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黒き賢者の血脈  作者: うずめ
第一章 賢者の血脈
12/129

真夜中の襲撃

前回もお知らせしましたが視点が混在することがあります。


【作中の表記につきまして】


物語の内容を把握しやすくお読み頂けますように以下の単位を現代日本社会で採用されているものに準拠させて頂きました。

・距離や長さの表現はメートル法

・重量はキログラム法


また、時間の長さも現実世界のものとしております。

・60秒=1分 60分=1時間 24時間=1日 


但し、作中の舞台となる惑星の公転は1年=360日弱という設定にさせて頂いておりますので、作中世界の暦は以下のようになります。

・6日=1旬 5旬=1ヶ月 12カ月=1年

・4年に1回、閏年として12月31日を導入


以上となります。また追加の設定が入ったら適宜追加させて頂きますので宜しくおねがいします。


「支部長は来ておりますか?」


 ここはヴァルフェリウス公爵領の領都オーデル、スラム街の中にあるとある酒場。


シニョル・トーンは《赤の民》に用事がある場合はいくつかの連絡手段を持っているが、時折こうして直接自らがこの場所を訪れる事もある。


「これは統領様。支部長は只今こちらに向かっております」


 《戦時難民》の者で構成されたオーデルの赤の民支部。その昔、スラムのどん底で這い回るように暮らしていた彼ら難民をシニョルが拾い、清潔な寝床と食べ物を与えて保護した事を報じて、難民は彼女の事を《統領》と呼ぶ。

別に彼女がそういう役職に就いているわけでも無く、また彼女自身がそのように呼ぶ事を望んだわけでも無い。

難民である彼らは同胞として彼らに生きる道を示してくれたシニョルを崇拝しているのだ。


 そして、そんな彼女を同胞の中でも最も崇拝している男は少し遅れてやってきた。


「統領様、遅くなりまして申し訳ございません」


「構いませんよ。私も今到着したところです。支部長」


 彼の名はイモール・セデス。このオーデルで《支部》と呼ばれる赤の民の出張組織を20年以上束ねている《支部長》の地位に居る男である。

20年以上と言うが、実際はこの支部が創立された時から長を勤めており、更に言うと《暗殺組織》としての赤の民をエスター大陸の外に拡充する為に《本部》の長老と折衝し、誘致を実現させた実質的な《創設者》だ。


 暗殺組織としての赤の民をここオーデルで束ねているイモールだが、彼は決して残虐でも冷酷な性格でも無い。

むしろ理性的で穏やかな性格をしている。ではなぜ彼のような者が隣の大陸まで行って命を懸けて赤の民の長老を説得したのか。


彼は元々、他の支部構成員と同じく戦時難民であった。


戦時難民と言う存在は、建国時のレインズ王国には規定も想定すらもされていない身分の者だ。


 第二紀の動乱から《黒き福音》ヴェサリオの力を借りて人類の文明復興を果たした《大王》は、ヴェサリオが最後に遺していった超古代文明の記憶とも言える「国家と権力者を自ら律する」と言う思想を基に建国宣言法、通称《建国法》と呼ばれる憲法をを発布した。

結局は血脈の発現者よってもたらされた啓蒙であったが、これを以ってレインズ王国は《文明国家》として新しい世界に君臨したのである。


 その建国法ではかなり上位である三番目の条文に平民身分の規定と国籍、戸籍の必要性の他に《奴隷》の「所有と売買」を厳しく禁じた記載がある。

その後の四番目が貴族の規定とその例外としてのヴァルフェリウス公爵家の世襲を認める条文であるから、ヴェサリオから啓蒙された大王がいかに重く見ていたか推して知るべしと言う事だ。

そして大王没後は夫と兄の遺志を継いだ《国母》によって建国法は厳格化された。もちろん奴隷の規制についても……である。


 つまり王国は建前においては国内に「奴隷が存在しない」国家と言う事になっている。

現代においても奴隷制を法律で完全に廃止している国家はレインズ王国を含めて少数派だ。

しかし同時に、建国法で定義されておらず戸籍と国籍を与えられていない「身分外」の人々も確実に存在している。戦時難民はまさにその中の一つだ。


 こういった人々が正業に就く事はかなり難しい。まず、高等教育を受ける事が出来無いのだ。更に公職にも就けず、商会も彼ら無国籍民に対する雇用の門戸を閉ざしているのが一般的だ。


 こうなると国籍と戸籍を持たない彼ら戦時難民は、まさしく「社会の奴隷」に等しい最底辺の生活を強いられる。戦乱が続くエスター大陸から小船ひとつで漕ぎ出し、命がけでアデン海を渡って来た彼らに待つ運命は、建国法の精神からこぼれた国籍や戸籍を与えられない「身分外と言う身分」なのである。


 第三紀に入っても人間同士で争いを続けるエスター大陸は既に他の大陸の大国からは見放されている状態であり、その副産物として大量の難民を今でも発生させている。

何しろ誕生したヴェサリオが放浪の生活を始めたのがこの生まれ育ったエスター大陸で、ヴェサリオが放浪の旅の中でこの大陸の魔物を駆逐して行ったにも関わらず、その後3000年に渡って今度は人間同士で争っているのだ。

レインズ王国に逃れて最底辺の暮らしを強いられている人々にとっては、戦乱の生まれ故郷に戻るよりはまだマシなのであろう。


「場所を移されますか?統領様」


「いえ。ここで結構ですよ支部長。今は『私達』しかいないのでしょう?」


イモールは店内を軽く見渡し


「ここは大丈夫か?」


と、横に居た者に尋ねると「大丈夫です。我々だけです」と言う返事が返ってきた。


「だ、そうでございます」


シニョルは軽く笑いながら


「支部長も相変わらず忙しそうですわね。体はちゃんと休めていますか?貴方にはまだまだこの人達を助けて貰わないといけないのですからね」


「お心遣い感謝します」


 イモールは頭を下げた。シニョルは決して美しいとは言えない。

しかし彼女の知性はそれを問題としないような眩しさがあり、イモールは共に歳をとって老境の入口に達している目の前にいる女性に心服している。

むしろ彼女は老いた事により外見では計り知れない魅力が備わってきている。彼女の昔と変わらない同胞への気遣いには感謝してもし切れないのだ。


 彼女は3000年も続いてきた戦時難民出身者としての自らの運命を、自らの才覚で切り拓き、その余慶を以って自分達同胞を引き上げてくれた。その切っ掛けとなる理由がどんなものであれ、彼女の行動によって救われた同胞は数知れないのである。


「実は私、大きな『しくじり』を犯してしまいました」


「何ですって!?」


 シニョルの言葉にイモールは珍しく大きな声を出した。この敬愛する我らの統領が何かミスをするのも非常に珍しいのに、それを認めるような言葉を聞いたのは、彼の人生においても初めてと言ってもよい経験であった。


「い、一体どうされたのです?我らに何か不首尾でも?」


「いえ、貴方がたは悪く無いのです。悪いのは私の甘さです」


「どう言う事なのでしょうか」


「アリシアの遺児……」


「そっ……それは」


 イモールは言葉を飲み込んだ。アリシアが出産で命を落としたと言う情報は自分達がシニョルに流したものだ。しかしその時に胎児の様子はどうだったのかと言う報告が漏れた。漏れたと言うよりも「欠落していた」と言う表現の方が正しいかもしれない。

