13 シールドフィッシュ
「あはは…そうなんですが、私はこの包丁しか持ってないんです。」
「ソラリアは店があっても選べるほどの物はないものね」
「そうですねぇ」
「アメストリアに行ってみたら?少なくともその包丁よりも切れ味が良いものはあると思うわよ」
ソラリア村は高齢化が進んでいることもあり店が極端に少ない。
森が近く自給自足できるからこそなのだが、それにしても武器や防具を扱った店は1店舗のみしかなく品ぞろえも悪いと評判だ。私がいま使用している包丁はしゃもじ屋を開店となった際に、お祝いとして頂いたものだが包丁一本を使い続けていることもあり消費は激しいし、随分と切れ味も悪くなったように思う。
今扱っているシールドフィッシュは鱗だけでなく皮膚やそれに筋肉まで馬鹿みたいに固いこともあり、試作品を作ったときも鱗1枚を取り外すのに随分と苦労したものだ。
刃へのダメージを考えると使用しない方が良いに決まっているのだが、鱗を外さないことには始まらないのだ。
「アメストリアって、よ、……っと、遠いじゃないですか」
妖精の彼女たちに向けて言葉を返しながらも手に持った包丁を前後に動かして鱗の切り落としを続行すると、包丁によって削れていた鱗の根本が「パキ」という軽い音と共にようやく外れて、1枚の取り外しに成功。その瞬間、無意識下に止めていた呼吸が一気に吐き出された。
「はぁ…っ、やっと1枚…」
取れましたよって手の甲ほどの大きさの鱗を妖精たちに向けると、3人は顔を見合わせて「随分時間がかかりそうね」「包丁の切れ味悪すぎじゃない?」「おなかへったあ」とそれぞれの感想を述べた。それがあんまりにも辛辣で首を垂れると、
「……もう、仕方ないわね。ちょっと退きなさい」
とファニーが名乗りを上げた。
「え?」
「私が鱗ぐらいは外してあげるわよ。」
「ファニーが?でも、どうやって…?」
私でも捌くことが難しいのに、私よりもうんと体の小さい彼女が捌くことなんてできるのだろうか。
どう考えても捌く姿を考えられずに首を傾げると、ファニーは椅子替わりに使っていた丸めたおしぼりから腰を浮かせて、透明な羽を揺らして私の手元まで飛び上がるとシールドフィッシュを指さした。
「まぁまぁ。ミサキ、ファニーに任せるといいよ」
「そうそう」
アネルとマーニーはからからと軽い調子で笑う。そんな姿を目にしながら、半信半疑ではあるものの、彼女の指示通りに根本を見せるように鱗を開くように片手で上げると、ファニーは前に突き出すように手を出した。
「見てなさい、"シルフィネイル"!」
ファニーが技名を唱えた途端にファニーの爪先が新緑色に染まり、指を中心に小さな風――のようなものが渦巻き始めた。まるで小さな小さなつむじ風だ。ファニーはつむじ風を指にまとわせたまま、鱗の根本へと手を向けて上から下にすいっと一直線に降ろすと、指に纏わせたつむじ風が風の刃となって鱗の根元を切り裂いた。
なんて威力だ。日本でいうところの妖怪・かまいたちと言えば分かりやすいだろうか。あんなに硬かった鱗の根本が風の刃によって切り裂かれるだなんて。
「…す……、すごい……!」
どうやら魔法の威力というものは体の大きさによって増減するものではないらしい。
ファニーは私の言葉にふふんと鼻を鳴らして得意げに笑った。
3日ぶりの投稿だと思っていたら、実に1週間とちょっとぶりの投稿でした。
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