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黒き賢者の血脈  作者: うずめ
第一章 賢者の血脈
14/129

母の愛

今回をもちまして、ひとまず一人称視点が終了します。一応予定通り……だと思います。


【作中の表記につきまして】


物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。

・距離や長さの表現はメートル法

・重量はキログラム法


また、時間の長さも現実世界のものとしております。

・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日 


但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日弱という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。

・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年

・4年に1回、閏年として12月31日を導入


以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくおねがいします。


 俺は既にウトウトと眠りに落ちかけていた。今夜は何故かベッドで横になってもなかなか寝付けず、色々な事考えているうちに漸く睡魔が来てくれたのだ。


しかし、そんな睡魔を突然リューンの文字が破った。


この家が囲まれている……と文字は出ていた。俺はその文字を見て反射的にベッドから跳ね起き、慌てて靴を履いて部屋の入口に向かった。


 俺が部屋の扉を開いたのと同時に下からユーキさんの怒鳴り声が聞こえ、更に階段から下の様子を窺おうと階段に向かって進むとラミアさんの絶叫らしき声が聞こえてきて、俺はビックリしてしまった。


『待て!ルゥテウス!何かがおかしい……』


 リューンが再び文字を出してきたが、俺はラミアさんの絶叫を聞き、更に何かの叫び声、そしてユーキさんの再びの怒鳴り声。


「テメェら!ぶっ殺してやるっ!」


明らかに何か敵対する者が下に居る。いや、ユーキさんの声は裏口の方から聞こえる。


『ルゥテウス!待つんだ!どうやら結界が張られている!』


(何?結界?何だそれ?)


『これは……多分魔術だな。魔導では無い。触媒の反応がある』


(何だ?結界と言うのは魔術なのか?)


『詳しい話は割愛するが、今恐らくこの家が範囲だな……この家とその敷地だと思うが外から魔法的な力で隔離されている』


(か、隔離?隔離ってどう言う事だよ?この家全体がか?)


『うむ。多分、家屋だけでは無く裏庭も含めて敷地全体だと思うが、単なる押し込み強盗が魔術を使うとは思えない』


(どう言う事だ?)


『つまりこれは……多分《襲撃》だ。お前を狙った襲撃か。だとすると公爵夫人エルダの手の者か』


(え……?あのババァ、今更俺を消そうとしてるのか?)


『そんな細かい事を考えている暇は無い。結界が張られるくらいだから、相手は襲撃の玄人か。職業暗殺者の可能性も高いが、更に魔術を使うとは……エルダの手の者からの襲撃で今までこんな魔術が使われた事など無かったが……完全に裏をかかれた』


 リューンは凄く悔しそうだ。しかしあのババァが、こんな祖父が亡くなってから暫く経った中途半端な時期に俺の命を狙ってくるとは……。俺も全く油断していた。


『とにかくお前は逃げろ。……いや、結界が張られているという事は多分外には逃げられ無いか。どこかに隠れてやり過ごせる場所は……』


(いや、俺は逃げない。とにかく裏口の様子を見に行く)


『待て!やめろ!お前は5歳児なのだ。このような襲撃を仕掛けて来る連中に見つかったらひとたまりも無いぞ!』


 リューンは俺を激しく諫めているが、俺はラミアさんの叫び声を聞いた。放っておいてなどいられないし、逃げられないと言うのであれば今更隠れても、踏み込まれた時点で遅いと思う。


(いくら隠れても相手に魔術師が居るんだろ?だったら簡単に見つかってしまうんじゃないのか?どうせ無駄じゃないか)


『むぅ。確かにそうだ……しかし魔術師を襲撃に加えてくるなど……そこまでしてルゥテウスを消したいのか。エルダは』


 俺はリューンの言葉を後目に階段をそっと下りて一階に下り立った。声と物音がしたのは裏口側だ。しかし裏口側は明かりも無く全くもって暗い。


俺が一階を見回すと厨房のカウンターの上に手提げのランプが置かれている。時計を見ると0時を少し回ったところだ。ユーキさん夫婦も多分もう二階に上ろうとしてたのか。その為のランプだった可能性がある。

俺はそのランプを持って裏口に続く廊下に近付いた。廊下の突き当りの裏口は開け放たれ、ユーキさんの後ろ姿が見えた。


 ユーキさんは背後がいきなり明るくなったので、少し振り返り俺の存在に気付いたのか


「ルゥっ!駄目だっ!こっちに来るなっ!お前は二階に行って部屋の扉を……」


俺にはユーキさんの言葉が耳に入ってこなかった。廊下に出た途端にむせかえる臭い。これは……血の臭いか……?


そして俺のランプに照らされたユーキさんの足下には……ラミアさんらしき人が倒れているのが足だけ見えたのである。


俺はいつもの鈍い調子ではなく普通に声を上げてしまった。


「オバさんっ!」


ラミアさんは返事をしない。ユーキさんが


「ラミアは大丈夫。まだ生きてる。だからお前は早く二階に上れ」


そう言い残してユーキさんは庭に出て行った。


「このクソ野郎共がっ!強盗なんぞチンケな真似しやがって!強盗だっ!強盗だぞっ!」


ユーキさんが大声で叫んでいる。近所に通報しているのだろう。


『恐らくユーキの叫び声は外に伝わっていない。この結界は内部隔離型だ。隔離された内部からは声も光も漏れない。

そして外からは中の様子も見えないし音も聞こえない。もしやすると隔離空間の存在すら感知出来無いようになっているのかもしれない』


(何だと?それじゃどうすればいいんだ。さっきも言ったが隠れるのは難しそうだぞ?魔術師が居るんだろ?)


『おのれ……不覚だ。まさか魔術師が……』


 リューンも相当に動揺している。こんな場所で血脈継承者が命を落としそうになっているのだ。当然であろう。

俺はユーキさんに続いて戸口まで出てみた。そして足元に倒れているラミアさんをランプで照らした。


(左の腰……背中にかけて出血があるな。かなり出ている)


『うむ。多分刺されている。傷はそこそこ深いが直ちに命に係わるような状態では無いと思う。しかし長時間放置すれば当然危ない』


よく見ると、倒れたラミアさんの下に誰かが下敷きのようになって倒れている。


(誰か下敷きになってるな)


『うむ。その者は既に死んでいるな。首の付け根に刃物が刺さってる。状況からしてラミアが反撃したのか』


そして扉の正面には見覚えの無い別の男が転がっていた。血が大量に流れ出しているこの男も見たところ既に事切れているように見える。


 俺はランプを掲げて庭の様子を確認してみた。ランプの灯りは庭一杯には届かない様子だが、それでも人影は何となく確認出来る。


庭の中央にユーキさんがこちらに背を向けて立っていた。ユーキさんと向かい合うように黒っぽいスーツを着た男。その後ろに黒っぽい作業着のような服装の男が二人。そして庭の隅にある裏木戸の辺りにも二人くらい立っているように朧げながら見える。

ユーキさんの表情はこちらからは窺い知れないが、恐らく激怒している表情だろう。何しろラミアさんが刺されているのだ。


 ユーキさんと向かい合っている男は顔はどうでもいいのだが、刃渡りが40センチ以上ある長いナイフというか、もう小剣と言ってもいいくらいの刃物を右手に持って、何やら曖昧な笑みを浮かべている。

やはりただの強盗の類では無い。職業暗殺者のような雰囲気だ。対するユーキさんの右手には包丁が握られている。


俺はランプを地面に置いて、ラミアさんの様子を詳しく調べようとしたその時……


『ルゥテウス!避けろっ!』


突然リューンの文字が浮かんだが遅かった。

俺は背後から急に飛び掛かられて首を絞められた。両手で絞めている。俺を殺す気だろう……。


こんな……こんな所で……こんな所で、こんな奴らにやられてたまるか!俺も殺されて、ユーキさん夫妻も殺されるのか!この人達は関係無いだろうがっ!


