エピローグ
――サイレンの音が、遠くから近づいてくる。
赤と青の光が、夜のビルの壁面をゆっくりと舐めていた。
「屋上だ!急げ!」
重い扉が蹴り開けられる。
無機質なコンクリートの上に、いくつもの影が転がっていた。
「……っ、ひどいな」
「三人……いや、四人か……」
ライトが照らす。
血だまりの中に倒れる香織、祐子、耕史、柴山直美。
そして――
「まだ息がある!こっちだ!」
桐生徹。
両脚から流れ続ける血。顔面は蒼白で、意識はない。
それでも、かすかに胸が上下していた。
「すぐに搬送しろ!急げ!」
担架に乗せられ、徹の身体が運ばれていく。
そのときだった。
――ピッ。
誰かの足元で、微かな電子音が鳴った。
転がっていたスマートフォン。
血に濡れたそれの画面が、ゆっくりと点灯する。
着信表示はない。
だが、スピーカーから音が漏れた。
『……まだ、生きているか』
誰も、それに気づかない。
運ばれていく徹の指先が、ほんのわずかに動いた。
『六時間……いや、思ったより粘るな』
無機質な男の声。感情はない。
ただ、結果だけを観測するような響き。
『いいだろう。次に進もう』
――ブツッ。
音は途切れ、画面は暗転する。
誰にも拾われることなく、スマートフォンはその場に残された。
遠ざかっていくサイレン。
運ばれていく一人の男。
そして、静まり返る屋上。
すべてが終わったかのように見えて――
まだ、終わっていない。
あの“声”は、確かに言った。
――次に進もう、と。
夜は、何も答えないまま、深く沈んでいった。




