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透明街の人喰い獏  作者: 葉里ノイ


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79-おかえり


 誰もいない暗い透明な街でぽつんと明かりが灯る古物店の中、並ぶ棚を何度も物珍しそうに見て回っている洋種山牛蒡を黒葉菫は疲れたように目で追う。その彼の前にある机には小さな箱が二つ置かれ、一つには蒲牢が差し入れてくれた団子が、もう一つの木箱にはタオルが敷かれ小さな子猫が眠っている。苦戦しながら何とかミルクを与えると、満腹になったのか子猫は眠ってしまった。突然灰色海月に子猫を預けられた時は焦ったが、何とか生きてくれている。

 子猫が気になるのか、普段あまり姿を現さない黒猫も棚の間からじっとこちらを覗いていた。黒葉菫が目を遣っても逃げない。

「お前が世話をしてくれたらいいのに……」

 同じ猫なら世話の勝手もわかるだろう。途惑うしかない黒葉菫に比べれば良い親ができるはずだ。

「スミレ君、ここに置いてあるレース、凄く素敵ね」

「店だから、獏に言えば売ってくれると思う」

「もっと大きければ家のカーテンにしたいくらいだわ」

 家を飾る発想は黒葉菫にはなかった。洋種山牛蒡は人間のようなことをするのだなとぼんやりと思う。

 話したい噂話も尽き、洋種山牛蒡は先程からうろうろとしている。獏も戻って来る気配がないので、いつまで一階に引き留めておけるだろうかと不安になる。

(どうしたんだろう……まさか贔屓の所で何か不味いことに……)

「スミレ君、ここのテーブルクロスも」

 不意にがちゃりとドアが開き、洋種山牛蒡は反射的に跳び退いた。黒葉菫のいる奥の机上に跳び上がろうとし、子猫がいることを思い出し留まった。

 もし獏なら二階の穴から入って来るだろう。また灰色海月が大荷物を提げて来たのかもしれない。黒葉菫はそう考えながら洋種山牛蒡よりは冷静に開くドアを見詰めていたが、その向こうにいた者に思わず息を呑んだ。

「……!?」

 軋むドアの向こうに立っていたのは、白い少年だった。

「白……? 私だけじゃ頼りないから増援を寄越したってこと? そんなに頼りないかしら? でも何処かで見たことがあるような……」

 黒葉菫にははっきりと見覚えがあった。だが()()()()()()()。況して立っているはずがないのだ。ごくりと唾を呑み、黒葉菫はぽつりと漏らした。


「マキ……」


 呆然と呟いた名に洋種山牛蒡も思い出した。

「そうだわ、苧環だわ! ちらっとしか見たことがなかったから」

「……ヨウ姉さん、絶対に他言無用だからな」

「? 任せて。噂話は大好きだけど、言うなと言われれば口は堅いわ」

「マキは死んだはずだ」

「あら」

 きょとんとしながら白い少年に目を遣る。支えもなく二本の足で立っている。首には何やらぐるぐると蔦が巻き付いているが、他に目立った違和感はない。強いて言うなら目が虚ろで何処を見ているのかわからない。こちらを見ているが、焦点が合っていない。

「噂通り殺されてたの?」

「そう……だ。だから、あれは……幽霊……?」

 本人が目の前にいるのだから、もう黙っているのは不可能だ。声が震えそうになる。幽霊の存在は半信半疑だが、目の前にいるのがそうなら、どう対処すれば良いのか皆目見当が付かない。

「幽霊なら触れないんじゃない? 触って確かめてみましょ」

「よくそんなことが平気でできるな」

「だって幽霊なんて見たことがないんだもの」

 黒葉菫とは対照的に洋種山牛蒡は目を輝かせている。好奇心が勝っているようだ。未知のものに対して警戒心が無さ過ぎると黒葉菫は思うが、他に何も思い付かないので彼女を引き留めることはしなかった。知り合いの幽霊と言うことで黒葉菫にも油断はあった。

 警戒はするが彼女はじりじりと薄暗い狭い通路を接近していく。白い少年は一歩店の中に入るだけで、武器を取り出すような様子はなかった。

 もし幽霊ではないのなら遺した種から新しく生まれたのかと考えるが、幾ら何でも育つのが早過ぎる。それに姿形は黒葉菫の知る白花苧環と全く同じだ。種で生まれ変わることが獣の化生と似たようなものなら、多少なり変化があるはずだ。

(つまり幽霊の可能性が高い……)