―――トクン……トクン……トクン……


右目が……右目が熱い……段々と意識が……。


『ルゥテウス!しっかりしろ!』


と言うリューンの文字も段々と薄れ……。


「ルゥ!この野郎っ!」


 どうやら俺が締め落とされる寸前にユーキさんが背後の奴に飛び掛かったようで、突然首を絞めつける手が緩められて俺は再び意識を取り戻した。しかし右目は熱いままだ。


そして俺が見た光景は……。


俺を助けに来てくれたユーキさんの背後から更に対峙していた男が追いすがり……その右手の小剣を振りかぶってユーキさんが包丁を持っていた右手を切り下げた。

ユーキさんの右手は肩よりも少し下で切断され、右腕が地面に落ちた。


ユーキさんの絶叫……。


そして俺の背後から首に掛けられた曲者の力がまた強められて……


今度こそ俺の意識は無くなって行く。右目が熱くなったまま、両目ともに目の前が暗くなって行き……。


―――トクン……トクン……トクン……


****


―――パキィィン


 どこかで聞いたような音がした。


 いつの間にか、俺の目の前には海鳥亭の暗い、ランプで照らされている光景では無くなっていた。刺されて倒れたラミアさんの姿も、右腕を切り飛ばされたユーキさんの姿も、そしてあの曲者達の姿も無く……。


 目の前には見事なプラチナ色をした長い髪を持ち、何か活動的な赤いタンクトップに革のバックパックを背負った美しい女性が崖の上から川を眺めている姿が映っていた。

俺は暫くその光景を目にしていたが、突然俺の意思とは関係無くその女性に近付いて行くと、その女性はこちらを振り返り、驚いた顔をしていた。音が全く聞こえない。女性は何かこちらに話し掛けているのだが、その声は全く聞こえないのだ。


 暫くして俺は、この映像が誰かの「視点に映るもの」をそのまま俺が見ているのではないかと気付いた。ただ「視覚だけを借りた」状態。だから自分の意思では動けないし、音も聞こえない。


(一体どうなっているんだ……?)


 美しい女性は相変わらずこちらを見て何かを話し、そして何かの話を聞いているようでもあった。どうやら俺の「視界の主」と何か会話を交わしているらしい。

読唇術など身に着けていない俺は彼女が必死になってこちらに何かを問い掛けているような内容も解らないままだ。

その表情も様々で、難しそうに考えていたり、興味深そうに何かを問い掛けているような表情をしたり、笑い転げている表情、何か思い詰めた表情……。


 そして彼女は何かを決意したかのような固い表情でこちらに何事か話し掛けていた。暫くして彼女は眼を閉じ……。

こちら側、つまり俺の視界の持ち主が彼女に何かしている。視界の端々に手が見える。何か儀式のような事をしているのか?解らない。


 儀式のような動きは随分と長い間、体感にして30分くらいだろうか。その間、彼女は身じろぎ一つせずにその何かを受けていた。すると……。


突然、彼女の髪が真っ黒に変わった。


あの見事に輝いていたプラチナ色の髪が……どこかで見たような真っ黒な色に……。


(これは……《賢者の黒》じゃねぇか!?)


そうだ。俺が今見ている彼女の髪は《賢者の黒》だ。髪の毛が、あの真っ黒になった様子は初めて見たが、何か物凄く圧倒される光景だ。


 そして儀式が終わったように顔を上げた彼女の目も開かれ……。


やはりそこには元々あった青い瞳ではなく真っ黒な賢者の黒が両目に浮かんでいた。まるでそこだけ深い穴があるような黒。


 彼女はそれでも笑っていた。自分の姿を確認出来ていないだろうに。


 俺の聞いていた話が本当ならば、彼女は今……完全な血脈の発現者になっているはずだ。そして目の前の彼女は自分の顎を軽く指で摘んで考え事をするような仕草をしながら……突然、その手を大きく横に薙ぐように払った。すると、彼女の着ていた服が赤いタンクトップから真っ赤なフード付きのローブに変わっていた。彼女は自分の鏡を見ていないはずなのに自分の服装に満足したような仕草を見せて、こちらに何か話し掛け、そして大きく手を振った。まるで別れの挨拶のように。


そして、俺の視界の主は……これは……宙に浮いているのか……?どんどんと彼女から離れて行き、そして目の前が真っ暗になった。


(今の女性は……もしかしてリューンなのではないか?)


 俺は何となくそう思ってリューンに聞いてみた……が、いつもは文字を返してくるリューンが、ここに来てからは全く返事をしない。どういう事なのか……ここは分からない事だらけだ。


 すると視界が突然また開けた。どうやら空を見ている。そしてその空には何か黒っぽい点が。そしてその点は消えた。視界がぐるりと水平移動して、俺は視界の主が体ごと振り返ったのだと思った。そしてその視界の端には……。

たった今、俺の目の前で女性が着替えたと思われる赤い布地が……もしかして、俺の視界の主はあの女性に切り替わったのでないか?


(おい!リューン!聞こえてるんだろ?この女性はお前なのか?)


返事は全く無い。これはもしかして……あれか。今俺はリューンが《超越者》と呼ばれた存在から《賢者の血脈》を受け取った瞬間に立ち会ったのではないか?すると、あいつの話が本当ならばここは33000年前の《惑星ラー》……。


と、言われても俺に見えるのは豊かな大自然の光景。今恐らく先程の崖を背にして立つリューン(?)の目の前には見渡す限りの大草原が広がっている。

圧巻の景色だ。俺は今まで産まれてからこのような光景を目にした事があったのだろうか。


 相変わらず音は聞こえないのだが、目は見えている。しかし、その映像が急変した。

映像がいきなり早回りになったのだ。目が追い付いて行かない。チカチカしてきて気分が悪くなってきた。すると映像の回転が遅くなってきて普通の速度に戻った。


 目の前には……産まれたばかりの女の子だ。赤ちゃん。しかし俺の目には「かわいい」とは映らなかった。

赤ん坊……女性の赤ん坊の髪は真っ黒だった。毎度おなじみ賢者の黒だ。そして映像が少しだけ早回り、速度が戻ると赤ん坊が目を開いた。


その目は……やはり真っ黒だった。どうやらこれは完全なる賢者の血脈の発現者が誕生した瞬間の映像だったようだ。この人は誰なのだろう……?と考えているとまたもや映像は進み、今度は髪も両眼の瞳も黒い大人の女性の姿が映った。


 これは……もしかしてさっきの赤ちゃんが成長した姿か?女性はリューン(?)程ではなかったが肌が白く美しい顔をしていた。そしてクリーム色の上衣に同じ色をした膝くらいまでの長さのスカート、に濃い茶色のロングブーツを履いていた。

