1017 ブタさんマークのピンクの買い物袋
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「...ホントに良いの?家まで少し遠いよ?」
「いいよ、気にするな。どっちにしろ、それじゃあ持てないだろ?」
Z ストアからの帰り道、傘の花が二つ。ひとつは鮮やかな藤色のパステルカラー、もうひとつは飾りっ気のない濃紺の一回り大きな。
パステルカラーの傘をさすのは濃紺の襟に赤いラインの入った白いセーラー服の小柄な少女。少し背を丸めて更に小さく見えるのは、教科書の詰まっているだろう重そうなカバンを持っているせいだけではなく普段からで、文字通り小さくなっている。
そして濃紺の傘は私服に着替えた細身中背...より小さい俺。手には葱がニョッと突き出しているブタさんマークの付いたピンクのエコバッグ。ピロっと丸まった尻尾がチャームポイントだろう。こんなの誰かに見られたら恥ずか死ねるな。それを回避できたとしても、学校で社会的に抹殺されるだろうけど。
「...」「...」
傘からは大した音は聞こえてこない。雨と言ってもゲリラ的な豪雨ではなく、梅雨らしいシトシトとした弱い雨だから。
だからかは分からないが、今のこの沈黙がとても長く感じる。あれぇ?よく考えたら俺って女子と二人きりになるの初めてじゃね?夢の中では毎日彼女と一緒に寝ているのに、現実ではそういった経験が今まで無かったぞ?何を話せば良いんだろう...こういう時でも智樹とかなら平気で何でも話せるのだろうが、元々俺はボッチで女子との接点も丸で無かった。だから共通の話題と言えば、学校の事くらい...夢の中ではどうしていたっけ?なんでこんな時に限って思い出せないや。くっそ~。智樹が余計な事を言うから、余計に意識してしまって何を話せば良いのか分からないじゃないか!!
あ、そうだ。共通の話題が全くない訳じゃなかった。
「...ええっと」「...あの」
おおう。言葉が重なってしまった。タイミング悪っ!雨粒が細かいから、声が掻き消される事もなく、聞こえなかったフリをする事も出来そうにない。
「ええっと、何?お先にどうぞ」
「...いや、あの...助けてくれてありがとう。ちゃんと言えてなかったから...」
ん?ああ、土曜日の事か。あれ?言って貰ってなかったか?
「お礼って、言って貰ってなかったっけ?ま、別にそんな事は気にしなくても良かったんだけど」
「...ううん。やっぱりちゃんと言っておきたかったの。それに今日も...お金を貸して貰ったし、こうして荷物を持って貰って家まで...ホント、ありがとう」
おおう。この子、ちゃんとお礼の言える子だ。さっきまで傘で顔を隠してたのに、お礼を言う時はちゃんと目を見て言ってるし。小中学生のお礼なんて、結構軽いものが殆どで、おう、じゃあな、と同系列だったりするけど、この子のお礼はちゃんと心の籠ったもののように思う。大人でも軽々しい事が多いように思うのにな。ま、そんなに大人のお礼を見ている訳じゃないけど。
うん、この子、良いな。
って言っても、智樹の言うような彼女にって言うのは別の話だと思うんだよな。ああ、俺はヘタレだよ!悪いか?今まで虐められっ子のボッチだったんだから仕方ないだろ?
「...真実くん?真実くんは何を言おうとしたの?」
「ん?ああ。俺もお礼を言おうとしたんだよ。料理を教えてくれてありがとう。すっげぇ助かる」
「...ん。でもお料理を教えるのはお礼の内。あの時、本当に怖くて...助けてくれたの本当に嬉しかったし。それにお料理は楽しいから」
「そんなに気にしなくても良いのに。俺は単に二人を逃がしただけなんだから。ま、それはそれとして。これからも時間があったら料理の方、宜しくな?」
ん。と返事をする黒生の顔は少し赤くなっていて。会話が終わると傘で顔を隠してしまった黒生。う~ん、どうなんだ?これ。智樹が言うように黒生が俺に気があるのか?俺、こういう恋愛事には全くと言って良い程慣れてないから、どうすれば良いのかなんて知らないぞ?