 店内は薄暗いので陰になっているが、よく見ると指も一本欠けている。饕餮(とうてつ)に噛み千切られたままだ。間違いない、彼は生まれ変わりではない。

 洋種山牛蒡が白花苧環の顔を窺いながら手を伸ばすと、そこで漸く彼は動いた。触れようとした腕を逆に掴み、狭い通路でくるりと彼女に尻餅を突かせてしまった。

「やん!」

「大丈夫か!?」

 白花苧環は洋種山牛蒡に目もくれず歩き出し、警戒して避ける黒葉菫にも全く目を向けず階段に向かった。静かではあるが、足音は聞こえた。幽霊にも足音はあるのだろうか。

 黒葉菫は洋種山牛蒡を助け起こし、階段を上がる白花苧環を覗き込む。

「触った……ってことは、幽霊じゃない……? いや、でもこっちからは触れないのかも……」

 触れる触れないは悪夢の例がある。悪夢はこちらに触れられるが、こちらからは触れることができない。幽霊もそれと同じかもしれない。

 真剣な顔で階段を見上げる黒葉菫に張り付き、打った尻を摩りながら洋種山牛蒡は不満げに彼の服を引く。

「幽霊じゃないと思うわ。だって実体に掴まれたみたいな感触だったもの。幽霊に掴まれたことはないから比べられないけど」

「そうなのか……? でもマキは死んで……首を切られたのに、あんな繋がってるような……」

「あの蔦で結び付けてるんじゃない?」

 階段の上でドアを開ける白花苧環を見上げ、洋種山牛蒡はいそいそと上がった。どういう存在にしろ放ってはおけない。黒葉菫も付いて行く。

 白花苧環は獏の部屋のドアを開け放したまま、中できょろきょろと見回していた。一頻り見回すと部屋を出、今度は向かいの灰色海月の部屋に入る。同じようにきょろきょろと見回し、部屋を出た。

「何をしてるんだ……? 何か探してる……?」

「どうして誰もいないの?」

「絶対他言無用だからな」

「わかったけど、教えてくれてもいいじゃない……」

 奥の物置部屋のドアを開ける白花苧環から目を離さず、二人は狭い階段で噛み合わない会話をする。獏達は洋種山牛蒡に気付かれないように外出しているのだ、不在が発覚しても黒葉菫の口からぺらぺらと話して良いことではないだろう。説明できないことは沈黙するに限る。

 全てのドアを開けた白花苧環はこちらに向かって来た。狭い階段で二人はすぐには避けることができなかった。目は合っている気がしないが見下ろす白花苧環に黒葉菫の頭が踏まれた。そのまま彼は飛び降りる。

「……大丈夫? スミレ君」

「大丈夫……」

 しっかりと質量のある重みだったが、以前彼を抱えた時よりも少し軽く感じた。以前の彼は脚を石膏で固めていたため、その分の重さだろうか。振り払うこともできたが、落ちて首が飛んだら夢に出て来そうなので耐えることを選んだ。

 二人は白花苧環を追って一階に下り、通路を覗く。どうやら外に出るようだ。

「外に出てはいけない……でも、気になるわよね」

「まあ……そうだな」

「獏も言ってたわ。命令は破棄されたと」

 洋種山牛蒡は白い彼を追い、躊躇無く店を飛び出した。誰も彼女の好奇心を止められない。性格にもよるが黒はこういう命令を放棄する面が多少あるので、狴犴も信頼できる白を優先的に送り込んでいたのだろう。悪戯好きな他の獣なら白を厭い黒を使うが、悪を良しとしない科刑所なら罪を嫌う白とは相性が良い。黒所属の洋種山牛蒡には最初から期待していない、だから説明が不充分のままここに送り込まれたのではないだろうか。獣の考えなど変転人にわかるはずもないが。

 黒葉菫もドアから外を覗くと、白花苧環が隣の家に入って行く所だった。

「行くわよ」

 手招く洋種山牛蒡を追って隣家へ入る。白花苧環は一階には目もくれず、そのまま二階へと上がった。なるべく音を立てずに付いて行き、開け放たれたドアに入る白い彼を目で追う。

