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004 呪い?

 




 ♠





「さてと。この部屋はこういった商談や密会に使い易いような造りになっているから、会話は外に漏れないと思ってくれて良いよ。警護の問題があるからサフランだけは勘弁してね。こう見えて彼女は口が堅いから安心して」


 エスピーヌが椅子に腰掛け着席を促す。確かにここに入る時、他と造りが違う事に気が付いてはいたが、そこまで厳重だったのか!と驚きを隠せない。サフランは椅子を入口近くに持って行き、ドカリと座ると腕を組んだ。俺はシャイニーと指し示された席に座る。

 するとドアをノックする音が…… 店主がお茶を持って来てくれたのだ。


「ああ、オヤジさん、いつもありがとう。外の者たちにも注文を聞いてやってくれないかい? ……うん、じゃあ始めよう。先ずはウチの商会を説明した方が良いかな? 名前を聞いた時の反応から、ウチの商会がどんなものかを知らないみたいだし。少しでも信用して貰わなければ、より良い商材を見せては貰えないだろうからね」


 それからエスピーヌの説明が始まる。

 ザール商会。それは王都に拠点を置き、国内に21店舗を展開する、この国ではトップクラスの商会であり、国外にも数店、輸出入の為に支店を出している。その勢力は王宮や軍にまで力が及ぶ程らしいが、その辺りははぐらかされた。



「まあ、そんな訳で余程の物でない限りは買い取れない事は無いと思うよ。勿論、質が悪ければ問題外だろうけど、あそこのご婦人が商談を成立させたって事はこの町で充分商売になるような品である事は間違いないと見ているんだがね?」


 そこまで言い当てられ、商会の大きさよりもこのエスピーヌと言う男に一種の畏れを抱く。


「ふふふ。そんなに強張る事はないよ。取って食う訳じゃあるまいし。でもこれでは商談に影響しそうだね。じゃあ、世間話でもしようか。君たちが宝石を売った店の夫婦ね、子供がいないんだ。若い頃に死産を経験したらしいから子供を産めない体ではないと思うけど、それ以降は恵まれないままなんだよ。周りの者たちは二人が不仲なんじゃないかと言っているようだけど、私は違うと考えている」


 一度区切ったエスピーヌは、何でだと思う?と聞いてくるが、サッパリ分からない俺は降参のゼスチャーを送る。隣に座るシャイニーも分からないと首を横に振ったのを見て、エスピーヌは続けた。



「あれは呪いじゃないかと思う」

「は? 呪い?」


 思わず間抜けな返しをしてしまったが、エスピーヌは至って真面目な顔だ。どういう事だ?と顔を顰めていると、エスピーヌはシャイニーの方を向いて顔を緩める。


「どうでしょう、シャイニーさん。良ければフードを取ってリラックスされては」


 えっ!?と下を向いていたシャイニーが驚いてエスピーヌの方を向く。今までフードを取って見せろと言う言葉は散々掛けられてきたようだが、それのどれもが悪意に満ちていたり嘲笑を含んでいたりしたそうだ。しかし、エスピーヌの表情からは一切そんな雰囲気は感じられなかった。戸惑うシャイニーに、エスピーヌは続ける。


「ふふふ。私たちは気にしませんから。商隊を組んで地方を回っているといろんな人に出会います。中にはあなたのように顔を隠される方も少なからずおられました。少女の顔をしたご老人、髪の毛の無いご婦人、片目の無い男性……。 一部は病気や事故でそうなってしまった方もみえましたが、半分以上の方が原因不明だと。だからと言ってそれは本人のせいでも親のせいでもありませんから。だから私たちはそれによって差別はしません。それよりは中身の醜い人が多い方が気になります」

「……中身の?」

「ええ。嫉妬や執着、略奪を思案する者、小さな恩を売って大きな見返りを求める者など、散々悪い所を目にしてきましたからね。見た目が良かろうが、そんな輩とは出来るだけ関わり合いたくないものですが、それも仕事の内ですから、ね」


 レディに対しては紳士ならそうであるべきだとでも言うようにシャイニーに丁寧な言葉遣いで投げ掛けながらも苦笑するエスピーヌに、シャイニーは迷った素振りをしながらこちらを見る。どうやらフードを取っても良いかお伺いを立ててきたようだが、俺は彼女の意志を尊重する。どうしても取りたくなければ取らなければ良い、と。

 すると少々思案した後、おずおずと被っていたフードを取り去るシャイニー。何か言われればまたフードを被り直そうと手はフードから離さないままだが、その顔は既に露わになっている。

 エスピーヌはニッコリとして頷く。サフランはシャイニーの顔をチラリと見た後、気にせずドアの方へと視線を戻した。



「……ところで人の醜い所が嫌いと言ったけど、そう簡単に分かるもんじゃないだろ? それも経験で分かるようになるのか?」


 俺は気になった事をズバリと聞いてみる事にした。が、その返答に俺もシャイニーも困惑を隠せなくなってしまう事になった。


「いや、巧みにそれを隠そうとする人ばかりでね、そう易々と分かる者はいないと思うよ? ただ、私はちょっと特殊でね」


 エスピーヌはそう区切ると、ふぅ、と小さく息を吐いた後、声を落として続ける。




「私はね、人の心が分かるんだよ」

「は? 人の心が……分かる?」


 俺とシャイニーが顔を見合わせて首を傾げる。


「そう、文字通り分かるんだよ。例えばトゥルース君。君、少し無理してその言葉使いしてるよね。心の中の声と口に出てくる声は少し異なる。違うかい?」

「えっ! そ、それは……」

「ふむ、相手に嘗められないようにする為か」

「ええっ!?」


 まさかそれを当てられるとは……人がいる所ではこの口調を続けてきたけど、宿の部屋内や周囲に人のいない移動中はシャイニーとの会話には気は使わずに素で話している。まさか部屋での会話を?


