
「見ました」
「見てないじゃないの」
「見ました」
「だっ、だからっ!」
テイラー教官はだんだんと苛立ってきたようで少し言葉を荒げてしまった。
「見ました」
相変わらず同じような言葉を短く吐き続ける首席入学生に向かって
「では『見た』と言い張るならば今すぐここに来て、この黒板に解答を書いてみなさいっ!但し教科書は無しでねっ!あなたは見てないから答えられないでしょうがっ!」
テイラー教官が本日の授業で行おうとしているのは、生徒各員が受けて来ているであろう中等教育における数学の『おさらい』で、最初の授業でこれを実施することで生徒各員の数学への履修状況を測ろうというのが目的である。
なぜこのような事をするのかと言うと、実は中等教育というのはレインズ王国においては「義務教育」では無く、その為に国内各地の中等教育「相当」の履修内容にバラつきがあるからだ。
それは数十倍の難関を突破してきた士官学校新入生も例外では無く、入学考査設問委員会の数学担当教官が「これくらいなら習ってきているだろう」と想定して作った数学科正答率が例年……今年は特に低い事がそれを物語っている。
「承知しました」
ルゥテウスは静かに立ち上がり、ゆっくりとした所作だが実際は目を疑うような速度で黒板前まで移動してきた。この不思議な首席入学生の動きだけでも同級生一同からざわめきが起きた。
そして彼はチョークを持つと、凄まじい勢いで黒板に文字と数字を美しい字体で書き始めた。
横で見ていたテイラー教官が止める暇すら無い程の速度であった。
「ちょ、待って、ちょっと!」
慌てて彼女が止めた頃には、黒板のスペース一杯を丁度使ってテイラー教官が最初に指定した3ページ分の図式や計算式、解答が測ったかのような間隔で書き記されていた。
ルゥテウスはテイラー教官に向き直り
「以上です」
と短く言うと来た時と同じような動きと速さで自分の席に戻って着席した。そしてまたしても教壇の上で茫然としている彼女を凝視する。
最早同級生一同も声を失っており、教室内は衝撃の余り固まってしまっている教官も含めて時間が止まったかのように静寂に包まれた。隣の二組で何やら歴史の楽しさを説明している別の男性教官の声と、その教官の冗談話を聞いて笑っているその生徒の声がはっきりと聞こえるくらいだ。
この衝撃は、その板書を至近距離の席で見ていた「級長」のリイナ・ロイツェルも例外では無かった。彼女は……はっきり言って数学が「苦手」だった。
裕福な階級で生まれ育ち、将来の軍官僚に対する希望も自覚もはっきりと持っている彼女が「6番」という席次に甘んじたのはこの数学の低い正答率が原因なのだ。
正直言って、教科書を開いた彼女はその3ページの内容を見て「これをたった一限で……」と思ってしまったくらいなのである。そして更に言うとその思いはクラスの同級生ほぼ全員が同じであった。
なぜ「ほぼ」全員なのかと言うと、一人だけ……たった今その解答を詳細且つ美しく黒板に書き記した生徒だけは
(こんな低レベルの内容を高等機関たる王立士官学校でやらされるとは……)
と外見には出さずとも、心中で困惑していたからだ。
《賢者の知》を持つ彼にしてみれば、当然だがこのような「子供が習う」問題を解くのは全く労を費やさない。
それどころか、3ページ以降の内容……この数学科の授業で一年という時間を掛けて行うであろう内容を既に授業前に教科書を一捲りしただけで把握している。
そしてその内容は彼の亡き母アリシアが祖父から製薬について学びながら書き記したノートの内容よりも稚拙であったのだ。
(いやいや。これはまだ一回生の内容だ。来年進級すればそれなりに難度も上がる。きっとそうだ)
そう思い込む事で、彼の心中は困惑から苦笑に変わった。
数十秒が永遠に感じた静寂の中でテイラー教官は、漸く我に返って自らがムキになって命じた首席入学生が黒板に残した美しい字体と美しく整えられた解答群に目を通した。
「合ってます……全て……3ページの終わりまで……」
そこまで言うのがやっとで、更に「つい」うっかり
「流石……数理科の試験で満点を取っただけの事はあるわね……」
と余計な事を漏らしてしまった。
(なっ!まっ、満点……満点ですって……!?)
