襲撃者たち
一章もようやく佳境に入ってきたように思えます。
【作中の表記につきまして】
物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。
・距離や長さの表現はメートル法
・重量はキログラム法
また、時間の長さも現実世界のものとしております。
・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日
但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日弱という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。
・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年
・4年に1回、閏年として12月31日を導入
以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくおねがいします。
《赤の民》で諜報員をしている《4番》は領都からの《繋ぎ》による連絡を何度か受け、自分の呼び名が《4番》から《1番》に変わった事を知った。
4番……改め1番が前回の任務の関連で彼のみダイレムに残留となってから二ヵ月近くが過ぎていた。前回、彼がまだ4番だった頃の任務内容は
「この町の下町に店舗を構える藍滴堂を経営するローレン・ランドとその孫であるルゥテウス、そして彼らに親類が居る場合はそちらも含めた監視と店舗の構造を詳細に調査する」
と、言うものであった。
赤の民はそれを知る裏世界の者にはエスター大陸で跳梁する暗殺組織であると思われている。しかし彼らはその2500年もの歴史上初めての大陸外組織として25年前に北サラドスの大国、レインズ王国ヴァルフェリウス公爵領の領都オーデルに支部を構える事に成功した。
これまでの彼らはその「赤褐色の肌」と言う致命的に珍しい外見的特徴によって他の大陸での活動に著しいハンディ・キャップを背負っていたのだ。
彼らは「怖い存在」として、エスター大陸では親が言う事を聞かない子供への「脅し話」として
「言う事を聞かないと赤茶色の悪魔に攫われて食われるぞ」
と言う内容で聞かん坊にはお馴染みの存在となっていた。
そのおとぎ話のような連中は確かに実在していて、ついに大陸の外にまで勢力を広げ始めたのだ。
その最初の域外組織である《赤の民領都支部》は、その創設時の事情から、本来は《暗殺》の補助的な役割でしかなかった《諜報》の技術が先に発展した。
今でも血生臭い戦乱が続く本場エスター大陸では、赤の民の活動の主軸は暗殺の方で、軍隊を動かすよりも低コストで済む事から、戦争当事国の首脳に重宝されていた。軍の指導者や前線司令官等、暗殺対象となる者は多く「頭だけを潰す」と言う戦略は今でも彼らの戦乱が終わらない原因の一つとなっている。
そんな本場の赤の民にとって諜報とは敵情の観察はそれとして、主な役割は「暗殺の御膳立て」と言う意味合いが強かった。
軍の次席幕僚辺りの人材を調略するなどして、暗殺目標である軍幹部を「仕事がしやすい」環境へ誘導する事を示嗾するといった活動だ。
そういった暗殺がメインであった本場の赤の民では諜報だけで顧客を得ると言う発想があまりなかった。あくまでも暗殺依頼を受けたから、その「露払い」として諜報活動を行うと言った具合だ。
しかし、既にそんな戦乱は3000年前に終わっている文明国家であるレインズ王国では、諜報だけでも十分に商売になった。
むしろ暗殺と言う手段は「最後の最後」と言う性格を帯びており、最終手段として報酬額は破格だが、受注数は少ない。領都の赤の民での収益としては諜報部門の方が多い程だ。
しかしそれでも《暗殺組織・赤の民》として活動をしているのであればやはり本筋は暗殺であり、「暗殺が出来る」と言う看板は彼らの王国の暗部における版図を飛躍的に広げる源泉となっていた。
ダイレムに残留した元4番……現1番は、自分への呼称が変わると同時に、自分の就いていた任務にも変更がある事を同時に知らされた。
これまでは藍滴堂と海鳥亭両一家の監視。監視対象であるローレン・ランドの急死によって監視対象は海鳥亭だけとなったが……新しい任務はその海鳥亭一家を
「全員人知れず抹殺し、その痕跡も消す」
と言うものに変わっていた。
……荒事か。監視だけじゃなかったのか……。
1番は思わず口に出して呟いてしまった。自分はあくまでも《諜報員》であって《暗殺員》では無い。そういう訓練も受けておらず、当たり前だが自分自身は人の命を直接奪うような真似をした事が無い。
1番の諜報員歴は13年になる。25年と浅いながら歴史を持つ赤の民領都支部の中においても諜報員としてベテランの中に入る。何故なら、25年の歴史といっても創設後10年程の間はエスター大陸の本場赤の民からの技術習得期間であり、習得期間が暗殺技術よりも短かった諜報技術者だけが7年目に領都の支部に帰還を許され、暗殺業務に先行して諜報業務のみ開業したと言う事情がある。
なので支部が実質的に収益を上げる為の活動に入ったのが18年前なのである。実際に最初の暗殺に成功したのは創立14年目であり、暗殺部門は開業11年しか経っていない。
なので諜報員歴13年である1番は前回の任務においても五人の中では最古参であったし、その経験を買われて残留観察者としてダイレムに残された。
ちなみに、赤の民では構成員同士は決して本名を明かし合わない。万が一に捕縛された際、官憲の捜査側に魔術を使用された場合、芋づる式に構成員の本名が知れてしまい、捜査対象が戦時難民の同胞に及んでしまう可能性があるからだ。
赤の民領都支部は、未だに外部に対して
「赤の民領都支部の構成員は戦時難民を中心としている」
と言う事実を掴ませていない。もしそんな事が知れたら当然ながら戦時難民が迫害対象にされてしまうからだ。ただでさえ難民として立場が弱い彼らが「犯罪者」もしくは「犯罪予備軍」として認識されてしまうとこれまで人道的見地から難民の上陸を許していた王国側の対応が
「難民受入れ拒否または禁止。今の難民は全員送還」
と言うような事態になりかねない。王国側してみれば、別に国際条約なども無いこの時代に文明国家として「人道」と言う理由で不法入国を黙認していた難民が王国民に対するテロリズムに加担しているのであれば、元を断つと言う意味で身分外の存在を放逐する事に躊躇は無いだろう。
赤の民としては《業務》で財貨を稼ぐ事が戦時難民の生活向上に資している事は仕方無いとして、将来は組織の枠を難民以外に広げて行く必要がある事を組織の首脳である支部長や、それを支援する統領は認識している。
また、内部の任務に対する指揮命令系統は極端な縦割りで、これも個々の任務同士を横で繋げ無い事で発覚時の捜査が及ぶ範囲を可能なまでに狭める必要があるからだ。
