14 風の加護
「いいなぁ、ファニーさん。これ、私も出来ないですか?」
もう1枚、と鱗を立てて根元をファニーのシルフィネイルで切り裂くことを繰り返しつつ、欲を隠すこともなく問いかけた。だって、そうでしょう?こんな切れ味のものがあれば調理はうんと楽になるはずだ。それに戦う術にだってなるはずだ。そんな私の下心を見透かしたのか妖精たちは私を一瞥した後、頭を左右に振った。
「無理よ、私たち妖精族特有の魔法ですもの。」
「…あぁ、でも風の加護があれば似たようなことはできるんじゃない?」
「風の加護?」
はぎ取れた鱗をボウルの中にいれるとカランとやけに良い音を立てる。
「えぇ、風の加護を受けると風魔法が使えない人でも使えるようになるし、複雑な風魔法の習得も出来るの」
「なんですかそれ、素敵じゃないですか……!」
私みたいな保温やアイテムボックスといったスキルは使えても、火魔法だ水魔法だといった魔法を使えないものにとっては嬉しい情報だった。なにせ運動神経が悪く、戦いには向いていないという理由で弁当屋を開くぐらいだ。運動神経が関係しなさそうな魔法であれば私だって、村に閉じこもることなく、魔物に怯えることもなく何か新しいことが出来るかもしれない。
「無理よ」
しかしあまりに遠慮のない言葉に私がいま描いたばかりの希望が、ガラガラと音を崩れていく。
「え」
「風の加護は私たち妖精じゃなくて、ニンリル様じゃないと無理なんだもの。ほらできたわよ」
そんなぁ…と落胆する私に、はー魚臭かったとファニーは羽を小刻みに揺らしておしぼりの上の――定位置に戻った。私はファニーにお礼を伝えながらも体から離れた鱗を拾い、ボウルの中へと入れると其処へと塩を振りかけて表面についた汚れやぬめりを落としていく。
「…そのニンリル様って人…妖精?の加護があれば、私でも出来るんですよね」
「そうだけど……なによミサキ、そんなに風の加護が欲しいの?」
「そりゃそうですよ。私は魔法も使えないですし、ファニーがやっていたシルフィ…ネイル…でしたっけ、あれがやれたら調理も楽かもなぁて。」
ちょっとだけおどけて見せるとファニーは
「そんな理由で欲しがるの嫌なんだけど」
と訝し気な表情を浮かべながらため息をついた。表
面についた塩を鱗に水をかけて、塩を洗い落とし、鱗を一枚一枚丁寧にタオルでふき取って一枚出したお皿の上に並べていけば、残った魚を指さした。
「でも絶対に調理が楽ですよ、この世界って肉や魚は大きいし固いものが多すぎるんですよ」
アイテムボックスに鱗を剥がしたシールドフィッシュを格納すれば、妖精たちは口を揃えて「あれ?!」と声を上げたが、私は薄く笑うに留めてコンロの――発火石の上に乗った両手持ちの鍋の中に油を注ぎこんだ。
手のひらを翳して魔力を注げば発火石が段々と熱を帯びることを教えるように赤く色づいて、鍋を温めていく。今度は鍋の上に手のひらを翳して大雑把に温度を確かめて、熱した油の中に鱗を滑り落とせば水気をしっかりと取ったからか盛大に跳ねることもなく、静かにぱちぱちと爆ぜる音が響く。
「だったらもっといい包丁を買えばいいのに」
「包丁次第でそう大きく変わりますかねぇ…?」
日本の最高級包丁を使ったとしても、シールドフィッシュを解体するのには時間がかかりそうなものだが。
「そりゃ変わるわよ、肉と素材となる皮をはぎ取ってくれる解体屋にはミサキと変わらないくらいの女の子がいるっていて、聞いたことあるわよ?」
「へー……。でもそういう包丁って高いんじゃないんですか?」
「そりゃあ……まぁ、高いんじゃないかしら」
「ですよねぇ…、何か私でも取れるような、…なおかつ高価なものって何かないですかねぇ」
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