 ドアの陰から二人も中を覗き込み、洋種山牛蒡は息を呑んだ。

「何? この部屋……血が……」

 何者かの血がべったりと飛び散った部屋を見た彼女は警戒した。これが全て一人の人間の血なら致死量に相当する。青褪める彼女の反応は正しい。

 その部屋の中も白花苧環はきょろきょろと見回し、今度は部屋を出なかった。部屋の隅に座って膝を抱える。焦点は何処に結ばれているのか、少し遠くの床を見ているようだ。

「……もしかして、獏を捜してるのか?」

 黒葉菫は大量の血痕を見ても驚かない。幽霊を怖がっていた彼が恐れないので、洋種山牛蒡も危険なことではないのだと冷静になれた。

「白が罪人を? 殺すため?」

「そんな物騒な感じではなくて……」

 どう言ったものかと頭を捻り、別に最初から話す必要は無いと結論を出した。

「……マキはここで死んだ。ここで最期に話してたのは獏なんだ。どういうわけかわからないが……最期の場所に戻って来たのかもしれない」

「帰巣本能ってやつ?」

「棲んではないが」

 暫く待ってみても白花苧環は動こうとしなかった。そもそも浅葱斑に攫われた彼が一人で戻って来るのも妙な話だ。浅葱斑はどうしたのか、戻って来ている様子はない。

「結局マキは死んでるのか? 生きてるのか……?」

「本人に訊いてみる? 首を切られて、ってことなら、あの蔦を解けばわかるかも」

「解くのはやめよう。もし首が落ちたら怖い……」

「そうね。首が落ちて動かなくなったら訊けないものね」

 そういう意味ではなかったのだが、蔦を解かないならどちらでも良い。

(切れた首は蔦で結べるものなのか……? 宵街の蔦なら強度はあるが……)

 恐る恐る洋種山牛蒡は血だらけの部屋に入り、じりじりと白花苧環との距離を詰める。先程尻餅を突かされたのに、好奇心の前では瑣事らしい。

「あんまり近付くと危ない……」

「大丈夫。彼が何だろうと変転人なら私にも躱せるわ」

「さっき躱せてなかった気がするが……」

 腕が届かない程度の距離に蹲み、洋種山牛蒡は白花苧環の顔を覗く。彼に反応は無かった。

「初めまして、私は洋種山牛蒡。貴方は?」

 ぴくりとも反応が無い。彼は眼球を全く動かさない。

「知ってるわ、白花苧環よね。どうしてここに来たの?」

 一人で会話を完結させる彼女をはらはらと見守りながら、黒葉菫はふとあることに気付いた。

(マキ……瞬きをしてない……)

 欠けた指の断面は黒く血は全て固まり新しい血は出ていないが、傷口は塞がっていない。薄暗いので意識していなかったが、じっくり見てみると心做しか血色も悪く、瞳もやや濁っている。あれは死体ではないか、無意識にぽつりと頭の中の誰かが呟いた気がした。洋種山牛蒡はひたすら話し掛けているが、首を切られていれば声は出ないのではないだろうか。

 目を離すわけにもいかず、洋種山牛蒡も離れないので黒葉菫はドアの陰から見守ることしかできなかった。見ず知らずの死体ではない所為か怖がりな彼にしては珍しく恐怖はあまり大きくはなかったが、不安な気持ちは大きかった。

 隣の店から物音が聞こえた時、どれほど救われただろうか。敵の物音だとは思わなかった。きっと獏が戻って来たのだ。

「ヨウ姉さん、店に獏を呼びに行ってくれるか? 俺が呼んだって言えば、来てくれるはずだ」

「……あら? 帰って来たの? 気付かなかったわ」

 余程意思疎通を図ることに夢中になっていたらしい。接近した時と同じように彼女はじりじりと後退し、黒葉菫の傍らを擦り抜けて行った。

「会話は広げなくていいからな」

「わかってるわ」

 この不可解な件を知りたいのは彼女も同じだ。無駄話はしない。

 獏は洋種山牛蒡が二階に遣って来ると途惑うかもしれないが、黒葉菫の名前を出せば信用してくれるだろう。罪人から信用を得るなんて不思議な話だ。少し笑える。

 様子のおかしい白花苧環と洋種山牛蒡を二人きりにすることは躊躇われたため彼女に行ってもらったが、獏はすぐに来てくれた。共に外出していた蜃と蒲牢と灰色海月も付いて来た。どうやら信用してくれているらしい。

「スミレさん、どういうこと? 客人が来てるって……」

 帰りの遅い獏を少し心配していたが、贔屓の所で何か問題があり負傷したわけではなさそうだ。ただ時間が掛かってしまった、それだけのようで黒葉菫は安堵した。

「俺もよくわからないので、中を見てもらえれば」

 ドアの陰から怪訝に中を覗き、獏も一瞬言葉を失った。

「マキさん……!?」

 警戒などは捨て、獏は白花苧環に駆け寄った。獏が前に跪くと彼は初めて反応し、顔を上げた。やはり獏を捜していたのだと黒葉菫は確信した。膝を抱える白花苧環の手に獏が触れても、彼は拒絶しなかった。

「夢……じゃないよね? 蜃……」

「俺で確認するなよ」

 夢かどうか確認するために以前殴られた蜃はドアの陰から警戒する。だが夢でなければ目の前の白い少年は何なのだと蜃は目を細めて彼を凝視した。

「冷たい……。でも動いてる……どういうこと? 首も繋がってる……? 良くできた作り物……じゃないよね? マキさん、話せる?」

 様子を窺っていた蒲牢はドアを通してもらい、獏の背から見える白い少年を無感動に観察する。血色が悪く焦点の合っていない瞳、そして首に巻かれた物。

「……おそらく話せない」

「蒲牢? 何かわかるの?」

「その首の蔦、たぶん花魄(かはく)だ」

「!」

「鵺が捜してたことを思い出したから、贔屓に訊いてみたんだ。知ってるみたいだったから教えてもらった」

 蒲牢が狴犴に制裁した時、鵺は掌サイズの獣を捜していた。椒図のことなどがありすっかり忘れていたが、贔屓と会って少し落ち着いたことで思い出した。そのサイズならおそらく花魄ではないかと贔屓は言っていた。