あぁ、この人は発現者として何かやっているんだ。俺は今、昔の発現者の映像を見せられているんだ。俺は何となくこの一連の映像が目まぐるしく移り変わる状況を《本能的に》理解した。


―――パァァァァン


 また何か聞き覚えのある音が鳴った。何かが壊れる音。


……映像には見渡す限りの《黒い空》に白い大地が映っていた。大地には砂か埃のような物が積もって見える。


視界の主、恐らくリューンなのだろうが左に振り返った。


そこには暗い空に、何か丸い物がポッカリと浮かんでいた。まるで《月》のように。


しかしその月は俺が普段見上げるような銀色ではなく、赤かった。正確にはオレンジ色か。いや、それだけではなく茶色にも灰色にも見えた。目まぐるしく色がグルグルと変わっている……そんな印象を受けた。


 これは……もしかして……いや……。


これは、《大戦争》なんじゃないか?そしてここは月面か?俺の視界の主……リューンは今、月面から《惑星ラー》を見上げている。

そしてそのラーの地表では《大戦争》が起きており、地表を凄まじい勢いで破壊しているのだ。


(こんな……星がこんなにもなるのか……。人間は……なんて愚かな真似を……)


 俺の問いにリューンは答えない。しかし今度は映像が飛ぶ事なくリューンはその虚空に浮かぶラーをずっと見上げていた。この時彼女はどんな気持ちでこの光景を見ていたのだろうか。


暫くその光景を見ていたリューンの目線が月面の砂地に向けられ、またもや映像が早送りを始めた。既に彼女が発現者となってから、計算では22000年程経っているはずだ。次はどの時代に飛ぶのか。

早回りする映像で気分が悪くなりかけたところで映像は止まった。


またしても俺の視界の前には髪も瞳も真っ黒な女性が立っていた。


 この女性も非常に美しい。先程の女性とは違い、むしろ最初に見たリューンに似た印象だ。しかし、その黒い瞳に宿る力は非常に強く見え、彼女の何か揺るがぬ意思を見ているようだ。

女性は黄緑色を基調として金色のラインが入ったローブを着ていた。リューンも真っ赤なローブを着ていたが、この女性はローブの腰の部分に淡いピンクの帯というかサッシュを巻いていた。


 彼女は空を見上げていた。今は夜だと思われる。


俺が先程リューンの目を借りて月から惑星ラーを見ていたように……。


そして俺の視界、リューンも彼女の視線を追うように空を見上げていた。

そこには《月》があった。いつもより大きく見える月。反射する太陽の熱なのだろうか、すこし揺らいで見える。


視線が女性に戻った。女性もこちらを向いて何か話し掛けている。そして一つ頷くと、また月を見上げる。


 俺は突然理解した。彼女は恐らくショテルだろう。月を見上げているのは、もしかして以前にリューンに聞いた「月を撃つ」つもりなのではないだろうか。


突然、俺の視界が変わった。視界一杯に白い……月面か……?これはもしかして……これからやるのか?


俺は自分の意思で視線を動かせない。俺は今恐らくリューンと視覚を共有している。なので彼女がこの月面を凝視している限り、俺の目の前の映像もあちこちに何かの衝突跡がある月面の白い地表だけのものだ。


 俺が少し見飽きて来た頃、突然視界の下辺りから《何か》が凄まじい勢いで流れ出し、月面にブチ当たっている。何かは僅かだが緑色に見える。しかし限りなく透明だ。これが恐らく話に聞いた「変質した魔素を凝縮した物」だと思われる。

最初は直線的に放出していた魔素と思われる物質が、そのうち視界の中でコーン状に変わり、放出の勢いも増したようでリューンの視界に大きな振動が入り始めた。大丈夫なのだろうか?


 魔素と思われる物質の放出は体感で二時間近く続いたと思う。俺も最初は非常に驚いたのだが、最後の方はやはり飽きてきていてさっさと次の時代に行かないかなと思う程になっていた。慣れと言うのは恐ろしいものである。


放出が終わり、映像は突然また先程の女性……ショテルと思われるが、彼女の前に戻っていた。


 彼女はかなり憔悴しているように見えた。そりゃ二時間近くあんな膨大な物質の凝縮と転送と放出を繰り返していたのだろうから、消耗は大変なものだろう。

それでも彼女はこちらを見て、笑顔になって頭を下げていた。こちらの視界も何か頷いているのか上下に動いている。


ショテルはこれで月の軌道をほんの少しズラせたのだろう。話だけ聞いた時はとても信じられるものではなかったが、実際に実行した場面をその場で見れたので、結果は分からないが少なくとも実行はしたのだろうなと、俺は思った。


 しかし、月を撃ったエピソードを見せられたという事は、次はまた月から《マナ》を回収したエピソードを見せられるのか?とゲンナリしたところで映像の早送りが始まった。


 俺の期待を裏切り、場面は一気に昼間となり周辺の景色が一変した。


ショテルの時の映像では周囲は何か不毛感を感じる荒れた大地のような印象だったのだが、今度の景色はいきなり緑豊かな大自然の光景に変わった。

しかし、その大自然の光景はリューンが振り向いて見せてくれたあの大草原とは全く違う印象だ。奇妙な形の植物があちこちに生えており、曲がりくねった木の間を巨大な蜘蛛が這いまわっていた。魔物か?あれが魔物なのか?


 すると突然、その蜘蛛の上から人が降ってきた。剣を持っているようだ。その人間はそのまま落下エネルギーを使って蜘蛛を剣で串刺しにするように倒し……その髪は遠目で見ても真っ黒だった。


また違う発現者……しかも男に見える。男はゆっくりとこちらに向かって歩いて来た。男の恰好はグレーのマントに黒い長袖のシャツ、その上に茶色い革で出来たようなベストを来て、下は紺色のズボンに黒いブーツといういで立ちだ。


 こちらに向かってきた男の瞳は……やはり真っ黒だった。という事はこの人も完全発現者だ。ショテルの後という事は……この人がヴェサリオか。


顔つきは……やはり端正だ。というか凄く端正だ。うーん。なんだろうか。基本的に血脈関係者……特に発現者は美男美女が多いのか?ヴェサリオの面差しも、何かリューンやショテルを思わせるような雰囲気を出している。


血脈が発現するとそちらの遺伝も顕在化するのかな?しかし、鏡で見た俺の顔立ちとはまるで似ていないと思った。俺はどうやら彼女達の顔立ちを受け継いでいない。

リューンはどうやら、この時はヴェサリオとコンタクトしていないように見える。彼はこちらの存在を全く気にした様子も無く、魔導の力だろうか、飛んで行ってしまった。


 ヴェサリオと言えばレインズ王国建国だ。彼は具体的にはどういう活躍をしたのか。そしてそれを見る事は出来るのか。俺は少しだけワクワクした。


映像が少し進み、俺の視界の前に少し小柄だが美しい女性が映された。髪は栗色で、瞳は青く肌は白い。顔だちも非常に整っており、大人しそうなイメージを受ける。そしてヴェサリオが女性の横に立っていた。そうか。この女性がユミナ。ユミナ・レイドスか。