「ふふふ。当たっただろう。でもその行動は正しくは無いと思うよ? 強さと強がりは似て異なるものだから。君が身に付けなくてはいけないのは強がりではなくて自信かな?」

「っ!! で、でもそれでは自分を(・・・)守れない!」

「そうだね。彼女を(・・・)守る為には自信だけでは足りないよね。だから先ずは自分を磨く事さ。世の中を知って話術を磨き、自衛術を身に付ける。話術はまだこれからみたいだけど、少しは腕に覚えがあるんでしょ?そのどちらも疎かにせず精進する。そうすれば自信も付くだろうし、自然と威厳も身に付いてくるよ。まあ、強がるのも分かるけどね、それでは駄目だ。強がりも意地っ張も程々に、ね」


 そう指摘されて何も反論できない自分にイラッとする。確かにその通りだ。この一ヶ月、何の力も無い自分は身を守る為とはいえ、相手に強がって見せていた。シャイニーが付いてくるようになってからはそれは一層強く……


「ははは、君はさっきの言葉を否定しないんだね。彼女を守る為にって所を」

「えっ? いや……それは……」


 慌てる俺に、赤くなるシャイニー。今までシャイニーにそんな話をした事は無く、付いてくるのなら付いてこれば?くらいの態度を取っていたのだ。これはちょっと恥ずかしい。



「……おい、エスピーヌ。その位にしてやったらどうだ?虐めすぎだろ」


 見兼ねたのかサフランが溜め息を吐いて口を出してきた。


「え? ああ、そうか。リラックスさせるのが目的だったね。ちょっと調子に乗り過ぎたかな? ごめん、ごめん。まあ、こんな感じで私は人の心が読めてしまうんだ。その力で今の子の地位を築いたと言って良いんだけど、そのせいで相手の汚れた心も分かってしまってね。もううんざりさ」


 顔を歪めて肩を竦めてはいるが、それがどことなくおどけた様であるのはこちらに気遣ってだろうか。



「……どうしてそんな話を俺たちに?」

「いや、まあ、リラックスして欲しいてのは本当だよ。それとシャイニーさんの顔、それはもしかしたら私のこの力と同じく呪いじゃないかなって思ってね」

「ぇ……呪……い?」


 その言葉に衝撃を受けて、シャイニーが驚いた顔をしたまま固まる。それにしても、呪いだなんて……



「おや?二人とも呪いの話は聞いた事ないのかな?この世界の者は誰しも大なり小なり何かしらの呪いを持っているってのが通説だよ?殆どの人は気付かない程度の小さな呪いみたいだけど、時々私みたいな生活に影響のある呪い持ちがいる。まあ、小さい頃から呪いを持っている子は少ないみたいだね。私も成人する頃に発露したし。歴史的に見ても大きな呪いとみられるものがあるよ。有名な所ではこの国の王室で過去に何人かが行方不明になっている。殆どが成人する前後なので呪いではないかって話だね。私は幸運な方だよ。この呪いのお陰で良い仕事を得られたからね」


 まさかの話に衝撃を受ける俺とシャイニー。誰もが呪いを持っている……か。じゃあ俺の呪いは……


「……ウチは物心つく前に捨てられたんですが、その時にはもうこの顔だったそうです。お医者さんに見て貰ったところ、火傷とかではないって……」


 シャイニーがそう俯いて口にすると、それまで扉の方を見ていたサフランが突然顔を歪ませてドカドカとシャイニーに近付いたと思ったら、そのままガバッと彼女を抱きしめた。


「そうか……親の顔も知らないまま捨てられたのか。それは辛かっただろうね。その顔では、隠していないと周りの目もきついだろうし…… よく頑張ったね。うん、よし! アンタ、私の子になれ!それが良い!うん、そうしよう!!」


 突然のサフランの申し出に、え?ええっ!?と狼狽えるシャイニー。


「これこれ、サフラン。いきなりそんな事を言い出して…… シャイニーさんが困ってるだろ。全く、その性格は治らないのかねぇ」


 苦笑しながらサフランの首根っこを掴んでシャイニーから引き剥がすエスピーヌ。


「いやあ、済まなかったね。これがサフランの呪いじゃないかと思うんだけどね。まあ、普段の男勝りな所が呪いなのか、この不遇な生い立ちの子を見ると放っとけない所が呪いなのか、はたまた呪いではなく素なのかは分からないんだけどねぇ。どちらにしてもそんな所がサフランの良い所だと私は思っているよ」


 そう言いながらサフランを見るエスピーヌの目は優しいものだった。





 ♠






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『近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)』
~2017.12.28 完結しました。

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