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1002 班決め









「はぁ? 1380万!? あの石って、そんな価値があったんか?」


 教室の片隅で素っ頓狂な声を上げる智樹を、声が大きい! と窘める。

今日もいつものように俺はこの友人に夢|(?)の中の出来事を報告する。


「いや、だけどよ、前はざっと見て7~800万だって言ってたじゃんか。それでも大した額なのに、何でそんなに上がるんだよ。倍だろ、倍!」

「俺もよく分からないけど、村出身の売人が国内からいなくなって随分と時間が経っているらしくて、石が出回り難くなっているって。何でも国内に新しい石が出回るのは約20年振りじゃないかって話なんだ」


 そうなのか、と若干顔を歪めて言葉を呑み込む智樹。俺だって金額を聞いた時はビックリしたよ。



「その後、ドレスを着た彼女が戻って来たんだけど...」

「ん? 何だよ。エロエロなドレスだったんか?」


 呆れる事に、女の胸をもむようないやらしい手つきをする智樹。やはり間違いなくエロい中学3年生だ。少々妄想が酷いが何故かいやらしさを感じないのは、ちょっとイケメンだからだろう。俺に付き合っていなければもっと女子にモテてただろうに、勿体無い事だ。


「...そんなキャラだったか? 智樹は。いやまぁ、少し胸元の開いたドレスだったから見方によってはエロいんだろうけど、まだ彼女の胸の大きさは慎ましいものだから。ちょっと大人っぽいそのドレスにも驚いたんだけどさ、彼女、念入りに化粧されてたんだよ」

「化粧? ああ、例の顔の痕を隠す為か。女は化けるからなぁ。従姉(いとこ)なんてこないだ会ったら全くの別人だったんだぞ? 誰これって」

「まぁ、そこまで変わってはいなかったんだけど、でも女は化けるってのは同意だね。化粧で痕を隠すだけで印象があんなに変わるだなんて...女って、ある意味怖いよ」


 それが今の俺の正直な感想のひとつだ。危うく夢の中(・・・)の彼女に惚れるところだった。彼女の姿を一目見たとき、思わずドキリとしてしまったのだから。危ない、危ない。まさか夢の中の、実在しない少女に恋をする訳にはいかない。それじゃあ、二次元のキャラが嫁だって言うオタクと同じだ。実際の恋愛が出来なくなったら終わりである。どうせそんなオタクたちは、二次元と三次元は別だっ! て言うんだろうけど。

 当然、大半の同級生から見離されて根暗な俺にも、一人前に恋愛をしたいという願望はある。だから、いないと分かっている夢の中の人物に恋をする訳にはいかないのだ。

 しかし...と考えてみる。じゃあ、夢の中の俺はどうなんだろう?と。それは智樹も思ったようだ。



「もしかして恋に落ちた? 本気で怖いとは思ってないんだろ? その様子だと。何とも思っていなければ、引く事はあっても怖いなんて思わないよな。どうなんだ? そこんところ」

「...分かんね。その後も色々とあったからさ」

「色々って何だ? エロい事に発展したんか?」


 ニヤニヤとしながら聞いてくる智樹に、俺は溜め息を吐く。半分ハズレで半分は当たっているからだ。しかもそれを聞き出す気満々なのだから。



「その後、皆で宿に行って、フランス料理っぽいコースを食べたんだけどさ」


 あまり話したくはなかったんだけど、結局その席でワインを飲んで酔ってしまった事、アガペーネにお持ち帰りされそうだった事を簡潔に話す。


「ぶっ! お、お持ち帰りって...おまっ! 向こうのお前も15歳なんだろ? その人、商会を何店舗もある大商会にした人って事は、結構な年齢じゃないのか? 若いツバメが良いとか言うけどさ、一体何歳差だよって話だろう。子供や、下手したら孫が俺たちと同じ歳だって事もあるんじゃないのか? 真実(まさのり)、とんでもないのに気に入られたんだな」


 マダムキラー真実と二つ名を付けようか? とからかってくる。だから話したくなかったんだよな。これは部屋での出来事は隠しておいた方が良さそうだ。間違いなく勘違いして騒ぐだろう。幸いな事に、お持ち帰り未遂事件を聞いて智樹は満足しているみたいだし。


