第5話 子供たちと。(1)
お疲れ様です。そして、お久しぶりです。なかなかに忙しく、更新できていませんでした。今日から復活しました。よろしくお願いいたします。
次の日曜日の夕方、私たち三人は、家から少し離れた和食の店に入った。
高級店というほどではない。
それでも、いつもよりは少し高い。
予約したのは、普段より少し上等な料理のコースで、それほど意識していなかった。
十二億円が当たったうれしさで、知らないうちに、少しだけ財布のひもが緩んでいたのかもしれない。
これまでも、特に我慢をした記憶はない。
三人で外食することはあったし、旅先でも好奇心丸出しで店に入ったり、買い食いしたりして、高価ではないけど、おいしいものも食べてきた。
子供たちと一緒に食事をする時間は、昔から私の楽しみの一つだった。妻が亡くなってからは、特に楽しみになっていた。
「お父さん、今日は突然どうしたの?少し高そうな店だけど。」
席に着くなり、娘が聞いた。先鋒はいつも娘である。息子は大抵最初は様子をみる。
「ちょっといいことがあったから、お裾分けしようと思って。」と私が笑いながら答えても、娘は釈然としていない。
タイミングよく、「お飲み物はどうされますか?」と店員から声をかけられたので、とりあえず、ビールジョッキを中2つ、小1つを頼み、「まあ、料理を食べてから。もったいぶるようだけど、話は家に帰ってからにします。」と娘に答えた。
息子が「へえ、ここではしないんだ。なんだろうねぇ、お姉ちゃん。」と少しにやけながら娘に言った。
娘は「ここでは聞けないの? 先に聞いたほうが、落ち着いて食べられるんだけど。」と不満げだが、息子は「いいことだって、お裾分けだって言ってたじゃないか。」と言いながら、お品書きを見ている。コースや単品等、料金をチェックしながら、美味しそうなものを探しているのだ。
娘は、まだ納得していないようだったが、諦めてくれたようで、「でっ、何をお裾分けしてくれるの?」と聞いてきた。
「ささやかですけど、って、実はいつもより少しお高い店なのですけど、今日はここの上から2番目のコース料理でございます。1番上ではないけど、かなり美味しそうだよ。」と冗談と本気を交えて答えた。
店員が、テーブルから少し離れたところでタイミングを待っていたようで、「お料理をお持ちしてよろしいでしょうか?」と尋ねてきた。私が「お願いします。」と答えると、早速、料理が運ばれてきた。
最初に、刺身、焼き物、天ぷら、蒸し物、煮物。いつもより少し上等なだけあって、どれもこれもおいしかった。
息子が、お品書きを見ながら言った。
「この天ぷら、追加してもいい?」
値段を見る前に、私は答えていた。
「いいよ。好きなものを頼みなさい。」
娘が私の顔を見ながら、「今日は、ずいぶん気前がいいね。」「何かいいことがあったのかい?阿良々木君。」っと、著名なライトノベルの有名なセリフで誘導をかけようとしたが、
「たまにはいいだろう。」「あっ、ビールを追加」とかわしておいた。
普段なら少しは考えた追加料理も間髪入れずに数品頼んだ。
どの料理もおいしくいただき、コース最後のデザートを二人が楽しそうに食べているのを見ていると、私もうれしかった。
これから、こういう時間をもっと増やしたいと考えていた。
娘は、「じゃあ、帰ったら、話を聞かせてね。」と少し声を抑えて聞いてきた。
私は静かに頷いた。
食事を終えて店を出るころには、外は暗くなっていた。
行きは電車だったが、帰りはタクシーを利用した。
家に着くと、娘がお茶を淹れてくれた。
三人で、いつものリビングのテーブルを囲んだ。
ここなら、誰かに聞かれる心配はない。
「それで、いいことって何?」先鋒の娘が聞いてきた。
私は深く息を吸い吐きながら、新聞で当選番号を確認してから今日までのことを思い返し、静かに告げた。「実は、宝くじが当たった。」
娘と息子は、しばらく黙って、続きを待っていたが、私がそれ以上何も言わなかったので、
息子が聞いてきた。
「いくら?」
「十二億円。」
また、静かになった。
娘は私の顔を見たまま動かない。
息子が「十二万じゃなくて?」と半ば冗談で聞き直したので、私は真面目に「十二億。」と答えた。
息子は確認のために、「一億二千万でもなくて?」と聞いてきたので、私はもう一度「十二億円。」と答えた。
「本当に?」娘が小さな声で聞いた。
「本当だ。銀行でも確認してもらった。」
私は、当せん番号を確認したときのことから、順番に話した。
新聞と宝くじを何度も見比べたこと。
翌朝、もう一度確認したこと。
銀行へ持って行き、その場で当せんを確認してもらったこと。
当せん金を口座に入金してもらう手続きも済ませたこと。
当せん金支払証明書の発行も依頼したこと。
鞄から、銀行でもらった書類を入れた封筒を取り出し、二人の前に置いた。
二人は、書類を交互に確認して、私の顔を見た。
息子が、しばらくして息を吐いた。「うわあ。マジでか。」
娘は私を見ながら、「これ、誰にも言ってないんでしょ?」と聞いてきた。
私は「君たちが最初だよ。」と少し微笑みながら答えた。
娘は、「何格好つけてるの。」と笑い、息子と私も同時に笑った。
緊張が少しだけ解け、私は二人を見た。
「まず、二人にお願いがある。」
二人の顔が、また真剣になった。
「このことは、誰にも話さないでほしい。」
娘は、すぐにうなずいた。
息子もうなずき、「分かった。絶対に言わない。」と真顔で答えた。
娘は、少し間を置いてから聞いた。
「お父さんは、その十二億円を、どうするの?」
その質問に、私はすぐ答えることができなかった。
※本作品は、「カクヨム」にも掲載しています。