今回の新しい任務で1番は、領都から七名の人員が派遣され自分を併せて合計八名になる事、その中には領都からの「案内人」として前回の任務で《5番》と呼ばれて一緒に活動していた者が《2番》に名前を変更して加わっている事。そして一行の指揮官として《0番》と呼ばれる《上級暗殺員》が六人を率いて来るという、<つなぎ>を受け取っていた。
(恐らく自分と2番は襲撃のサポートと任務の報告者としての検分が役目だろう)
それにしても……目標の海鳥亭の一家三人を実行部隊六人で襲撃するのか……どうも過剰戦力のようにも思える。
しかし前回の監視任務の際にも参加者の五人は上の者から、観察意見の刷り合わせを厳に行うように指令を受けた。指令には従ったが、結果として対象のローレン・ランドが急死していた事以外は、目立って大きな事件は起きなかった。確かに上層部はこの一連の任務に対して特別に何か思い入れがあるようだ。
襲撃任務という荒事に動員された事に不安を感じながら1番は、新任務で自分の上官となる人物とそれに率いられた新戦力を更に10日待つ事になった。
****
「お前が1番だな。俺が0番。お前を含めたこの七人を今回の任務で率いる事になった。宜しく頼む」
「お待ちしてました。今のところ大きな動きはありません」
1番は自分の指揮官である0番をそれとなく観察した。
今年36歳になる自分よりもかなり若い。まだ30前かもしれない。赤の民は組織として構成員の選定を戦時難民の中から行う。同胞の中で12歳になる者から、素養と適性を重点に暗殺と諜報でそれぞれ選抜する。
定員は特に設けられていないが、実際に適性に適う者自体が少ない為に定員を気にした事が無いと言うのが実情だ。
選定された候補者はそれぞれ訓練に入る。何度かある考査によって不適合者が脱落し、最終的に赤の民領都支部の構成員となるのだが、通常諜報員でも育成に10年はかかる。
創立時にエスター大陸に派遣した諜報員指導者候補は本場の諜報技術を7年で習得して帰還を許されたが、その後の支部における活動の中で得られたノウハウにより諜報員の活動内容が拡大されて習得期間は10年に延びた。
そして暗殺員はもっと長く、通常は15年程を要する。これもやはり本場では12年で習得出来たのだが、領都支部では人員の損耗を重要視した為に、習得期間を延ばして護身術や逃走術の修練を充実させたのである。
そう言う観点でこの0番の年齢を考えると、暗殺員として活動を始めて、恐らくまだ5年も経っていないだろう。にも拘わらず既に上級暗殺員として任務の指揮を執ると言うのはその素養の高さを窺い知るに十分である。
見たところ、0番の外見から何か大きな特徴を見い出せない。
(うーむ……どこにでも居そうな面構えだ。むしろ特徴が無さ過ぎて人々の目には止まっても記憶には残らないかもしれないな)
自分達は諜報員として特殊な訓練を受けて来たので彼の容姿を記憶に留めて認識出来るが、一般の者であれば犯人の特徴を聞かれても上手く答えられ無いかもしれない。
(なるほど……このような容姿であれば人混みの中でも目指す目標の命をすれ違い様に奪っても痕跡残さず逃走出来るのかもしれないな。まさに天賦の才なのかもしれない)
「どうした1番。俺に何か言いたい事でもあるのか?」
「いえいえ。とんでもない。正直に申し上げると、自分のような諜報員は皆さんのような暗殺員の方々とこうして間近にお会いする機会が無いので、皆さん、特に0番さんのような人には当然のように目が行ってしまうのですよ。これはある意味で諜報員としての癖かもしれません……」
「ふふふ……初対面で2番も似たような反応だったよ。確かにこのような形で暗殺と諜報が一体になって部隊が編制されるのは珍しいかもしれないな。しかも相手は三人で、そのうち一人は障害を抱えた幼児だと言う……」
「はい。その事です。自分も……2番もそうだと思いますが、前回の任務で標的についてそれなりに観察したり調査したりしましたが、襲撃にこのような戦力を投入する必要があるのかと言うのは……と言う気持ちもあります」
「1番は、今回の任務……いや前回も含めてなのだが統領様の肝入りであると言う事は聞いているか?」
「はい……一応そのように親方からは聞いてます。前回の任務では、とにかく自分の主観だけに頼らず参加者全員で何事も検討して結論を出すようにと厳命されました」
「ふむ。それが分かっているなら宜しい。では以前にこのダイレムで今回の件に関連する襲撃任務があり、その親方自身が参加して失敗したと言う話は?」
「あっ……。その話と言いますか噂は聞いた事があります。事実だったのでしょうか?」
「うん。事実だったそうだ。俺は支部で本人の口から直接聞かされたよ」
0番は苦笑いをした。
「標的の……特に藍滴堂だったか?あの薬屋の一族には、おかしな事が起きやすく、当時の襲撃が悉く失敗したと」
「その『おかしな事』については自分も前回の指令時に親方から繰り返し聞かされました。まさか親方の失敗があったなんて……」
1番は、今では領都のスラムにある酒場に偽装した支部の建物で支部長の伝達を一手に担当している親方が過去に失敗を犯していたという事実を知って衝撃を受けた。
親方はエスター大陸で最初の暗殺技術を本場で学んで領都の赤の民に持ち帰った「その人」であり、支部長にも暗殺技術を伝えたとされる超一流の暗殺員として知られていた。
老いて体の動きが悪くなってきたので、今では支部建物で酒場の主に偽装しながら任務実施の采配を支部長より一任されている。
「ふむ。それではこの話は?今回の最重要標的である幼児の母親がまだ生きている頃、公爵屋敷の中で襲撃した際に支部長自ら参加して失敗に終わったと言う事なのだが」
「なっ!何ですって!?」
この話には1番だけでなく他の六人も初耳だったようで驚きを隠せない様子であった。
「つまり……だ。親方が襲撃に失敗した件も、標的はその母親だったのだ。そしてその母親はもうこの世に居ない。支部長も親方も過去の自らの失敗から勿論警戒はしていると思うが、先程の『おかしな事』は起きないと踏んでいるのだ」
「なるほど。確かに前回の任務で我々は慎重に動きましたが、結果的にその内容に何か不審があったとは思えません。ローレン・ランドは急死しておりましたが」
「うん。俺もその話をここに来る道中で2番に聞きながら色々と考えたのだが、結局のところ過去の襲撃に失敗した時に我々の側に人的損失が全く発生していないのだ。
それにお前達からの報告でその襲撃失敗によって当時の近隣の人々に何か警戒感を与えたと言う感じでも無さそうだ」
「はい。その事については自分も同感でした。あれだけ多くの襲撃を受けたのに、襲撃があった事実そのものを近所の人々は知らなかった節さえあります」
「そうだな。そこが不気味なところであって、支部長も親方にも引っかかりがあったのかもしれん。とりあえずここは油断せずに今一度自分の目で現地を確認してみたいのだが、我らの当面の拠点はここになるのか?もう少し近い場所に作れなかったのか?」
