「襖の奥の友人」
もう30年以上も昔の話です。中学校の修学旅行で、関西にあるとある和風旅館に泊まった時のことでした。
その旅館では、1クラスにつき大部屋が1部屋割り当てられていました。みんなですき焼きをつつき、お肉の取り合いをして盛り上がった後、地下の大浴場へ。
部屋に戻るとすでに布団が敷かれていて、テンションは最高潮に。枕投げで散々遊んだところで就寝時間を迎え、見回りの先生をやり過ごすために一旦「寝たふり」を決め込みました。
先生が去った後は、当然のように「好きな子は誰?」という修学旅行定番のトークが始まります。けれど夜が更けるにつれて、一人、また一人と脱落していき、気づけば起きているのは私だけに。
「なんだ、みんな寝ちゃったのか」とつまらなく思っていた、その時です。
隣の部屋とを隔てる襖が、すっと静かに開きました。
「もう寝た?」
「ううん、起きてるよ」
「少し話さない?」
そう言われ、しばらくたわいもない会話を交わしました。暗がりの中だったので「隣のクラスの誰だろう?」と疑問には思いましたが、途中で「誰?」と尋ねるのも失礼な気がして、「明日起きたら顔を確認すればいいか」と軽く考えていました。
やがて眠気が限界を迎え、「ごめん、もう眠いから寝るね」と告げると、相手はこう言いました。
「わかった。明日、そっちの部屋に遊びに行っていい?」
「いいよ、おやすみ」
私はそう答え、そのまま深い眠りに落ちました。
翌朝。昨夜の相手を確認しようとふすまの方へ寝返りを打った私は、息を呑みました。
私が昨日まで「襖」だと思って話しかけていた場所には、一面の壁があるだけだったのです。
幸いにも翌日は別のホテルに泊まる日程だったため、その後何かが起きることはありませんでした。ですが、もしあのまま同じ旅館に泊まり続けていたら……翌晩、私たちの部屋には一体「誰」が遊びに来ていたのでしょうか。
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