この教官の呟きにも似た言葉を茫然としていた状況で聞いたリイナは頭の中がパンクしそうになった。
普段から「余計な言葉は口にしない」という生活を自らに課して来ている彼女以外の生徒一同はそういうわけには行かずに
「えっ!?満点!?」
「満点って!?」
「入試の科目で満点を取る奴なんて本当に居るのかっ!?」
と口々に騒ぎ始めた。
今や教室中がハチの巣を突いたように騒然とする中、当のルゥテウスだけは教壇上で狼狽するテイラー教官を黙って凝視し続けている。
「せっ、静粛にっ!静粛にいっ!静かにしなさぁいっ!」
今年で30歳になるテイラー教官が顔を真っ赤にしながら絶叫混じりで一組の生徒を制すると、漸く他の生徒も落ち着き始め……やがて教室はまた静かな空間に戻った。
どうやら隣の二組も、この教室から発せられた女性教官の絶叫を聞いたのか、先程の笑いが混じった楽しそうな雰囲気から一転して何も聞こえなくなっている。
「ご、ごめんなさいね。ヘンリッシュ君……。私はどうやらあなたを誤解していたようね」
先程のムキになって黒板に解答を記すように命じた態度からは一転して、混乱からの絶叫ですっかり気力を使い果たし……肩を落とした様子でテイラー教官は首席入学生に謝罪をした。
「あなたにとっては……この程度の内容なんて……逆に腹が立つでしょうね……」
すっかり萎れてしまった女性教官に対して、ルゥテウスは口を開く。
「いえ、教官殿。私は別段あなたに対して隔意は抱いておりません。そしてあなたの授業内容に対しても同様です。
私はただ命じられて行動しただけであり、これは教官と生徒の関係として特に間違っているとは思えません」
「そ、そう……」
余りにも意外な首席入学生の言葉にテイラー教官もどう返事をして良いのか分からない。
「もし宜しければ授業をお続け頂けませんでしょうか」
「そ……そうね……」
力無く言葉を返す女性教官に対し、他の生徒からも
「教官っ!お願いしますっ!」
と声が掛かった。リイナも漸く衝撃から立ち直り
「テイラー教官……。授業の再開をお願い致します」
とクラスの代表たる級長として授業再開を要請した。
「で、でも……もうヘンリッシュ君が全部答えを書いてしまっていますからね……」
テイラー教官は改めてルゥテウスが残した板書を眺めながら
「それでは皆さん、まずはこの黒板の内容を全てノートに書き写しなさい。この解答は全て完璧です。次の時間にこの解答に沿って問題の説明を致します。なので間違えずに書き写して……もし出来れば次の時間までに予習をしてきておいて下さい」
「はいっ」
「了解です!」
「分かりましたっ」
口々に承諾してノートに板書の内容を書き写し始める生徒達。一組の教室は先程とは一転して彼らがノートに板書を書写するペンが走る音だけが聞こえる状況になった。
手持無沙汰になったテイラー教官は、当たり前だが他の生徒のようにノートへの書写を必要とせずにひたすら自分を凝視し続ける首席入学生の席に歩み寄って、彼女をそれでも見上げるこの美しい生徒に
「ヘンリッシュ君……その……何故あなたは私をずっと見ているの?私にはあなたが教科書を見ずにずっと私を見つめているように思えたのよ……」
と、何故か顔を赤らめながら尋ねた。
「私は授業を受ける者として教官殿の話を一言一句聞き逃さないようにしているだけです」
ルゥテウスはしれっとした態度で答えた。
「そ、そう……その心掛けは素晴らしいけれど……あなたがこの席から教壇に居る私に視線を送ってこられると落ち着かなくなるのよ……あなたのような優秀な生徒に対して何か間違った事を言っているのではないかとね……」
今年で30歳になる眼鏡を掛けた女性教師は自身の半分の年齢でしかないこの新入生に対して、教官とは思えないような態度でムニャムニャと訴えかけた。
「そうでしたか。それは失礼致しました」
ルゥテウスが無表情で謝罪すると
「うん……ごめんなさいね。これからはもっと視線を下に向けておいてくれないかしら」
「承知しました。それが教官殿の命令であるならば従います」
「うん……本当に……ごめんなさいね……」
と言い残してテイラー教官はどういうわけか少し小股の足取りで他の生徒の書写の邪魔にならないように教室の引き戸側に移動した。