今、赤の民が集まっている場所は下町側からリズ川を隔てた対岸の河口寄りにある漁師が使っていた船小屋跡で、下町よりも波止場に近いような立地である。
「すみません……それが前回任務の時も下町の中に拠点を作ろうとしたのですが、近所の目が厳しくてですね。
見慣れない人間が何人も出入りするような場所を設けてしまうと、すぐに噂になってしまいそうだったので諦めたんです」
「そうか。そう言う事情があるのか……。と言う事になると、以前の襲撃に関しては周辺の連中にはバレていないし、襲撃を受けたアリシアもローレンも近所に襲撃の件を話していないと思えないか?」
「なるほど。確かにそう考える事は出来ますね。やはり何か人に言っても信用されないようなおかしな事があったんでしょうかね」
「ふぅむ……。分からんな。以前の襲撃の件に関してはあまり参考にならんな。その近所の連中の動きにもそれなりに考える必要があるだろうし」
「それと、今回の標的になる海鳥亭は前回の藍滴堂と比べて下町の中でもかなり住居が密集している地域にあります。襲撃そのものが近隣に漏れる危険が大きいです。自分はむしろこの事が今回の最大の懸念なんじゃないかと思ってます」
「それについては問題無い……と思う。今回はお前達の報告を聞いた支部長がちゃんと《対策》を立ててくれた。襲撃そのものが近隣に漏れる心配は無いと思う」
「え……?そうなんですか。0番さんがそうまで言っておられるなら安心なんですね?」
「あぁ……。大丈夫だとは思う。俺自身も以前に一度だけ試した事があるが、その時は問題無かった。但しちょっとコレがかかるんでな」
0番は右手の親指と人差し指で《丸》を作ってみせた。どうやら金がかかる物らしい。
「なるほど……わざわざそう言われるからには、それなりに大きくかかるって事でしょうか」
「そうだな。多分この任務が統領様の肝入りだからこそだとは思う。しかし、この方法だと1つ問題が出てくる」
「え?何でしょうか?」
「お前達諜報員の位置取りだ。実は今回の任務がこうして暗殺と諜報の混成部隊になっているのは、これが理由なのだ」
「な、何かヤバい理由なんでしょうか?」
「ヤバい……と言うか、本来ならばこういう任務では別働部隊としてある一定の距離を置いて検分をするのが今までのやり方だったと思うのだが」
「そうですね。本来ならば足が付く恐れがあるからと、暗殺の皆さんと諜報の自分達は決行時間だけを交換して、後はお互いの人員の把握さえしてませんでしたよね。誰か一人でも捕まったら全員危なくなるって」
「確かにそうだ。こんな田舎町ではどうだか知らんが、王都では官憲の捜査に魔法ギルドから魔術師を呼んで追跡と尋問を行う場合があるからな。奴等の魔術は手強い」
「そこまで解っていて、なぜ今回は我々は同じ部隊で編制されたのですか?」
「今回はな……《術符》を使う。《結界の術符》だ。これを仕入れるのに苦労したのだ」
「け……けっかい?」
「襲撃開始前にこれを使って標的の建物を魔術の壁で囲んでしまうのだ。そうする事であたかもその囲んだ範囲だけを『切り取る』事が出来る」
1番は0番からの説明が飲み込めず、更に怪訝な顔をすると
「要点だけを説明しておこう。この術符を使って海鳥亭を結界で囲んでしまうと、お前達はいつものような遠距離からの観察が出来なくなる。何しろ結界の中は外からでは何も見えないし何も聞こえなくなるからな。
更にはこの魔術が破れるくらいの力が無いと結界とその範囲の中の存在そのものを『感じなくなってしまう』のだ」
「つまりどう言う事か。近所の連中は結界の中の出来事を見る事も聞く事も、『そこに海鳥亭が存る事も』感じなくなる」
「なのでお前達諜報員も、この結界の中に入って我々の近くで見分を行う必要がある。そうしないと何も見えないし、海鳥亭自体を見失うからな」
「え……本当ですか?本当にそんな事が出来る……有り得るのですか?」
「あぁ。俺も実はこれを初めて使った時はお前と同じで受けた説明を全く信じる事が出来なかったのだが、実際に使ってみるとその通りになったので驚いたものだ。いやはや。魔術とは凄いよな」
「そ……そんな事が出来るのなら……自分達……いやアナタ達のような人知れず人を殺す技術なんて必要無くなるじゃないですか……いや、自分達だって……」
1番は魔術の力を知って呻いた。魔術師と言う連中は滅多にお目にかかれない。1番自身も人生において魔術師には遭った事も無いし、見た事すら無い。むしろその存在を疑っていたくらいだ。
しかし今、0番の手にある縦20センチ、横5センチ程度の「紙切れ」に何か見た事の無い模様が描かれている「術符」なる物を見て、言い様の無い説得力を感じざるを得なかった。
《術符》とは、錬金術師が紙片に文字通り魔術を込めて、魔術が使えない者にもそれを可能にするという物品である。
大気に含まれるマナを制御出来る資質を持った者は、その後の触媒にマナを反応させた後のイメージを投影する過程において、それを「投射する力」に優れている者と、そうで無い者に分れる。
このうち、投影したイメージを外側に投射する事が得意な者は《魔術師》と呼ばれ、超自然現象を直接具現化する事が可能となる。
反対にその投射が得意では無い者も、空間に直接現象を具現化するのとは逆に自らの保持し得る距離に置いた物体に触媒によるマナの変質を留める事が出来るようになる。
この両者の能力は相容れる事が出来ず、術者は修行の過程で師からの指摘や自らの見極めで自身の特質を知る。
投射が得意で無い者が《錬金術師》であり、彼らは魔術師のような客観的に見て「分かりやすい」現象の直接投射よりも通常の調合で行った薬品に強化術を施して効能を劇的に上昇させたり、今回のような一部の術式をマナの結集と制御、触媒との反応まで終えた状態で物品にその過程を凍結した状態で閉じ込める事が可能である為、その術力を「他人に譲渡出来る」と言う非常に高い汎用性を持つ。
但し、魔術を使えない普通の人間は現象の投射力が錬金術師と比べても著しく乏しいので錬金術師が術式を込める際の効果そのものは期待出来無い。
それでも込めた時の7割程度の効果は普通の人間でも発揮出来るとされ、その魔術を込められた物品は非常に高値で取引されている。
この《術式封入品》または単に《付術品》と呼ばれる物品は一般の人間に超自然現象を容易に利用させてしまう一種の「危険物」である事から、魔法ギルドにおいて流通には厳しく制限が加えられている。
何しろ、魔導や魔術を含めた《魔法》とは「超自然現象」を引き起こす技術なのだ。この超自然現象を理解出来無い者にとっては魔法による効果は想像する事も出来無い物なのだ。
これはむしろ魔法ギルドよりも世界各国の政府で法によって規制している事が多く、レインズ王国では建国直後の時期に国母によっていち早く法で規制をかけている。
