隣国王太子の求婚
ウィルを案内してから二日、頭の中は彼の事でいっぱいだった。好きになってしまったからとか甘ったるい理由ではなく。どこかで見た事があるのに思い出せないでいるもやもやを抱えているせいだ。
「ソフィ、今大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
執務室の扉を叩き、声をかけてきたのは兄だった。すぐに扉を開いて中に招き入れようとしたが「ここで良いよ」と首を横に振られてしまう。
「ソフィに会いたいと言っている人が来ていてね。応接室で待たせているんだ」
兄からの言葉に心臓がどきりと跳ねる。やって来たのはおそらくウィルだ。
そして会いに来た理由は…。
「会わないと駄目ですか?」
「嫌なら無理に会わなくても良いけど会うだけ会ってあげたら?」
兄にそう言われたら会わないわけにはいかない。なにより彼の正体を知りたいのだ。
すぐに伺うと言って準備に取り掛かる。大急ぎで支度を終わらせて応接室に向かうと部屋の中で待っていたのは。
「ウィリアム殿下…?」
ウィリアム・レイディアント・サンライト。
隣国レイディアントの王太子だった。
どうして隣国の王子がここに…。
「久しぶり…。それとも二日ぶりと言った方が良いか?ソフィア嬢」
にこりと笑う姿は二日前に見たものと全く同じだった。
ウィリアムの愛称は確か…。
思わず叫び声を出しそうになる。何故気づかなかったのか。彼も変装していたからと言いたいところだけど瞳はレイディアントの王族の証である紫のままだった。
それだけでも十分気づけたのに。
「お久しぶりでございます、ウィリアム殿下」
自分の間抜けさに落ち込みながらも挨拶はしっかり行う。先にソファに腰かけていた兄の隣に座ってウィルことウィリアム殿下と向かい合った。
「驚かせてしまったか?」
「かなり」
驚きすぎて心臓が止まるかと思った。
まさか一緒に出かけていた相手が大国の王太子だったとは。
「それは悪かった」
「気づかなかったこちらが悪いのです。お詫び致します」
隣国を訪れるたびに会っていたというのに見抜けなかったとは情けない事だ。
謝罪すると「気にしないでくれ」と優しく返される。
「ソフィア嬢」
「はい」
「私が何の話をする為にここまで来たか分かるか?」
二日前ウィルに渡されたネックレスに触れる。
付けて来なければ良かったと後悔したのは彼の瞳が柔らかく緩んだ時だった。
「付けてくれているんだな」
「いえ、あの…」
結構気に入っているので。
なんて言えなかった。目の前にいるウィリアム殿下から視線を逸らすと今度は兄と目が合う。
「殿下に貰ったの?」
「は、はい…」
兄の視線が鋭く突き刺さった。瞳と同じ色の宝石を贈る事の意味を理解しているからこそ睨んでくるのだろう。
迂闊だったと思ってます。
「ソフィア・オズワルデスタ公爵令嬢」
「は、はい」
「どうか私と結婚していただけないだろうか?」
唐突な求婚に頬が熱くなる。
分かっていた。彼がここに来た目的はちゃんと理解していたつもりだったのにいざ言葉に出されると恥ずかしいものがある。
誰であっても私の答えは変わらないのだけど。
「無理です」
「理由を聞いても?」
「ご存知だと思いますが私は婚約を解消された身ですよ。どんな顔をしてあなた様の婚約者になれると言うのですか」
「婚約者がいないなら問題ないだろう?」
「そういう問題ではありません」
静かに首を横に振った。
婚約を解消された傷物の令嬢を娶るのはレイディアント王国の、そして王族の名に傷をつける事になるだろう。
「レイディアント王国の国王陛下や王妃殿下がお許しになるはずありません」
「父上と母上には許可をもらっている」
「え?」
即答されて絶句する。
もう許可をもらっている?いつの間に?
「全て承知の上で申し込んでいるんだ」
「ですが…」
「唐突な求婚だ。戸惑う気持ちも分かるが少し私の話を聞いてもらえないだろうか」
まずはウィリアム殿下の話を聞いた方が良いだろうと「分かりました」と大きくうなずいた。
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