このやり取りを近くで聞いていた生徒達は書写を続けながら笑いを堪えるのに必死である。
結局、一年一組の初めての授業……数学は生徒一同が「完璧な解答」をノートに書き写す事が出来たので、これを手掛かりに各自予習復習が出来るようになってむしろ大成功に終わった。
やがてチリンチリンという音が廊下の彼方から聞こえて来た。職員が一限目の終了5分前の予鈴を手鐘で鳴らしながら廊下を歩いているのである。
「では皆さん、書き写し終わってますか?」
テイラー教官の問いに生徒達から「はいっ」という明るい声が返って来た。
「では次の時間でこの解答を解説しますので時間があったら自分達でもう一度目を通しておいて下さい」
「はいっ」
生徒達の返事を聞いたところで
「では……色々ありましたけど、今日はここまでにします。号令をお願いします」
テイラー教官は苦笑いを浮かべながらリイナに号令を命じた。授業開始当初は神経質そうな印象だったのだが、今ではすっかり「可愛い先生」という印象に代わっており、生徒達もおかしくて仕方が無い。
号令を終えて女性教官が引き戸を開けて廊下に去るのを見送りながら
(まぁ……アイツのおかげで予習が捗るけど……まさか数理が満点とはね……私との差はどれくらいあったのかしら……)
と、リイナも喜んでいいのか悔しがっていいのか解らなくなっていた。
その級長の感情の矛先となっている首席入学生は、数学のノートをさっさと机の中に仕舞って……いるように見えるが……そのまま、また背筋を伸ばして目を閉じてしまった。
面白いのは、そんな彼の近くの席の生徒達がこの「凄い首席」の事を「種」にして、入学二日目でまだ見知らぬ者同士だったのが会話を交わす切っ掛けになっている事である。
女子生徒達はこの時間にトイレに立った際に同じクラスの生徒だと気付いて
「ヘンリッシュ君は凄いよね……」
「そうね……ちょっと今までああいう人は見たことが無いわ」
「それにちょっと面白いわよね」
「あっ、ヘンリッシュ君て……あの噂の首席の人?」
「そうそう」
等と、他のクラスの生徒とも会話が生まれるようになっていたのである。
そのトイレで既に女性達の噂の的になっている当のルゥテウスは、相変わらず目を閉じて瞑想するように動かずにいたのだが
「へ、ヘンリッシュ君……。あ、あの……私の事……覚えてますか」
と、突然声を掛けられてゆっくりと目を開いた。彼の目に映っているのは、少し遠慮がちにこちらを見ている女子生徒であった。
「おぉ。お前か。そうか……お前も合格してたんだな。おめでとう」
このルゥテウスの言葉を聞いて、周囲の生徒は驚愕した。まさかこの驚異の首席入学生に話し掛ける勇気を持つ女子生徒にも驚いたが、それに対して彼が返事をしたどころか入試合格を祝福する言葉まで吐いたのだ。
「お前も同じクラスだったのか。気付かなかった」
ルゥテウスが苦笑すると
「うん……私……隣の列の前から二番目……級長さんの後ろなの。私って普段からちょっと目立たないから……」
「そうかそうか。宜しくな。おっ……まだ名前を聞いて無かったな。俺はマルクス・ヘンリッシュだ」
恐ろしいことに担任の強面教官に対してさえ積極性を欠く態度だった自己紹介を自分から行ったのだ。
「うん……知ってる……。私はケーナ・イクルです。宜しくお願いします」
「イクルだな。俺の事は好きに呼んでくれ。マルクスでもいいしヘンリッシュでもいいしな」
「でもヘンリッシュ君は凄いね。首席だなんて……。同じ日に面接を受けたのに私なんて21位だったよ……」
「そんな事は気にするな。たかだか20人の差ではないか。この三年間でそれを埋めるように頑張れば良いのではないかな」
「えっ……いや……その20人の差を埋めるのは難しいかなぁ……」
どういうわけかこの目立た無さそうな短い濃い茶色の髪で目がクリっとした女子と話し始めた首席入学生を見て他の生徒も
「わっ、私はニルダ・マオです。36位でしたっ!」
「俺……俺は51位だったハリマ・オイゲルですっ!」
「僕は、その……71位のセイン・マクビットです……よっ、宜しく……」
等と一斉に自己紹介をしてきた。
(そう言えば俺は昨日居なかったから、こいつらの名前を全く知らんのだな……)
そこでトイレですっかり仲良くなった他の女子生徒達も教室に戻って来ると