普通はそれをどこかの時点で気付くはずだ。末端の調査員、現地の責任者、支部長たる自分、そして報告先である統領、最終的には依頼者。誰かが……


「それで、胎児はどうしたのだ?産まれたのか?それとも一緒に死んだのか?」


と確認すれば良かったのである。いや「妊婦を監視する」と言う任務であれば、その報告は当然のものだろう。


しかし、誰一人それを気にしなかった。そしてそのまま依頼者の


「ならばもう捨て置け」


と言う言葉で5年間も放置されていた。今思えば依頼者自身もなぜ胎児の事を確認してこなかったのか。そこがイモールには不気味に思うところなのだ。


 イモールは老いたとはいえ、自身も超一流の殺し屋だ。エスター大陸の本部から、先行して諜報技術を学んだ者が帰還した時も自ら積極的にそれを習得したし、その後に本命の暗殺技術がもたらされた時も、支部の経営の傍ら、必死で習得に励んだ。その結果、彼自身も屈指の遣い手となったのだ。

超一流であるが故に、彼は臆病だ。おかしいと思える事はとことん突き詰め、それが安心だと言う回答を得られ無いままに出来無い性格になってしまった。

その彼をして、胎児の動向を見逃してしまったのだ。まるで何かに「誘導」されていたかのように。


 思えば、その前はアリシア自身の暗殺に何度も失敗した。業を煮やして自分自身が実行に加わった事もある。しかしその時も標的は姿をどこかに隠してしまっていた。仕方無く我らが撤収すると、翌日にはどこからか現われて普通に生活を送る。これが何度も繰り返されるうちに依頼者から


「もうよい」


となってしまったのだ。何度も失敗を重ねていくうちに周囲の警戒がどんどん厳重になってしまい、結果として自分の関与の発覚を恐れる依頼者が手を引いてしまったのである。


 アリシアが屋敷から放逐され、漸く警戒網が解かれたのを機に暗殺の舞台は港町ダイレムに移った。

しかしここでも赤の民は標的に凶刃を悉く躱された。こうなるともう「読まれている」と言う認識は当然となっているのだが、更に不可解な事に赤の民はこれだけの回数、仕事に失敗しているにもかかわらず人員の損失が無いのだ。


 襲撃の実行に投入する人選が間違っていたとも思えない。任務に失敗して軽く混乱したまま復命してきた者達はその後別の仕事を難なくこなしている。確かに一流の連中だ。

しかしそんな連中でもアリシアは仕留められなかった。そして標的は自らの出産で命を落とし、更にその遺児の安否を見落とさせた。イモールにとってアリシアと言う存在は本当に不気味な存在であった。


「もう終わった事は仕方が無いのですよ。支部長。私も御館様からそう慰労されました。不本意ではありますけどね」


「はい……あの節は我らの力が及ばず……我らとしては彼女は疫病神そのものでした……」


真面目に答えるイモールの「疫病神」と言う形容にシニョルは思わず噴き出した。


「あんなに美しい者を疫病神だなんて……ふふふ……あはは」


周囲の者は、シニョルが笑い出したので驚いた。


「いえ。統領様。私は本当に彼女をそのように見てましたよ」


「宜しいのですよ。支部長。確かにあの娘は疫病神。上手く喩えましたね」


シニョルは笑いを抑え、真面目な顔に戻って


「『しくじり』には『落とし前』が必要でしょう?」


「勿論でございます。統領様」


「もう疫病神はこの世に居ないのですから……。残した者も綺麗に彼女の元に送ってやるべきです」


「綺麗に……ですか?」


「はい。綺麗にです。残した者も、それを抱えている者も。《御館様》はもう全てを片付けて、関わり合いを持ちたく無いとの仰せでした」


 御館様とは統領も支部長も含めた全ての同胞を保護してくれた公爵夫人に対する彼らからの尊称である。

彼ら赤の民領都支部は名目上は赤の民本部の隷下にあるが、実際の忠誠対象は支部創設以来変わらず公爵夫人である。


 彼女は領主夫人と言う立場でオーデルに戦時難民の非公式な居場所を作り、彼女の個人資産でそれを賄ってくれた。

諜報活動によって支部に仕事と報酬が入り始めるまで、彼らは公爵夫人の少なく無い出資額で人間らしい生活を「送らせて貰っていた」のである。

彼らオーデルの赤の民にとってエルダは夫のヴァルフェリウス公爵やレインズ国王、果ては赤の民本部の長老達よりも尊い存在なのだ。


 実際は全てシニョルが主導していたとはいえ、彼女に資金の使途裁量を任せていたエルダ自身は一般的な社会に対する寄付行為には無関心であったが皮肉な事に、この時代において「下の身分」の者に対して最も自己資産を還元させていたのは間違い無くエルダであろう。


「御館様がそのように……かしこまりました。それでは準備が整い次第実行に移させて宜しいでしょうか?」


「そうですね。但し、今一度ダイレムにおける彼らの状況を確認して貰いましょうか。彼らが帰ってからもう10日くらいでしょうか?それならもう自宅に戻っているでしょう」


「私の勘では、彼らはまだ警戒していないと思います。それでもあの女は疫病神でしたからね。十分に備える事に問題は無いでしょう?」


「確かに。それでは今一度諜報部隊を差し向けて周辺を調べさせた上でご報告に上がります。統領様」


「いいでしょう。それでは宜しくお願いしますね。支部長」


 こう言い残してシニョルは席を立った。この二人の間で仕事の会話は長々と行われない。要点だけを伝えるだけだ。他の顧客と違って御館様と統領様からの依頼に詳しい経緯など必要無いのだ。


シニョルが店を出ると、残ったイモールは酒場の主を呼び


「親方、すぐに動かせる《目》は何人くらい居るかな?」


「はい。『すぐに』と言う事でしたら二人ですね。今から手配して『明日の朝まで』お待ちいただければ七人程度は揃えられると思います」


「そうか。では朝まで待つ事にするよ。五人でいい。ダイレムに向かわせて、下町にあるアリシア・ランドの実家……ローレン・ランドだったか。父親の薬屋の周辺の様子を探らせてくれ。

特に重要なのはアリシアの《子》だ。彼とその祖父も含めてどのような生活を送っているのか。そしてその薬屋の建物の構造。

それと確か……あの祖父と孫には親戚が居たな。その関係者の構成と住居も洗い出して欲しい」


「はい。承知しました」


「《目》の者に伝えてほしい。今回の仕事は特に自分達の想像に及ばない「何か」が妨害に入る可能性がある。それぞれ五人全員で必ず標的を確認し、その都度五人で観察した内容について話し合い、各々の観察に不審な点が無いか確認しながら進めるように」


「確認ですか?」


「そうだ。6年前、我々は悉く彼らに出し抜かれた。『手玉に取られた』と言っても過言ではなかろう?何しろこちらは真剣に妊婦一人を殺しに行ってるのに全て躱された挙句に子供の遣いのように戻って来たのだぞ?」


