表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/51

018 商会長の呪い









「と言う訳で、会長は若い男を見ると見境がなくなるんだよね」

「は!?いや...何が、と言う訳で、なのか全く分からなかったんだけどっ!!」


 王都内を走る馬車の中の席で、ルー君が向かいに座るエスピーヌさんに突っ込みを入れるけど、それはウチも同意だよ。だって、何?呪いなんだ、って。その説明じゃ全然説明不足だよ?

その隣に座る当の本人のアガペーネさんは、他人のように横を見てるし。


「まぁ、その反応も最もだけどね。でも、街行く若い()には何の反応も示さないけど、店絡みの男には、ね。何人トラウマになった子がいるやら...」


 首を振るエスピーヌさんにひと睨みしたアガペーネさん。しかし、チラリとルー君に視線を向けるのを、ウチは見逃さなかった。それは欲情的なもので、何とも艶やかなものだった。思わずウチは隣に座るルー君の腕をしかと掴む。


「ん?二ー、どうしたんだ?って、何を睨んでいるんだ?」


 あ、駄目駄目。ルー君の前で目付きを悪くしちゃ駄目だよ。ルー君に嫌われちゃう!て言っても、アガペーネさんのさっきの目付きが、ルー君に狙いを定めた獣のような目だったんだから、仕方ないんだよ?ウチが守ってあげないと、ルー君がアガペーネさんの餌食になりそうなんだよ?そんなの絶対駄目なんだから!ルー君の隣にいて良いのはウチなんだから。そうだよね?ルー君。ね?そうだよね?そうと言ってよ、ルー君!


「え?ちょっ!二ー?どうしたんだ?何か変だぞ?」


 はっ!思わずルー君の腕を掴んだまま、見上げるように見つめてしまった!って、ひゃ~っ!無意識でやっちゃってたけど、これ、恥ずいっ!恥ずいよっ!それにルー君を睨んでいる訳じゃないんだよ?気を悪くしちゃいないよね?ね?


 パッと離れると、小さくなって俯く。きっと今のウチの顔は真っ赤だと思う。だって顔が熱いもの。

でもね、分かって欲しいの。さっき、ルー君、狙われていたんだよ?食べられちゃいそうになっていたんだよ?たぶん。よく分からないけど、きっとそれはいけない事なんだよ?きっとルー君にとっては良くない事なんだよ?だからウチが威嚇して守ったんだよ?例えウチが食い殺されちゃっても、ルー君は守り通すよ?だってルー君はウチを助けてくれたんだもん。今もウチを守ってくれているんだもん。だからウチもルー君を守るんだよ?


 恥ずかしさの余り俯きつつも、対面に座る(アガペーネさん)の方をチラリと見る。やっぱりその視線は色を帯びてルー君を捉えている。

うん、ルー君とアガペーネさんを二人きりにはしない、させない!それだけは死守するよ?幸い他の人の目があれば実力行使はしてこないみたいだから、今日はウチはルー君から離れない。そう、それはいつも通りの筈。だからウチの方が有利なんだ。この街から出るまでは気が抜けないけど、昨夜みたいな事にならなければ大丈夫。きっとウチなら出来る!よし、頑張るぞっ!!



「う~ん。やっぱり二ー、今朝から少しおかしいな。宿で休ませるべきだったのかな。牧場に休める所はありますか?」

「ああ。事務所に椅子とテーブルがあるから、そこで休むと良いよ」


 エスピーヌさんがルー君に聞かれて答えるけど、ウチはそれには従えない。


「いえ!大丈夫です!ウチはルー君と一緒の方が良いです!」

「...分かった。でも二ー、無理はするなよ?少しでも無理していると感じたら休ませるからな?」


 ルー君に強く言い寄ると、ルー君は溜め息を吐いて折れてくれた。それが嬉しくてウチは笑顔でウンと頷いた。

良かったよ。もしルー君と離れたら、今のアガペーネさんが何をするのか分からないから。もしルー君に何かあったら、ウチはルー君と一緒にいられなくなるかも知れない。当然それも嫌だけど、何よりルー君が嫌な思いをするのが許せない。ウチはルー君を守るの。アガペーネさんは根は良い人のように感じるんだけど、今のアガペーネさんは本来のアガペーネさんじゃない気がする。だから、ルー君も守るけど、アガペーネさんも守らなくちゃ。そう感じさせる何かがあるように思うんだよ。



「よし。じゃあ、ニーはそれで良いとして...アガペーネさんの呪いかぁ。それによってどんな事があったんですか?」


 ルー君が話を元に戻してくれた。うん、いつまでも同じ話を続けられても、ウチは体を休ませる事を強要されるのを拒否するしか無かったから良かった。というか、その話がそもそもの原因なのだから、よく聞いておかないと対策が出来ないよ。その質問に答えるエスピーヌさんに耳を澄ませる。


「...まあ、ね。商会にやっとの思いで就職した若い子たちが皆手を付けられた時期があってね、耐えられなかった子たちの離職率が凄い事になったんだ。中には将来を約束した娘と別れる事になった気の毒な子もいてね。それ以来、若い子は会長と接触させないように商会の皆が一致団結する事で同じ事は回避できるようになったんだけどね。今度は取引先の若い子に手を出すようになってね。それからは取引先にも注意勧告をしつつ、会長を一人にさせないようお付を付けるようにしたんだよね。昨夜は私たちがその役だったんだけど、ちょっと油断してこのざま、って事さ」