確か後に《国母》とか呼ばれるんだっけか?そしてこの人のお腹の中にヴェサリオの子が宿ってヴァルフェリウス公爵家の初代当主になるんだったかな。


建国のエピソードはどうなるんだろうかと思っていたが、そこに突然……


―――パッキィィィィィィン


と一際大きなあの音がして視界が突然切り替わった。


 目の前には……どこかで見た記憶のあるとても美しい女性が、困惑した顔でこちらを見ていた。周りは薄暗く、どうやら夜だろうか。照明を使った部屋の中のようだ。


そして驚いた事に、突然音が聞こえ始めた。まるでさっきのあの音を切っ掛けとするかのように。


『とにかく、私を信じろ。こちらだ』


リューンの声だ。どうやら目の前の女性に話し掛けたようだ。


「は、はい。でも大丈夫ですか?」


『いいから。もう何も考えずに私について来い』


『まずはその棚を開けて、開けたら底板を見ろ。板が外れるようになっているはずだ』


「あっ……はい。外れました……あ……なにか取っ手のような物が……」


『そのレバーを上に引いたらすぐに後ろに下がれ』


ガゴォーッ


「わわわ……棚が……」


『さっきの板をちゃんと戻せ。見つからないようにするのだ。底板もちゃんと隠して……』


「はい。こうですか?」


『そうしたらほら、そこに通路が出て来ただろう?そこに入って中のレバーをまた引くのだ』


ゴーッ


「棚が!元の位置に!」


 女性とリューンは棚の裏に隠された通路に入った。リューンが通路の奥側をあまり見ないので確認が難しいが、なにやら階段で下に向かっているような通路だ。


『ひとまずここで静かにしていろ。奴らに気付かれないように。朝になったら教える、またそのレバーを引いて部屋に戻ればいい』


「わ、分かりました。ありがとうございます」


 恐らくこの通路には照明があるのだろうが、今は真っ暗だ。暫くすると棚の向う側から小さな音がした。誰か部屋に入って来たのか。女性は階段に座って何か祈るような姿勢になったまま押し黙った。


 俺は何となく状況を察した。この女性が……この人がアリシア・ランド。つまり俺の母親だろう。


母が俺を懐妊し、リューンの守護対象が母に移った。そして正確な日付は忘れたが、そのうちその懐妊の事実が屋敷の中に知れ渡った当日の夜にいきなり正妻のババァの手の者が襲撃をして来たという話を聞いていた。


 先程の母とリューンの会話が少し余所々々しいのは、襲撃を察知したリューンが今日初めて母親に直接話し掛けて避難を促したからだろう。


突然自分が襲撃されるという予告を受けて避難を求められてもすんなり信用出来るものか。しかし視界の中の母はこちらを見ていた。その存在を認識しているかのように。

もしかするとリューンは母にも実体を見せていたという事か?


 棚の向こうではまだ何か動き回るような音がしている。刺客は複数居るのか。話し声は聞こえないが、何らかのコミュニケーションは取ってるはずだ。


するといきなりリューンの視界が棚の向こう側に移った。先程のランプの灯りの下には明らかに公爵屋敷の人間では無さそうな恰好をした男が三人居た。

ベッドの下やカーテンの裏など念入りに母を捜索している。この棚も一度チェックされたが底板までは見破られなかった。

あの通路は一体何なのだろう。先程のリューンが母にしていた説明には、あの通路の入り方は示されていたがあの通路の存在目的は明かされていなかった。


 俺が思うに、リューンはこの屋敷の中で恐らく誰よりも建物の構造に詳しいはずだ。何しろ建国直後のヴァルフェリウス公爵家が成立する前から当主を見守っているのだ。

この屋敷が築造されてどれくらい経つのかは知らないが、当然ながら築造時には立ち会っているだろうし、何かしらの増築工事や改造工事があった事も記憶しているはずだ。


なのであの通路も、何かの脱出通路などの類かもしれない。たまたまそういう通路が設けられている部屋を母が使っていたという感じなのだろうか。

なので母の突然の危機に対してリューンは予めこういう襲撃を予想して通路を確保していたのかもしれないし、もしかするとこの通路があるからこの部屋を母に使わせるように公爵辺りに仕向けたのかもしれない。

俺と共倒れで封印される前のリューンであればやりかねない。


 三人の刺客は色々と探し回っていたが、やがて諦めたのだろう。色々とひっくり返していた物等を捜索前の状態に戻し、廊下への扉を注意深く開けて外の様子を確かめると、次々と音も発てずに立ち去って行った。


リューンはそのまま棚の前辺りで視界を部屋の中に向けたままずっと動かず、映像は急に朝かと思われる時間に飛んだ。


すると映像はまた棚の裏の通路に戻った。


『起きろ。朝になったぞ。恐らくもう大丈夫だ』


リューンは母に声を掛けた。母は階段に座ったまま顔を伏せて眠っていたようだ。突然ピョコっと顔を上げて


「はっ、はい!すみません。寝てしまっていました!」


とリューンに謝罪した。


『いや、別に構わんぞ。お前が謝る必要は無い。悪いのはあの失礼な連中だからな』


『では、そこのレバーを引け。棚がまた動く』


 朝になって棚の隙間から光が漏れている為に通路の中は幾分視界が利くようになっていた。レバーもしっかりと見えるようだ。

母がレバーを引くとまたゴゥン……と棚が開いた。母は通路から出て再び棚の底板を外して中のレバーを引いて棚を元に戻した。


『ふむ。それでな。そのレバーを少し根元から真上に引いてみろ』


「はい……あっ。上に伸びました」


『そうだ。そうしたら、そのレバーを今度は水平方向に回すのだ』


「あっ、回ります。もっと回すのですか?」


『そうだ。この棚のカラクリはゼンマイ式の細工で動いている。なので一度開け閉めしたらそのレバーを回してゼンマイを巻かなければならないのだ。

次の時の為に一度開けたらゼンマイを巻いておけ。そうしないといざとなったら動かなくなるぞ』


「あっ、はい。解りました。気を付けます」


『レバーを回す手つきが手慣れているように見えるな』


「あ……実家に居た時にこういったレバーを回して動く道具を使っていたのです……うちは薬屋でしたから」


 そういえば、藍滴堂の三階のあの部屋には手回し式の遠心分離機や撹拌器があったな。普段から使い慣れているのか。レバーは恐らく何枚かの複合ギアで巻く力が軽減されているようで、母の力でも十分普通に巻けるようだった。


『よし。それくらいでいいだろう。改めて名乗る。私はリューン。《始祖》と呼ばれている。早い話がヴァルフェリウス公爵家の遠い先祖だ』


「私はアリシア・ランドと申します。ダイレムという町で薬屋を営むローレン・ランドと言う者の娘でございます」


『アリシアよ。改めて宜しくな。昨夜は私のような存在の声を聞いて避難してくれて礼を言う。私の役割はお前の体に宿した血脈の継承者を守護する事だ』


それから、リューンは母に対して、かつて俺にしてくれたような血脈の説明をしていた。俺の時と違うのは、母はリューンが見えているらしく、直接音声で会話を交わしている事だ。おかげで俺は母とリューンの会話を自分でも確認する事が出来た。


 目の前の母は……鏡で見た俺に似ている……気がする。


腰まで届く髪の色も金色で……あの赤っぽい茶色の瞳……彼女は両目だが、俺が鏡で確認したものと全く同じと言ってもいいくらいだ。あの時のリューンの話は本当だったのだな。