「あれっ!?ヘンリッシュ君の周りに人が集まってるっ!」
「本当だ!なんか自己紹介してるね」
「わっ、私もやらなきゃ!」
と、言うような感じで更に彼の周りに人垣が出来て皆、口々に自分の名前をこの首席入学生に覚えて貰おうと呪文のように繰り返していた。
これには流石にルゥテウスも困惑の表情を浮かべて
「済まんが……俺もそれ程記憶力は悪い方では無いのだが、こう一斉に名乗られても覚え切る事は難しい。これから徐々に覚えて行くから今日のところは勘弁してくれ」
と謝罪すると
「そうね。考えてみたらそうよね……」
「分かった分かった。仕方無いよな」
「うんうん」
と周囲の連中も理解を示してくれたようだ。
「考えてみると……まだヘンリッシュ君と級長の名前しか覚えてないわ……俺」
「そうね……自分すらそんな感じなのにヘンリッシュ君一人にいきなり覚えて貰えるわけ無いか」
という言葉に皆大笑いし始めた。奇しくも昨日の入学式を欠席したこの首席合格者がどんな者なのかも解らず、「とりあえず言われたので」お互いに自己紹介した翌日、漸く現れたこの驚愕すべき美貌の男子をつい一時間前まで知らない者同士で皆、腫れ物に触るように接していたのである。
そんな恐るべき彼によって、いつの間にか周りの皆は言葉を交わすようになっている……何という不思議な事だろうか。
(まるで「魔法」みたいだわ……)
苦笑を浮かべる首席入学生を眺めながらケーナは思った。
思えば彼を最初に見たのは筆記試験の三日目だった。どうやら自分と彼は違う時間割で動いていたようでそれまでの二日間は全く彼の存在を知らなかったのだが、最後の一般教養科の試験が終わったところで今まで見た事も無いような綺麗な顔をした男性を見て驚いたまま後に着いて歩いていたら……。
突然自分を突き飛ばすように後ろから走ってきた男に彼が襲われそうになっていた。
自分が気付いた時には既に彼は騒ぎに割って入って来た先輩在校生の女性を言い負かしていて……。
その後、自分が何をやったのか解らないが……彼からお礼を言われて頭の中がまた真っ白になった。
次に遭ったのは面接試験の時だった。どうにか筆記試験を突破して面接試験まで残ったけど、緊張の余り前の日までに考えていた面接官からの質問への対策が全部頭から飛んでいた時に、突然目の前の扉から彼が出て来た。
彼は自分を覚えていてくれた。そして「頑張れ」と励ましてくれた。おかげですっかり緊張が取れてその後の面接試験も上手く行ったのだ。
そして昨日の入学式に現れなかった噂の首席合格者がまさかこの人だったとは……。おかげですっかり名前を覚えてしまった。
ケーナが色々と思い出しながらボーっとしていると、またしても手鐘の鳴る音が廊下から聞こえて来た。次の授業が始まる5分前、9時55分の予鈴だ。
チリンチリンという手鐘の音を聞いて、他の生徒もそれぞれの席に戻って行った。皆席に戻っても隣の席の者と楽しそうに話している。どういうわけか、この不思議な首席入学者が切っ掛けとなって生まれた空気だ。
ケーナも自分の席に戻ると、前の席に座る級長の白い横顔が見えた。彼女が少し険しい顔をしているようにケーナは感じた。
(この人……ロイツェルさんはヘンリッシュ君を時々睨んでいる……。彼の事が嫌いなのかな……)
ケーナが今度は前に座るリイナの事を思ってボーっとしていると、そのリイナが突然「起立っ!」と鋭い声で号令を出した。
ケーナが我に返って慌てて立ち上がると教壇には既に二時間目の歴史を担当する一年三組の担任で、先程の時間は二組で笑い声が聞こえる楽しそうな授業をしていたロス・キュール教官がニコニコしながら立っていた。
二時限目の歴史の授業もやはりマルクス・ヘンリッシュを巡って騒ぎになった。
歴史担当教官のロス・キュールは、事前の資料でこの首席入学者が自分が専門とする歴史科において、他の科目と比べ「やや」精彩を欠いていた事を調べ上げていた。
それでもその正答率は9割強。ルゥテウス本人は八割四分くらいと見ていた節があるが、実際は彼が正答した古い時代の歴史問題の方が設問が多かったのだ。
それはそうだろう。何しろ、設問側からすると歴史という科目は「古い時代の方が難しい」のだから。