「ええっ!?それって結構な事件だったんじゃ?下手をすれば商会が取り潰しに...」

「まあ、そんな話も出たけどね。その時には既に王宮とも取引があって地位がそれなりにあったから、暫くの間王宮との取引を停止された事で罰とされたんだよ。その後は信頼回復に努めて今の地位にまで登り詰めたって訳さ。まあ、本人も自重してはいるんだけど、時々今回みたいに止まらない時があってね...」


 はぁ...自分でも止められないって、大変。というか気の毒だよ。ウチのこの顔も呪いだって言われたけど、こうして化粧すれば少しは悪い印象が拭えるからまだ良いのかもしれない。でも、アガペーネさんは誤魔化す事が出来ないのか、周りの人に頼らないといけない。いつも誰かに付き添われないといけないなんて...。



「そうなんだ...。でもそれって、かなり大変なんじゃ...。よく商会長を続けられますね」

「ははは。そこはほら、(たま)(きず)って奴でね。それ以外はかなり出来る人なんだよ。どこよりも高く買い取り、どこよりも安く売る。私たちでも時々付いていけない位にそれは徹底しているから、感謝される事の方が多いんだ。だから皆、目を瞑ってるんだよ。これが若い娘にだったら話は変わっていただろうけど、ね」


 いや、それは笑えないよ?男の子なら良いの?駄目だよ?もしルー君が獲られちゃたら、ウチはどうなるか分からないよ?きっと一緒にいられなくなっちゃうんだよ?そんなの絶対嫌だよ?


「...それ、俺だったら絶対嫌だな。そんなの、男も女も関係ないと思うし。まあ、中には喜ぶ奴もいるだろうけど...。 ”そんな事が続く”ようなら、そのうち背中を刺されるかもね」


 顔を顰めたルー君が、嫌そうに言い放った。

...良かった、ルー君が嫌がって。もしそれを聞き流したり受け入れるような人だったらウチ、そんなの嫌だったもの。

でも、さっきのルー君の言葉...何だか少しいつもと違って聞こえたのは気のせい?そう言えば一昨日の朝、前の街での宿でも似た感じがしたな。


「まぁ、そうならないように私たちが付いているんだけどね。とは言え、いつそれが発現するか分からないから、目が離せないんだよね。今もトゥルース君に対してスイッチが入りっぱなしみたいだし。これがいつまで続くのか、と思うと頭が痛いよ」


 確かに。商会の人たちが交代で見てるって話だけど、いつかは破綻をきたすと思う。

...呪いかぁ。もしそれが本当だったとして、果たしてそれは解く事が出来るのかな?チラリとアガペーネさんを見ると、まだルー君を見る目が色っぽいし、何かブツブツと呟いているよ?普通じゃないって分かるよ?嫌っ!そんな目でルー君を見ないで!

思わずまたルー君の腕を掴みたくなるのをぐっと堪える。だって、またさっきみたいに具合が悪いって思われちゃったら、今度こそルー君から引き離されちゃうと思うから。

はっ!もしかして、これも呪い?ルー君から離れられない呪いなの?違うよね?きっと違うよね?呪いなんかじゃないよね?もしそうなら、ウチもアガペーネさんみたいな目をしてるって事?嫌だ!嫌だよ!ウチまでそんな目でルー君を見ているなんて、自分が許せないよ!?ブンブンと頭を振ってその考えを追い出す。

我慢だよ?我慢!ここで我慢しきれなかったら、ウチの負け。そんなのは駄目なん(ry

う゛~~~っと声に出ないように、いつもとは違うだろうアガペーネさんを睨んで牽制する。


「...大変だな。でも、それならどうして同行を?俺が言うのも何だけど、危なくない?」

「うん。トゥルース君の言う通り、本来なら当人同士一緒に移動するのは危ないから避けるんだけどね。でも、馬選びは私たちでは専門外でね」


 ふぇ?馬選び?ルー君の指摘に頷きながら答えたエスピーヌさんが言ったお馬さん選びって何の事?牧場に行くってのは聞いてたけど、何をするの?何も聞いてないウチは首を傾げるばかりだよ。


「それでアガペーネさんが?」

「そう。会長は馬を見る目は確かだからね。種類によっては牧場の人間よりも詳しい時がある位なんだよ。それに値引きの件もあるしね」

「ふふふ。馬は良いよ?非常に憶病なんだけど、こうして私たちを運んでくれる。その筋肉質な体は惚れ惚れするくらいだね」


 それまでルー君を見て(大人しくして)いたアガペーネさんが会話に加わってきた。その目には先程までの色気のあるものではなく、純粋にお馬さんを褒めているような目だった。

あれ?とても自然。ウチは首を傾げるけど、ルー君もエスピーヌさんも、急に話に入り込んできたアガペーネさんに驚いていた。いや、二人だけでなく御者台のサフランさんも後ろを振り向いてきた。


「あれ?馬の話になったら正気に戻ったようだね。良かった、もうすぐ牧場だから馬選びに支障を来したらどうしようかと思っていたんだよ」

「...失礼だね、エスピーヌ。とは言っても、先程まで重かった頭が今は少しスッキリしてきている。馬選びは任せてくれ。予算内でとびきりのを選んでやろう」


 ニヤリとするアガペーネさんの顔色は、先程と比べればとても良く見える。先程までの影のある顔はどこへやら。

何?何があったの?ルー君に向ける目も、どう見ても普通。これなら心配しなくても良い?それとも何かの作戦?う~ん、分かんないや。どちらにしてもウチは今日はルー君から簡単には離れないって決めたから。


 そんな事を考えていると、ずっと遠くまで柵で囲われた一角の門へと馬車が向っていった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)』
~2017.12.28 完結しました。

お時間がありましたら、合わせてご覧ください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