「そういえば……そうでございましたな」


「我々はまだ歴史が浅いとは言え、赤の民の看板を貰って諜報と暗殺で食っていっているんだ。あのような失敗を繰り返しているわけにもいくまいよ」


「そうですな……あの時は私も参加しておりました」


「私だって屋敷内での襲撃に一度参加して躱されている。お互い言いっこ無しだよ」


イモールは苦笑した。


「とりあえず、心して掛かって貰って欲しい。期日は……そうだな。今月中と言う事でいいかな?」


「移動にも時間がかかるので、それくらいのお時間を頂ければありがたいですな」


「そうだな。急がせて焦ってしまっても良くない。それでは11月1日に統領様にご報告すると言う方向で繋ぎを付けよう」


「承知しました」


こうして、ひとまずダイレムの藍滴堂周辺を目指して赤の民の手の者が5年ぶりに放たれたのである。


****


「すみません。今日は私がお待たせしてしまいましたね」


「いえ、とんでもございません。本来ならば、こちらから報告に上がるところです。統領様」


 約束の日。今日は3038年11月1日。前回シニョルが赤の民に藍滴堂周辺の調査を依頼してから25日後になる。前回の依頼の後、支部長はシニョルが希望する事前調査の段取りを指示し、改めて報告の日を11月1日と統領に連絡していた。

エルダにも報告を聞かせたい場合は屋敷へと出向く。本来ならば一介の戦時難民が公爵家屋敷の門を通るなど考えられないが、エルダより門番に予め通達がされ、イモールでも通行許可が下りる。


 しかし今回の件に関して既にエルダは降りているのでシニョルが意思決定を握っている。

シニョルは公爵夫人の執事という地位であるにもかかわらず戦時難民出身者として屋敷内では慎ましく行動している。

エルダと色々と謀議を巡らす時はあくまでも女主人に仕える女執事という形で接しているので屋敷内で他の者がシニョルへ敵意を抱くという事は滅多に無い。

時折、戦時難民出身者という事で彼女を侮るような者が居るが、そういう者はエルダによって排除される。シニョルは自分が外見において相手に不快感を与えぬように常に穏やかな物腰で目下の者にも接しているのだ。


「いかがでしたか?今回は支部長にとっても不審を抱く事なく事を進められましたか?」


シニョルはまず確認するようにイモールへ尋ねた。


「はい。その点に関しては調査人員に個人の観察だけで物事を判断せず、常に様々な距離やタイミングを見て五人同時に観察させるという手段を採り、近所の聞き込みでも調査の存在を相手に知られないように徹底させました」


「そうでしたか。それはご苦労を掛けさせてしまいましたね。後で重ねて労ってあげて下さい」


「お心遣い感謝致します。我々としても前回までの失敗を繰り返したくありませんし、当然の事にございます」


「では改めてお話を聞けますでしょうか」


「承知しました。まずは公爵様との面談以降の状況を説明させて頂きます」


「わざわざ説明して頂くからには、何か起きたのでしょうか?」


「はい。ローレン・ランドは公爵様との面談後、公爵様お屋敷の馬車を使わずに、市内から長距離馬車を使ってダイレムへ帰ったようにございます」


「あら?確かお屋敷にはダイレムまで馬車を遣わして呼び寄せたと聞きましたけど?帰りも送らせなかったのでしょうか。公爵様はそれ程までに憤慨されていらっしゃったのかしら」


「いえ、ランド自身が馬車の提供を拒否したそうにございます。拒否と言うよりも屋敷側からの申し出を無視したと言うのが実情のようです」


「つまり、公爵様だけでなくランド自身も憤慨していたと?公爵家からの申し出を無視するなんて余程気分を害していないと出来無いでしょう?」


「その通りにございます。ランド自身は相当に憤慨していた様子だったと屋敷の門番からの情報です」


 通常、平民という身分でありながら公爵家からの申し出を「拒絶」するのではなく「無視」すると言うのはちょっと考えられない。

拒絶にはまだ何かしらの意思表示があったという事だが、無視はそれすら無いという事だ。「相手にしない」と言う態度は目上の者を拒絶以上に怒らせるような態度である。


「ランドはその後、市内で馬車に乗れたという事は公爵様側からその態度にお咎めは無かったと言う事なのですね?」


「そのようにございます。結局公爵様側からのランドへの接触や干渉は屋敷から出た時点で無くなっておりました」


「なるほどね……。ランドを憤慨させた事に関しては公爵様側にも何か手落ちがあったのかもしれないですね」


「左様に思います。客観的に見ても公爵様側が突然ダイレムに馬車を出して、彼らを強引に連れ去って来た挙句に一目対面してすぐ様追い返したという状況となります。これは明らかに公爵様側が横暴と取られてしまうのも致し方無い事かと」


「そうですわね。公爵様の怒りと言うのはランド側からすれば身勝手極まりないですものね」


「はい。ランドはそのままダイレムに真っ直ぐ帰る形になりました。途中でどこかに寄る事もなく、宿駅では予め用意されていた公爵様側の手筈で宿泊には不自由しなかったようで、宿駅の村役人からの申し出は流石に無視出来なかったようです」


「ランドは馬車運行の予定通り、10月4日午前にダイレムへ到着し、市内中心の馬車乗り場より自宅へと向かったようにございます」


「あら。わざわざそのような言い方をすると言う事は、何かありました?」


「はい。ローレン・ランドですが……馬車乗り場から徒歩で移動中に倒れ、そのまま死去しました。心臓の病ではないかとの事です。他殺の線は無く病死として処理されております」


「何ですって!?ランドが死んだと?」


「はい。馬車乗り場から彼の店舗がある下町まで最短のルートを歩いている事、孫を連れての移動だった事からやはりどこにも寄らずに真っ直ぐ帰宅するつもりだったのではと言うのが調査員全員の一致した見解でございます」


「なるほど……つまり帰宅中に『たまたま』行き倒れたと。そんな事もあるのね。公爵様側からの制裁という可能性は薄いわけですね?」


「はい。ランドが斃れた場所の状況から、ランドに対して何か外部からの力が加わって死に至ったという事実は認められませんでした」


「そう……私は何か彼らに対して疑心暗鬼になっているのかもしれませんわね。悉く私の予想を上回る……」


シニョルは苦笑いを浮かべた。


「いえ、統領様のお考えも十分に理解出来ます。何しろ私自身、以前アリシア・ランドに襲撃を躱されておりますゆえ」


「そうでしたわね……しかし祖父を失ったという事は、件の子供にはもう家族は残っていないのではないかしら?」


「はい。薬屋の一家としては、件の子一人を遺して家族全員が死亡した事になります」


「それで?件の子は孤児になったわけですか?それとも血縁者がまだ居たとか?」


「はい。祖母方の親類がおりました。ランドの薬屋からは多少離れてはおりますが、海鳥亭という飲食店を営むヘンリッシュという家が残っておりました」


「ほぅ……。ではその家に引き取られたと?祖母方という事は……ローレン・ランドの妻の実家かしら?」


「左様でございます。ローレンの妻の両親は既に他界しておりましたが、兄が家業を継いでおりました。どうやら二人兄妹だったようで、他の血縁親類は残っていないようでございます」