 それにしても...ベッドの中のシャイニーは柔らかくてスベスベで温かかくて気持ち良かったな~。あれ、夢の中とは思えないくらい艶かしく感じたと言うか、ハッキリと覚えているんだけど...。

 夢の中の出来事なのに、どうして温もりまで覚えているんだろうか? 智樹の言うように夢の中の出来事も現実だというのだろうか。そもそも、そう言い出したのは俺なんだが。


 その言い出しっぺの俺があちらの世界を信じられなくなってきている。いや、俺があちらの世界(夢の中)を怖れていると言った方が良いだろうか。あまりにも現実と非現実が重なっているのに、それが夢の中の出来事と捨て置けない現状に...何よりも自分の体がそれを否定する事を許さない。夢の中の出来事が現実だ(・・・)と言って聞かないのだから。

 考えれば考えるほど、負のスパイラルに陥っていき気分が悪くなってきた。



「...どうした、真実。顔が真っ赤になったと思ったら一気に顔色が悪くなったぞ? 具合が悪いなら保健室に行くか?」

「...いや、大丈夫。夢の中の出来事が現実なのかどうかを考えたら何か気持ち悪くなっただけ。体調のせいじゃないから。」

「そうか? お前がそう言うなら良いけど。まあ、次の時間は学活だし。頭使う事も体動かす事も無いだろうから良いか。でも何かあれば俺に言えよ?」

「うん。そうだね、そうするよ。」


 やっぱり智樹はイケメンだな。騒ぐ時には騒ぎ、相手が真剣な時は親身になり、相手の調子が良くなさそうなのを瞬時に読み取って気遣う。俺が女だったら惚れてたかも。その気は無いぞ?言っとくけど。

 丁度その時、チャイムが鳴ると、級長と副級長が段に上る。



「みんな席に着け~。静かにしろ~。今日の学活は修学旅行の班決めだ。さっさと終らすぞ~」


 おっと、そう言えばそうだった。夏休みが終わった後じきに修学旅行だから、夏休み前に班決めをしておいて親交を深めておくのが目的らしいけど、もうそんな時期なのか。面倒くさいな。どうせ俺は残った半端モノのグループになるんだろうからそんなに真剣になる必要なんて無いし、仲間集めに奔走する事も無いだろう。暫く様子見をして残った奴を捕まえれば良い...って、班決めって仲の良い者同士で良いのか?くじ引きとかだったら、それはそれで嫌だな。ま、好き好んで俺と組もうとするような奴はいないだろうけど。


 そんな心配をよそに、皆がバラけて仲の良い物同士に固まっていく。こういう時って先にリーダーを決めてメンバーをリーダーが指名していくとかが定番じゃないの? それか席決めでの班のままか...。

男女それぞれ三人づつの六人組らしいが、同性同士でみるみる三人づつ固まっていく...のはいいけど、俺の前の席に座る智樹も一緒になってその様子を傍観している。おいおい、智樹も急がないとグループに入れて貰えないぞ?



「はぁ~、みんな何か必死じゃね? そう思わねぇか? 真実。」

「...てか、智樹は誰かと組みに行かないの? みんなどんどん決まってくみたいだけど」


 椅子を横に向けて寛いでさえいる智樹を心配して声を掛ける。何を考えているんだ?智樹は。このままだと仲の良い奴とは組めずに俺みたいに残り者のグループになっちまうぞ?


「んなもん、慌てなくたって収まるべき様に収まるんだからさ。それに、別に誰と組んだって行くところは同じなんだしさ。」

「そりゃそうだろうけどさ...極論過ぎない? 相手が悪いとトラブルに巻き込まれたり、引き摺り回されたりするかも知れないから、相手選びはある程度重要だと思うよ?」

「このクラスで問題起こすのって...あの三人組くらいじゃね? どうせあいつらはあいつらでつるむんだろうし、俺らには関係ないよ。つるむ女子も決まってるだろ」


 一番後ろの席を陣取っている、所謂不良たちを目を向けずに親指で指す智樹。確かに。奴らには過去にも散々虐められてきたので、正直なところ同じクラスになるのも嫌だった。奴らと組む事になれば、修学旅行をボイコットした方がマシだとも思えるが、幸いな事に六人一括り出来るグループだ。三年に上がって智樹が俺の話を聞きに来るようになってからは奴らが絡んで来る事も無くなったけど、それが無ければ未だに虐められていたのかも知れない。

 ...もしかして、智樹って俺を奴らから守る為に話を聞いて来てるのか? もしそうだとすれば...なんてイケメンだよっ!! 惚れるわっ!!



