015 やらかしちゃった!?
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んんっ...もう朝かな?何か体が怠いような...。
あ、そうか。ウチ、酒を飲んで酔っちゃったんだ。それでこの怠さか。
そう一人納得するウチは、いつもと寝心地が違う事に気が付く。ん?何か背中がスースーする。今朝はいつもより気温が低いのかな?お陰でいつもよりルー君の体温が温かく感じて気持ち良い。ふふ、役得♪
ちょっとはしたないとは思うけど、もうひとつテントを買うのは勿体無いからってルー君と一緒に寝る事にした...んだけど、これが本当に気持ち良くって直ぐに寝られるんだ。今ではもうルー君と一緒に寝るのが病みつきなの。もう、ルー君と別々に寝るなんて考えられないんだ。
それに、今朝はいつにも況して少し体を動かすと布が擦れて肌が気持ち良く感じる...んだけど、何かいつもと違うような?あれ?布が...擦れて?ぇ?
「...ぇ?」
なっ!?何で!?ウ、ウチ、寝衣を着ていない!?う、うそっ!!どうして!?まさか信じていたルー君が?
清々しい穏やかな朝の筈が、一気に奈落の底に落とされた気分だよ?顔が青ざめていくのが自分でも分かるし、心臓がキュウっと縮こまって痛いよ。でも、一体どうして!?
もしかして体が怠いのは、裸で寝てたから体温が奪われていつもより体力を奪われたから?ううん、今はそれどころじゃないよ。
と、兎に角、ルー君が目を覚ます前に、早くここを出て服を着なくっちゃ!
ルー君を起こさないようにそっとベッドを抜け出て、腕で胸を隠しながら慌ててウチの荷物を探すと、ベッドの脇にそれを見付けた。荷物の上には昨夜着ていたドレスが...。
ぁ...そう言えば...何となく思い出してきたよ。ルー君たちが入口の方で何か話している時にドレスを脱いで...荷物を開くのが面倒になっちゃってそのままベッドに潜り込んでシーツを被っちゃたんだ。下着は...上はサフランさんに用意された胸当てがきつく感じて、こっそり着けずにドレスを着てたんだった。ドレス自体が胸を包み込んでくれるデザインだったから良かったけど、中に着てなかったのバレてないよね?下はちゃんと穿いているから、何もされていないと信じたいんだけど...。
しゃがんで荷物を開けようとしてその事を思い出し、自分の愚かさに気付くと膝をついた。ああ、ウチってなんて馬鹿なの?
胸を手で隠すのを忘れて手をも床につき項垂れると、そっとまだ起きないベッドの上のルー君を見る。
うん、ルー君を信じよう。ルー君は何もしない、してない。それに今回はウチの失敗、何かがあったとしてもウチのせいだよ。ルー君は何一つ悪くない。
そう決めたウチは手早く荷物から着替えを取り出そうとして、ふと手を止める。
あ、そう言えば昨日、サフランさんが選んだ服をルー君に買って貰ったんだった。そう思い出し部屋を見渡すと、部屋の片隅に見覚えのある袋を見付ける。
ガサガサと袋の中から買って貰った服と普段用の下着を取り出すと、手早く着替えを済ませた。
...ウチ、裸のままルー君にくっついて寝ていたんだ。信じられない事をしてたんだ。ルー君がウチに何もしてないと信じる事にしたんだけど、ウチがルー君にした事は許されるんだろうか?あのアガペーネさんみたいな大きなお胸と比べたらツンツルテンの子供のような膨らみかけのこの胸を、ルー君に押し当てていたんだ。実際、まだ子供だけど。ルー君、気付いちゃったかな?気付いちゃったよね?たぶん...。
そう考えると、途端に顔が紅く染まるのが分かる。でも気付いていたとして、何もされなかったとすれば、それはそれで女として魅力が無いって言われているようでちょっとショック...かも?きゃっ!!ウチ、なんて事を考えてるの!?