古い時代に関してはこの世界のいかなる史学の泰斗であってもルゥテウスの足下にも及ばない。彼らは文献や遺跡から歴史を知るが、「黒き賢者」は同時代の「記憶」を持っているのである。
特に地上を一度滅ぼした「大戦争」以前の歴史的知識においてはどれ程の者でもルゥテウスの万分の一程度しか知る事は無いのだ。
そして自信満々で臨んだキュール教官の目論見が狂ったのは、歴史の授業とは基本的に「古い時代」から単元が始まるのである。
こうなると最早年表の日付までしっかりと記憶している首席入学者に一介の士官学校の歴史教官が太刀打ちできるわけも無く、キュール教官が繰り出す古代の歴史に基づく難問奇問を首席入学者は顔色一つ変える事無く、間髪入れる事無くスラスラと答えて行き、教官のみならず「歴史がちょっと得意なんだ」と大口を叩いていた歴史マニアの女子生徒さえも驚愕させた。
そして、その歴史大好きな女子生徒アミナ・エリエは今まで知らなかった新たな歴史知識まで得られた。
三時限目は絵画の授業だ。軍士官という職業において、「絵を描く能力」というのは意外に重要で、偵察隊として敵の陣形を絵記号と地形図で机上再現する必要があったり、標的となる敵士官や指揮者の似顔絵作成に余計な「感性の付け足し」やデフォルメは禁物だ。
陸軍において30年もの間、従軍絵師を務めた経歴を持つ美術講師ナテル・メイオスは、ルゥテウスの描いた精密な「右隣の席のニルダ・マオ」の似顔絵を見て仰天した。
メイオス講師の経験では、彼のような「秀才型」と見られる生徒はその絵心も個性的な事が多く、あまり芸術面に才能を発揮し辛いという傾向があったが、この首席入学者の描く絵画は「目の前の対象を精密に再現する」という才能において先天的に何かを持っているとしか言い様が無いレベルであった。
ルゥテウスは母アリシアから大いなる写生の才能を受け継いでいたようで、年齢を重ねるにつれて亡き母が遺してくれたノートに描かれているような精緻な対象模写を行えるようになっていた。
あまりにも精密に描かれた自分の似顔絵を見たニルダは
「わ、私はこんな顔じゃない!」
と一応の抗議を試みたが
「いや、お前だ。これはもうお前以外の何者でも無い」
「もう、お前自体が紙の中に閉じ込められていると言われても信じるレベルだ」
等と周囲から笑いと共に散々に言われた挙句
「お前がこの絵を見て違和感を抱くのは、お前はお前自身の顔を鏡でしか見た事が無いからだ。鏡像は左右反転で映される。左右がひっくり返っているだけでも人間の顔は随分と違う趣を与えるのだ」
と、この似顔絵を僅か三分で描き上げた左隣の席の首席入学者に告げられると、
「その通りだ!いやぁ君はやはり本質が分かっている!」
と再び美術講師の称賛を受けていた。
午前中の授業が終わった時点で、本日初登校の首席入学者はまさに無敵の才能を周囲に見せつけ
「こういう人が首席卒業の『金時計』を貰えるのだろうな」
と同級生に納得されていた。
彼らの言う「首席の金時計」とは士官学校にだけ存在する伝統で、席次上位者に贈られる「短刀」とは別に、総合的に学年の首席となった者にのみ贈られる最高の栄誉だ。
当然ながら、この金時計を与えられた者こそが卒業式で「総代」として答辞を読み上げる事となる。金時計授与者はこれまでの士官学校ではほぼ全てが任官しており、多くの同窓生を抑えて「最先任少尉」となって、最終的には将官へと進級して勲爵士に叙任されるケースが大半だ。
但し、この金時計授与は必ず毎年の首席に与えられるものでは無く、例年と比較して全体的に成績が振るわなかった年には授与者が出ない……と、言うよりも「授与者が出ない」年の方がむしろ圧倒的に多い。
ちなみに……今年の5月に行われた前年度の卒業式でも金時計授与は実施されず、それどころか最後に金時計が授与されたのは3041年度の首席へのものであったので、ここ7年連続で士官学校は金時計授与者を輩出していない事になる。
そしてその金時計授与の有力な候補になるかもしれないと思われた今年の入試首席合格者は入学式を欠席したばかりか、既に面接試験の時点で任官拒否の意思を示していた。もう滅茶苦茶である。
三時限目が終わると昼休みとなり、構内各食堂で給食が支給される。筆記試験の三日間で食べた「口の数を優先した」ものでは無く、頑健な肉体と高い士気を養う為の食事、いわゆる「軍隊飯」だ。