 その名前には獏も覚えがある。木霊が消える直前に言った名前だ。螭が罪人だと言っていた。

「花魄は死体を操るらしい。首に巻いた蔦が証拠だ」

「死体……やっぱり死体なんだね」

 獏は淋しそうに微笑んだ。生き返ったわけでも生まれ変わったわけでもない、目の前の彼は魂の無い抜け殻だ。

「花魄は近くにいるのかな? マキさんを連れて来てくれたんなら、御礼を言わないと」

「……いないと思う」

「え……?」

「蔦が切れてる。首に巻いた蔦を伸ばして花魄と繋ぐことで意のままに操るはずなんだ。なのに繋がってない。切って逃げて来たんじゃないか?」

「切っても動くの?」

「そこまで詳しくは……でも動いてるなら、動くんだと思う」

「マキさん……自分の意思でここに来たの?」

 白花苧環は獏に顔を向けているが、目は合っていない。頷くことも首を振ることもない。

「……あの、マキは店の方でも部屋の中できょろきょろして、何かを探してるみたいでした。それで最後にここに来て……ここが自分の最期の場所だとわかってて来たんじゃないかと思います」

 黒葉菫の指摘を聞いたからなのか、白花苧環はぎこちなく片手を上げた。獏の黒い動物面に血の通わない指先を触れ、そのまま止まってしまう。

「……最期って言うなら、僕はお面を付けてなかったね」

 ドアには背を向けているので皆に醜い顔は見えないだろう。獏は面を外し、金色の双眸で白花苧環を見た。満足したのか、彼は手を下ろす。彼は本当に、獏に会いに戻って来たようだ。

「戻って来てくれてありがとう……マキさん」

 視界が滲みそうになってしまう。繋いで意のままに操るならどうやって蔦を切ったのか、椒図が閉じた宵街からどうやって抜け出して来たのか謎は多いが、今こうしてここにまた戻って来てくれた。それだけで充分だった。

 白花苧環はもう一度徐ろに手を上げ、今度は指先を宙に浮かべたままぎこちなく指を揺らした。

「……?」

 何をしているのかすぐには理解できなかったが、ふと蒲牢の言葉を思い出し掌を広げて彼に向けた。白花苧環はその掌に指を当て、ぎこちなく動かす。蒲牢は『おそらく話せない』と言った。白花苧環が何か伝えようとしているなら、声以外の方法になるはずだ。

「うん……うん」

 あまり細かい動きはできないのだろう、ゆっくりと時間を掛けて指先から伝わるものに獏は相槌を打つ。その様子を皆はドアから静かに見守った。

 たっぷりと時間を掛けて紡がれたものに、獏は思わず笑ってしまった。

「……ふ、ふふっ……。それを言いに来たの? ちょっと予想外と言うか……そんなに気になってたのかな? ……ああ、ごめん、笑うつもりはなくて。毒気が抜けて素直になったのかな?」

 一人で完結して笑う獏の背中を見ながら、皆は首を捻る。白花苧環は冗談を言うような者ではなかったはずだ。

「……あの、マキは何て……」

 誰も何も言わないのでゆっくりと黒葉菫が尋ねた。獏は顔を見せないために振り向かず、少し笑いながら答えた。


「スコーン、美味しかったかって」


 蒲牢と洋種山牛蒡はその時この街にいなかったのでさっぱり理解できなかったが、変転人達が皆で作った菓子のことを言っているのだと他の者は理解できた。そうだ、菓子を作っている途中で白花苧環は殺されたのだ。彼はそれが完成したことも知らない。