「ところで真実。土日はどうするんだ? まだアレ(・・)に通ってるんか?」

「ん? そうだけど、どうして?」


 また何を当たり前の事を聞いてきたんだ?と首を傾げる。


「いや、よく続けられるなと思って。喧嘩で使うのは禁止されてんだろ?」

「まあな。でも、何かあった時の為に習っておいた方が良いかなと思って。夢の中ででも結構動けるようになってるから、効果はあるんじゃないかな。ほら、昨日話した盗賊の件とかさ」

「...夢の中って...お前、それホントごっちゃになってねぇか? でなければマジで夢の中が現実じゃないかって話だぞ?」


 智樹に指摘されるが、俺も自覚はしている。この現実と夢の中|(?)の事が混ぜこぜになりつつある事を。だが俺はそれをどうする事も出来ないのだ。であれば、出来る事をするのみである。



「おう、みんな聞けー! この時間に決まらなければ居残りだからな! 今日中に決めるんだぞ。それでも決まらなければクジ引きか出席番号順にするからな!」


 いつの間にか教室に来ていた担任が大きな声で宣言すると、皆からブーイングが起こる。何が悲しくて出席番号順にグループを組まなくてはならないんだ!? それに、夏休みが迫ってきているこの時期は中学三年にとって部活最後の踏ん張り時なのだ、そうそう休んだり遅れる訳にはいかない。男子と女子との攻防戦にも熱が入りだす。

 そんな中でも俺たちはボ~とその様子を傍観していたが、ふと気づいた。


「なあ、智樹。このクラスって男女十八人づつの三十六人だよな。俺たち二人だけ余るって事は無い筈だけど...もしかして他に二人の組がふた組あるのかな?」

「あ~、それは無さそうだ。みんな既に三人づつになって女子たちと組もうとしてるから」

「じゃあ、あと一人って...」


 俺は教室内を見渡すが、皆が入り乱れているので誰が余っているのか分からない。が、智樹が頬杖をして溜め息を吐くと、立ち上がった。


「あのバカ、こんな騒々しいのに寝てやがる」


 そう言う智樹の視線を追うと、机に突っ伏した男が一人。背中しか見えないので、他の者たちと同化して目に入らなかったな。智樹が近付いて頭を叩く。



「痛ってぇ! なっ! 何するんだよ! って、トモか。学活、終わったのか?」


 頭を抱えた後、振り向いて見上げる。だが、抗議した相手が智樹だと気付いたその男がすっ惚けた事を言い出したので、再度智樹に頭を叩かれて、痛ってぇ~! とまた頭を抱えた。


「ったく、祐二は。よくそんなに寝られるな」

「良いだろ? 寝る子は育つ、だ。てか、まだこんな時間じゃないか。起こすには早過ぎだろ」


 それでも抗議するその男の元に仕方なく俺も立ち上がって近付いた。彼は布田祐二(ふだゆうじ)。智樹と同じく、陸上部所属だ。それぞれで県大会まで進めるだけの成績を出しているそうだ。

 それを見ていた俺も、溜め息を吐くと、立ち上がって二人のいる席へと歩いて行く。


「ったく。修学旅行の班分けをしているんだからさ、知らんぷりして寝てんじゃねぇよ。それで、オレたちとお前が残り(ハンパ)者だ」

「...は? トモが最後に残った? 冗談だろ? って、またマサと一緒だったからか。まぁ、そのお陰で変な奴と一緒にならずに済んだから良しとするか」


 周囲を見回した後、智樹の後ろから出した俺の顔を見て、ああ納得! と頷く裕二だった。

 そんな祐二もまた、俺を虐めたりはしなかった数少ない一人だ。彼は兎に角、体を動かしていれば機嫌が良く、休み時間は動き回っているか寝ているかのどちらかだったのだから、俺の事が目に入らなかったとも言えるが。それは兎も角、この男はちゃんと授業を受けているのだろうか?