この流通の規制が魔法ギルド側の腐敗によって一時期非常に緩くなった時期があったが、直後に出現した建国後二人目の「黒い公爵さま」によって完膚なきまでに流通ルートが叩き潰されただけでなく、怒れる黒い公爵さまによって当時の魔法ギルドの構成員全員の魔素とマナの制御力が封印されるという空前の途轍も無い厳罰処分を受け、魔導や魔術が使用不能になったギルド関係者全員が震え上がり、大慌てで黒い公爵さまと時の国王に謝罪を行った上で魔法ギルド側はギルド憲章にその流通を自主的に厳しく規制すると言う条文を追加し、以後は監視が強化されて今日に至る。
その流通規制が厳しい術符をよりによって暗殺組織が入手したのである。更に言うと、過去にもこれを使用した暗殺が行われていると言う。
これは魔法ギルドにとっても王国政府にとっても一大事だ。特に魔法ギルドは自分達が自信を持って規制を管理していると思われていた付術品が犯罪、それも殺人に利用されている事が知れたらその信用は失墜するだろう。
今回、首尾を万全にする為に支部長イモールは個人的に伝手を持つソンマ・リジと言う錬金術師からこの結界術符を入手した。金貨にして200枚という大枚をはたいたが、大恩ある御館様と統領様の執念とも言える今回の依頼に確実に応える為には致し方無い出費であった。
本来は金を積んでも容易に入手出来るわけも無い物であったが、ソンマは元戦時難民出身者で、マナ制御の素質を認められた上で赤の民から陰ながらの支援を受けて魔法ギルドで錬金術を学んだ。
その成果もあって、彼は優秀な技量を示して3年前から領都で錬金術工房を開いている。
イモールからの依頼に最初は非常に難色を示したソンマだったが、かつて自分を陰ながらに支援してくれた赤の民と戦時難民としての同胞意識によって術符を提供してくれたのである。
「お前達がこれまでこういった『物』の存在を知らなかったのは無理も無い。本来は一生目にする事が無い物で、俺すら最近まで存在を知らなかったのだ。
通常の流通経路で入手するのは極めて難しいと聞く。俺も入手経路は教えられていないから、お前らもこれについてはそれ程気にしなくていい。
要は周囲に気付かれる事無く目標を襲撃出来る保証が得られていると考えればいいのだよ」
「なるほど。それではこれからも自分達はお払い箱になる事は無いんですね?」
「そう言う事さ。ふふふ」
0番は本気で安堵する様子を見せる配下の者達を見て軽く笑った。
「支部長からは焦らなくてもいいが、なるべく早く片付けてくれとの指令が来ている。ひとまず今日は皆休んで、明日から目標の偵察に入ろう。1番は偵察の専門家として意見を貰えないか?」
この指揮者は自分を諜報員として尊重してくれているという、満足感を覚えながら1番は思い付く事を述べた。
「まずは先程も申し上げましたが、下町は『余所者』の徘徊に対しての反応が鋭いです。当日の決行は先程見せて貰ったやつで何とかなるにしろ、その前までの段階で無駄にウロウロすると変な噂を呼びます」
「なるほどな」
「なので思い切って偵察は一度だけで決行に移したらいかがでしょうか」
「ほぅ……大胆だな。諜報員と言うのはもっと慎重に物事を進めると思っていたが」
「いえ、自分もこれが『いつもの任務』であれば何度も確認しながら確実な情報収集を心掛けますが、今回の場合は下町と言う特殊な環境下で『痕跡を残さない』と言う条件ですからね」
「ふぅむ。やはり下町は勝手が違うか?」
「そうですね……例えとして適当かは解りませんが、自分達同胞が領都で住まわせて貰っているキャンプを思い出して下さい」
「うん……」
「自分達が住んでいるあのキャンプに、ある日見慣れない奴等が何人か入って来てジロジロと見渡しながら歩き回ってたら当たり前ですが怪しく思って近所の知り合いにも呼びかけるでしょう?」
「まぁ……そうだな。なるほど。ははは」
「つまりそう言う事ですよ」
「ならば何か良い方法でもあるか?」
0番は本来こういった偵察は門外漢だ。彼は暗殺員であり、いつもは単独で目標の命を狙う。標的は通常一人で、その一人の息の根を止めた上で速やかに逃走を図れば良い。
彼は若いながらも、これまでそう言う仕事を数多く鮮やかにこなす事で支部の評価を重ねてきた。
今回のように配下を率いて目標の場所に住む複数の標的を《襲撃》するという任務は彼の経験においても殆ど無い。ついこの前に術符の効果をその身で知ると言う名目で0番のような指導者候補が集められて別の指揮者の下で襲撃に参加したくらいだ。
そもそもが暗殺員と言えど《戦闘員》では無いのである。彼ら暗殺員が持っている技術はあくまでも
「人知れず、標的となる人物の命を絶つ」
と言うものであって、襲撃によって抵抗が予想される標的を戦闘によって捻じ伏せると言うものでは無い。
「戦場で無類の強さを誇る勇者を、風呂場で辛抱強く一人になるのを待ち構えて無防備になっているところに背後から心臓を一突き」
と言うのが彼らのやり方だ。人を殺すのにいちいち戦っていたら損耗の高さに人員の補充が追い付かない。彼らは簡単には補充の出来無い「卓越した技術者」なのである。
0番が自ら慣れない襲撃という任務に対して偵察を重要視し、それをベテラン諜報員である1番に意見を求めるのは何ら不思議では無いし、その姿こそが今回の編成で支部長と親方が狙っていた事である。
「今回は幸いにも標的の住む場所が海鳥亭と言うレストランなので、それを利用してはどうでしょう」
「ほぅ?」
「海鳥亭は下町だけではなく、このダイレムの町の中でもなかなかの評判を持った店でして」
「ふむ……」
「ですから、二人一組くらいで分かれて客のフリでもして行けばいいんです。料理を食べた帰りにちょっと道を間違ったフリをして建物の周辺を一周して帰れば、それ程不審には思われないと思います」
「なるほどな。海鳥亭の評判を逆に利用するんだな?」
「そうです。海鳥亭は日や時間によって順番を待つ客が店の前で列を作る事もありまして、その列に並んでしまえば順番を待つ間に周辺の様子もそれなりに探れます」
「妙案だな。それで行こうではないか。店の営業時間はどうなっているんだ?」
「はい。昼に一度店を開けて昼飯を出したら、店を一旦閉めて、夜にまた開ける。出す物が無くなったら閉めるというやり方をしているようですね。店が終わるのはいつも22時くらいです。恐らく襲撃実行は23時以降がいいのではないかと」
「わかった。それでは組み分けをしよう。二人ずつ四組で昼と夜に二組ずつ行ってみよう。お前達諜報員は昼と夜で分かれてくれ。そうだな。1番は俺と組んで貰おうか。出来るだけ目標の建物の大きさや外周の様子が知りたい。結界を展開する為にな」
こうして8人の赤の民は二人組で海鳥亭の客に扮する事になった。
翌日、時間を置いてバラバラに拠点を出た赤の民は海鳥亭の昼と夜のそれぞれの時間帯に客として入り込み、建物の立地や外観と規模、周囲の様子などを近所の連中に怪しまれる事なく調査する事が出来た。
