元婚約者からの手紙
兄と義姉の間に息子アランが生まれてから二週間近くが経過した。
アランの誕生により屋敷の中が更に明るくなり幸せに満ち溢れている。私も新たな家族である甥の存在に幸せな気分に浸っていた。
一通の手紙が届くまでは。
手紙の差出人は元婚約者のアーサーだった。
また縁談の話かしら。
彼のしつこさに飽き飽きしながら中身を確認すると最初の部分で固まった。
『愛するソフィアへ』
おかしいですわ。
アーサーが愛しているのはストーン伯爵令嬢のはず。それなのにどうして私の名前に『愛する』などと付けているのだろうか。
きっとふざけているだけだろうと手紙を読み進めていく。
『ストーン伯爵令嬢はとんだ阿婆擦れ女だった。あんな女に懸想していたと思うと吐き気がしてくるよ』
あぁ、なるほど。ストーン伯爵令嬢の本性に気が付いたのですね。
どうせ王城内に勤める誰かと浮気されたとかそんなところだろう。知りたくないし知ろうとも思えない。
『でも彼女のおかげで私の真実の愛の相手が誰なのかようやく分かった』
まだ真実の愛に拘っているのですか?
いい加減にしてほしいと呆れていると次の文章で衝撃を受ける事となった。
『私の真実の愛の相手はソフィア、君だ』
アーサーは何を言っているのでしょうか。
真実の愛を見つけたと言って婚約破棄の願いを出してきたのはそちらでしょう。浮気されたからって戻ってこないで下さい。
手紙を破りたくなる気持ちを必死に抑え込み、続きに目を通す。
『数日後に催される婚約披露式に私の婚約者として出向いて欲しい』
もう婚約者じゃなくなったのにどうして婚約者として出向かないといけないのだろうか。そもそも私はウィリアム殿下の婚約者として披露式に参加する予定なのに。
正式発表がされていない為、私が彼の婚約者である事をアーサーが知らないのは当たり前の話。だからといって元婚約者に頼む事じゃないのは明白だ。
彼の阿呆っぽさに頭が痛くなってくる。
『君も私の婚約者に戻れるのは嬉しいだろう?良い返事を待っているよ』
グシャッと良い音が部屋に響く。
このお馬鹿さんは何を言ってるのでしょうか。
どうして私が喜ぶと思ってるのかしら。
怒りのあまり握り潰してしまった皺々の手紙を眺めているとウィリアム殿下がやって来たと侍女が知らせてくれる。
彼にこの手紙を見せるか否かで悩む。見せたところで余計な心配をかけるだけだと手紙を隠そうとするがいつの間にか案内されていたウィリアム殿下に取り上げられてしまう。
「あ、あの、ウィル様…?」
手紙の内容に目を通し、真っ黒な笑みを浮かべるウィリアム殿下に体温が下がっていく。
怒りのあまり笑顔になっている彼にどう声をかけたら良いか迷っていると、こちらに視線を向けられた。
「ソフィ、まさかアーサー殿下の婚約者に戻りたいなんて言わないよな?」
この人も何を言っているのでしょうね。
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