「ではそのヘンリッシュという家についても調べて頂いたのかしら?」


「はい。勿論でございます。ただ、このヘンリッシュという家……少々変わった経歴を持つ家でございました」


「変わった経歴?下町の飲食店なのでしょう?」


「はい。現在では飲食店……レストランのようですが、ヘンリッシュ家の系譜を調べますと、元は102代国王の弟を祖に持つ事が分かりました」


「あら……王族出身者?102代というと……今の国王が132代ですから、随分と前の話ですわよね?」


「そうなります。102代ヒース王の時代は王国歴2460年から2494年との事です」


イモールは報告書の内容を読み上げた。


「随分前の話ね。私も実は貴族制度について付け焼刃の勉強しかしておりませんが、王弟ですから次代以降に臣籍降下で公爵叙任ですわよね?」


「恐らく仰る通りかと思われます。私は統領様よりもその手の知識に疎い者ですから、報告書の内容のみを読み上げさせて頂きますと、102代ヒース国王の弟君であったナルサ殿下の御子息、フェルチ様が『一代公爵』として叙任され、次代のタース様は貴族法に従い子爵へと再叙任……降爵という事なのでしょうか。そして数代後には子爵位も失って平民の身分にされたとの事です」


「あぁ……確かそのような事を聞いた事があります。一代公爵は次代には子爵に落とされ、そのまま功績等が無いままだと爵位を剥奪されて平民に落とされると……無能な王族出身の穀潰しを無制限に増やさないという貴族法でしたっけね」


「なるほど。そう言う法があるのですね。平民となったヘンリッシュ家は王都から逃げ出すようにダイレムに移住したそうです。ダイレムへの移住が2810年となっております」


「平民に落とされて王都では面目が立たなくなったのでしょう……フン。私達難民など面目を考える程余裕なんて無かったですのにね」


「左様でございますね。その頃など、まだ御館様や統領様のような方は存在しておりませんから、我々の先達も大変に苦労していたでしょう」


「そういえば支部長はご自身が難民一世でしたわね。私は祖父母の代の難民出身者でしたわ。私で三代ですが暮らし向きは全く変わりませんでしたのよ」


シニョルとイモールはお互い戦時難民出身者としての悲哀を思い出していた。


「報告を続けさせて頂きます。ダイレムに移住した当初はそれでも中心部に邸を構え、金融などを手掛けていたようです。しかしそれも事業の失敗等で四代程で没落し、結局は廃業して下町に移り住んだのだそうです」


「ふぅーん……王弟の頃から500年で田舎の下町にまで転落するのね……まさしく不肖の子孫と言うところかしら」


「さてそれは……結局、下町に移り住んだミルコ・ヘンリッシュは2944年に海鳥亭と言う飲食店を開業致します。現在のレストランと言うよりは食堂や居酒屋に近いものであったようです」


「現在の主、ユーキ・ヘンリッシュはミルコの孫に当たるようでして、王都出身の妻であるラミアとの間に男子が一人、名をジョルジュと言いまして、現在は王都の名店《双頭の鷲》で修行中だとの事」


「ではそのユーキ・ヘンリッシュと言う人物がローレン・ランドの妻の兄というわけですね?」


「左様でございます。なので遺された件の子にはまだ三人の親戚が残されていると言う事になります」


「なお、このユーキと言う男ですが公爵様がアリシアを屋敷に連れ去るように召し上げた事を原因として妹と両親が憤死に近い状態で次々とこの世を去ったと思い込み、公爵家に対して非常に強く憎悪を抱いているとの事」


「両親とは、先程の店を創業した者の子供ですか?」


「左様にございます。海鳥亭の二代目夫婦と言う事になりますね」


「それはたまたまアリシアを屋敷に迎えた時期と両親の病死が重なったと言うのではなく?」


「はい。ローレンの妻でアリシアの母であるミム・ランドも娘の件が原因と見られる衰弱死をしており、それに影響されてのものと少なくとも当人やそれを知る者は見ているようだとの報告がございます」


「ふぅん……。そうなるとやはりそのヘンリッシュ家も残しておくと後々に御館様の為にならない気がしますわね」


「そうなりますでしょうか。件の子は既にヘンリッシュ家に引き取られており、ユーキ・ヘンリッシュとその妻は二人で子を育てながら飲食店の営業を再開しているようでございます」


「ならば計画を実行するに当たっては近隣の住民に知られる事なくその三人を『処分』する必要がありますわね。王都にいる息子と言うのはどうしますの?」


「はい。三人を処分した後に、それを知って帰郷するであろう息子を王都から監視しつつダイレムに到着する前に消せば問題無いかと」


「ではそのように進めて下さい。何か必要な物はありますか?」


「はい。それではお言葉に甘えまして。三人を人知れず処分するのに我らに馴染みのある錬金術師に作って貰いたい物がございまして」


「何でしょう?毒ですか?」


「いえ。毒ですと特定の複数の者を処分するには難しいのです。誰か一人が毒に当った時点で残りの者が警戒してしまうでしょうから」


「なるほど。ではとにかく錬金術師への手配が必要なのですね?それは任せましょう。費用は別に用意しますので遠慮なく仰って下さい」


「ありがとうございます。それでは三人に対する結果が出てから改めて申し上げさせて頂きます」


「わかりました。それでいつ実行しますか?」


「はい。それは私の方からお伺い致そうかと思っておりました。統領様のお考えをお示し下さい」


「私としましては準備が整い次第、実行して頂いて構いません。やり方は全てお任せします。どうやら支部長には今回は失敗させない勝算はおありなのでしょう?」


「左様でございますね。今回は念を入れただけあって調査はしっかりと行えたようです。特に不審な点は見つかりませんでした。どうやらアリシアの時のような我らが及ばない不可思議な力は働いていないようでございますし」


「わかりました。それではそのまま実行に移して下さい。そうですね……焦らず年内にでも終わらせてくれたならば私も安心して年を越えられそうですわね」


「かしこまりました。それでは我らが赤の民の面目に賭けて成功させて見せましょう」


「ふふふ。そんなに前のめりにならずとも。支部長がいつものように淡々と動いて頂ければ無事に済む事でしょう」


かくして、ダイレムから数百キロ離れた領都にて海鳥亭一家抹殺の謀議が決せられたのである。


****


 朝……。最近は非常に寒く、目が覚めても寝具の中からなかなか出るのが辛い。


 今日は12月10日。俺にとっての激動の王国歴3038年も残すところあと20日余り。祖母ミムの兄と言う俺にとって伯祖父(おおおじ)の続柄になるユーキ・ヘンリッシュさんと奥さんのラミアさんの家に引き取られてからは既に二ヵ月以上が経過していた。


 唯一の家族であった祖父ローレン・ランドを亡くし、《藍滴堂(らんてきどう)》を経営していたランド一家はたった5年余りで生き残ったのは自らの命と引き換えに母が産み落としてくれた俺だけになってしまった。