1番は0番を連れて夜の組として仕事が終わった中心街の商会関係者然とした恰好でテンス大橋を渡り、道中見えて来た藍滴堂の前を通る際にはそれをさりげなく教えて目を移した。藍滴堂は鎧戸が閉められ、屋内には灯りも点く事なく無人の様子であった。
彼らは20時過ぎ、店としては食材の在庫が少なくなり始めた頃に店に入り、一階の店内の様子と忙しく配膳をする背の高い女と厨房の中で忙しく立ち働くこれまた大柄な男を見て、1番が
「これが標的に残された最後の身内であるヘンリッシュ夫婦です」
と説明した。身体つきがガッチリとしている夫もそうだが、妻の体格も目を見張るものがある。客への応対から気の強い性格が滲み出ており、襲撃時に甘く見ると思わぬ反撃を受ける可能性がある。
酒を少し飲み、二人で世間話をしている態で閉店までの時間を計っていると、店内にある大きな振り子時計で21時を少し過ぎた頃に妻が店の入口にある看板を店内に回収した。食材が切れたので今店内に残った客が席を立ったら閉店にするのだろう。
0番が注意深く、そしてさりげなく店内を伺っていると厨房から夫が出て来て料理を盆に載せたまま二階に上って行った。その体格はやはり厨房の間口越しに見た通りに大きく、腕も太い。襲撃で乱戦になったら向こうは大人が二人とはいえ、少々手こずるかもしれない。さっきも言ったが、彼らは暗殺員であり戦闘員では無いのだ。
0番と1番がさりげない態度で夫婦への評価を小声で交わしていると、夫が階段から下りて来て厨房に戻り、どうやら掃除を始めたらしい。妻も客が帰った机や椅子を埃を立てないように拭いたりしており、この夫婦の仕草でどうやら客も店の閉店を察するといったところであろう。
暫くすると階段の上から盆の上に皿を載せた物を危なげに持った幼児と呼べる子供が下りて来た。確かに右目が閉じている。片目であの階段を小さな体で、しかも盆に食器を載せて下りるのは大変そうに見える。
右目は閉じているが、顔立ちは美しく上品な印象を受ける。白い顔は無表情で手すりに体を押し付け、足元を確認しながらヨロヨロと下りて来た。
その姿を見た他の客は、彼の集中を乱さないようにしているのか言葉無く固唾を飲んで見守っているような恰好だ。
1番もそれに釣られて自分までハラハラしながら見ている事に気付き、自分に対して呆れてしまった。
幼児は無事に階下まで下り立ち、様子を見ていた妻に盆を渡すとそのまま厨房横の通路の奥に消えた。
ひとまずこれで、この家の構成員三人を全員確認出来た。特に幼児からは気になるような力を感じる事も無く、やはり問題はあの大柄な夫婦、それも夫だろうかと0番は思った。
そうしている間にも食事と軽い歓談を終えた他の客が次々と席を立ち、会計を済ませて店を出て行き始めたので赤の民の二人も席を立つ事にした。時計を見ると21時50分。昨日の説明通り22時前には店を閉める事になるようだ。
二人はなるべく相手に印象を残さないような態度で会計を纏めて済ませ、店を出た。0番が小声で
「少し道に迷ったフリをして建物をぐるりと回って行こう」
と囁き、1番もさりげない態度で頷いた。二人は道に不慣れな態で歩きながら、海鳥亭の裏にある路地に迷い込むように入り、塀の高さや裏口の位置、敷地の広さや裏庭の広さまでその経験によって推定し、まるで道に迷った者が帰り道に戻って一安心したと言う表情になって並んで再びテンス大橋に向かって歩き出した。
「とりあえず営業時間に関しては概ね時間通りのようだな」
「はい。やはり決行も当初通りにしますか?」
「いや、今のこの通りの様子だと日付が変わる頃までは人通りがあるのではないか?」
「なるほど。現地へ向かう間に誰かに目撃されそうですね」
「そうだな。俺の予想ではこの通りの人が完全に絶える時間は無いだろう。なので決行を0時として、その時間に向かって一人ずつバラバラに向かった方がいいな」
「なるほど。現地集合と言うわけですか」
「やはりそこは各自さりげない態度で歩いて行く方がいい。警戒しながら忍び足や逆に急ぎ足などは論外だ」
二人は道々、意見を交換しながら拠点となるリズ川の向う側へと戻って行った。
翌12月10日。決行は11日の午前0時と決まったので、八人の赤の民は交代で拠点の見張りを立てつつ、14時頃まで眠った。
最早ここまで来ると準備としては各自の隠し武器の点検と諜報員二人が昨日の偵察によって作成した見事な現地の周辺図と海鳥亭の見取り図に目を通して配置を決めるだけだ。
「よし、聞いてくれ。決行だが、ここをまず順番に23時になったら出る。順番は1番から7番、最後が俺だ。5分おきに出発する」
「最初の1番は恐らく23時30分には到着するだろうから、あの裏路地で待っていてくれ。物音さえ発てなければ、その時間帯は人も通らないと思う」
「了解しました」
「最後の俺が到着次第、すぐに結界を張る。1番か2番でもいいが、裏路地の塀にあった木戸は開けられるか?」
2番が答えた。
「それは私がやります」
2番は諜報員として中堅ではあるが、鍵開けが上手い。ここは彼に任せようと1番も思った。
「結界を張るとはいえ、家の中には音が筒抜けだからな。裏木戸も可能な限り静かに開けて欲しい」
「承知しました」
「建物への侵入は俺と3番と4番の三人で行く。2番は裏口の鍵も開けて欲しい」
「わかりました」
「1番と2番はそこまで終わったら裏木戸の近くで待機してくれ。残った者は、ここと……ここ……で待機だ」
「俺は昨夜、色々考えたのだが痕跡をなるべく残さないようにしたいので、できればあの夫婦は裏庭に誘い出したい。周囲に音は漏れ無いからな」
「まずは俺達三人で押し入るような恰好で屋内に踏み込んでわざと大人二人に見つかるようにする」
「そこで俺達は裏口に向かって逃げるようにするから、裏口の外で待ち構えた6番と7番で俺達を追って出て来た……多分夫になる可能性が高いが、確実に息の根を止めてくれ」
「5番は店の表側の戸から逃げようとする奴が居たら、そいつを不意打ちだ。特に子供を入口側から逃がそうとする可能性もある」
「まぁ……結界が張られている間は、自分の力では外に逃げ出す事は出来無いがな。聞いた話ではこの結界を破るには、この魔術を上回る力が無いと駄目らしいからな」
「どうせ遺体も片付けるから手段は問わないが、なるべく血を撒き散らさないような形でやって欲しい」
「了解です」
暗殺員も昨夜の偵察で夫……ユーキの体格を見て、正面きっての戦闘は不安が残ると判断したのだろう。陽動からの待ち伏せで、三人の中で一番屈強そうなユーキを早々と葬ってからラミアとルゥテウスを仕留めようという作戦を立てた。
今回0番が立てている戦術は本来であれば赤の民が採るような暗殺戦術では無い。
普段のやり方からすれば、今回の戦術がいかにも杜撰なものに見えた。事実、暗殺員の中にもそのように思った者が居たかもしれない。
「もう一度確認しておくぞ。今回の任務は暗殺では無い。襲撃である。そして標的は一人ではなく三人。標的の命を奪って逃げ切れば成功……と言うわけでも無い」
