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第4章 大騒動

 第4章 大騒動



 それから数日後、部屋でのんびり朝食を摂っていたラティのもとへ、とんでもない報告が届いた。

「殿下、大変です!」

「なんだルーヴィン、朝っぱらから」

 寝ぼけて不機嫌な顔のラティにやや腰が引けたルーヴィンは、一瞬言葉に詰まって、それからすぐに気を取り直すと、告げた。


「城下の街で、貧血の人間が頻出しているんです。

 理由は不明で、近衛隊が街区の警備隊と協力して調査にあたっているんですけど、首筋に噛みあとがあって、南のヴァンパイアが街に潜伏しているのではないかと。

 あまりに多くの人たちが倒れたので、混乱しているんです。

 殿下も起きて、いろいろと手伝ってください。

 陛下はすでに奔走してらっしゃいますよ」

 ルーヴィンは急いでそう告げると、忙しいのか、すぐに部屋を出て行ってしまった。


 ラティは、とにかく急いで食事をすませ、使用人が支度するというのに任せて、久しぶりに正装すると、部屋を出た。いつもより、使用人の数が少ない。


 いったい、なにが起こったのというのか。

 そんなことを考えつつ歩いていると、アーノルドとはち合わせた。

「殿下、探していたのです。

 城下においでいただきたい。恐らく、今回の件には、殿下の力が必要となるでしょう」

「ああ、分かった」

 ラティは素直に頷いて、アーノルドの後に続いて、城を出た。


 城下はさらに混乱していた。

 倒れたのがほとんど娘であるため、男手は足りているが、とにかく女手が足りずに、みな困っているようだった。

 馬車に乗っていたので、詳しい様子は分からないが、向かっている場所は分かった。警備隊舎だ。

 やがて、警備隊舎につくと、警備隊長とヴィーノが出迎えた。

 隊長は、手に羊皮紙を持って、青ざめている。ラティはすぐにでもそれをひったくって読みたい衝動にかられたが、一応王子殿下だという自覚はあったので、ガマンした。


 会議室へ通されると、隊長はさっそく羊皮紙をラティに渡して、言った。

 殿下、とにかくまずはそれをお読みください」

「なんだ、そんなに変な顔をして」

 ラティは言われたとおり、上座に座ると、それを開いて、読む。

 続いて、唇から笑いがこぼれでた。

「ふぅん、これ、僕に対する挑戦状だね。

 今夜、王家に警告に参ります。我らの誇りを変換していただくために。この国の乙女たちは我が手中にある……。

 ハンター・デュ・リュックだってさ、ヴィーノ、お前、あいつの正体を知っていたんだろう? 純血のヴァンパイアだと……何で言わなかったんだ?」

「申し訳ありません。

 彼がこんなものを送ってよこすとは思わなかったのです。それに、彼にはかつて救われた恩義がありましたので、言うわけにはいかなかった……」

 ヴィーノはすまなさそうにうなだれた。

「まあいいさ。代わりに、危険な仕事を任せることにはなるけどね。

 こんなもの、鎮圧するなんて簡単だよ。

 当主が出てきているわけじゃなく、ただの親戚だからね」

 ラティはそう言うと、警備隊長は希望の光がさしたように顔をゆるませてラティを見た。

「僕に逆らうとどうなるか、思い知らせてやる。

 しかも、僕を利用しようとしたな。くくく、いい度胸だ。

 アーノルド……太陽の剣の用意をしろ」

 ラティが言うと、アーノルドの顔色が変わった。

 少しばかりの沈黙の後で、アーノルドは暗い笑みを浮かべて、うなずいた。

「かしこまりました」

「さあ、ねずみとりの始まりだ」

 ラティは立ち上がると、不敵に黒い笑みで言い放った。




 *****




 ハンターは、牙をうずめていた少女の首から顔を上げて、うっすらと笑った。

 まだ日が高い。

 今いるのは、とある貴族令嬢の寝室だった。


 ずっと、このときを待っていたのだ。

 父には止められたし、親戚には離縁すると脅されたが、やめる気はなかった。

 叙勲式に受かり、城にもぐりこみやすくしたのもそのためだ。あの王子のおかげで、邪魔なお目付け役のエミリーも排除できた。

 ずっと、ハルファリアの南の森に閉じ込められてきた鬱憤を晴らせる。


 今夜だ。

 今夜に警告を発する。

 自分の牙に忠誠を誓う乙女たちをすべて人質として、宣言するのだ。

 ヴァンパイアたちに、独立領を与えることを。

 誇り高きヴァンパイアが王家に飼われるなど、あってはならない。

 ずっと、そう思ってきたのだ。

 父は、そんなものやぶって暖炉にくべたあと、その辺の毛虫にくわせたとか言っていたが、ハンターはそれを後生大事に守り抜いてきた。


 それこそ、もう、可愛くてしかたないものを愛でるように。

 若いお父さんが幼い娘を溺愛するがごとく、プライドを守り抜いてきた。かべには自尊心と書いた紙を大量に張り付けて眠った。

 プライドという本も買った。

 熟読したし、きれいな布地でカバーをつけてやり、寝る時は一緒に寝た。


 まあ、時々うなされたりはしたが、とにかく、そんな感じでプライドを守ってきたのだ。

 ここで負けるものか。

 ハンターは、とりだしたハンカチで丁寧に口元をぬぐって、少女をベッドに寝かせると、懐から、プライド(外で読む用)を取り出して、胸に抱き、拳を固めて誓った。

 まだ星とか月とかは見えないが、その辺の壁に向かって。

「絶対に、王家には負けないぞ」


 そう、プライドにかけて。




  



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