生き残った俺は生まれつき右目を失明するという障害を抱え、更に祖父以外に懐く事なく《(のろ)い子》と言う、言葉も感情も殆ど発しない子供として育ったが、どう言うわけか近所の人々に愛され、祖父も、失った他の家族への悲しみから幾分慰められながら俺を育ててくれた。


しかし、その祖父も……もうこの世には居ない。


 彼の死の瞬間を以って、俺に施されている《封印》の一部が解放され、俺は不完全ながら覚醒を果たす事が出来た。

覚醒した俺にはこれまでとは逆に、一般の5歳児におけるそれとは桁違いの知性と知識、知恵を獲得しており、俺はそれを少しずつ、そしてさりげなく示す事で……それでも伯祖父夫妻を含めたこの港町ダイレムの下町に住む、俺を愛してくれる近所の人々に驚きを与え続けた。


 俺を引き取った唯一の親類で祖母方の親戚となるユーキさんは祖父の代から下町で《海鳥亭(うなどりてい)》と言うレストランを奥さんであるラミアさんと営んでおり、三代目オーナー兼シェフとして夫婦経営ながらも近所はおろかダイレム市内でも名声を博していた。


 店は午前中、お昼少し前に開店し用意した昼食用の食材が尽きるまで営業した後に一旦店が閉められ、休憩と夕食用の仕込みが終わると夕食時に再び開店し、その日に用意した食材を使い切ったら閉店するという営業形態を採る。


 店の中には壁に大きな振り子時計が掛けられており、これはユーキさんの遠い先祖から受け継いでいる家宝なのだそうだ。時計は作られてから既に何百年と経過しているそうなのだが、今でも正確に時を刻めるようで、毎朝6時に町の教会で鳴らされる《朝点鐘》に合わせて時刻合わせ、ゼンマイのネジを巻くのはラミアさんの役割だ。


救世主教の教会はどうやら毎日5回、時を告げる鐘を鳴らす。


 朝点鐘と呼ばれるその日最初の鐘が朝6時に鳴らされる。その後は3時間おきに9時、正午、15時、18時と鳴らされ、朝点鐘では1点鐘を3回繰り返し、以後9時に2点鐘を3回、正午に3点鐘……と5回までその打鐘は増やされる。

町の人々はどうや6時の鐘を《朝の鐘》、正午の鐘を《昼の鐘》、その日最後の18時の鐘を《夜の鐘》と呼び、自分達の生活のメリハリにしているようだ。


 海鳥亭は店の大時計で11時になると開店し、昼の鐘を挟んで14時前には一旦閉められる。そして夜の鐘と共に18時に再度店は開けられて、概ね22時過ぎには一日の営業を終える。

俺から見て曾祖父母である両親が健在の頃はもっと遅い時間まで営業していたのだが、両親を相次いで亡くし、息子を王都に修行に出してからは夫婦二人だけで店を切り盛りする事になったのでどうしても営業時間は短くなる。

将来、息子が帰って来て嫁を貰ったらまた以前のように日付が変わる頃まで営業が出来るようになるかもしれないとの事だ。


 店の人気は非常に高く、俺が見たところ常に店内の席は埋まっている。時には外に順番を待つ客が並ぶ事もあり、昼の営業時にはそれが数十人に達する事もある。

俺の観察では客の服装はまちまちで、下町の住民らしい服装の人も居れば、それとは思えないような生地や仕立ての服を着ている人も混じっており、市内からあまねく客が訪れている印象だ。


 俺は実際に客として海鳥亭で食事をした記憶が残っていないのだが、平素食べているユーキさんの料理とラミアさんの菓子の味は抜群に美味い。

そしてどうやらそれらの食事を下町の人々でも十分に払えるような価格設定で供している様子なので、連日店内が超満員なのは当然なのであろう。


 ユーキさんは4時には下町と市内中心地を繋ぐテンス大橋を渡り、リズ川の向う岸沿いにある市場へ小さな車を引いて食材の仕入れに向かう。

その間にラミアさんは店の内外を掃除し、菓子の生地の下拵えやパンを焼き始める。

ラミアさんは女性にしては長身で腕っ節も強く、生地を捏ねるのが非常に上手い為に自家製パンは彼女の担当のようだ。

更にその日の営業でデザートとして供される菓子、特に焼き菓子は、それだけを食べに訪れる女性も居るくらいに人気が高いようで、その生地の下拵えも夫の買い出し中に行われる。


 この家に引き取られた当初、ラミアさんは毎朝6時の鐘で俺を起こしに来ようとしていたが、俺がどうやらかなりの早起きである事に初日で気付き、今では起こしに来ない。

起こされた時に誤って右目も開いてしまう事を恐れた俺は5時前には起きて自分でパジャマから着替え、住居部分である二階から店舗部分の一階へと下りて行き、主に掃除を手伝う事にしている。

お世話になっているのだから当たり前だし、何より俺は右目の事もあるのでラミアさんに起こされる前に自分で起きるようにしたのである。


 ラミアさんは当初俺が掃除を手伝う事に不安を覚えていたようだが、俺はなぜか葬儀の他に掃除に関しても深い造詣を持っており、短時間で店の周辺の掃き掃除を終え、更にユーキさんが帰って来る頃には店の床と机をピカピカに拭き終えるのを見て仰天し、


「あ……あたしよりも上手い……どう言う事なの……」


と言葉を失っていたが、帰宅した夫に


「そうか。お前はルゥの掃除を見た事がなかったのか……俺はローレンの葬式の朝にあいつが藍滴堂の前の通りを隣近所の前までさっさと掃き清めたのを見たからなぁ……」


と言われ、無理やり自分に言い聞かせて納得したらしい。その後は朝5時には起こさなくても着替えて住居から下りて来て、片言の挨拶の後に勝手に掃除を始める俺へ口を挟む事をしなくなった。そして、俺が掃除を引き受けるようになったのでその間に洗濯が出来るようになったと喜んでいた。


 俺が店の外に出て長いホウキを使ってせっせと掃き清めていると


「あらルゥちゃん。今日も早いのね。お掃除手伝ってるの。エラいわぁ」


「おはようございます」


「はい。おはようさん。朝の挨拶も上手ね」


などとやはり市場に向かう近所の人々と挨拶を交わしているうちにひと月ふた月と経ち、そのうち近所の住民から海鳥亭に引き取られた魯鈍な俺が、恐ろしく手慣れた様子で店の前だけでなく両隣や向かいの店の前まで綺麗に掃き清めていると言う噂が立つようになり、珍しいのかこの時間帯に通行する人が増えるような状況になっている。


 店内の客席部分の掃除まで終わらせた後、


「おばさん。おねがいします」


と、俺はラミアさんにお願いするとラミアさんは


「はいはい。ありがとうね!今行くから待ってて」


と言った。


 最近は季節柄、外の掃除で大量の落ち葉が出る。俺はその落ち葉を裏庭の隅に掘ってある穴に集めてラミアさんに火を点けて貰い、焚火に当たりながらボーっと眺めるのが日課になっているのだ。