そして、やはり子の俺から見ても彼女は美しかった。俺は恐らく血を分けた母子だからか、性的な印象は全く感じないが……。


なるほど。これは評判になるだろう。


何と言うか……自分の母親なのにこんな事を言うのもアレだが……美貌と言う点においては先程見たリューンやショテルよりも上に見える……いや、これは親近感の問題なのかもしれない。


 そしてやはり話に聞いていた通り、彼女はずば抜けて身長の高い女性だった。恐らくラミアさんよりも数センチ高い。180センチ近くあるようにも見える。履いているのが踵が無いスリッパである事から、掛値無しに180センチ近い身長なのだろう。

もし今でも生きていて俺と手を繋いで歩いたら、俺の手は彼女の手に届くのだろうか。不安になるくらいの高さだ。


そして……ラミアさんよりも体の線が細い印象だが、細過ぎるという事もない。繰り返しになるが……これは多分、ダイレムで評判になるのも無理は無いなと俺は心の中で苦笑した。

更に声も美しい印象を受けた。低過ぎず高過ぎず。母親の声だからか、聴いていて凄く安心する声だ。


 しかし……俺は一つだけ彼女を見て気が付いた。彼女は多分「のんびり」とした性格なのだろう。リューンの説明を受けて、その内容をしっかりと理解しているようだが、端々に聞く彼女の話はどこかのんびりとしていて、悪く言うと危機感を持って無い気がした。


「……で、あの奥様が私の命を狙っているのですか?」


『そうだ。正確にはお前の腹に宿った公爵の子を狙っている』


「なぜです?今更平民の私が子を産んだところで、既に成人されている御子息が二人もいらっしゃると聞いてますが」


『うーん。これを説明……というか言ってもいいのか迷うところだが……まぁ、宜しい。私は別にこの家がどうなってもいい事だしな』


「まぁ……《始祖さま》はこちらの御先祖様ではありませんの?」


『ふむ。血統上はそうなるが、私自身はさっきも言ったが何万年も前の人間だ。別にこの公爵家がその頃からあったわけではあるまいし、そもそもこの家の当主に私の血統が入ったのも偶然の成り行きみたいなものだ』


「あら……?偶然でしたの?」


『そうだ。お前はヴェサリオという男を知っているか?』


「ヴェサリオ……あぁ、ええっと……本に載っていらっしゃる偉い方ですよね。確かお国を作った時にお手伝いされた方……でしたよね?」


やはり母はのんびりとした人のようだ。リューンとの会話もいまいち緩い感じに進んでいる。


『そうだな。ヴェサリオは建国の英雄とされていて、今でもこの国では《黒き福音》と呼ばれていると思うが?』


「あぁ、存じております。子供の頃に本で読みましたわ」


『そのヴェサリオが私の子孫なのだ。なのでヴェサリオと国母の間に生まれた子が、この公爵家初代の当主で、代々私の血統をそのまま継いでる事になるのだ』


「あぁ!そう言う事なのですね」


『そして……まぁここだけの話だがな。先程の話に戻るが、正妻エルダが産んだ子は公爵の実子では無いのだ』


「え……?お二人居ますけど、どちらが?」


『どちらもだ。つまりエルダの産んだ二人の男子は他人の子だ』


母も流石にリューンの話を聞いて絶句している。


「あの……それを公爵様はご存知なのですか?」


『知っていたら今頃エルダと二人の息子はこの世に居ないぞ。多分な』


「そ、そうですわよね……」


『だから、お前が公爵の「本物の子」を宿した事を知って殺しに来たのだ』


「そう言う事でしたか……私はこれまで奥様とは一度も口を利いた事も無いですし、以前にダイレムで一度だけお見掛けしただけなのに、なんで襲われるのかと不思議に思ってましたわ」


『して、どうするのだ?今後のお前の運命はいくつか考えられる』


「ど、どのような……」


『まずは中絶だ。私が見ている限り、公爵のお前に対する執心は尋常ではない。なので懐妊した事でお前と夜を共に出来無くなるのを嫌って中絶を強要してくる可能性がある』


「え……?そ……そんな事があります?」


『それは確率が高いだろう。公爵自身にとってもお前をまたベッドに呼べるようになるし、今更ながら子を産ませても家の中にこれ以上の騒乱の種を蒔きたくなかろう』


「そ……そんな」


考えて見れば本当に我が父親ながら、あの公爵はクズだな。結局自分で種を蒔いておいてそれを自分で刈り取る事を全くしていないじゃないか。無能どころか無責任でもある。


『他にも考えられるのは、まぁこのままエルダの襲撃が続いて腹の子もろともお前の人生が終わるケースだな。しかしこれは私にとっては看過出来無いので私も力を尽くして回避させるつもりだ』


「あ、ありがとうございます」


『で、お前はどう思っているのだ?どうもお前の受けている過酷な運命を見ていると……お前は実際この家をどう思っているのだ?』


「どう……とは?」


『お前は腹が立たないのか?無理やり連れて来られて、屋敷の主に無理やり処女を奪われた挙句に毎晩のように相手をさせられ孕まされたわけだが』


リューンはかなり率直な表現で聞いた。確かに我が母ながら改めて聞いてみると腹が立つ成り行きだな。


「たしかに……腹は立ちます。しかし私は平民です。私が拒否すれば両親が何をされるのか分かりませんし、生まれてくるこの子には罪はありません」


『そうだな……生まれてくる子に関しては私の存在意義でもあるので良しとして、それでもただ「為すがままのやられっぱなし」で悔しくならないのか?』


「いえ……例えそう思っても今の私ではどうにも出来無いのです。相手は公爵様で、私の命を狙っているのはその奥様。私にどうしろと言うのです?」


『私はな。今回のあの公爵夫妻のやり方を見て、率直に腹が立っているのだよ。お前は確かに血脈を継いでくれる子を宿してくれた。だから私にとってもうあの公爵は「用済み」なのだ』


「え、え?どう言う事なのですか?」


母は俺と同じ質問をしているな……。確かにリューンのこの「用無し」とか「用済み」と言う発言は相当にインパクトがある。


『私にとって、あの公爵という男はただの無能な男でしかない。しかし厄介な事に彼は私の子孫であり、私の「血脈を継いで行く」と言う目的の為には必要な存在だったのだ』


『しかし、血脈は無事にお前の腹の子に引き継がれた。なので私にとってもうあの男の存在を必要としてはいないと言う事だ』


『そして先程も話したが、私にとってこのヴァルフェリウス公爵家という存在など、別にどうでもいいのだ。私にとって重要なのはあくまでも血脈。公爵家はその血脈に便乗していただけの存在。なので今更この家が無くなっても困りはしないし、悲しみもしない』


『しかし、お前の場合は少し立場が違う。私も何かと力を尽くすが、この子の中絶を防いだとしてそのまま出産させると、お前の意思とは関係の無い事態に恐らく発展する』


「ど、どう言う事ですか?」


『先程も血脈の説明で触れたと思うが、お前が腹に宿している子の性別は分からんが《血脈の発現者》である事は、私の得ている感触からして、ほぼ間違い無いと思っている。そうなると……』


「え……?」


『お前からその子が産まれる際、まず確実にその子が血脈発現者である事が即知れ渡る。何しろさっきも説明したが、他では見る事の出来無い黒い髪と瞳で産まれ出て来る。


この公爵家ではお前がさっき子供の頃に読んだと言う黒き福音の伝説を始めとして、実際に歴代で五人の黒い公爵さまが産まれており、それぞれが国を左右する活躍をしている』


『つまりお前がこの子を産んだ時点でこの子はもうエルダの産んだ他人の子などを吹き飛ばしてヴァルフェリウス公爵の後継者にされてしまうのだ。

例え公爵自身が望まなくてもな。国王を始めとして魔法ギルドや教会も賛同してくるだろう』


「そ、そうなのですか……」


『お前の意思など全く関係が無い。その子は産まれた瞬間から様々な政治的な思惑の中心に据えられて色々な暗闘や陰謀にも巻き込まれかねない人生を送るのだ。黒い公爵さまとしてな』


「そんな……この子が……」


『なので改めて聞く。お前は我が子をこの家に捧げられるか?夫は中絶を画策し、浮気した他人の子から後継者の地位を奪われたくない正妻はお前ごと命を狙ってくるこの家だ』


なんか話がおかしくなってるな……。なんでリューンはこんな煽り方をしているんだ?