「美味しかったよ、マキさん。ジャムに唐辛子を混ぜようとしてたみたいだけど」

 眉一つ動かないと思っていたが、ふ、と白花苧環が微笑んだ気がした。空っぽの彼にまるで一瞬生が宿ったようだった。

 完成したことを知らない彼が味を尋ねるのは不思議だったが、クリームを作る自分の作業は終わっていたので完成した気分があったのだろう。行動の早い彼らしい。

 死体だろうと意思疎通ができるのだと確信した蜃は居ても立ってもいられなくなり、泣きそうな顔で二人に駆け寄った。

「……苧環! 宵街から来たんだよな!? 椒図はっ……椒図はどうなった!?」

 蜃の悲痛な叫びには白花苧環は反応しなかった。顔は上げているが蜃の方は向かない。

「椒図とそのスコーンって奴を食べた……美味かった……だから、もう一度……椒図に会わせてくれ……」

 単語に反応したのか、白花苧環はゆっくりと蜃を向いた。

「蜃……」

 蒲牢も警戒しつつ少し接近し、逡巡しながらも蜃の肩を叩く。

「体が動いても死体の脳はもう働いてないはずだ。死ぬ前の記憶が残ってるだけで、死んだ後の記憶は蓄積されない。宵街で何を見たにせよ、覚えてないと思う」

「……おい! 何か言えよ! 苧環! 椒図を見たのか!? 椒図は生きてるよな!?」

 死体を前にして、椒図の生死が途端に心配になった。殺されて花魄に操られているのではないかなどと証拠も無いのに不安が煽られた。一度その目で椒図の死体を見てしまったからだ。あの姿が頭から離れない。

「蜃、落ち着いて。蒲牢の言ったことが正しいなら、マキさんに訊いても何も答えられない」

「少し離れよう、蜃。君は椒図のことになると我を忘れる」

 蜃の腕を引き、蒲牢は距離を取る。蜃は振り解こうとするが、その力は弱々しかった。

 獏は面を被って振り向く。椒図が宵街へ行ってもう数日が経つ。蜃の精神はもう限界なのだろう。

 立ち上がって宥めようとすると、くんと服を引かれた。振り返ると白花苧環が獏を見上げていた。

「……何? どうしたの?」

 白花苧環はポケットから徐ろに一枚の葉を取り出した。それを獏へ差し出す。

「これは……?」

 受け取るが、花ならまだしも葉を見ただけでは何の植物の葉なのか獏には判別できなかった。何処かで目にしたような気はする。

「ねえ、これが何の葉っぱかわかる人はいる?」

 足掻く蜃もぴたりと動きを止め、皆は獏が翳した葉を凝視した。


血染花(ちぞめばな)


 声を揃えたのは蜃と蒲牢だった。

「それなら何度も見たことがある! 間違い無い!」

「宵街の花畑にあるらしい。それと裏通りにも少し咲いてた。裏通りの方は今はどうなってるかわからないけど」

「……蒲牢の方が詳しい……」

 意気込んで答えたが、裏通りなんて場所を蜃は初めて聞いた。

「裏通りって何処なんだ……」

 宵街のことなら変転人の方が詳しいだろうとドアの陰の三人に目を遣るが、三人は怪訝な顔をするだけだった。代わりに蒲牢が答える。

「別の呼び方があるかもしれないけど、今皆が棲んでる辺りは表通りなんだ。宵街は山のような形をしてると思ってくれればいい。頂上があって、表通りとは反対側にある斜面に裏通りがある」