ラミアさんは近所でも魯鈍であると評判の俺一人に火の番を任せても全く不安に思っていない様子で、桶に水を入れたものと前日に出た燃やせるゴミを持って出て来て


「じゃ、お願いね」


と落ち葉とゴミの入った穴に窯から持ってきた燃えさしの火を移して自分の仕込みに戻って行く。

俺が焚火を眺めていると店の中からパンの焼ける匂いがしてくる。これが俺の最近の朝の生活スタイルだ。


 俺は白い煙を出しながら燃える焚火の前にしゃがみ込み、体を温めながら様々な事を考える。祖父の事、父親の事、母親の事。父親の正妻によって一家壊滅にまで追い込まれた事。火を眺めながらそんな事を考える。そして俺のこれからの事。毎日考えても考えても思索は尽きない。


 俺の事を常に見守っていると言うリューンは俺が海鳥亭に引き取られてからは、日常生活でそれ程積極的に文字を浮かべてくる事は無くなった。

俺が彼女(?)に話しかける時は祖父や母のノートを読んでいる時に分からない事や考察に対して「元学者」であったと言うリューンの意見を求めたり、これまで一度だけ読み終えたノートと新しいノートを交換しに定休日のユーキさんにお願いして藍滴堂三階にある祖父の研究室跡に連れて行ってもらい、読み終えたノートを戻して新しいノートを5冊選ぶ際に助言を求めたりと、祖父と母のノートに絡む時くらいだけになっている。


そう。祖父のノート。


 ラミアさんが幼児である俺一人に焚火の番をさせて平気でいられるのも、今のところ夫婦だけしか知らない俺のもう一つの《顔》を知っているからである。

俺は言葉遣いこそ鈍い印象を与えるが、祖父が遺したノートを5歳にして普通に読解出来る事を彼ら夫婦にだけは見せている。

ノートの内容は夫婦ではとても理解出来るものではなく、「凄腕の薬剤師」としてダイレム中に名が轟いていた祖父の調薬における研究の集大成が記されていた。


 中にはこれとは別に祖父の研究を手伝っていた母が遺したノートも混じっており、薬剤師の道に入りたての彼女が製薬の基礎を学んだ際に書き残したノートは、俺にとっても製薬と、祖父のノートの内容への理解の一助になっていた。


 伯祖父夫妻は、発する言葉はあいかわらず魯鈍な印象だが、卓越した清掃技術や普通の教育では大人ですら難解なノートをあっさりと読解する俺を「異能の天才」と見ているらしく、近所に大っぴらに自慢すると思わぬ災難に巻き込まれるとして夫婦だけの秘密とした。

当の俺は放っておいても相変わらず夫婦以外の人々の前では時折突飛な行動を見せるがまるで鈍い幼児のままの態度で過ごしていたからである。


 パンの焼ける匂いに気が付くと、目の前で燃えていた落ち葉も丁度燃え終わっており、俺は焚火跡に桶の水をかけて確実に消火したのを確認して、桶を持って裏口から店に入る。

桶をラミアさんに渡す頃、丁度朝食が店のテーブルに並べられているのだ。


 朝食は焼き立てのパンとサラダ、店で手作りしているベーコンやソーセージを焼いたものなど、内容としては普通だが味は他の一般家庭とは比べようもなく上等で、俺は恐らくこの辺一帯で最も素晴らしい朝食を食べている幼児であろう。

焚火を終えて戻って来る俺から、落ち葉を焼いた煙の臭いが付いているので、ユーキさん夫妻が手作りの燻製品についての話になる。


「ねぇ。ルゥちゃんが毎朝集めて来る落ち葉は燻製に使えないの?」


「うーん。俺がガキの頃に爺さんが燻製を試し始めていてな。あの頃家族総出で散々に色んな燻製品を試食させられたが、落ち葉を燻煙に混ぜると少し苦味で出ちゃうんだよな。

試食した家族にも不評だったから、結局ウチの燻製には落ち葉は使わなくなったんだよ」


「へぇ。そうなんだ。そういえばあたしがここに来た頃にはもう燻煙窯があったわよね」


「うん。俺もそれ程覚えて無いんだがな。後で親父に話を聞いたところでは、親父がこの店をそれまでよりも上等なレストランとしてやり方を変えたいって爺さんに提案した時に、爺さんが親父に店を任す代わりに自分は燻製を究めて夜に酒のアテとして客に出したいって言い出して、一から自分で作ったらしいんだよ」


「あぁ。そういえば義母さんが言ってたわね。義祖父さまがあの窯を作る時に自分は漆喰を練らされて手がかぶれて大変だったって」


「あははは。そうそう。お袋って肌が弱くてさ。うんうん。ローレンの先代が売ってくれた軟膏塗ったら治ったって喜んでたなぁ」


どうやら藍滴堂は曾祖父の頃にも近所から重宝される薬屋だったようだ。


「この燻製、昔っから全く味が変わって無いけど、製法は同じなの?」


「少なくとも俺は親父から仕込まれたやり方を変えずにずっと作ってるな。親父も多分爺さんに仕込まれたんじゃないのか?」


「ふぅーん。じゃ、何か作り方のメモとか残して貰ってるの?」


「いや、舌と体で覚えさせられたって言う感じだな。細かい塩の量だの煙にする材料なんかは全部自分の記憶頼みだな。外の季節や気温や天候でも味が変わってしまうから」


「やっぱりそうなのね……アンタがウチで料理していて何かメモとか見ていた事無いものね……。あたしは自分の菓子の作り方はちゃんとメモを残しているわよ」


「何だよ。急に。まるでメモを残さない俺がバカなんじゃないかっていう言い方じゃねぇか」


「いや……別にそう言うつもりで話したわけじゃないんだけどさ。あのローレンさんの遺したノートの量を思い出してね……」


「あぁ……あれは圧巻だな。あの後ルゥにせがまれてもう一度あの部屋に行ったけど……それでもまた圧倒されたからな。こいつはどう言うわけか、あの量の中からさっさと5冊選んで来ちまっているが」


いや、選んでいるのはリューンなんですがね。俺は彼女の推奨する順にノートを読んでいるだけですし。


「ルゥはどうなんだ?昼は上でずっとあれを読んでいるんだろ?」


「はい」


「本当にちゃんと理解出来ているのか?俺には全くチンプンカンプンなんだけどよ」


「うん」


「そっか……こいつの口数が少ないのは以前から変わらないが、実際こうして一緒に暮らしてみると、『鈍い子』なんて思ってた自分がどうしようもなくバカだったと思うくらいだわ」