0番は暗殺員の面々が抱いた不安に応えるかのように説明を始めた。
「その三人の標的の命を奪い、その遺体ごと襲撃の痕跡を処理し、あたかも『一家が突然消えた』と言うように周囲の住民に思わせないといけない」
「俺もそうだが、お前らもこのような任務に就くのは初めてだと思う。何しろ『上の人達』には俺達の計り知れない事情があるからだ」
「今回の任務はただの任務では無い。6年前から続くアリシア・ランドと、彼女が遺した子。これを抹殺する為に我ら赤の民は何人もの人員を送り込んだ。しかしそれらは全て失敗してきた。工夫が足りなかった。失敗したやり方を更に何度も繰り返した結果だ」
二人の諜報員を含む、その場に居たメンバーは全員息を飲んだ。0番が話す内容は聞き様によっては上層部への批判とも取れる。
「なので今回で俺達がケリをつけなければならない。今回は恐らく標的も油断している。ここ数年我らが彼らへの手出しを控えた……まぁ実際は忘れていたからだ、いや本当は『忘れたようにさせられていた』と言うところかな」
「上の人達はもう終わりにしたいのだ。これで最後。この標的と我らが関わるのはこれで最後だ。最後にしなければいけないんだ」
「そして今回は術符まで出して貰っている。ならばここはシンプルにやるべきだ」
「痕跡を残さずと言う事であれば、標的を外に引っ張り出して始末した方が血痕も消しやすいし、屋内に要らぬ痕跡を残すリスクも無くなる」
0番は苦笑しながら
「そして……我々は元々が『荒っぽい戦い』をやれるような者では無い。俺だってあんなむさ苦しいのと正面切ってやり合いたくなど無い」
「だから外に出たところを不意打ちでやる。残りは人数で圧倒する。シンプルなやり方だが術符のおかげで近所にはバレない」
「後は三つの遺体を海にでも沈めたら悠々と領都に帰ってしまえばいい。それで今回の任務は完了だ」
「いいか?いつものようにスマートにやろうとするな。シンプルだ。シンプルに広い外に引き出して囲む。それだけだ。分かったな?」
「はい」
「了解です」
「はい」
メンバーはそれぞれ承諾の意思を示した。頷くだけの者も居る。0番は一人一人の顔を見回して全員からの承諾を受けた事を確認して
「よし。では出発の時刻までもう一度体を休めておけ。見張りはもういらん。全員生きて領都に帰ろうな」
0番は最後にメンバーの士気を上げる言葉を残し一同を一旦解散させた。
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そろそろ出発の時刻が迫ってきた。今回の任務は、上層部の肩入れの仕方といい、普段とは違う性格の内容といい、やはりメンバー全員に戸惑いを残すもので戦術や現地の配置図等を頭の中に叩き込んで、なお不安を感じる者も居た。
「いいか。ここを出たらもう一言も言葉を発するな。言葉を発するのは俺だけで、お前達は俺以外の言葉を聞くな。そうする事でお前達が頭の中に残している不安が単純なものに変わる」
0番はメンバーに最後の訓示を垂れた。
「いいな。口を開くのはここに帰ってきてからだ。今回の任務は俺も含めて必ずいい経験になる。それくらいの心構えで行こう」
メンバーは黙って頷いた。
「よし。1番から出発だ。この砂時計の砂が落ち切るたびに次が出発して行ってくれ。最後に俺が出る。では現地で会おう」
「ではお先に」
1番が本拠地である船小屋から周りを警戒しながら滑り出すように出て行った。0番が入口脇の樽の上に置いた砂時計をひっくり返す。砂時計が落ち切った頃に
「よし。次だ。2番行け。いいか?気負ったりせずに自然体で歩けよ」
「心得ております」
2番が船小屋を後にし、0番が再び砂時計の天地を返した。この船小屋を1番が拠点として選んだのには理由がある。まず極端に人気が無いわけではなく、市場と波止場を結ぶ、川沿いの道に面している為に通行人がまばらにあり、集団で移動しても不審に思われにくい事。
そして素晴らしい事に小屋の高い天井付近にある小窓から町の救世主教の教会の時計塔が見えるのだ。時間を正確に確認出来、怪しまれない程度に下町とアクセスが出来るこの場所を妥協の産物とはいえ選んだのは、やはり1番の諜報員としての手腕であろう。
その間にも時は流れ、ついに7番も出発した。0番は最後に船小屋の中を一通り見渡し、自分達の痕跡が残っていない事を確認した。
砂が落ち切った砂時計を懐に仕舞い、0番も船小屋から出発した。今はまだ12月10日。世間一般で言うところの《平日》である。
この世界の暦では1ヵ月を30日とし、6日を《1旬》と呼んで1ヵ月を《5旬》としている。つまり今の時間を言い換えると
「12月2旬目の5日目に変わる直前」
と言う事になる。
通常は6の倍数の日を休息日にする事が多く、海鳥亭も《6日目》を定休日にしている事が1番の調べで判明している。恐らく6日目は市場も休みになるので、それに合わせているのだろう。
つまり次の定休日は12月12日のはずで、今夜は『休日の前々日の夜』つまり、1旬で最も『疲れが溜まっている』日ではないかと0番は推測していた。彼が偵察の翌日である11日0時を決行時間としたのもこういった事情が含まれている。
しかし今夜は襲撃決行日としては案外に条件が良くない。10日の夜と言うのは月がかなり明るくなっているからだ。
本来、そこまで考えるのであれば月がほぼ隠れて、先程の疲労度も加味すると29日の0時と言うのが最も好条件なのだが、29日は年末だ。店も新年休みにしている可能性が否定出来なかった。それに上層部からは
「可能であれば年内に統領様へ結果報告がしたい」
と言われている。帰りの道程も考えると、意外に12月11日と言うのは考え得る条件としてはギリギリのラインなのである。
(それにしても前回、あの襲撃に参加した時の《結界》の力は凄まじかった。あれだけ音を立てても照明を使っても外部に全く漏れる事なくやり遂げられるとは……)
元は慎重で暗殺者らしい臆病さを持った0番をして、ここまで大胆かつシンプルな作戦を採らせたのは、前回体験した「結界と言う魔術」の威力を体験したからであろう。
(あのような術符が気軽に使えるようになれば、恐らく暗殺だけでは無い多くの犯罪が容易に行えてしまうだろう。支部長はこの術符を俺に渡す時に、入手元の事は考えるなと釘を刺してきた。
確かにこれだけの物を手に入れられる支部長も凄いし、やはり俺のような一介の暗殺員が簡単に手を出してはいけない物なのだろう)
0番は現地へ向かいながら考えていた。そろそろあの藍滴堂の前を通り過ぎる。店の建物はあいかわらず厳重に戸締りがされており、暗殺員としての自分の感覚を以ってすれば建物内は無人である事が容易に見て取れた。
藍滴堂と通りを挟んだ向かい側には飲食店か……と思ったが看板には『ベッドの絵』も描かれているので宿屋だろうか。但し飲食店も兼ねているのだろう。一階の窓からは明かりが漏れており、何か食べ物の匂いも表の通りまで漂っていた。