「この子は……穏やかに、人並みの幸せな人生を送って欲しいです。そんな貴族様の汚いものに巻き込まれる事無く……」


『しかし、その考えはこのままでは通用しないぞ。何しろ産まれた瞬間、数百年に一度の黒い公爵さまである事が知れ渡るんだからな。

お前がどう騒ごうが、公爵家の……下手をすると今の公爵は強制的に引退させられて、赤子の状態で公爵家を継承させられるかもしれないな。発現者は赤子の頃から力を持っているしな』


「そんな……嫌です。この子は公爵家には渡しません!」


 うーん。母はすっかり洗脳された感があるけど……まぁリューンが怒るのも無理は無いな。こんな懐妊発覚初日の晩から必死になって命を取りに来るようなどうしようもないババァとかな。血脈者を中絶させてまで快楽に耽りたい夫とか……この家はちょっとまともな奴が居ないよね。


家柄だけは国内屈指だけど構成員がどうしようもないバカばかりだから周囲の、これまたどうしようもない連中に利用されたりしているんだよな。ババァの実家のクソ貴族なんてどうなってんだよ。娘の下半身くらいちゃんと躾ておけっての。


……ただ、アレだな。ババァが浮気せずにちゃんと公爵の子を産んでいたら俺はこの世に存在しなかったのか……。そこがどうも俺からすると微妙なんだよなぁ……。


「始祖さま、私はどうすればいいのでしょうか?」


『ふむ。私は力が無いので助言しか出来無いが……方法は幾つかある』


「是非私にそれをご啓示下さい」


『分かった。まずは何とかして、この家から出てしまう事だ。具体的にはまぁ、自力で逃走するとか……しかし身重のお前には無理だな。

よって自力でこの家を出るのは難しいと考えた方がいいな』


「そ……そうですね」


『恐らく、お前が懇願してもあの公爵がそれを許すとは思えない』


「では他に……」


『考え方を変えると言う方法もある』


ここから、俺にとっては聞き捨てならない話が始まる。


「どう言う事でしょう……?」


『まず、はっきりとしておきたいのは、私はお前にこの子を産んで貰わないといけないと思っている事だ。それは解ってくれるか?』


「はい。勿論です。私も、産みたいです。この子に罪なんてあるわけが無いですし」


『ならば「産む」と言う事を前提に考える』


「はい」


『産んだ上で……その子を色々な「シガラミ」に巻き込ませたくないのであれば……「偽装」するしかない』


「え……?ぎ、偽装ですか?」


『そうだ。つまり産まれて来る子供に対して《封印》を施す』


……。

……何!?


おい!?封印だと!?どうしてお前の口からそんな話が出る!?おい!リューン!なんとか言えっ!


「封印て……どう言う事なんですか?」


『産まれて来る子供の力を封じる封印を施すのだ。封印とは魔法の一種でな。対象の力や姿を発揮出来無いようにするものだ』


俺はこの会話を聞いて絶句した。


リューン……俺の封印の黒幕は……お前だったのか……。


「ま、魔法ですか?私……魔法は使えませんよ?」


『本来ならば、魔導師か魔術師に頼んで術を施して貰うのが一番なのだが……よもや目的が目的だけに外に漏らす事も出来無いし、このヴァルフェリウス公爵家と魔法ギルドの関係を考えると、とてもじゃないが協力して貰うのは不可能だ。何せ魔法ギルドは血脈の発現者の出現を代々待ち侘びている。

つまりこの件に関しては「魔法使い」自体がこの子のシガラミの一つになっている』


「ではどうすればいいのでしょうか……」


『難しいが、お前自身で今から必死に修練して封印の魔術を身に付けるしかない』


「私が魔術を!?そんな事無理です!」


『いや、鍛錬法は私が教える。それくらいの事は出来る。そして修練の対象を封印術一本に絞る。他の魔術は基礎も全て飛ばして封印のみだ。

恐らく私のやり方で特化させれば出産までに習得出来る可能性がある』


リューン……お前は……


「わ、分かりました!始祖さま!宜しくお願いします!」


 こうして、母はエルダからの襲撃を受けてはそれを回避しながら部屋で魔術の修練を独りで……いやリューンの教えを受けながら始めた。

どうやら妊娠が判明した時点で父親は母を部屋に召すのを自重しているようだ。なので彼女にはいくらでも時間があったようだ。


―――パッキィィィィン


 またあの音が鳴って……場面が変わった。


「……アリシア・ランド。貴殿においては我がヴァルフェリウス公爵家当主の名において侍女召上げの任を解く」


「……謹んでお受け致します。短い間でしたがお世話になりました事を厚く御礼申し上げます……」


 いきなりこの場面に飛んだ。どうやら母は屋敷から追い出されるらしい。話には聞いていたが、現場を見ると本当に身勝手で胸糞が悪い。正直、このクズい父親はこの件だけでも十分に殺意が湧く。


母は文句一つ言わずに屋敷を退去した。考えてみればこれで


「我が子を色々なものに巻き込ませない」


という目的はかなり達せられたのではないだろうか。こうなると封印は必要無いだろう。

どうしてこの状況から俺の封印が施されるところまで持って行かれたのか。ちょっと予想出来無いな。でも実際に俺は封印を施された。


 母は公爵家の「悪魔の遣い」としておなじみの黒い馬車に乗せられてダイレムに送られた。妊娠初期の馬車は相当にキツいようで、この母の顔を見るだけで俺は怒りが湧いてきた。


藍滴堂の前に馬車が着けられ、中から体調を崩し切った母が自力で歩けないくらいに弱った状態で出て来た時、祖父は顔を真っ赤にして怒りを抑えていた。

祖父の後ろには背が高く母に似た年嵩だが美しい女性が居て、母の姿を見て大きな衝撃を受けていた様子だ。あれが多分、祖母だろうか。顔色が悪くなっているが、本当に綺麗な人だ。

そうか。祖母はこの母の様子を見てから精神的に参ってしまって亡くなってしまうのか……。


 その夜、驚いた事にババァの襲撃がまた起こった。本当にしつこいな。まだ諦めないのか。もう屋敷を追い出したのだから必要無ぇだろ!