「横移動したことはあるが、一周はできなかったはず……」

 最下層の壁伝いに移動したことがある蜃は首を捻る。歩いても元の場所に戻ることはなく、壁があるだけだった。

「うん。一周はしてない」

「は?」

「今は表通りと裏通りを隔てる壁がある」

「壁は知ってる。でも向こう側なんて……」

「断絶してるから。あと誰も棲まなくなった裏通りは暗い。昔は棲んでたんだけど……人が訪れなくなった家みたいに、裏通りも今じゃかなり朽ちてるんじゃないか」

「そんな所に花が咲くのか……?」

「だから、今はわからないって」

 蒲牢は獏に近付き、間近で葉を観察する。やはり血染花の葉で間違い無い。

「それは他言してもいいの? 裏通りなんて私も初めて聞くわ」

 洋種山牛蒡の好奇心は裏通りに向いてしまったようだ。目が輝いている。

「口止めはしてないけど、あんまり変転人には広めないでほしいな。何せ危険だから。知らないと誰も行こうとは思わないだろ?」

「それは残念だわ……壁の向こうはあの世じゃなかったなんて……」

「それの方が初耳なんだけど」

「そういう噂なのよ」

「じゃあそのままにしておこう。その方が誰も近付かない」

 洋種山牛蒡は心底残念そうに眉を下げた。面白い話を仲間に語れないのは本当に残念だ。壁の向こうはあの世と聞いて怖がっていた仲間もいるのに。

 蜃も血染花の葉を間近で凝視し、獏が葉を振るので受け取った。白花苧環はもう一枚ポケットから葉を取り出したようだ。今度の葉は血染花の葉より大きい。

「これは僕もわかる。木霊がくれた御菓子に巻いてあった葉っぱだね」

「木霊って……死んだんじゃ」

「死んでも葉っぱは消えないよ」

「そ、そうか……」

 何の手掛りなのかわからないが立て続けに葉を出され、蜃は少し混乱していた。もしかしたら椒図に繋がる物かもしれない。その一心で喰い入るように葉を見詰める。

「特に変わった所はなさそうだけど……」

 白花苧環を見るが、反応は無い。

「何を伝えたいんだろう……それともただ持って来ただけ?」

 またポケットに手を突っ込むのでまだ何か出て来るのかと待ったが、今度は何も出て来なかった。ごそごそと何度もポケットを漁る姿は不自然だった。

「何か伝えたいけどもう用意した物が無い……って風に見えるけど……」

 彼はポケットから手を抜いて俯いた。落ち込んでいるように見える。

「御菓子の葉っぱを出したってことは、花畑の方だよね? 裏通りにも生えてるなら……」

 花畑、と言った直後、彼はゆっくりと顔を上げた。まるで『そうだ』と言っているようだった。

「もしかして、花畑に行ってほしいの?」

 焦点は合っていないが、白花苧環はじっと獏を見詰めた。

「……確定じゃないけどマキさんの体をここから持って行ったのがアサギさんだとしたら、花畑にアサギさんがいる……? そこに行けって言うなら、アサギさんに何かあった? もしかして助けを求めに来たの?」

 白花苧環は葉を持つ獏の手をゆっくりと握った。正解を引いたのかもしれない。

「わかったよ、マキさん。アサギさんを助けに行く」

「おい! 椒図じゃないのか!?」

「もしかしたら椒図もそこにいるかもしれないし、いなくても何か手掛りはあるかもしれないよ。椒図が狴犴に会ったんなら、罪人の花魄が何か知ってるかも。花畑にいるかはわからないけど……マキさんに巻かれた蔦が花魄の仕業なら、何処かで繋がってるはず。花魄が力を使えるなら地下牢から出てるわけだし」

「あっ……」

 無意識に声を出し注目を浴びてしまった蒲牢は手で口を押さえた。

「何か気付いたことでもあった? 蒲牢」

「アサギさんってもしかして……浅葱斑か?」

「知ってるの?」

「鵺に宵街からここに連れて来られる前、あいつは自分の家に寄ったんだ。中に小さな檻と不自然に蔦が落ちてて……。鵺が捜してたんだ。白い首切り死体っていうのが気になってたんだけど……」

 座って虚空を見詰める白花苧環に目を遣る。まさかここで糸が繋がるとは思わなかった。

「え!? 何で言ってくれな……」

 最後まで言う前に獏ははっとした。捕まった鵺が戻って来た時、獏は死にかけていた。その後は病院だ。病院から街に戻って来た時には鵺はいなくなっていた。そして忙しなく椒図のことや贔屓のことを経て現在に至る。話す時間などなかった。

「酷い擦れ違いだ……今は鵺がいつ目を覚ますかわからないし……」

 鵺は贔屓に任せてきたが、瞼を持ち上げる体力も無く固く目を閉ざしていた。これだけの血を撒き散らしたのだ、回復には時間が掛かる。

「獏も捜してるとは思わなくて……」

「うん……。でもマキさんが来てくれたってことは、今はまだアサギさんも無事のはず……死体を操るっていうのが懸念だけど」

「浅葱斑は狴犴の印で操られてるって鵺が言ってた。見つけたら印を壊してくれって。印があるなら花魄も手を出さないと思うけど……」

「印か……やっぱり最初に何かされてたんだね。……とにかく、宵街に行かないと」

 手を離し再び膝に手を置く白花苧環を一瞥する。ふと疑問が浮かんだ。

「ねえ……死体でも傘って取り出せるの?」

「できないはずだ」

「マキさん……誰かと一緒に来たの?」

 白花苧環を見るが、彼に反応は無い。傘が取り出せないなら宵街から出ることはできない。彼を連れて来た者がいることになる。

 蒲牢は周辺に怪しい気配が無いか神経を研ぎ澄ませる。

「……気配は無いと思うけど」

(みずち)がマキさんを送って折り返し帰ったと考えられなくもないのかな……。気配が無いなら一旦置いておこう」

 指が一本欠けているのが痛々しいが、白花苧環の体の状態はかなり良い方だろう。時間が停止しているこの街に暫く置いていたことが幸いしている。

 獏は立ち上がり、白花苧環に手を差し出した。

「マキさん、立てる?」

 白花苧環はじっと獏の手を見詰め、ゆっくりと手を取った。行動するまでに時間を要するが、自分で判断し動くことは可能のようだ。

「……うん。ちゃんと理解してるね。死体と言っても操られてるからかな、記憶の蓄積はされなくてもその場の判断力はあるみたいだね」

「宵街に行くなら苧環はどうするんだ?」

「ん……」

 折角宵街から取り戻した彼をまた連れて行くのは躊躇う。狴犴に見つかれば間違い無く面倒なことになる。だが不可解な点が多い彼をここに残して行くのも心配だ。獏は一度白花苧環の手を離し、試しに両手を差し出してみた。