あの三日間の時のように構内各所に点在する指定食堂に向かって長距離の行軍のような集団移動をする必要も無く、ただ廊下を200メートル程歩くとこの本校舎を利用している者が全員座っても椅子が余るくらいに大きな「第一食堂」に辿り着く。
後はそこで適当に並べば軍隊飯にありつけるのだ。ルゥテウスは三時限目の終わりとなるリイナの号令が終わるとすぐに廊下へ出て本校舎を東端に向かって歩き始めた。例によってその優雅な足取りに比べて歩く速度は恐ろしく早く、後に続いた同級生の面々はあっという間に置いて行かれてしまった。
ケーナ達が漸くと言った感じで第一食堂に辿り着くと、ルゥテウスは既に本人は目立たないようにするつもりなのか、セルフサービスの配膳台から一番遠い場所にある隣の警衛本部側の壁際の椅子に座って、これだけは入試の時と変わらない固いパンを齧っていた。
他のクラスの一回生は、それが噂の首席入学生だと判っていながらも近寄り難いのか、彼を遠巻きにして座っており、更に一組のようにマルクス・ヘンリッシュを中心にお互いが仲良くなっているわけでも無いので、独りで黙々と食べている者が多かった。
「ヘンリッシュ君は意外と食事が好きなんだね……。あの時も食事が摂れなくなる事を案内係の先輩方に対して訴えていたよね?」
ルゥテウスの周囲に陣取った一組の連中がワイワイ言いながら食べ始め、ルゥテウスの向かい側に座ったケーナが以前の事を思い出してこの首席入学生に尋ねていた。
それを聞いていた周りの連中も、この「見た目は長身だが華奢」に見える美貌の男子生徒が意外にも悪く言うと「食い意地が張ってる」事に驚いていた。
「ふむ……そうか。そう見えるのか。なるほどな」
と、当のルゥテウスが呟いたので不審に思ったケーナが
「もしかして……何か理由があるの?経済的な問題とか?」
と心配そうに尋ね直すと、ルゥテウスは突然笑い出して周囲を驚かせ
「仕方が無い。お前達には教えておいた方がいいな。お前達自身の為にもなる可能性がある」
と言い出したので彼の話を笑いながら聞いていた一同は急に不安になり、笑い声も起きなくなった。
「これは……今の時代の士官学校ではもう採点対象にはなっていないと思いたいのだがな……」
と無敵の首席入学生の口から「採点」という単語が出て来たので一同は尚も不安が収まらない。
「軍隊と言うのはな、『食う』事も戦いなんだ。例えば最前線……それも戦闘中なんかだと次はいつ飯が食えるのか判らない。だから決められた時間に決められた場所で決められた量の食事をしっかり摂るのは軍人として当然の素養なんだぞ」
真剣な表情で……それでもパンを齧りながら食事の大切さを説く首席入学生の言葉に周囲の者……少し離れた所で独り食事を摂っていたリイナでさえも耳を傾けている。
「海軍でも同様だ。海の上で突然の荒天に見舞われたり、海棲の魔物の襲撃によって航行装置が破壊されたりして漂流なんてしたら食糧などすぐに失くなる。
その時も生還する事を大前提に給食計画を練り直さないといけない。船にはお前達以外にもそれを動かす為の水兵や下士官が大勢乗っている。
そいつらの体力も温存してやらないといけない。自分だけが助かろうとしたって、そいつらが居ないと軍艦なんて動かないんだ」
「食事は軍隊において戦闘力と士気を維持する為に最も重要な要素だ。そして話は戻るが、そういった『毎食の食生活における規律評価』という成績評価基準というものが確かに存在した時代があった」
「えっ!?」
「つまり、決められた時間……この昼休みだな。そして決められた場所……まぁ俺たちならばこの第一食堂が適当だろう。そして決められた量……体調が悪いだの美容に悪いだの言って飯を抜いたりすることだな。
これらの要素を一つでも蔑ろにすると成績に影響する……入試の場合は評点の減算に繋がったりしていた事があったんだ」
「そっ、そうなんだ……」
「だから俺はあの試験の日にバカな奴に絡まれて案内係に拘束されかかった時もそういった評価への影響についてお前達は責任が持てるのかという意味で奴らに抗議したんだ」
「あっ!そうかっ!あれはそういう事だったのね!」
