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第21話 悪役令嬢の権力。

 貴族絡みの事件は人知れずひっそりと闇に葬られることが多い。あまり大々的に喚き散らかしてしまうと後々面倒なことになるため、たとえば病気で田舎に療養、とか、家督を譲り渡して隠遁、とか、そういった回りくどい表現で曖昧に誤魔化すのだ。だから、原作ゲームで伝説のピアノを横取りしようとした悪役令嬢マンダリンが、切れたピアノ線で首チョンパにされる、みたいな直接的な制裁はほとんど起こり得ない。というか、あれはゲーム上の演出なので、実際にそんなことが起こるか否かは問題ではなく、悪役令嬢がざまあされたという事実のみが優先された大袈裟な演出と言えるだろう。


「随分とご機嫌斜めだね、愛しいリン?」


「フォルテ様。いえ、そのようなことは」


 国立音楽学院には幾つかの貴族的集会(サロン)が存在する。フォルテ王子主催のもの、公爵令嬢マンダリン、即ち私の主催する女子会(もの)、その他大小様々なお茶会が定期的に開かれ、若き貴族の跡取りたちはそこで入学前に必死で学んだ駆け引きを培い、未来への布石を打つのだ。私が今出席しているサロンは、フォルテ王子とその婚約者である私が合同で開催するサロン。即ち私、フォルテ王子、ソプラ様、メッゾ様の4人だけの集まりだ。来年はきっとアルトもここに加わるだろう。


「最近の君は学外にできたお友達に随分とご執心のようだ。僕としては少し妬けてしまうけれど、さりとて妻の交友関係に口を挟む狭小な夫にもなりたくない」


「では、嫉妬する(いとま)もない程わたくしのことを信用して頂けるよう、より一層尽力せねばなりませんわね」


 ヌエ様に一喝されて以降、私は周囲からの私への認識を改めるに至った。正確に言えば、正しく認識できるようになった、か。どうやら悪役令嬢に転生してしまった人間らしく、幼い頃からいい子にしていた結果、私は攻略対象である彼らからそれなりに、いや、かなり溺愛されているようだ。本来であれば傲慢で才能のない婚約者を疎んじていた筈のフォルテ様もこの有様だし、私や父を恨んでいる筈の義弟のアルトも、宮廷楽団長の息子ソプラ様や大臣の息子メッゾ様も私に好意を抱いてくれている。入学するまでほとんど接点のなかった風紀委員長(この時点ではまだ1年生だから委員長ではないが)や、くわえ煙草で生徒の手当てをするような不良保険医からも、嫌われてはいない。嫌われるようなことを何もしていないから当然だ。


「とはいえ、少し安心したよ。完璧超人の君にも少しは人間らしい一面があったのだ、とね」


「それこそ、まさかですわ。わたくしは必死に未来の王妃に相応しくあるべく仮面を取り繕っていただけに過ぎません」


「そんな君の弱さを見抜けず、劣等感すら刺激されていた僕はなんて愚かだったのだろう、と今になって思うよ」


「買い被りすぎを。わたくしたちは、お互いにまだまだ子供だった。そういうことにしておきませんか?」


 話が横道に逸れたが、今回、ある貴族の子女ら3名が捜査線上に浮かび上がってきた。ララ。レレ。ミミ。いずれも中堅貴族の令嬢であり、実力的にはイマイチのためクレレの所属するB組に振り分けられた生徒たちであり、そして、PHにおける悪役令嬢の取り巻きだったキャラクターでもある。いい悪役令嬢には有能な取り巻きが必須だ。適度に小物で、程々に小悪党で、いい感じに無能な。悪役令嬢の手となり足となって働き、たまに悪役令嬢本人ではなくそっちに転生しちゃう話もあるぐらい、物語に欠かせない脇役。今回私が悪役令嬢としての役目を放棄した結果、彼女たちを取りまとめる頭がいなくなったことで、悪役令嬢の取り巻き3人組は独自のヒエラルキーを形成したらしい。即ち、B組で威張ってるいけ好かないバカ女トリオ。クレレのヴァイオリンの弦切断事件を引き起こしたのも彼女たちの仕業だろうと誰もが思うぐらい、彼女たちはB組で嫌われていたのである。