「本人の意志を訊いてみるね。――マキさん、宵街に一緒に行くなら右手、この街で待つなら左手を握ってみて」

 片手ずつ動かして示し、尋ねてみる。白花苧環は考えているのかじっと手を見詰め、やがて徐ろに右手に手を置いた。

「……一緒に行きたいみたいだね。動かない死体なら置いて行くけど、動けるなら一緒に行ってもいいのかな」

 白花苧環が花魄に操られている理由は不明だが、彼の種を育てるにはどのみち花魄の助けが必要だ。いつまでも躊躇しているわけにはいかないだろう。死んだ彼の意思が宵街へ行くことを望んでいるのなら、その手を払うことの方が躊躇われた。

「ここまで意思疎通できるのか……蔦が切れていても花魄の力は強力ってことか?」

「何か芸をする犬みたいで可愛いよねマキさ――っいだだだだ!?」

 表情を変えずに思い切り手を捻られ、獏は床に手を突いた。

「今の反応速くない!? ごめん! ごめんってばマキさん!」

「怒ったのか……? まさか死体に感情があるとは……それとも生前の記憶から感情をなぞってるのか……」

「この手の速さはマキさんそのものだよ……まるで死んだのが嘘みたいで……」

 血色や乾いた瞳を除けば、もう二度と会えないと思っていたあの白い彼そのものだ。獏は無意識に冷たい白花苧環を抱き締め、彼も今度は嫌がらなかった。生前より穏やかになった気がするが、言葉にはしないだけで生前もここまで丸くなっていたのかもしれない。狴犴に付けられた首輪の印が発動したのも、言葉の他に彼のその心中の変化が作用していたのかもしれない。

 白花苧環の体は弛緩して柔らかくなっているが、生体の体温はない。植物なら水分を含んだ生きている時の方が冷たく、乾いてしまった方が温かく感じるというのに。

 彼と話の続きができたことは一縷の救いのようだった。

 腕を離すと白花苧環は少し顔を下げた。獏は振り返り、これからの意向を告げる。

「蒲牢、今すぐ宵街に行けるかな? 椒図の力の弱い所はまだある?」

「探ってみる」

 蒲牢は杖を召喚し、変換石に力を籠める。石の光を維持しながら目を閉じ、転送できそうな薄い場所を探した。少し時間は掛かったが、何とか力の(むら)を見つけた。

「……薄い所はあるけど、場所は移動してるみたいだ。硝子のように固く固定されてるんじゃなく、シャボン玉みたいに流動するものなのかも」

「じゃあ何とか宵街には行けそうだね。……蜃はどうする? 気が乗らないなら無理には……」

 何処かで椒図に繋がっているかもしれないが、第一の目的は花魄と浅葱斑だ。死体を操る力を持つ花魄と共にいるなら最悪の事態になる前に接触したい。椒図は二の次になってしまう。椒図がもし印で操られているとしても、宵街を閉じるためにその力は必要だ。蜃は生死の心配をしているが、殺されることはないだろう。命を考えると浅葱斑を優先するしかない。椒図のことだけを心配する蜃には回りくどいことだろう。

「……行く」

 少し間はあったが、蜃は目を伏せながら小さく言った。宇宙人なんて、と思っていたことが椒図と繋がっていた前例があるので、獏に付いて行くことを決めた。どのみち宵街へ行くと椒図に近くなる。椒図は宵街にいるのだから、断る理由はない。

「わかった。それじゃあ――」

 今度は変転人達に目を遣る。全員連れて行くわけにはいかない。獣と対峙することになるのだから、変転人は巻き込めない。特に洋種山牛蒡は狴犴の命令で動いているので、狴犴と対峙することになれば面倒なことになる。

「私は行きたいです。……監視役なので」

 悩んでいるのが伝わったのか、灰色海月は不安そうにドアから覗く。

「…………」

 一番連れて行きたくないのは灰色海月だ。危険な目に遭うかもしれない場所に進んで連れて行くことは躊躇う。

「……駄目ですか?」

 渋る獏を見兼ね、蒲牢が口を挟む。

「変転人は置いて行った方がいい。もし饕餮がいたら、懲りてないなら食べられるかもしれない。危ない」

「それは危険過ぎる……。クラゲさんの気持ちはわかるけど、今回は待っててくれるかな? もし鵺とウニさんがここに戻って来たら、説明してくれる人が必要だし」

 監視役なのに何もできない。灰色海月は俯き、しゅんと肩を落とした。白花苧環に力の使い方を教えてもらったのに、力になることができない。何のための力なのかわからなくなる。

