第5章 太陽の剣
第5章 太陽の剣
聖ハルフィ。
かつて、世界が闇に包まれたころに、英雄、オルコットとともに、その闇を晴らした、魔導士。その彼が打ち立てた王国、ハルファリアには、再び世界が暗黒に包まれたり、魔物の襲撃を受けた際に、それに対抗するための仕掛けが施されている。
それが、太陽の剣だ。
そして、それを発動できるのは、ハルフィの血統に連なるもの、ハルファリアの王族、それも、男子に限られていた。つまり、ラティただ一人ということになる。
王室には、子はふたりしかいない。
ラトゥルフェルクと、妹姫のソフィリアだ。彼女も、かなりの魔導の使い手ではあるのだが、ラティには遠く及ばない。そして、そんなラティが、アーノルドと近衛隊、警備隊を伴ってやってきたのは、広場だった。
時は夜。
街は静まり返り、時折、遠くから喧騒が響いてくるのみだ。酔っ払いが喚き散らし、女の嬌声が上がる。それだけ。ラティは相も変わらず、楽しそうに微笑みながら、広場中央に鎮座している、ハルフィをかたどった銅像を見上げて、言った。
「ハルファリア王国が第一王子、ラトゥルフェルクの名において、封を解く」
と、微かな地響きの音がし、ゆら、と青白い霧のようなものが立ち込める。
それは次第になにかの形を成して行く。
少しずつ、漂う青白い霧は、透明なひとの姿にちかいモノになっていく。
精霊と呼ばれるものだ。
ここの地下には、水があり、そこには精霊が住まう。
彼らがここに姿を現した、ということは、今まさに、地中に眠る封印が解かれようとしている証拠なのである。
その場に居合わせた者たちは、幻想的で吸い込まれそうな風景に、感嘆の息をもらした。
その中心に、金色の髪をなびかせたラティがいる。
まるで、聖ハルフィの再臨だと、兵士たちは思った。実際、ラティは銅像のハルフィによく似ていた。彼は、美男王とも呼ばれたくらい、凛として、美しい人物だった。
なのに、まったく浮名を流さずに、ただひとりの王妃を愛しぬいたと言われている。
が、そこへ、闖入者が現れた。
ありとあらゆる道から、吹きだすように、彼らはあらわれた。
目を煌々と光らせ、口からは牙がのぞき、そこからは湯気をたてる唾液が滴っている。血を多く吸われ過ぎたことにより、化け物と化した乙女たちである。
その乙女たちをかき分けるようにして、優雅に現れたのは、ハンターと、その意に賛同したヴァンパイアたちだ。
「ようこそ、おいでくださいました」
「もちろん、こんな面白そうなことに首を突っ込まないわけがないだろう」
ラティは愉快そうに言った。
腰に手を当て、周囲を水の精霊に囲まれている姿は、壮観の一言に尽きた。
ハンターは少しひるんだ。そこへ、兵士たちが槍や剣を突き付ける。
ふたりは、戦の開始前のように対峙した。
「にしても、よくまあ、腹を壊さなかったな。
こんなに大量に噛みついて、血をすするとは……楽しかったか?」
「そうですね。
こんなに大量に変異させるのは骨が折れましたが、それでも、目的のために腹ごしらえもし、かつ、意のままになる人質を得たのですから、楽しくはありました」
「そうか。
それは良かった」
ラティはそう言うと、口端をあげたまま、告げる。
「僕の国に手を出したお前は、愚かだよ。
おまえは、僕がどういう人間がしらないだろう?」
「いいえ、そうでもないですよ。
わがままで、他人を踏みつけにする、その生き血をすすり、生きながらえる。贅沢を好む。どこまでも、我らとたいして変わりのない子供。
聖ハルフィの名が泣きます。
希代の術士だとは聞きましたが、我らは不死身だ。
さて、どうでしょう?
私は、手紙にも書いたように、我らのための独立領が欲しいだけです。
簡単なことでしょう? それで、彼女らを救えるのですから、貴方は英雄として、後世に名を残すでしょう」
「なんだ、知らないんだな」
ラティは憐れみを込めて言った。
と、地響きがして、大地がせりあがる。
びしっと意志の割れる音。それに続いて、地下から、青白い炎が噴き出した。
ラティは、それをなんの感慨もわかないような眼で見つめていた。
炎は、瞬く間に、王都全域に広がっていく。
静かに、音もなく。
王都は、青白い炎により、その全景を浮かび上がらせた。