0番の恰好は昨日の海鳥亭を偵察した時と同じスーツ姿である。訓練された赤の民は諜報員だろうが暗殺員だろうが、こういった街中を歩く時は周囲に溶け込むように歩く。0番の顔も普通の人が見たら記憶に残らないような造りをしており、このような時間に一人で歩いているにもかかわらず通行人や店を閉めようと通りに出てきている住民にも全く怪しまれずに済んでいた。
やがて海鳥亭が見えて来た。店はテンス大橋側から南下して行くと通りの左側にあり、下町の中でも特に建物が密集している地域なのにもかかわらず店の手前と奥には左に入れる路地があった。
建物自体が路地でしっかり区画されているので結界の範囲を設定するには非常に都合が良い。余計な事を考えずに設定出来るので、恐らく術符自体の効果も多少は高まると思われる。
0番は海鳥亭を通り過ぎてすぐの路地を左に入った。月がかなり明るい夜だが、路地の中は暗闇となっており歩くには通常ランプなどの照明が必要だろう。しかし先行していたメンバーは夜目も利くように訓練された精鋭らしく、物音一つ立てずに全員が自分を待ってくれていた。
0番が到着すると、一行は音も立てずに路地を更に進み、店の裏側に回った。幅が1メートル有るか無いかの裏側の路地も闇に包まれている。
0番は暗闇の中で2番に指で裏木戸を指し示し、鍵を開けるように促した。2番は頷いて、懐から開錠する為の道具が入った革製の入れ物を取り出し、鍵の様子を観察してから道具を取り出して作業を始めた。これを暗闇の中で行っているのである。訓練された赤の民の諜報員の能力の高さが窺い知れよう。
2番は音も立てずに裏木戸の鍵穴を2本の棒状の道具で何事か作業していたが、ものの30秒程でカチャリという小さな音と共に鍵を開けてしまい、そのまま道具を懐に仕舞いながら後ろに下がった。
0番は2番の手練に満足し、自ら木戸を音を発てないように開けて中の様子を窺う。
そして木戸から裏庭の中に滑り込み、メンバーに続くように手招きをするとメンバーも音を発てる事なく全員が裏庭に入った。
0番は懐から小さな木箱を取り出し、それを開けて中から例の術符を取り出した。
術符をそのまま教わった通りに右手でクシャリと握り込み、この海鳥亭の敷地全体をイメージする。すると握り込んだ右手の拳の中で術符が少し熱を持ったかと思うとそのまま消えたような感触があった。
0番が右手の拳を開いてみると、その掌の上から術符が消えていた。周りでそれを見守っていたメンバーは一様に手品でも見たような顔で目を丸くしていたが声を発する者は居ない。
結界は無事に完成したようであった。今回の場合、術者は0番である。0番だけがこの結界を自由に出入りする事が出来るが、本来ならばこの時点で他に出入り出来る者を自由に設定する事も出来た。しかし0番にそこまでの知識は無い。
あくまでも前回の襲撃参加時に術符を目の前で使ってみせた指揮者が後で使い方を教えてくれた事を繰り返しただけである。それでも結界が無事に完成した事だけで、この術符を含めた付術品という物の汎用性の高さを窺い知る事が出来るであろう。
裏庭は暗く、中々の広さである。見渡す限り、庭に木などは植えられている様子は無いが、裏路地側の木戸とは反対側の角側に何か穴が掘られているように見える。直径は1メートルくらいだろうか。今の位置からは何の穴なのかは分からないが、ゴミを埋める穴かまたはゴミを燃やす穴かもしれない。
0番は2番の肩に手を置き、今度は建物の裏口と思える扉を指差した。2番は再び頷いて裏口へと近付いて行く。それを見てから5番が配置に着く為に正面側へ回って行った。
2番が再び音を発てる事なく裏口の鍵を開けたのだが……ここで扉の真上にある二階の部屋だろうか。少し大きな物音がした。まさかこれだけ音を発てずに動いているのに起きてしまったのか?
0番は身振りで6番と7番に裏口のすぐ脇で待ち伏せをするように指示し、二人は裏口を挟んで両側の壁際に蹲った。
二階で物音がしたのを感じて、0番は家の中の様子を窺っている余裕はなさそうに思い、襲撃実行を開始する決意をした。
3番と4番に顎でついてくるように指示して扉をゆっくり開ける。扉の向こうは無人だが、廊下の先の右側の厨房らしき場所の間口から小さな光が漏れていた。厨房にはまだ人が居るのかもしれない。
0番は厨房に人が居るとしたら十中八九、夫の方であろうと確信していた。偵察の際にも厨房の中に居たのは夫であったからだ。この時間にまだ一階に誰か残っていたのは軽い誤算であったが、どのみち相手を外におびき出すのが最初からの計画である。
0番は中の気配を探りながら厨房の方へと足を運んだ。勿論音を発てずに。後ろに続く3番と4番も見事なまでに足音を殺していた。厨房から、やはり物音が聞こえてきたので誰かが居るのは間違い無い。0番は厨房の手前で一度立ち止まって考えた。
(このまま音を発てずに不意打ちで一人やってしまうか。しかし厨房だと物音が立つな。上に居るであろう妻とガキを起こして警戒させてしまうかもしれない。
ならば警戒させる事は織り込み済みにして夫を外におびき出すか。後から出て来た奴も6番と7番に不意打ちさせれば、後はガキを探し出すだけだ)
ここで……このように判断に迷ったせいで、更に誤算が生じた。
なんと厨房から廊下に妻が出て来たのだ。0番も流石に慌ててその場に立ち竦んだ。この状況では姿を隠す余裕など無く、薄暗くなっている廊下でも人影くらいは浮かんでいるだろう。案の定、0番と後ろの二人の姿はラミアに認められてしまった。
「あっ!?誰っ!?アンタ達は誰なの!」
ラミアはすぐに厨房に駆け込んで包丁を持って再び廊下に出て来た。更に最悪な事に厨房の中には夫であるユーキも一緒に居たのである。
ユーキは妻が突然驚いたような声を出してこちらに引き返し、包丁棚から長めの魚包丁を握って戻って行ったのを見て驚き
「なんだ!?どうしたんだ!」
と自分も牛刀を持って妻の後を追った。夫婦ともに突然の曲者の侵入に遭遇してこれだけの動きをやってみせたのは流石である。
廊下に飛び出すと薄暗い中、裏口を背に三人程の男が立って包丁を持った妻と対峙しているのが見えた。
「なんだっ!テメエらはっ!泥棒かっ!?この野郎共がっ!」
とユーキは大声で怒鳴りつけた。ローレンの葬式でガルロ商会の男に対して浴びせたあの大音声である。
「退けっ。一旦外に出よう。これは少しばかり計算が狂った」
0番が最後尾の4番に声をかけると4番は直ちに後ろにある裏口を開けて外に出た。
裏口の両脇で隠れている6番と7番も、今の夫の大音声を聞いたはずだ。恐らくは不意打ちの姿勢に入っているだろうと踏んで、3番も外に飛び出した。
0番は努めて冷静に裏口まで後ずさりするとそのまま向きを変えずに外に出た。中から二人が追って出て来るのを迎え撃つような姿勢だ。相手にその存在を悟られないように、戸口に隠れている6番と7番にあえて視線を送るような事はしない。
その後はまるで一瞬のような出来事であった。
