12 女子会【設定画有】
3/29途中の挿絵がおかしかったので正しいものに入れ替えました。
扉を開けるとカランと扉上部に飾りつけたカウベルが小気味良い音を弾ませた。
日は暮れて夜の帷が降りたソラリア村は、田畑に囲まれた――一言で表すならば田舎だからか、辺りに街灯も少なく家々の窓から零れた灯りが街を照らしていた。
「今日はもうお客さん来ないかな…」
辺りを見回しても人の姿は無い。うん、今日はもう閉店でいいだろう。自営業は後ろ盾がないと言うけれど、好きに店を閉めることが出来るっていう部分は自営業の特権だと私は思う。扉にかけたopenと異国文字で書かれた札を裏返し、closeに変えればそのまま一歩も外に出る事なく、扉を閉めた。
普段であれば、これから私が行うべき事は後片付けなのだが今日はまだ、いや、暫くは後片付けが出来なさそうだ。何故ならば、
「ほぉんと信じらんないわよね!」
「でもぉ、そういうところが好きなんじゃないのぉ?」
「わかるー、いっつもアンタ、リュウネルの事ばっかり言ってんジャン」
カウンターで女子会を始める小さな妖精たちがいるからだ。
妖精たちの名前は、ファニー、マーニー、アネル。
彼女たちは森の最奥部にある大樹を守る妖精たちだ。
「そうそう、いっつもリュウネル、リュウネルって言ってさ」
「リュウネルのこと好きなくせにねぇ」
妖精たちの体はおよそ15cmほど。
地球にいた頃のもので例えるならば、定規一本分の大きさといえば分かりやすいだろうか。妖精たちには煌めきを放つ鮮やかな蝶に似た羽を持っているのだが、いまこの場では羽を動かすことなく、まさに羽休めをする彼女たちはカウンターの上で乾いた状態で丸めたおしぼりを椅子替わりに座って談笑を続ける。
「そ、そんなことないわよ!ねぇ、ミサキからも何か言ってよ!」
ファニーは赤毛の髪と同じ色に頬を染める。
その顔で否定を示すのは無理があるが、これ以上言うのも酷な気もする。
――と、言う事で
「ふふ」
と笑うに留めると、ファニーは「何か言いなさいよ!」と益々顔を赤く染めるのであった。
「ねぇミサキ、今日は何を作ってくれるの?」
「あぁ、今日はこの魚を使おうと思います」
異世界に飛ばされる前の私と言ったら女子会や合コンなど交流の場には参加せずに直帰して、趣味の料理に勤しむばかりであったというのに、今ではホスト側で女子会を開いているのだから人生って全くもって分からないものだ。いや、異世界に飛ばされる時点で人生って何が起こるか分からないのだが。
私は彼女たちの問いかけに応えるように、アイテムボックスを使って保存しておいた魚の下半身を取り出せば、尻尾の付け根のあたりに乾いたタオルを置いて、タオルごと尻尾を掴んで持ち上げた。――が、取り出した魚は尻尾から腹までのちょうど半分しかないというのに、それでも70cmほどと規格外の大きさだ。鍛えているわけでもない私がそう簡単に持ち上げることも出来るはずもなく、尻尾から腹にかけて持ち上げるしかできなかったが、妖精の彼女たちはその魚を見て目を丸くした。
「わぁ!それってシールドフィッシュじゃないの?」
「えぇ、先日頂いたものなんですが今日はこのシールドフィッシュを使って女子会に合うおやつを作ろうかと」
「お、おやつ?」
目を丸くしていた妖精たちはおやつという言葉を聞いた途端、訝し気な表情を浮かべた。
そりゃあそうだ、お魚の形をした焼き菓子があっても実際に魚を使ったお菓子だなんてこの世界にはないのだから。
「えぇ、それじゃあ早速作りはじめますね」
持ち上げた魚の尻尾を降ろすと、包丁を右手に持ち、左手で手の甲ほどの大きさの鱗を開いて付け根に刃先を宛がった。
刃先は付け根を切るように前後に動くものの、シールドフィッシュは鱗の固さが自慢とだけあってか中々切り外しがうまくいかず、早速暗雲が立ち込めてきた。なるほど、この魚を欲しいと貰ったときに「手間ばっかりかかる魚なのに欲しいだなんて変わってるね」と言われた意味がよく分かる。一枚の切り外しすら美味くいかずにひたすらノコギリの要領でぎこぎこと前後にスライドさせていると、その光景に見かねたファニーが
「ちょっと、そんなちゃちな包丁でシールドフィッシュは捌けないわよ」
と口を挟んだ。
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イラスト:しかしょみん様