ケーナはあの時、正直言って目の前の美しい受験者が案内係を率いていた女子在校生に対して何やら聞きなれない法律の話等を持ち出して抗弁していた意味がさっぱり解らなかったが、今の説明を聞いて漸く合点が行った。
彼は「食いっぱぐれる」事自体を嫌がったのでは無く、「食いっぱぐれる事によって」減点の対象になることを嫌がったのだ。
「あの後の面接試験で、俺は面接官に思い切ってこの事を聞いてみた。その人は苦笑しながらも『時折そういう評価方法を採る試験官は今でも確かに居る』と言っていたぞ」
「えっ……本当に!?」
「特に来年以降、陸軍科を選択する奴は注意する事だ。演習中の食糧摂取は結構見られる。疲れているからと飯を抜くと確実に減点されるからな」
そう言っている間にもこの優等生はスープも飲み尽くしてさっさと食事を終えていた。
彼の話を聞いた者達は一斉に自分の前にある食事に急いで飛び付いた。
固いパンを急いで飲み下しながらケーナは
「でもヘンリッシュ君は任官しないのでしょう?何でこんな食事の事まで気を遣うの?」
彼女の問いに対して食器を戻そうとしていたルゥテウスは
「俺は法令や軍律には忠実に従うつもりでいる。但しそれに依拠しない、どこぞの誰かが勝手に作った『慣習』や『慣例』においてはその限りでは無い」
そう言って彼は食器を返却口に持って行き、そのまま食堂から姿を消した。
「なるほど……確かに……彼の行動を見ているとまさしくそのままだな」
誰かが呟くと食堂に残された者達は皆一様に頷いた。恐らく彼は法令や校則に基いた命令で無ければ海軍大将である今の学校長の命令でも従わないのだろう。
「あんな見た目なのに……凄い覚悟だな」
先程からルゥテウスの話を離れた場所で聞いていたリイナは
(違う……アイツは明らかに他の……上級生でトップと言われている先輩方とも違うんだわ……。
アイツにとって大切なのは士官学校生として普通の法律と共に軍法も遵守する事……そして『戦に負けない』事……。
それに比べたらこんなちっぽけな徽章一個、どうでもいいんだわ……)
それまで首席入学生に対して嫉妬に似た感情を抱いていた考えを改めた。
(アイツは凄い……アイツなら……)
リイナは何故か顔を赤くしながら必死にパンを飲み下した。
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本日の一組の時間割は昼休み開けの四時限目は理科、最後の五時限目が「軍学」だ。
理科と言っても内容は植物や生物についてのもので、自然科学が一握りの錬金術師や魔術師を含む学術関係者だけのものであった事に対して、食べられる植物の判定方法や毒を持つ生物への対処等、ルゥテウスの祖父ローレンが専門とした「薬学」に近い内容だ。
これはもう、祖父譲りの薬学を修めているルゥテウス本来の得意分野であり独壇場である。しかし本気を出して自らが持つ薬学知識を開陳すると教室が大混乱になる為、母アリシアが遺したノートのごく初期の内容を少し小出しにする程度に留めた。
それでも理科教師のアティム・タルクの持っていたそれまでの薬草全般に対する知識をひっくり返しかけて多少気まずい雰囲気にまでなった。
タルク教官も、相手は数理科で満点を取った首席入学生である事、そして昼休み中に午前中の一組の授業を担当した他の教官から、彼の異能ぶりを十分に聞かされて来ていたので殊更大げさに騒ぐ事無く四時限目は終わった。
ケーナは前の席に座っているリイナが時折隣の列の一番後ろの男子生徒を見る目に変化が出ている事を認めた。
(あれ……?ロイツェルさん……。ヘンリッシュ君を見る目が朝の頃と変わってる……)
五時限目の軍学では、軍隊生活の初歩として各種礼式を教わることとなった。
軍隊の敬礼とは、いくつか異なる方法があり今のように室内で無帽である場合、逆に制帽を被っている場合、屋外の場合等幾つかありそれを状況に応じて使い分ける必要がある。
そして一見簡単そうに見える敬礼も指の位置や肘の角度、足の爪先の開度等の細かい規定があり隊礼教官のオーレル・キンバリーは大柄な体で何度か見本を示し、繰り返し生徒達に実行させた。