「...お化粧してたんだった。落とさなくっちゃ」
火照った頬に手を当てて冷まそうとしてその事に気付く。ドレスに合わせたお化粧なので、少しきつめにして貰ってる。普段着では間違いなくおかしいだろうと化粧慣れしてないウチでも分かる。
しかし、部屋の中を見渡すも水場はないので、水を貰いにそっと部屋を出ると、階段を下りて受付を目指す。本当は浴場があると聞いていたので入りたかったけど、あまりゆっくりしているとルー君が目を覚ましてしまう。いつもより起きる時間が遅かったみたいで、洗濯をしている時間もなさそうだしね。
それにしても...ウチに魅力が無いのは当然じゃないか、と今更ながら思う。ウチの体はサフランさんやアガペーネさんのように胸は大きくもないし、どちらかと言えばガリガリだからあんなに柔らかくもない。栄養失調気味なお子ちゃまなのだ。ルー君と一緒になってから、それは少しは改善してきて、ちょこっとだけ女の子らしいお肉の付き方をしてきたとはいえ、まだ普通の人よりも線が細いと自覚している。胸も以前より少しだけ膨らんできたけど、元が洗濯板にちょこっとだけ膨らみが付いていただけだったのだから、大人の女性であるサフランさんやアガペーネさんには到底太刀打ちできない。
それに...ウチの顔には醜い痕が...この痕がある限りはウチに魅力云々を言う資格なんて...。
そう言えばこの痕、呪いじゃないかってエスピーヌさんが言ってたし、ルー君がこの痕が無い顔を見たって言ってたなぁ。本当にそうなら、この痕は何時かどうにかしたら消せるのかな?
いや、そんな希望を持っちゃ駄目!希望なんて持った途端に絶望するに決まってるんだから。ウチはルー君と旅に出られただけで充分なんだから。
一階の受付で洗顔用に水が欲しい旨を伝えると受付の人が部屋まで運んでくれると言うのだが、それを断って自分でぬるま湯の入った桶を持って階段を上がる。受付の人が受付から離れちゃ駄目だと思うの。
すると廊下の先、ウチたちの部屋の前に人影が...。
「ニー!どこ行ってたんだ!って...水を貰いにか。あ~驚いた。起きたらニーが居ないんだ.か..ら...」
寝衣のまま廊下に飛び出していたニー君がホッとした表情で駆けてくるが、途中でその足が止まる。え?な、何?
「ニー...その服...」
...服?あ、そうだ。新しい服を着てたんだ。
今日は王都内を移動するって聞いていたので着たこの服はサフランさんが選んだ内の一着で、サフランさんが選びきれないからと最終的にウチが選んだものだ。すみれ色をベースに白のレースがお洒落な落ち着いた感じの服である。他には黒に白いレースのフリフリなロリータ風のや、真っ赤なイケイケ、ボーイッシュな物も候補だったので、迷わずこれを選んだのだけど、他のを試着した時にはあれもこれも有りかな?と思ってしまった。あ、ウチの顔ならボーイッシュなのの方が都合良かったかも。
そんな事を思い出しながらも、自分の着ている服を見ながらおそるおそる聞いてみる。
「これ、昨日ルー君に買って貰った服なんだけど...もしかして...似合ってなかった?」
「...いや、大丈夫...って言うか、そんな服もあったんだな」
えっ!?大丈夫って...それだけ?もっと何か...そう、似合っているとか...言ってくれないの? ドレスの時は言ってくれたのに...。 どうして?本当は似合ってないとか?もしそうなら、ちょっと落ち込むかも。折角サフランさんが一所懸命選んでくれた服なのに...。
涙が出そうになるのを必死に耐え、ルー君の顔を見てみる。あれ?何か顔が赤いし、こちらをあまり見てないような?
...あ、そうか。そう言えばルー君、姿を消したウチを探しに来てくれたんだった。ウチが裸で抱き付いちゃった後だったから...きっとウチが気まずくなっていなくなったと思われちゃったんだ。なのにウチったら、それを謝りもせずに、新しい服に気付いて貰えたから浮かれちゃって...。 だからルー君、きっと怒っちゃったんだ。どうしよう...どうしたら良いの?このままじゃルー君、ウチの事お金ばかり掛かる使えない駄目女だって愛想尽かしちゃって、ウチ捨てられちゃうっ!