「……わかりました」

 それでも頷き、ドアの陰に下がった。無理に一緒に行った所で足を引っ張ることになっては本末転倒だ。白花苧環のように強ければ力になれたのに、と悔やむことしかできない。

「蒲牢は付いて来てくれるんだよね?」

 腹を負傷しているが、蒲牢の実力ならば味方として申し分無い。もし実力が未知数の狴犴と対峙することになるなら心強い。

「……いいけど。もし狴犴が規則を破るようなことをすれば、また殴っておく」

「……また?」

「少し前に殴っておいたんだけど」

「狴犴を……?」

「そうだよ」

「殴れるの!?」

「宵街にいた頃の俺の仕事は『制裁』だから。拷問じゃないけど、今の睚眦(がいさい)の立ち位置に近いはず。悪いことをすれば、狴犴も例外じゃない」

「もしかして狴犴より強い……?」

「強いよ」

 然も当然と言うように不思議そうな顔をしながら言い切った。鵺が彼を連れて来た理由がわかった。蒲牢を味方にして悪いことはない。

「贔屓には勝てるかわからないけど、他の兄弟なら勝てる」

 表情には出ないが、言い切るからには自信があるのだろう。普段はよく食べ漁って何処かぼんやりとしているが、戦闘においては頼りになると何度も見て実感した。無性に彼が頼もしく見えた。

「残ってる団子を食べようと思って付いて来たけど、団子分は働くよ」

「えっ……そんな理由で来たの? ……団子分が切れたら?」

「わからない」

「何か食べたい物があれば奢るよ」

「本当か? パンケーキも良い……ティラミスも」

「どんどん流行を遡っていくね」

「……え?」

 長く生きていると何年も前の流行が昨日のように感じるのだろう。獏にも少し覚えがある。獏よりも長生きな蒲牢には人間の流行の移り変わりは早過ぎるのだ。

「あの! これもそれもやっぱり他言は無用なの?」

 うずうずと会話を聞いていた洋種山牛蒡は小さく手を挙げ尋ねた。噂好きの彼女には正に垂涎の情報ばかりだった。仲間に話したくて仕方が無い。

 蒲牢は少し考え、洋種山牛蒡のいるドアへ数歩近付く。彼女には一度強く言っておいた方が良いだろう。通常の杖を一旦仕舞い、身の丈よりも長い間棒を召喚した。負傷していると感じさせない動きで彼女を壁に追い詰める。床に間棒を擦り構えるが、彼女に怯える様子はなく力強く見詰め返してきた。

「君は敵の巣のど真ん中にいる自覚を持った方がいい。俺は交渉とかは苦手だ。邪魔になるなら潰すしかない」

「他言していいのか悪いのかだけ言ってくれればいいのに。私は口が堅いんだから」

「……変転人はよくわからない」

 一触即発の空気かと皆身構えたが、何事もなく安心した。蒲牢はすぐに小首を傾げながら間棒を仕舞う。洋種山牛蒡は思ったよりも素直だった。

「他言は駄目でも、宵街に付いて行くのはどう? 私も行きたいわ」

「……黒葉菫、任せる」

「え? ……わかりました」

 蒲牢は疲れたようにとぼとぼと部屋を出て行った。統治者が変わったことで変転人も強い自我を持つようになったのだろうか。昔はもっと空気を読んで従順だったと思いながら通常の杖を召喚しておく。

「宵街から離れてたら変転人と話す機会も無いよね……」

 蒲牢を庇いながら獏も苦笑する。

「……えっと、スミレさん。子猫の状態はどう?」

 妙な空気になってしまったので、獏は話題を変えた。この街に戻ってすぐに洋種山牛蒡に呼ばれたので子猫がどうなったのかまだ確認できていないのだ。

「え? ……あ、子猫はミルクを飲んで寝てます」

「良かった。生きてるんだね。……あ、そうそう。鵺とウニさんは無事だよ。鵺が目を覚ましたらここに戻って来るかも」

「意識が無いんですか? それは無事なんですか?」

「怪我はしてるけど、獣だから大丈夫」

「それなら……」

「留守番してもらうのもちょっと心配だけど、僕達は行ってくるね。もし悪夢が何かしてきたら、その時はすぐに街から離脱してくれればいいからね」

「わかりました」

 黒葉菫もゆったりと緩慢で抜けている所はあるが、きっちりと仕事を熟す頼もしい変転人だ。悪夢のことを除けば留守を任せても心配することはない。

「マキさんも歩けるかな?」

 手を差し出すが、それは取らずに白花苧環は一人で歩き出した。少し動作は遅いが、生きている人間と変わりない動きをしている。こちらは死体だと言うのに逞し過ぎる。元々彼は純粋な変転人ではないので、その所為かもしれない。

 皆が部屋を出るのを確認し、獏は最後に振り返って部屋の中を見渡した。最期に見た首の落ちた白花苧環の姿が未だに色濃く脳裏に焼き付いている。

 贔屓に烙印を半解除してもらい、ある程度の力は使えるようになった。もし狴犴に襲われることがあれば、今度こそ守らねばならない。


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