「そうね……あたし達、恐らく今までこの子の上っ面なところしか見てなかったのね……こうしてあたし達が話している内容もこの子はちゃんと理解しているんでしょうね……」


「そ、そうだな……ジョーが修行に出てからこうやって二人だけで馬鹿話してたけど、ルゥに聞かれているから気を付けないとな。わっはっは」


「アンタ、笑っている場合じゃないのよ。ルゥちゃん、ごめんね。こんな下らない話を聞かせてしまって」


なぜかラミアさんが俺に謝ってきたので俺はさりげなくフォローするように答えた。


「そんなことない」


「おじさんとおばさんがいるから、さびしくない」


「そ、そう……ありがとうね……」


ラミアさんは少し涙声になった。この人は見た目や性格が豪快な割にちょっと涙もろいところがあるな。


「ルゥは今日も上でノートを読むのか?」


ユーキさんが話題を変えてきた。


「はい。そのつもりです」


「そうかそうか。ごめんな。昼は店が忙しくてちっとも構ってやれずによ」


いや、俺の本心としてはそっちの方がありがたいです。はい。


「ううん。だいじょうぶ」


「欲しい物があったら何でも言えよ」


欲しい……といえば、藍滴堂に残されている製薬道具を取り寄せたいと言う希望はある。


 最近、母のノートを読んでいると、製薬の基礎学習から初期の《一次加工》の実践についての記述が目立ち始めてきた。

一次加工とは原料を薬剤として利用出来る状態にする料理で言うところの下拵えのような工程だ。


 例えば植物類の材料は目的である薬品へと加工する過程で「生のまま」と「乾燥させて」と二通りの投入形態がある。

生のまま投入する場合はそれ程考える事も少なく、そのまま加えたり多少は刻んだりする程度だ。


 しかし《乾燥》と言う加工の場合は色々とニュアンスが違う加工形態があり、それこそ時間をかけて完全に乾燥させた物もあれば、半生の状態で済ませる場合、天日による自然乾燥もあれば直火・熾火を使った強制乾燥など様々だ。

井戸水等の水道水を蒸留水に精製するのも一次加工と言える。母はこういった加工工程に関するメモを数多く残しており、その美しい文体を読み進めていると、自分でもつい「試したく」なってくるのである。


 しかし、藍滴堂に残された道具、それも一階の作業台の上にある物を一部だけでも回収となると、またユーキさんの手を煩わせる事になるし、何より道具だけでは何も出来ず、材料その物が必要になってくる。


 材料の心当たりとしては藍滴堂の薬剤箪笥の中にそれなりの量が貯蔵されているのだろうが、俺が今母のノートから学んでいるのは一次加工の項なので「生の材料」が欲しいのだ。

しかし生の材料と言うのは入手手段が町の中で済む事は少なく、大抵は自分で町の外の野山に採取しに行くか、近隣の村の住民が副収入として採取を請け負っている所から買い付けるのが一般的だ。

薬品の中には生物由来の物も多いが、その大半である動物の骨や牙や内臓部位等も、近隣の村で畜産や狩猟をしている人などに確保して頂いた物を買い取ったりするものらしい。


 母の記録にはそのような薬剤の入手方法まで詳細に書かれており、俺は入手手段についてはノートを参照すればいいのだが、入手の実践においては5歳の俺が単独で許される行動範囲の中で入手が可能な物はほぼ無い。

なので……今の俺はせいぜい自分に与えられた部屋で時間の許す限り母のノートを読み、そこから得た知識で祖父のノートを読み進めると言う事ぐらいしか、やれる事が無い。


 よって、欲しい物も殆ど思い付かないのだ。強いて言うならば、俺が今欲しい物は金銭でどうにかなる物ではなく、ユーキさんの「付き添い」と言う名の労力を必要とするものになる為、店の経営で忙しい彼を定休日で体を休めたい時間を削ってまで動員するのはどうしても気がひけるのだ。


「ない」


と言う俺が、自分に気を遣って欲しい物は無いと言っていると思ったのか


「でも、ジョーなんかはお前くらいの歳には色々とねだってきたけどな。俺達だってそんなに金に困っているわけじゃないんだから遠慮せず何でも言ってくれよ?」


「ありません」


俺が改めてリクエストを謝絶すると


「うーん。この子は本当に不思議な子ね。同じ年頃の子とは何もかも違うわ。ジョーがこの子の歳の頃を思い出してもそうだもの」


とラミアさんは食べ終わった食器を片付けながらしみじみと言った。


「まぁそうか!じゃ、またノートを取り換えたくなったら俺に言えよな。また店まで連れて行ってやるからな」


とユーキさんは言ってくれた。


「ありがとうございます」


と、俺は多少嬉しさの色を出して礼を述べた。


 藍滴堂の管理に関しては、店の位置がこの海鳥亭から市場へ向かう道の途中にある為に、ユーキさんは毎朝の仕入れの時に簡単なチェックをしているそうだ。

鎧戸がこじ開けられていないか、または鍵をこじ開けた形跡が無いか、窓が破られていないかなど。

そして仕入れの帰りは大概向かいの一角亭のルイスさんと一緒になる為に、そのまま店の前で掃除などをしているマーサさんやリンさんから店の近くに不審な者がうろついていないかと言う情報も貰っているようであった。

半月に一度くらいは定休日を利用して《藍滴堂》の中の点検と見回りに行く際に一緒について行くと言う形であるならば普通に叶えさせて貰えるだろう。


「ごちそうさまでした」


と、俺は食器をまとめてラミアさんに渡し、そのまま二階の自分の部屋へと戻った。ユーキさん夫妻の仕込みはこの後からが本番だ。邪魔すべきではないので部屋にさっさと引っ込む方が丁度いいのだ。


 この季節、港町ダイレムは西のバルク海から吹いて来る風が強い寒気を伴う事が多くなり、昼間でも気温は5度を下回る事がある。

夏は逆に南東の山方向からの温度の高い風が吹き下ろされる事が多くなる為に暑くなる。

「夏暑く冬寒い」と言う腹立たしい気候のせいか地域的に暖房器具が発達しており、海鳥亭においては一階の店舗客席部分に設置された大きな暖炉に火を入れると、金属製のダクトに熱気が伝わりながら二階住居部分を巡って、煙突から煙を排出する構造になっている。


 なので朝、暖炉にさえ火を入れてしまえば二階を含めた屋内は温かい状態が保たれる事になる。各階、各部屋に暖房器具を個別に用意する必要が無い、大変効率の良い暖房システムなのだが、どうしても循環による放熱に時間がかかるので、満足出来る温度まで上昇させるのに多少時間がかかると言うのが強いて言えば欠点だ。

但し、俺の場合は掃除、焚火、食事と朝の日課をこなしている間に自室は温まっているので、これまで朝食後の部屋の室温に不満があった事は無い。


 俺が与えられた部屋は藍滴堂の二階にあった部屋を丁度横に二倍に広げたような作りで、扉はやはり右端にあり、開けると右側の壁には箪笥が、左側にはベッドがあり、正面の壁に窓が付いて窓の下に机が置かれていた。机は俺の体の大きさでもちゃんと使える物で、背もたれ付きの椅子も子供が使うような小さな物だ。


 机の上にはノートが5冊、平積みされ他には自分が書き物に使う新品のノート、インク壺、羽ペン等の筆記具だけと言うシンプルさだ。ここに来てから二ヵ月、俺のやってる事はこの机に向かって3冊ある母のノートをまず読み、その後2冊ある祖父のノートを読み進めると言うものだ。

先日、藍滴堂にノートの交換に行った際にも母のノート3冊と祖父のノート2冊という組み合わせでリューンが選んだので、今日の時点ではまだ母のノートを読んでいると言う感じである。

