芽生え始めた気持ち
「あり得ませんわ」
ウィリアム殿下からの訳の分からない問いかけに間髪容れず答える。
一度解消した婚約を元に戻すのは王家と公爵家の家名に泥を塗るような行為。仮に問題なく婚約者に戻れたとしても願い下げだ。
それに。
「私はウィル様の婚約者なのですよ。アーサー殿下の婚約者に戻るわけがありませんわ」
私を大切にしてくれているウィリアム殿下を裏切るような真似をしたくない。
強めの口調で言えば彼は困ったような笑顔を見せた。
「それもそうだな。疑うような事を言ってしまってすまない…」
「私の方こそ失礼な物言いをしました。申し訳ございません」
「ソフィが謝る事じゃない」
苦笑するウィリアム殿下につられて私も引き攣った笑顔になってしまう。
場所をソファに移してから会話を続ける。
「改めて悪かった。ソフィが彼を選ぶんじゃないかと不安になって」
「不安?」
自分を裏切り婚約解消した相手と元の関係に戻るのは普通ならあり得ない事だ。
それはウィリアム殿下だって分かっているはず。
不安になる必要はないのに、どうして彼は不安になったというのだろうか。
「君とアーサー殿下は十二年間も婚約者だった。ずっと側にいた相手のところに戻りたいと思ったんじゃないかと思って」
なるほど。確かに私とアーサーの間には十二年間で作り上げた絆が存在していたと思う。しかし婚約解消の件で全て無に帰した。
今の私達の間には王族と臣下という繋がりしか存在していない。
「十二年間で積み重ねてきたものを無駄にしたのはアーサー殿下です。今更戻りたいと思うわけがありません」
ウィリアム殿下の目を真っ直ぐに見て伝える。
私の言葉が嘘偽りのないものであると納得してくれたのか彼は笑顔を見せてくれた。
「良かった」
「こちらこそ不安にさせてしまって申し訳ありません」
「ソフィは悪くないよ。悪いのはこんなふざけた手紙を君に送ったアーサー殿下だ」
確かにそうですね。迷惑な手紙ですよ。
徐に立ち上がったウィリアム殿下は私の隣に座り、腰に腕を回し引き寄せてくる。
一気に縮まった距離に驚く。
「まあ、でも…」
「ウィル様?」
「アーサー殿下のところに戻りたいと頼まれていたとしてもソフィを手放す気はなかったけどな」
「へっ?」
唐突な発言にきょとんとする。
呆気にとられている私に対してウィリアム殿下は言葉を続けた。
「もうソフィは私の婚約者だ。誰にも譲ってやるつもりはない」
「そう、ですか…」
楽しそうに笑うウィリアム殿下に胸が締めつけられるような感覚がする。
なんだか頬も熱いし、心臓の音がやけにうるさい。
せっかくウィリアム殿下が嬉しい事を言ってくださってるのにぎこちない反応になってしまう。
私、変な病気に罹ったのかしら…。
自分の中に芽生えた気持ちの正体を私が知るのはもう少し後の話だった。
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