この時は、母は三階の自室で寝込んでいたのだがリューンが予め警告した事で、大声で祖父を呼んで助かっていた。襲撃者は一人だった。


母は翌朝、祖父に昨夜の襲撃の犯人と動機を仕方なく打ち明けた。祖父は当然激怒したが、何しろ相手は「ご領主様」なのだ。どこへも訴えようが無いのと、証拠が残っていないのだ。

祖父はまず、大急ぎで店の一階の入口に鎧戸を設置するように発注していた。


なるほど。あの鎧戸はこの時に付けられたのか。


そして娘の為に薬を調合した。祖父渾身の治療薬で母は何とか体調を持ち直し、リューンの助けで襲撃を自己回避出来るようになった。

一階に鎧戸が付くと、襲撃者の侵入経路が絞られてしまい、また襲撃に備えて祖父にも内緒で自室の天井裏に隠れるスペースを作っていた。


 そして……結果的に、この度重なる襲撃が母に封印の決意を新たにさせる事なったようだ。リューンは最早公爵家を出る事が出来たので、封印の必要は無いと逆に説得するようになったのだが、母の決意は固かったようだ。


全ては俺を下らない「シガラミ」から護る為に……。


 母はリューンから教わっていた封印術の修練に力を入れるようになった。自室に閉じ籠り、ひたすらマナの制御を行う鍛錬を行っていた。


皮肉な事に屋敷に居た頃にリューンが教えた封印術のイロハと効果的な鍛錬法をリューンの説得を聞かずに続ける事になったのだ。


結局、俺の封印に関してはこの時点で言えるのはリューンとエルダのババァが原因だと言う事だろう。


 恐らくこのままの流れだと封印術者は母になるのだろうが、その存在を教えて危機感を煽ったリューンにも大きな責任があるし、エルダに関しては、もう術者である母よりも俺にとっては害悪でしかないだろう。


 この封印に関する謎がこうして解けていくにつれ、俺の中では段々とこの《血脈の発現者》と言う身が「面倒臭い」ものに思えてきた。


どいつもこいつも、リューンすらこの《血脈》に踊らされている。そしてこの血脈のおかげか、無能なヴァルフェリウス公爵家はダラダラと延命し、夫じゃない相手の子を二人も産んで後継者にしがみつかせる狂気を生み出す。


そして無能な男に無理やり召し出された娘が孕まされた上に突き返された一族の運命すら狂わせた。


 解らない。この血脈の存在のおかげで古代の人類は大文明を築き、そして大文明は大戦争で滅んだ。魔導と魔術という技術が生み出されたが、それでも大戦争の影響で魔物が生まれ、人類そのものが滅亡しかける。


やがて人類の復興を叶えたのも血脈の力だ。しかし、その功績が巨大過ぎる故に3000年経っても無能な奴ばかりが集まる公爵家は潰れずに残されて、あちこちから利用されている。


血脈は人類に対する功罪が大き過ぎる。


この世界は血脈の力を得て、本当に幸せだったのか……俺は血脈の存在について明らかに疑念を抱き始めている。


―――パッキィィィィン


 また音が鳴った。段々と間隔が縮まってきた。最初は22000年だった。今は数ヵ月ごとに時は進んで行く。


 ベッドの上で痩せ細って……亡くなっているのは祖母だった。ここは……どうやら二階にある俺の部屋だ。俺が使う前は祖母の部屋だったのだな。


祖父は大粒の涙を流して声を立てずに泣いていた。祖父の隣で母も泣いていた。母にしてみれば自分の悲運が原因で祖母が衰弱していく様を見続けたのだからその悲哀は格別だろう。


この狭い俺の……祖母の部屋に祖父と母、ユーキさんとご両親だろうか……五人もの大人が入って泣いていた。


 翌日の葬儀では近所の人々も正面切って言えない怒りに震えている人が多かった。長身である事に加え、腹の大きさが目立ち始めた母は祖母の霊柩車に付き添い、車を挟んで反対側にラミアさんが、車は祖父が牽いてユーキさんと初めて見る若い男性の二人が車を押していた。

この男性は後で分かったのだが、ユーキさんの息子のジョルジュさんで、どうも母に惚れていたように見えた。今年15歳になって成人したらしい。


ユーキさん……と祖母の両親はかなり落ち込んでいた。何しろあの亡くなり方である。最期の祖母の死顔はやつれ切った様子だった。


 祖母の死を見送った後の母は封印の修練に一層力を入れるようになり、祖父との薬剤研究にも参加しなくなって食事や入浴と睡眠以外の時間はずっと部屋に閉じ籠ってマナの制御鍛錬を繰り返していた。

どうやら祖父も母がどういう理由かは知らないが魔術の鍛錬を独学でやっている事は気付いていたようだ。


 リューンは……俺の視界はリューンなので、その視界を経て彼女の動向が分かるのだが、リューンはずっと母の鍛錬を見守るだけで、エルダからの執拗な襲撃が感知された時だけ母の前に現われて啓示を下している。

彼女の心中を俺は察する事が出来無いが、結果的に自分が封印の存在を教えてしまった事を後悔しているのではないだろうか。


 ただ、俺は彼女の視界を通して、彼女の感情のようなものは多少なりとも読めるようになった。どうやら最初は母の鍛錬を見て、やはり見込みは少ないと見ていたようだが、この頃はどうも母の鍛錬に成果が見えるようになったようで、非常に驚いているきらいがある。


 臨月になっても母の鍛錬は続いていた。俺の気のせいかもしれないが、彼女の表情に鬼気のようなものを感じるようになっている。


タイムリミットが迫っているのだ。俺が見たところ母が魔術の鍛錬で何か成果を上げているようには見えない。俺も魔術の実践など全く無知な素人なので、俺の目には何か起きているのかさえ分からない。


しかし母は顔に汗を浮かべながら集中を切らさず何時間も同じ姿勢で両手を大きくなった腹の前で組んで何か口元で呪文のようなものを唱え続けていた。

その姿は何か見えない……俺の大嫌いな《神》にひたすら救いを求めて祈りを捧げている姿にも見えた。


 そのうち、町の産婆さんらしき女性が藍滴堂にやって来るようになり、母の診察を行うようになった。女性の話ではあと半月もすれば出産だろうと言う予測だった。


……あと半月。あと半月であれが上手く出来るようになるのか?残念ながら俺にはサッパリ分からない。しかし母は大真面目で鍛錬を続けている。


その姿には最早のんびりとした雰囲気など微塵も感じず、ただひたすら産まれてくる我が子の幸福を願う母の姿に見えた。

既に産まれた存在である俺からすると、それは何か非常に尊いものに思えた。


俺が母に尊い何かを見出した……その時。


―――パキッッィィィン


 これまでとはちょっと違う様子の音が鳴り、リューンの視界は一気に変わった。


目の前には母が映っている。しかしそこに映っている母はいつもとは様子が違っていた。


……これはまさか。

……出産の時なのか……?


 母は既に破水して、陣痛の間隔も相当に縮まってきているように見える。にもかかわらず母は助けを呼ぶ気配が無い。窓からは日が入ってきているので、今は昼だ。祖父は恐らく一階の店舗に居るのか?