そして部活で一緒の智樹が同じ班だと聞いて安堵する祐二を見て、先程智樹が言った収まるべき様に収まるというのは本当だな、と感じた。



「ねぇねぇ。ハタイシ(智樹)たちって、まだ女子と組んでないの?」


 智樹が祐二に突っ込みを入れていると、後ろからソプラノ声の女子に声を掛けられた。中学三年にもなると、それまでソプラノ声だった男子は残らず声変わりを果たしており、その声質から女子だと疑いようがない。三人が揃ってそちらを振り向く。

 そこにはキツネ目にショートカットの日に焼けた背の高めな少女と、その後ろに付いてきているボブカットの色白で小柄な少女、更に後ろに俯きかげんな二つ結びの影の薄そうな少女が目に入った。


「どうもワタシたちが最後みたいなんだけど...」


 そう付いてきている二人を見ながら報告してくるショートカット。あ、俺ってこの女子、ちょっと苦手なんだよな。時々周りの空気を読まずに突っ走っているのを見掛けるんだ。実害は無いから嫌ってまではいないけど。

そんな事を思いながら周りを見ると、成る程みんな既に六人組になっていて、俺たちが最後のようだ。まぁそれも当然か、と納得する。


「おう、よろしくな、和田野(わたの)。あと、智下(ちげ)と...黒生(くろはえ)もか。でもまさか陸上部が三人も固まるとはな」


 珍しく智樹が人の名前を言い淀む。それにしても、この六人中三人が陸上部だとは...

 そう言えば和田野が走り高跳びしている所を下校中に遠目に見た事があったな。高い身長を活かした綺麗なフォームが印象的だった。他の女子二人は俺もよく知らない。と言うか、ホントはそれ以外は三人とも何も知らないと言って良い。ま、他の女子も似たようなものか、とそれ以上考える事を止めた。


「ホントそうね。ちょっとウンザリするかも。まあ、ハズレ引いたと思って我慢するわ。どうせこちらは余り者の寄せ集めだし?」


 この三人の中で一番活発な和田野華子(かこ)が聞いてくるが、そのずけずけとオブラートに包まず言ってくるところが、女子たちからも不評を買う要因だろう。俺が苦手とする理由でもある。


「ん? 何だ。そっちもか。おれらも余り者らしいわ」

「は? 何よフダ(布田)、らしいわって。何を他人事のように言ってるの?」

「ああ、このバカ、ついさっきまで寝てやがったんだ。で、その間に売れ残ったんだよ」

「...あ~、納得。で、何でハタイシまで売れ残ったの?」


 いやだから! もっと空気読もうよ、オブラートに包もうよ! ネタをそのまま素で返してるよ、この人! それもダメな返しで! スタイル良いんだからさ、モテるかは知らないけど嫌われる事はなくなる筈なのに!

でもこの人、たぶん言っても直らないんだろうな。そう言う性格なんだ、きっと。


「ああ、真実と一緒に、みんなが必死になってるの見てたらつい、な」


「ぷっ...必死にって...確かに...ぷぷっ!」


 それまでそのやり取りを静かに見ていたボブカットの智下綾乃(あやの)が耐えきれずに吹きだした。今まであまり人と話しているのを見た事がなかったので、ちょっと新鮮だ。でもどこがツボだったんだろう?


「ってか飛弾(真実)って、マサノリって名前だったんだ。真実(しんじつ)って書いてどう読むのか分からなかったよ」


 あ~、俺はあんたらみんなの名前が分からないよ。苗字すらも怪しい事は黙ってた方が良いのかな? 取り敢えず修学旅行で行動を共にするだろうから、後で智樹に聞いておこう。

 と考えていたらその後、班割表を提出する為に書き込んだ用紙で全員の名を知る事になった。


 結局最後まで、黒生光輝(きらり)の声を聞く事が無かった。いやさ、みんなルビを振らないと読めないっしょ、祐二は別として。










や、やっと丸二日分の話を消化...丸一ヶ月掛かりましたぁ(´д`;

思った以上に話が進まない...まだ序盤なのに

学校の話も進み出せばもっと進まなくなるんだろうな、話が分からなくなりそう...


遅筆、ご容赦ください

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『近所に勇者が引っ越してきたようです(仮)』
~2017.12.28 完結しました。

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