夫よりも先に曲者に気付き、包丁を握りしめて戻った妻ラミアは、夫の大音声を背後に聴いて気が大きくなったのか、そのまま0番を追って夫よりも先に外に飛び出したのである。
外に飛び出した瞬間……ラミアは左の腰辺りに衝撃を受けた。何か……固く冷たい物が体に入ってくる感触。そして遅れて来る激痛。
「ギャアァァァーーー」
ラミアは絶叫して、力が抜けていくのを堪えてその痛みの方向に向き直ると自分の胸くらいまでしか無い小男が自分の腰に差したナイフを引き抜いて構え直そうとしていたところであった。
「こんの野郎ォォォ!」
持っていた切っ先が頑丈な魚包丁を男に振り下ろした。
振り下ろしたと言うよりも倒れ込むような勢いで突き立てたと言うのが正確な表現だろうか。
男……6番はラミアの左背後から彼女の腰にナイフを突き立てる事に成功したのだが、ナイフを引き抜いて構え直す前に意外な速さで刺された女が振り返って、自分のナイフの二倍はあるような大きな包丁を振りかぶりながら体ごとぶつけてきたので動き出しが遅れた。
ラミアの振り下ろした包丁は6番の首の左側と肩の間の首の付け根に突き立つような形で刺さり、大量の血飛沫を上げた。
「グゥイィィィィィーー」
6番は奇声を上げてラミアの下敷きになるように二人は倒れ込んだ。そこに二人の倒れる様子を見た反対側の7番はラミアの背後から止めを入れようとナイフを構えて飛びかかった。
「待てっ!」
0番が7番に声を掛けたが咄嗟の事で7番は止まれなかった。そのまま出口を横切るように飛びかかった時に左側の横合いから自分の横腹に包丁が突き立てられたのを感じた。ラミアに続いて裏口から外に飛び出そうとしていたユーキである。
「てめぇらァァァァァ!」
妻に続いて裏口から飛び出そうとしたユーキは目の前の妻が左側から飛び出してきた『何か』に体をぶつけられて絶叫し、振り返ってその何かに覆い被さるように倒れ込んだのが見えた。何しろ周りは暗闇で、厨房からの灯りが廊下に漏れている光だけなのだ。
しかし、その直後に右側からも何かが飛び出し、その何かが持っている物に薄暗い中で光が反射したように見えた。なのでユーキは咄嗟に飛び出してきたその何かに体ごと包丁を突き立てたのである。
いつもと同じく店の営業が終わり、店の戸締りをしてから夫婦順番に風呂を使って、厨房の火の始末をしようとしていた。妻は明日の朝に備えて小麦粉の量を確認してから二階に上がるのが日課であったので、丁度二人で厨房に入っていた形になる。
まさか、その間に裏口が開けられて暴漢が浸入しているなどと夢にも思っていない。そして先に二階に上がろうと厨房を出た妻が暴漢と鉢合わせ、咄嗟に包丁を握って後を追って行った。
普通の人間には取れない行動だ。いくら体格が良くて男勝りな性格であっても、得体の知れ無い者と突然出くわして追いかけるなどと言う事が可能であろうか。
恐らくユーキ独りであったら、出来なかったと思われる。妻が咄嗟にそのような行動に出たので、自分も包丁を持って後を追えたのである。しかし、そのラミアの蛮勇がこの時ばかりは裏目に出た。
ユーキは妻が何者かに背後からぶつけられて倒れた瞬間はまだ妻が刺された事に気付いていなかった。何しろ『何かがいる』と言うのが微かに分かる程度の暗さなのだ。右から飛び出してきた何かに自分の包丁を突き立てられた事だけでも上出来であろう。
「グフォッ」
ユーキが刺した何者かはその突進の衝撃を受けたままにユーキから見て前方に吹っ飛んだ。ユーキの包丁はその者に刺さったままである。
「ううぅ……」
足元からラミアの呻き声が聞こえた。
「ラミア、大丈夫か?」
「わかんない……でも……多分腰を刺されてる……」
「なっ、何だって!?お前、刺されてるのか?」
「たっ……多分。ちっ、血が出てると思う……」
「でも……こいつは多分……死んだと思う……」
ラミアは自分が下敷きにしている6番が絶命しているだろうと言った。
「わっ、分かった。わかったからもう喋るな!動くなよっ!」
ユーキは今自分が突き飛ばした相手から包丁を引き抜いた。
「テメェら!ぶっ殺してやるっ!」
ユーキは腹の底から声を押し出し、残った暴漢と対峙した。
【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ
ルゥテウス・ランド
主人公。5歳。右目が不自由な幼児。近所の人々には《鈍い子》として愛されているがその正体は史上10人目となる《賢者の血脈の完全なる発現者》。しかし現在は何者かに能力の大半を《封印》されている。
リューン
主人公の右目側に文字を書き込んで来る者。約33000年前に史上初めて《賢者の血脈の完全なる発現者》となり、血脈関係者からは《始祖さま》と呼ばれる。死後、《血脈の管理者》となり《不滅の存在》となる。現代世界においては《大導師》と呼ばれる存在。
ユーキ・ヘンリッシュ
主人公の伯祖父。47歳。ミムの兄。レストラン《海鳥亭》を経営。主人公と同じく多くの家族を喪っている。ヴァルフェリウス公爵とガルロ商会を心の底から憎んでいる。
ラミア・ヘンリッシュ
ユーキの妻。45歳。主人公からは義伯祖母に当たる。夫と二人でレストラン《海鳥亭》を切り回す。気が強いが主人公を溺愛している。
ローレン・ランド
主人公の祖父。故人(50歳没)。港町ダイレムの下町で薬屋《藍滴堂》を経営。凄腕の薬剤師。主人公の目の前で心臓の発作で斃れる。
アリシア・ランド
主人公の母。故人(19歳没)。ローレンとミムの一人娘で《藍滴堂》の看板娘。港町ダイレムで評判の美貌を持つ。主人公を独りで出産した直後に命を落とす。
ミム・ランド
主人公の祖母。故人(37歳没)。ローレンの妻でユーキの妹。アリシアの美貌は母親譲りとの評判を持つ。娘の苦難に心を痛めたことが原因で衰弱死する。
シニョル・トーン
エルダ専属の女執事。元戦時難民。ノルト伯爵家からエルダの婚姻に同行して以来の腹心。エルダの闇と秘密を守るために《実力行動》を指揮する。領都の戦時難民からは《統領》と呼ばれる。
イモール・セデス
暗殺組織《赤の民》の領都支部統括者。組織内では《支部長》と呼ばれている。エスター大陸出身で元戦時難民。本来は殺しを嫌い、理性的で穏やかな男性。
ラロカ
暗殺組織《赤の民》の領都支部の本拠である偽装酒場の管理者。組織内では《親方》と呼ばれている。元暗殺員。呼び名の由来は本場で学んだ暗殺技術を支部に伝えたことから。
《0番》
暗殺組織《赤の民》所属の暗殺者。領都の支部でも屈指の実力を持つ。《海鳥亭》一家襲撃の現場指揮を執る。慎重な性格だが、暗殺実行時に性格が変わる。
《1番》~《7番》
《赤の民》の構成員たち。《海鳥亭》一家襲撃に参加。コードネームとして番号で呼び合う。
ソンマ・リジ
領都オーデルにて錬金術師として個人工房を営む。《赤の民》に《魔術付与品》を非合法に融通している。自分が戦時難民出身者であることを隠していた。