「もうちょっと……もうちょっとだから我慢してね」


母が独り言を言っている。腹の中の俺に話しかけているのだろうか。


そして、こんな状況で母は俺が見慣れて来たあの魔術を使う時の姿勢をとった。腹の前で手を組んで、何か口元で呟く。


……そして


……何も起きなかった。


『アリシア、駄目だ。お前の封印は失敗だ。対象が発現者では難易度が高すぎたのだ……諦めて人を呼べ』


「い、いえ……いけません。この子を……この子を他の人に見せてはいけないっ!うっ……ううう……」


『アリシア!いけない!もう産まれてしまうぞ!これ以上は危険だ!封印も失敗したんだ。父親なら……ローレンならきっと解ってくれる。お前の体が危ないんだ!』


 リューンは必死にアリシアに呼び掛けていたが……やがて……

母は、既に俺を出産する体勢に独りで入りながら、何か紙に文字を書いていた。そして……ベッドの横にあるスツールにその紙とペンをなんとか置く事が出来た。


「男の子ならルゥテウス 女の子ならエミーネ」


『アリシア……お前……エミーネ……私の娘の名ではないか……どうして……』


リューンの声が少し震えているように思えた。

母は苦しみに顔を歪めながらも、無理に笑顔を作って


「始祖さまには本当にお世話になりました。もしも生まれて来る子が女の子なら……始祖さまのような……うううっ!」


「ううううううぅぅぅーーーー!」


……。

……。

……母は子を産んだ……つまり……俺だな……。


「し、始祖さま……お、男の子でした……ほ、本当に……髪がこんなに黒く……て……綺麗な……」


恐らくこの瞬間、リューンの守護は産まれた俺に移ったはずだ。


『そうだな。男の子だったな。我が娘の名は与えられないが、《ルゥテウス》という名も良い名ではないか』


 母はリューンの語り掛けには答えなかった。子を独りで産み落とした顔は上気しているのか赤みが差しており、尚美しかった。


やがて母は……自分の産血を指でなぞって寝具の上に何かを描き始めた。何を描いているのか俺にはサッパリわからない。何か円形の図のように見えた。


『アリシア!お前っ!何をやっている!?』


リューンは何かに気付いたらしく、急に大きな声でアリシアを制止しようとしている。


「始祖さま……私は……私はこの子を……この子を汚い世界に返したく……返したくないのです……」


母はどうやら寝具の上の図形を描き切ったようだ。


「この子が……幸せに生きてくれるなら……私は……」


そして先程の失敗した魔術の時のようにまた何かを唱え始めた。


『やめろ!やめるんだアリシア!それは……それは駄目だァ!』


リューンの声は最早叫びになっていた。


『馬鹿なっ!お前のような未熟な!出来るわけがない!やめろっ!子供まで巻き添えにするつもりかっ!』


何か尋常じゃない状況だ。俺の知っている限り、母はこの後命を落とす……。どうやらこの行為が関係しているのか。


 目の前で俺の体が光り始めた。まさか、俺にまだ何か魔術を掛けようとしているのか?


『駄目だアリシア!対象が発現者なんだ!抵抗されている!』


赤ん坊の俺の……髪の色が金色に変わった……母の髪の色だ。


「お願いします!始祖さま!私の子供を!」


 母は恐らくもう命数が残されていないのだろう。最期の力を振り絞って……俺の臍帯を自ら噛み千切った。そしてそのまま俺の横に倒れ込んだ。

母が寝具に描いていた図形はいつのまにか消えていた。


何が起きているのか俺には理解出来ず、ただ俺の髪が金色に変わった事、開いていない右目の辺りが黒く染まっている事だけが確認出来た。


『駄目だ。失敗だ……このままでは……この子は……もたない……か』


『ええぃ!仕方無い!』


ここでリューンの目を借りていた俺の視界は白い輝きで眩しくなり、俺の意識も途切れかけた……


―――パッキィィィィィン


薄れ行く俺の意識の中に、母の声が聞こえる……。


―――パキパキパキッ


始祖さまへお願い申し上げます


どうかこの子をお護りください


あらゆる悪意から


あらゆる嫉妬から


あらゆる災厄から


わたしの魂を以って成就いたしますように


―――パキッパキパキパキパキィィィン


……俺は理解した

……誰からも愛されている自分

……それはなぜか

……母のこの最期の

……自分の魂を触媒とした魔術

……奥義とされる自らの魂を捧げる魔術


 リューンは……抵抗力の高い発現者を対象とする難易度の高さによって失敗して俺の目に逸れていく奥義級の魔術を自らの身で庇う為に、俺の封印の一部になって……


―――パッキィィィィィィィン


ごめんよ……母さん……俺は封印を破るよ……あるべき姿に……

そして……母さんや……おじぃや……おばぁの……無念を……


パァァァァァァァァァァァァァァァァン!


―――そして封印は全て砕け散った。

【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ


ルゥテウス・ランド

主人公。5歳。右目が不自由な幼児。近所の人々には《鈍い子》として愛されているがその正体は史上10人目となる《賢者の血脈の完全なる発現者》。しかし現在は何者かに能力の大半を《封印》されている。


リューン

主人公の右目側に文字を書き込んで来る者。約33000年前に史上初めて《賢者の血脈の完全なる発現者》となり、血脈関係者からは《始祖さま》と呼ばれる。死後、《血脈の管理者》となり《不滅の存在》となる。現代世界においては《大導師》と呼ばれる存在


ローレン・ランド

主人公の祖父。故人(50歳没)。港町ダイレムの下町で薬屋《藍滴堂》を経営。凄腕の薬剤師。


アリシア・ランド

主人公の母。故人(19歳没)。ローレンとミムの一人娘で《藍滴堂》の看板娘。港町ダイレムで評判の美貌を持つ。


ミム・ランド

主人公の祖母。故人(37歳没)。ローレンの妻でユーキの妹。アリシアの美貌は母親譲りとの評判を持つ。


ユーキ・ヘンリッシュ

主人公の伯祖父。47歳。ミムの兄。レストラン《海鳥亭》を経営。主人公と同じく多くの家族を喪っている。ヴァルフェリウス公爵とガルロ商会を心の底から憎んでいる。


ラミア・ヘンリッシュ

ユーキの妻。45歳。主人公からは義伯祖母に当たる。夫と二人でレストラン《海鳥亭》を切り回す。気が強いが主人公を溺愛している。


ジョルジュ・ヘンリッシュ

主人公の再従兄。21歳。(作中登場時は15歳)ユーキとラミアの長男。王都の店でコックの修行中。


ジヨーム・ヴァルフェリウス

第107代ヴァルフェリウス公爵。48歳。主人公の実父。《賢者の血脈》を継承しているが《発現》はしておらず凡庸な男。


エルダ・ノルト=ヴァルフェリウス

ジヨームの正妻。50歳。嘗て自らの危機感から主人公の母を屋敷から追放する。主人公とその一族の抹殺を企む。


ショテル

マルクスの来孫(5代後)で《賢者の血脈の完全なる発現者》。《第二紀》の人類の苦難を救う為に《魔術》を発明した。現代においては《漆黒の魔女》として魔法世界では崇拝対象に。


ヴェサリオ

《第二紀》末に出現した《賢者の血脈の完全なる発現者》。レインズ王国建国の立役者で現代世界における伝説の英雄。建国後に突然出奔。その子孫がヴァルフェリウス公爵家となる。後世の人々から《黒き福音》と謳われる。


ユミナ・レイドス=ヴァルフェリウス

アリストス大王の妹。ヴェサリオと恋仲になりフェリクスを産む。兄の死後は《国母》と称される。


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