017 晴れる疑念
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その後、一階へと降りて総合案内で荷物を受け取ると、サフランさんと共に昨日入った小部屋に案内された。
ここでアガペーネさんとエスピーヌさんを待つみたい。良いのかな?お二人とも忙しいんじゃないの?
「で?一体何があったんだい?早く聞かせてくれないか?」
あう~。出来れば忘れて欲しかったんだけど。
「サフランさん。出来ればニーの為にも、その事に触れないであげて欲しいんだけど...」
「...やっぱり後ろめたい事があるのか。そうやってシャイニーちゃんの口を塞ごうって訳かい?」
サフランさんがルー君に詰め寄るけど、それは誤解だよ!ルー君はウチを庇ってくれてるんだよ!
「サフランさん!それはウチが説明します!ルー君を問い詰めるのはそのくらいにしてやって下さい!」
「えっ!?シャイニーちゃん...それほどまでにトゥルース君の事を...」
...あれ?サフランさん、何か勘違いしてない?一体何を勘違いしているんだろう。
その後、ウチがサフランさんに説明しようとすると、ルー君が気を利かせて離れていく。
「昨日の夜、酔っちゃったウチはドレスを...」ガチャリ
え?
「やあ、待たせたね...って、ん?何だ?おい、どうしたんだ?ちょっと!」
サフランさんに話し出したそこへ、アガペーネさんとエスピーヌさんが入ってきた。
が、空かさずルー君が二人を部屋の外に連れ出す。流石、ルー君。
「二ーがサフランさんと二人で話がしたいって。だから少しだけ席を外して下さい」
同い年なのに、ウチよりずっと気遣いが出来て...大人だね、ルー君は。
部屋にサフランさんと二人きりになると、昨夜の事を話す。と言っても、ドレスを脱いで裸のままベッドに潜り込み、いつものようにルー君がベッドに入ってきた所を抱き付いてそのまま寝てしまった、と簡潔に伝えただけ。それをどう捉えたのかが気掛かりなんだけど。
「あ゛ぢゃ~。やっぱりそうだったか~。」
「へ?やっぱり?」
サフランさんが額に手を当てて天を仰ぐので、ウチは首を傾げる。
「ああ。シャイニーちゃん、ドレスの下に何も着けていなかっただろ?宿を出ようとしてその事を思い出したんだ。慌てて部屋に戻ったんだけどね、既に施錠されちゃっててドアが開かない。いっそ蹴破って踏み込もうかと思ったんだけどね、寝静まっていたのか中からは何の音も聞こえやしない。暫く様子を見てから何も無いと判断して帰ったんだよ」
「えっ!?サフランさん、ウチが下着を着けていなかったの、知ってたんですか!?」
ウチは気付かれていた事に驚くと共に、恥ずかしくなり顔を赤くした。
「そりゃあ分かるさ。私を誰だと思っているんだ?ま、日も暮れていたし、食事して寝るだけだったから何も言わなかったけど」
「...いつから?」
「最初から。と言っても確信したのは宿に向かってる途中だけどね。いやぁ失敗だったね、部屋で着替えを手伝ってあげていれば、こんな心配しなくて良かったのに。シャイニーちゃんが大丈夫って言うから、それを鵜呑みして部屋を出てしまったよ。でもこれからは気を付けな?ちょっとした事で胸元の開いたドレスなんて中が丸見えになってしまうんだから。まだ胸が十分には育ってないシャイニーちゃんは特に、ね」
ええっ!?そんなに前から!?それにあのドレス、中が見えちゃうの!?カ~ッと顔が熱くなっていく。先程からもう茹蛸状態を越えっぱなしだよ。恥ずいっ!
