風鈴と写真
風鈴。
夏休みが始まって三日。
平太は忘れることなく、保育ルームに来ていた。もちろん、課題を持って。
「平太ー、ひまだぞー、ひまー」
「うるさいぞ辰」
と平太は課題をやりながら隣でわいわいしている辰に注意する。
保育ルームはエアコンが設置されているので、夏も冬も快適に過ごせる。
「平太、なつのふーりゅーなものは?」
「ふーりゅー? 風流か」
「そう! おかーさんが、チリリリンって、そとあるいてたとききこえてきて、ふーりゅーね、って」
「風鈴か。風が吹くと、揺れて音が出る。気持ちが涼しく感じられるんだよ。婆ちゃんちにもあったな──」
と平太は思いを馳せるが、今は目の前の課題をどうにかしなければならない。
「……そういえば、梅田さんは?」
と平太は周りを見回して言った。
さっきは居たのに、今はいない。
「なんか、すずしげなのもってきたから、もってくるわね、ってさっきでてった」
と薫が答える。
「涼しげなの?」
「かきごおりたべたい!」
と彩が会話に入ってくる。
「かき氷か……最近食べてないな」
「わたし、きのうたべたよ。イチゴあじ」
「へえ、おいしかったか?」
「うん!」
と杏が大きく頷く。
「いいなー、おれブルーハワイたべたい」
「あたしレモン!」
「ぼくは、あおリンゴかな」
「俺は無難にイチゴだなぁ」
と四人は思い浮かべる。
そこに、初枝が戻ってくる。
「あらあら、何の話?」
「せんせーもどってきた!」
平太と杏以外の三人がキラキラとした目で初枝を見る。
「あら、何か勘違いさせちゃってる? ごめんね、たぶん想像してるのと違うわ──」
と持ってきた箱をテーブルに置いて、中から物を取り出す。
「家に二つあったの。だから、持ってきちゃった」
そう言って見せた物は、エアコンの風でゆらりと揺れ、涼しげな音を発した。
──リンリンリンリン……
「あ! おかーさんときいたやつ!」
「風鈴か。涼しいですね」
「でしょう? 持ってきて良かった」
と初枝はふふふと笑う。
薫と彩、杏はぽけーっと初枝が持っている風鈴を見上げている。
「せっかくだし、エアコン止めて風を楽しんでみる?」
『うん!』
と四人が頷いて、初枝の後をついていく。
「平太くん、エアコン止めてくれる?」
「はい──」
初枝は窓を開けて、風鈴を吊す。
エアコンの音が消えて、外の音が聞こえてくる。
外部活のかけ声や、活動を始めたセミの声──
「……まだ?」
「まだよ。風が吹かなきゃ聞こえないわ」
と初枝を囲んで並ぶ辰が口を尖らせる。
「かぜこーい」
「かぜこーい」
「ふけー」
「ふけー」
と四人が口々に言い始める。
それでも風が吹くわけもなく、だんだん暑くなってくる。
「……暑いな」
課題の手を止めて窓を見ると、初枝の右に彩と杏、左に辰と薫が並んでいた。
「写真──」
と平太はふと思い立ち、鞄を漁り、携帯を取り出す。
そして、後ろ姿をパシャリと撮って保存する。
「おばあちゃんと孫、みたいな」
と平太はクスクスと笑う。
笑い声に気づいたのか、初枝が振り向いた。
「どうかした?」
「いえ、何も……。そうだ。写真撮っていいですか。皆こっち向け──」
と向かせて、ハイ、チーズと写真を撮る。
辰と彩は笑顔で堂々とピースサインをして、薫と杏は笑顔でもちょっと控え目にピースサインをしていた。
初枝はそんな四人を抱き寄せるようにして笑っている。
「今度は平太くんね、ほら早く」
と初枝が平太の携帯を受け取り、真ん中に行かせる。
「いくわよー。ハイ、チーズ──」
──パシャ
「後で写真送ってね」
「あ、はい──」
と携帯を受け取り、平太はテーブルに置く。
「あつーい。かーぜー」
「かぜこーい」
「ふけー」
「ふけー」
四人はまた窓に寄りかかって呼ぶ。
平太も後ろに行き、呼び込む。
「風吹けー」
「平太がよべば、かぜくるぞ!」
「来ねえけどな──」
「じゃあ、みんなでよべば、くるかな!」
「くるね!」
「よぼう!」
と四人が笑顔で言うので、平太も口を揃えて言う。
『かぜこーい』
「じゃあ、私もいれてもらおうかしら」
と初枝も加わり、六人で口を揃える。
『かぜこーい』
すると六人の声が届いたのか、風が保育ルームを吹き抜けた。
──リンリンリンリン……リンリンリンリン
『おおおお!』
「涼しー」
「そうね」
少しの間、六人は風鈴の音に耳を傾けていた。
生暖かい風も、少し涼しく感じた数分間だった──
その頃サッカー部は。
先輩「ミーンミンミンミンミーン」
明良「すいません先輩……、バカみたいです(苦笑)」