母のノートは既に残り僅かとなっており、恐らく今日中には読み終わって、1冊目の祖父のノートに取り掛かれるのではないかと思っている。


 俺がこの部屋に籠ってノートを読んでいる時、ユーキさんもラミアさんも部屋に入ってくる事は殆ど無い。と言うよりも二人はレストランの切り盛りに追われているので俺の事を構っている場合では無いのだ。

昼の営業が終わるとようやく俺を呼びに来て、俺は下で昼食を食べさせてもらう。その後また部屋に戻って読書。16時頃にラミアさんがランプに火を入れに来てくれ、18時の夜の鐘が鳴る少し前に焼菓子を持ってくる。

俺は甘い焼菓子を食べて脳に栄養を補給して、そのままノートに向かい続ける。


 海鳥亭は概ね22時には営業を終わらせるが食材自体は21時前には無くなってラストオーダーとなり、その料理が供されると今度はユーキさんが夕飯を持って部屋に上がってくる。

俺は鐘の音も耳に入らないくらいに夢中になってノートを読み、リューンと考察を交わしたりしているので、このラミアさんとユーキさんが食べ物を持って来てくれるのが良いメリハリになる。


 夕飯を自分の部屋で食べると食器を一階の厨房に戻しに行く。俺が今の所ユーキさん夫婦以外の人の目に止まる機会は、朝の掃除の時と、この食器をひっくり返さないようにフラフラと階段を下りて来る時だけだ。

階段を下りて来る俺の姿を見ると、多少アルコールの入った近所のオジさんなどが


「おっ!ルゥ坊!お手伝いか?エラいじゃないか!」


などと声をかけてくるので、一応は


「こんばんは。いらっしゃいませ」


などと挨拶を返すと大抵の客は驚く。


 食器を返すと、俺は風呂に入る。この家には風呂があり厨房の竈の余熱でお湯が沸かせるようになっている。

俺の観察では厨房と風呂場は壁を挟んで隣り合っており、厨房側の竈が風呂場側に少し入り込んで造られている。竈から出た余熱で人が浸かれるくらいの丁度良い湯を沸かす事が出来るのだ。

俺が初めてこの仕組みを見て驚いていたが、ラミアさんの話では藍滴堂にも洗面所の奥に小さな湯が浴びれる部屋があり、俺は毎日湯浴みはしていたはずだと笑われた。そうだったのか。全く憶えてなかった。


 飲食店だからか、ユーキさんもラミアさんも毎日ちゃんと風呂には入る。なので厨房の火を落とす前の時間帯に風呂場の湯を沸かしておき、結果的に体の空いている俺が最初に風呂に入る恰好になる。

ラミアさんは、当初俺が一人で風呂に入れるとは思ってなかったようだが、俺が平然と一人で入って体や髪を洗い始めたので以後は一人で勝手に入るように言われている。


 このようにして、俺は基本的に海鳥亭では放任されており、三人が揃って食事をするのは朝食と昼食の時だけだ。

また、店が定休日になると三人でよく市場に行ったり外食したりする。レストランを経営していて外食するのもおかしいのだが、ユーキさんとラミアさんは料理の事に関しては勉強熱心で、他の店の料理や味などを試しにいく事に積極的である。


 今日も風呂に入り、部屋に戻って眠くなるまでに自分のノートに今日読んだ内容を復習の意味で簡単な日記代わりに書き出し、自分やリューンと重ねた考察を書き記しておく。

俺は二ヵ月前の祖父が亡くなったあの日の出来事で自分の記憶が何かによって無くなり得るという事へ無意識に警戒するようになった。そして、祖父と母のノートを読んで文字を残すと言う事の大切さに気付き、日記のようなものを書く事にした。


 俺が自分のノートに考えを纏め終わって寝るのが恐らく店の営業が終わる22時くらいだと思う。ベッドに上がって横になる頃に下が静かになるからだ。自分の部屋に時計が無いのではっきりとは分からないが、毎日そのような生活サイクルに嵌っていると思う。

今日も恐らくは店の営業が終わるころにランプの火を消してベッドに入ったのだが、なぜか全く睡魔が襲ってこない。


俺は月明りがカーテンを通して照らし出す天井を見つめながら


(あぁ……俺はこのままこの生活でも構わないな。このまま大きくなって一人で行動出来るようになったら近隣の村や森に出かけて薬の材料を集めてさ)


などと平穏な自分の将来像を描いてみせた。


『そうか。お前がそう望むのであればそれでいいだろう。封印が解けないのであれば、お前はちょっと頭の回る優秀な人間として人生を送れるはずだ。ローレンの遺産で勉強して彼の薬剤師としての名声を引き継ぐ事だって可能だろう。

そしていつの日か妻を迎え子に血脈を継がせる。私との付き合いはそこまでになるが、私がその子を護っていく事になる』


(ははは。そりゃ俺も楽でいいな。しょぼい野心や下らない陰謀によって他人を信じられなくなるくらいなら、この下町の片隅で家族を守って暮らしていけばいい)


 月光の当たる天井に浮かんだリューンが送る文字を見て、俺はつくづく思った。俺自身もそうだけど、ユーキさんも家族を何人も失った。彼ら夫婦がその悲しみを乗り越えて暮らして行くのなら、俺も一緒になって息子のジョルジュさんも入れて四人で笑いながら暮らして……俺も大人になって……。


 漸く睡魔が下りてきたと思ったその時、リューンが何か焦った様子で文字を浮かべてきた。


「起きろ!ルゥテウス!この店が囲まれている!悪意に囲まれているぞ!」


俺はその文字を見て跳ね起きた。


下の階からユーキさんの怒鳴り声が聞こえた。

【登場人物紹介】※作中で名前が判明している者のみ


ルゥテウス・ランド

主人公。5歳。右目が不自由な幼児。近所の人々には《鈍い子》として愛されているがその正体は史上10人目となる《賢者の血脈の完全なる発現者》。しかし現在は何者かに能力の大半を《封印》されている。


リューン

主人公の右目側に謎の技術で文字を書き込んで来る者。約33000年前に史上初めて《賢者の血脈の完全なる発現者》となり、血脈関係者からは《始祖さま》と呼ばれる。死後、《血脈の管理者》となり《不滅の存在》となる。現代世界においては《大導師》と呼ばれる存在。


ユーキ・ヘンリッシュ

主人公の伯祖父。47歳。ミムの兄。レストラン《海鳥亭》を経営。主人公と同じく多くの家族を喪っている。ヴァルフェリウス公爵とガルロ商会を心の底から憎んでいる。


ラミア・ヘンリッシュ

ユーキの妻。45歳。主人公からは義伯祖母に当たる。夫と二人でレストラン《海鳥亭》を切り回す。気が強いが主人公を溺愛している。


シニョル・トーン

エルダ専属の女執事。ノルト伯爵家からエルダの婚姻に同行して以来の腹心。エルダの闇と秘密を守るために《実力行動》を指揮する。


イモール・セデス

暗殺ギルド《赤の民》の幹部。領都での活動を束ねる男。エスター大陸出身で元戦時難民。理性的で穏やかな男性。


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