それから2~3、言葉を重ねて誤解を解くと、部屋の外で待っていた三人を招き入れた。
「ん?聞いてなかったのかい?サフランは元婦人服売り場の主任だったんだよ。それはもう凄い売り上げだったんで、護衛に就くと言い出した時はそりゃもう大混乱だったんだよね」
エスピーヌさんがサフランさんの意外な過去を教えてくれた。
「だってさ、一日中屋内で身動き取れないなんてつまらないじゃないか?だから体も動かせてあちこち見て回れる護衛が一番私に合ってると思ったんだよ。お陰で今は理想的な職場環境だね」
「ふんっ!お陰で婦人服の売り上げがガタ落ちだけどね」
サフランさんが満足したようにうんうんと頷くけど、アガペーネさんが横を向いてブスッと愚痴る。確かに経営者としては大損失かも知れない。でも、嫌々働くよりは楽しみながら働きたいってのは分かるの。だからウチはサフランさんを支持したい...けど、ウチは直接関係はしないから黙ってた方が良いよね。
「でも、さっき降りてくる時、売り場は大盛況でしたよ?」
ルー君が思い出しながらサフランさんを擁護するようにアガペーネさんに口添えする。うん、それはウチも気が付いていたよ。って言うか、ウチが試着している時も遠巻きに見ていたから、もしかしたらみんなウチの顔を怖がって近付けなかったのかも。悪い事しちゃったな。
「ああ、サフランが服選びをしていたんだろ?それを参考にしようとした客が押し寄せたんだろう。全く、たまにしか店に顔を出さないから客が固まるんだ。常時いればもっと客は分散するだろうし、購買意欲も沸く。逃していた客も掴む事が出来るのにな」
溜め息を吐きながら愚痴を続ける。それ程までにサフランさんってお客さんから慕われていたんだ。でも参考にする物があれば、お客さんも喜ぶんじゃないかな?それなら...
「あ、あの!それなら人形を置けば良いんじゃないですか?サフランさんが帰って来る度に、その人形に着せる服を選んで行けば...。どのくらいの期間が開くか知りませんけど...」
「...人形?その人形を客が参考にする訳か...。 ふむ、今でも見本は飾っているが、立体的に飾ってより想像を促す訳か。気乗りはせんがやってみる価値は...サフラン。どうだ?」
「ああ、良い案だと思うぞ?その位なら空いた時間に出来るだろうし。でも一点モノじゃ、それが売れたら別の物に変える必要があるな。数ものを着せる様にした方が良いのか?それか何点か用意するようにしておくか。いや、まてよ?少々冒険したようなデザインの服なら、いっそ人形に着せた方がイメージが沸き易いか。うん、良いな。早速やってみよう。人形は直ぐ用意できるか?先ずは簡易的な物で良いだろ。少し動きを付けた人形にしてくれ」
「ふむ。それなら私が手配しておくよ。今の話でイメージを伝えられそうなのは私が適任だろうからね。会長やサフランじゃ説明が出来ないだろうしね」
「む。頼む、エスピーヌ。それとサフランも。手応えが良ければ他の店にも展開するからな」
ウチの提案をアガペーネさんは少し躊躇したみたいだけど、サフランさんが乗り気になり、エスピーヌさんが動くみたい。ちょっとホッとしたよ。
でも、この三人って、何か良い感じだね。アガペーネさんは人の意見を完全には否定しないし、逆に意見を求める。サフランさんは自分の枠に囚われず、自分に出来る事を出来る範囲で協力する事を厭わないし、エスピーヌさんは二人の苦手とする部分を補おうとしている。
良いな。ウチもルー君の苦手な所を代わりに出来るようになれれば良いんだけど。
「それはそうと、随分と遅い時間になってしまって済みません。それに、元は宿へ迎えに来て貰える約束だったのに」
話にキリが付いた所で、ルー君が謝罪の言葉を発するが、他の三人が顔を見合わせた後に笑いだした。
「他所で買い物していたなら兎も角、うちでたっぷりと買い物してくれたんだ、何の問題もない。それにこちらも今まで接客だったしな。元の予定のままなら、これから迎えに行くと言う事になるから、寧ろ都合が良かったと言えよう」
「は、はぁ。そうですか。なら良かった。でも、朝一番からお客さんですか?昨夜は何も言ってなかった所を見ると、飛び込みのお客さんですか?」
結果的に良かったと言えるけど、約束を守らなかった為か恐縮していたルー君が、思わぬアガペーネさんからの返答に首を傾げてる。
...うん、意味が分からないよ?
「ああ、朝一番から何組も、ね。それも君絡みだよ。みんな何処で聞き付けたのか、石の問合せだよ」
肩を竦めて教えてくれるエスピーヌさんに、ルー君もウチも驚いた。昨日の今日で、もう?いくら何でも早すぎない?話が纏まったのって、お店が閉まる前後だったんじゃないの?ウチが服選びから帰った頃だったよね?あの頃は、もう閉店作業をしていたよ?サフランさんがいなかったら、ウチは追い出されていたよ?
...もう、意味が分からないよ?
その後店を出たウチたちは、早めの昼食をとり、ルー君は銀行で口座を作った。通帳の中を見て固まってたけど、何か問題でもあったのかな?でも、エスピーヌさんに声を掛けられた後、ブンブンと頭を横に振って少しお金を下ろしていた。
何も問題は無かったみたい。良かった♪
その後、ウチたちは馬車で牧場へと向かった。
そしてそこで新しい旅仲間と出会ったんだ。
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