...って、俺って黒生の事、どう思ってるんだ?実際、黒生の事を認識したのが金曜日...僅か三日前の事。今日で四日目であって、黒生の事はまだよく知らない。口数は極端に少ないし、目立たない。今日の様子から勉強も特に出来る訳じゃなさそうだし、だからと言って悪い訳でもなさそう。体育で目立つ事もないし、部活は料理部に入っているそうだが、材料費が小遣いでは捻出できなく肩身の狭い思いをしていて、あまり顔を出せていないと今日聞いた。そして見た目だが、小柄で他の女子よりも線が細くてちょっとした事で折れてしまいそうだ。本当に同い年なのか疑わしいくらいである。本当にちゃんと食っているのか?とも思うが、料理もすれば買い物もこうしてする。普段、うちと同じように家に親がいないのかな?倹約の仕方が俺より詳しい所を見ると、買い物はもう日常的にしているようだし。
何だろ、謎の多い子だな。って言っても、女子なんてみんな謎だらけだ。その生態は俺には全く分からない。小学生の頃から顔を合わせているミサですらよく分からないんだから、今まで接点の無かったこの子の事なんて分かる筈もないのにな。
ってか、ホントに会話する内容が他に思い浮かばないんだけど。モテる奴はこういう時、どんな会話をしてるんだろうな。
結局その後、会話が無いまま黒生の家の近くまで来てしまった。確かあの集合住宅だった筈、土曜日にミサのクルマの助手席で辛うじて見た記憶がある。因みに昨日の日曜は瑞穂のお祝いなんだからと道場に留まらせて俺たち三人だけ先にバスで帰って来たのだ。道場を後にした時の二人の顔は多分忘れられないと思う。
それはそうと、下校時間を過ぎていたうえ買い物までしてたので、途中で顔見知りに会う事もなく黒生の家に着けそう。雨が降っていたのもあるだろう。ヨカッタ、恥ずか死ぬ目に遭わなくて済みそうだ。
そんな事を考えていると、ずっと横にあったパステルカラーの傘が視界の後ろへと動いた。いや、正確には黒生が歩を止めたのだ。
「ん?どうしたんだ?光輝」
「...な、んで?お母さん、今頃...」
ん?お母さん?黒生の視線の先を見ると、派手な髪形に派手な服の化粧の濃い女の人が、傘を畳み黒塗りのセダンのクルマの助手席に乗り込む所だった。思わず黒沼がそのクルマから見えない様に俺の陰に隠れる。
「光輝?どうしたんだ?あれ、光輝のお父さんとお母さんなのか?」
「...お母さんと...知らない人」
...え?知らない人?え、ちょっと待って。何か悪い事聞いちゃってないか?ってか、見ちゃいけないもの見ちゃった系?うわぁ...俺、そういうのも苦手だぞ?ここはアレ?見なかった事にして知らないフリ?どうしようコレ。そのクルマは俺たちに気付かなかったのかスルスルと走り去って行ったけど、俺たちの脇を通り抜ける時に助手席に座るその黒沼のお母さん?がチラリとこちらを見た気がした。勿論、黒生はその視界から隠れるように俺の後ろに回っていたのだが...バレてないよね?
「光輝。行ったよ?」
「...ん。 ごめんね、真実くん」
「何の事?何かあったかな。家ってそこだったよね?」
「!! ...ん。ごめんね」
たぶんだけど、これで良かった筈。変に問い質そうとしても、黒生は何も答えてくれないだろう。それどころか、この四日間で少し心を開いてきたように思うけど、そうする事でまた自分の殻に閉じ籠もってしまうかも知れないのだから。であれば、俺は何も見なかった事にした方が良いに決まっている。うん、きっとそうだ。
結局、そのまま何も話をせずに黒生の住むエレベーターの無い団地の四階まで送った後、荷物を渡して直ぐに帰るのだった。
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