『あーらやだ。伝統と名誉ある新入生歓迎会でクラスの演奏を台無しにした戦犯が、よくもまあ涼しい顔で顔を出せたものね。どういう神経してるのかしら?』


『わたくしであれば恥ずかしすぎて生きていられなかったでしょうに。さすが田舎者は面の皮の厚さが違うのね』


『これ以上醜態をさらす前に、さっさと荷物をまとめて田舎に引っ込んだらどう? ああ、勘違いしないで頂戴ね。これは世間知らずのあなたのために忠告して差し上げてるのよ』


『先日うちの所有する倉庫のうちの一つに賊が押し入ったのよ。嫌ですわ。警備員たちは一体何をしていたのかしら?』


『お気の毒に。たかが平民の小娘独りが犠牲になりかけた程度でネチネチ言われては堪ったもんじゃありませんわよね』


 口は禍の元というか、墓穴を掘るというか。黙って知らん顔してればいずれ沈静化しただろうに。わざわざクレレに嫌味を言いに来るわ、事件のことをほじくり返すわで、あれでは自分たちがやりましたとアピールしているようなものだ。悪役令嬢(わたし)が抜けたことで悪役としての役割が彼女たちに繰り上がったのか、はたまた曲がりなりにも指示してくれる頭を欠いてああなっただけで作中でも実はああだったのか。どちらにせよ私の逆鱗に触れた以上、詮無きことではある。我がノイズ家の子飼いの密偵は優秀だ。ヌエ様誘拐事件の原因がヌエ様を逆恨みした彼女たちの愚かなワガママであることの証拠をきちんと集めてくれた。後は煮るなり焼くなり幾らでも。


――


「え!? 取引が停止!?」


「え!? 婚約を取りやめ!?」


「え!? 叔父様が逮捕!?」


 曲がりなりにも貴族であるがゆえ、表立って処分することはできないが、それならそれでやりようは幾らでもある。全ての悪事を暴露し、彼女たちを退学に追い込めば3つの家から恨まれることになるだろうし、伝統ある国内最高峰の名門校の看板に泥を塗ることにもなるため、お父様やイカルガ様との協議の末、今回は経済制裁で収めることにしたのだ。それでそれぞれの家が潰れることはないだろうが、しばらくの間結構な苦労をする羽目になるだろう。ましてその原因がそれぞれの愚娘たちにあると知れば、各家の当主たちがどのような判断を下すかは想像だに難くなく。まあ、それで逆恨みをしてくるようなら今度こそ容赦なく叩き潰せばいいだけの話だ。彼女たち、反省するかしら。しないでしょうね。それで懲りるぐらいなら、最初からあんな真似はしないでしょう。


「いい気味。少しは理不尽に傷付けられる痛みを思い知ればいいのよ」


「同感です。ああ、それと。しばらく学内外を問わず単独行動は控えてくださいね、クレレさん。逆上したあの3人が何をしでかすか、わたくしにも判りませんので」


「ありがとう、リンちゃんさん。くれぐれも気を付けるね」


「いえ。今回のことはわたくしも、相当頭に来ておりますので」


 大切な友達を傷付けられて、泣き寝入りするほど私は人間ができていない。折角お金持ちのお嬢様に生まれ変わったんだから、使える権力は幾らでも使わせてもらう。あちらが親に泣き付くのなら、こちらも親に泣き付こう。貴族の権力で警察の捜査にストップをかけようとするならば、それを上回る家柄の力で邪魔立てしてやろう。たとえ行き過ぎた正義を振りかざす結果になろうとも、私は悪役令嬢なのだから、悪い手を使って何が悪い。

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