しかしやはりここでもマルクス・ヘンリッシュの挙措は群を抜いていて、普段から一見ゆっくりにも見える優雅さで不思議な程に機敏な動きをするのだが、これが軍礼動作ともなるとメリハリのある美しい所作で、キンバリー教官も「素晴らしい!君には教える事は無い!」と拍手をしながら絶賛していた。
確かに他の生徒達から見ても、彼の所作は魅入るくらいに素晴らしく「彼のような動きを目標にしろ」と教官に言われた一同はルゥテウスの動作を見ながら見様見真似で敬礼動作等を練習していた。
こうして、五時限目の授業が終わり一日の昼間授業が終わる四点鐘が聞こえて来た。入学二日目にして初めて登校してきた噂の首席合格者の実力は本物で、男女分け無く同級生一同はすっかりこの美しい男子生徒に魅了されてしまっていた。
朝礼以来で自分の担当クラスに戻って来たドライト・ヨーグ教官は、僅か半日の間に自分のクラスがすっかりこの首席入学生を中心として馴染んでいることに驚いた。あの級長に急遽命じられたリイナ・ロイツェルですら彼を見る目が和らいだものに変わっている。
(なっ……何だこいつは……これは……このカリスマ性は一体……)
職員室で遭った本日一組を担当した教官達も口を揃えてこの首席入学生を称賛していた。
理科担当のタルク教官は
「これは多分……彼がどの軍科を選択しても彼の首席は三年間動かないと思いますよ」
とまで言っていた。そして何よりも今年度から一回生の「学年主任教官」に就任したタレン・マーズ大尉……あの大貴族ヴァルフェリウス公爵の次男だ……が
「彼は多分百年に一度の天才だ。私は彼の面接試験を担当したが……惜しい……あれで任官しないのは惜しいよ……せめて陸軍科に欲しい……海軍科に進ませるのは勿体無い」
と苦笑を浮かべながら話していたのである。
「よ、よしっ!どうやら皆お互いに馴染んで来たようだなっ!」
「明後日の休み明けは体力測定だっ!演習着を忘れるな」
生徒達は一斉に
「はっ!」
と……先程五時限目に習ったばかりの軍隊式の返答法で応じた。
演習着は制服と違い、戦闘訓練や演習で着用する体が動かしやすい支給着だ。士官学校での体力測定はかなりの運動量になるのと、実際の作戦行動に即した種類の測定種目が組み込まれているので、履物も実戦で履くようなブーツになる。
実戦ではこれよりも各所に装甲が施された戦闘着を使用するが、ルゥテウスが考案したトーンズ国軍の軍装は機動力を重視した、むしろこの演習着に近い軽装である。
「よし。それではこれで終礼を終える。号令っ!」
リイナの号令が終わり、各自下校しようとしたその時
「失礼します!」
一年一組の教室の引き戸が勢い良く開いて、自治会長のフォウラ・ネルと、ヨーグ教官よりも立派な体格をした男子生徒が二人で入って来た。
【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ
ルゥテウス・ランド(マルクス・ヘンリッシュ)
主人公。15歳。黒き賢者の血脈を完全発現させた賢者。
戦時難民の国「トーンズ」の発展に力を尽くすことになる。
難民幹部からは《店主》と呼ばれ、シニョルには《青の子》とも呼ばれる。
王立士官学校入学に際し変名を使う。一年一組所属で入試順位首席。
リイナ・ロイツェル
15歳。王立士官学校一年一組の生徒で主人公の同級生。入学考査順位6位。
《賢者の黒》程ではないが黒髪を持つ女性。身長はやや低め。瞳の色は紫。
貴族の出身かと思われる外見に冷静沈着な性格。主人公が辞退した一年一組の級長を拝命する。
数学が苦手。
ケーナ・イクル
15歳。王立士官学校一年一組の生徒で主人公の同級生。入学考査順位は21位。
濃い茶色の短い髪にクリっとした目が特徴だが、ちょっと目立たない女子生徒。
主人公とは筆記試験でイント率いる案内係に連行されそうになったところに彼が無実であるという証人となった事で顔見知りとなる。面接試験でも主人公の後に同じ部屋での受験となった。
シリル・テイラー
30歳。王立士官学校一年五組担任教官。担当科目は数学。独身。
眼鏡をかけてやや神経質な印象を持つ女性教官。あまり男性に対して免疫が少ない人生を歩んで来ているのか、主人公に振り回される。
ドライト・ヨーグ
28歳。王立士官学校教官。担当科目は白兵戦技。一年一組担任。
若き熱血系教官。階級は中尉。新学期二日目から主人公の態度に辟易する。