「ええっと...ルー君?その...ごめんなさいっ!」
「...は?え?な、何が!?って...あ...き、気にすんなよ!?」
へ?あれ?ルー君、怒っている訳じゃない?少なくとも声に棘は無いように感じたんだけど。ううん、寧ろウチが謝ったのを気にするなって...え?あ、ウチが裸で抱き付いたのを気にするなって事かな?や、やっぱり気付いちゃってたんだ...墓穴掘っちゃった。ひゃ~!は、恥ずいっ!恥ずいよっ!!
で、でも...そうすると、やっぱりルー君、この服は気に入ってくれなかったんかな?残念だな。
「ほ、ほらっ!ニー、早く部屋に戻るぞ!」
くるりと方向を変えるとスタスタと部屋へと戻っていくルー君。
ホント、ごめんね。こんな服を選んじゃって。無駄遣いさせちゃったね。じゃあ、ウチはどんな服を着れば良かったのかな...。 もしまた服を買って貰える事にでもなったらどうしよう...。 ルー君に選んで貰うのが良いのかな?でもルー君の手間を取らせて迷惑にならないかな?
そんな事を考えながら部屋に戻ると、ルー君は着替えをサッと済ませ、ウチは一度化粧を落として簡単な薄化粧を手早く施した。ウチが化粧をしている間、ルー君は気を使ってくれたのかずっと見ないようにしてくれたうえ、ウチの分も含めて荷物を整えてくれていた。お化粧は...慣れない事もあって昨日のように顔の痕が分かり難くなる程ではなく、しないよりはマシという程度だったけど、ルー君は私の顔を見ると何も言わずに荷物を持って食堂へとウチを連れ出した。
え?顔を隠さなくて良いの?と思ったけど、荷物はルー君が持って行っちゃうから、そのまま付いて行くしかない。
朝食はこれまでの旅で一番良いもので、とても美味しかった。パンひとつとっても、とても柔らかいだけでなく、中にバターが入っていて生地に浸み渡って味わいを深くしていたし、スープも昨夜とは違うサッパリとしているにも関わらず味わい深いコンソメスープだった。ベーコンの乗った目玉焼きは半熟でしかもトロリ溶けたチーズまで乗っていたし、サラダも見た事のない様々な色合いの葉野菜に酸味の利いたオレンジ色のドレッシングが掛けられていた。おいし♪後でこっそり作り方を教えて貰いたいけど、時間あるかな?
朝食が済むと、早々にチェックアウトをするルー君。あれ?迎えに来てくれるって話じゃなかったっけ?勝手に宿を出ても良いの?
そう考えていると、ルー君はこのままザール商会へ行くと言って、ウチの荷物まで持ってスタスタと歩いて行く。ウチは戸惑いながらも付いて行くしかない。
ザール商会は早朝にもかかわらず既に開店していた。幅広い商品を扱っている事もあり、朝早い職人に合わせて開いているという事らしい。凄いね...。 ルー君は総合案内で荷物を預け、アガペーネさんかエスピーヌさんが来たら店内にいる旨と、もうじき来るであろうサフランさんに二階へ来て貰えるよう言付けを頼んだ後、階段の方へと歩を進める。...どういう事?
ウチを引き連れたルー君は二階に上がると、昨日来た服売り場へと歩いて行く。まさかルー君、この服に文句を付けに?え?ヤダ...。 サーっと血の気が引いて行くのが分かる。そんなに気に入らなかったの?さっき、大丈夫って言ってたけど、もしかして本当は全然似合ってなかったの?
思わず立ち止まってしまうウチ。それに気付いたルー君が振り向いて早く来るよう促すけど、足が竦んで進めない。すると、婦人服売り場の係員を捕まえたルー君が何やら話をした後、早く!とウチを手招きする。
...やっぱり行かないと駄目だよね?
「何してんだよ、ニー。早くこっちへ。じゃあ、後からサフランさんが来ると思うんで、よろしくお願いします。俺は三階を少し見て回ってから自分のを見てくるので、それが終わったら俺もこちらに戻ってきます」
そう言うと、ルー君は戸惑うウチを置いて階段の方へと行ってしまった。え?何?どういう事?
ルー君に置いて行かれたウチが戸惑っていると、見る見るうちに数人の係員さんたちに囲まれてしまった。ひぃぃぃ!!
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